一線を越えちゃった?
気が付くと俺は裸でユキの隣に寝ていた。
「……何があったんだ?」
「…………」
ユキは俺のほうを見ないように寝ている。
このシチュエーションって……俺たちとうとう一線を越えちゃったのだろうか。いや待ってほしい。ユキは病人に手出しをするほどひどい男じゃ……。
俺が求めたら応えちゃう、よな。つまり俺は昨日……。
待て待て待て!
「俺が求めたとかそういうのは……!」
”昨夜はお楽しみでしたね”
頭の中の百花ちゃんの声がうるさい。
というか百花ちゃんは昨日のこと知ってたりするのだろうか。聞きたいが聞いてみる勇気はない。ただ俺が裸で寝ている以上、そういうことがあったんじゃないかという疑惑があった。
「と、とりあえずばれないように……」
「音子ー、熱だいじょ……」
と、入ってきた千智ちゃんと目が合う。
千智ちゃんは俺が裸なのを見て、ユキも半裸なのを見て。
「……さいってー」
「待って千智ちゃん!? 俺も何が何だかわかってないの!?」
「あ、いや、うん。ごめん。考えナシだった。そういうのに興味ある年頃だもんね。私はリ回あるほうだから……」
「待って!?」
何か誤解してる!? 俺は一切してません! 無実です。
「とりあえずユキ起きろ!」
「ん……あっ!?」
ユキが目を覚ました途端、顔を青ざめさせていた。
ユキは服を着ると、そのまま流れるように地面に頭をこすりつけている。
「お、おお、俺たちとうとう一線を越えちゃった!?」
「違う! その……昨日はな」
ユキが昨日起きたことを話していた。
俺が汗に不快感を示して服を脱いだこと、ユキに拭かせた挙句、無理やりベッドに引き込んで服を脱がせたこと、そしてそのまま離さないで眠っちゃったこと。
「ごめんなさい……」
熱を出していた時の記憶がない。
”私も熱の気分の悪さがあっていまいち覚えてないねぇ。これは共有されるんだァ”
と百花ちゃんも分析していた。
「ならいいけど……。で、体調は?」
「結構回復したかな? 意識もあるし」
熱を測ってみると37.4度くらいにまでは落ち着いていた。
だがまだ微熱はあるので今日も学校を休むか。と思っていると電話が鳴り響いた。かけてきたのは俵さん。
電話に出てみると。
『音助……音子様っ! 大丈夫ですのーーーーっ!? 将来の歌姫の身に重病があったらと思うとわたくし耐えきれませんわーーーっ!』
うるっさ。
ものすごい声量が電話越しに届いた。
「大丈夫。熱も治まってきたから明日には学校に行けると思う……」
『本当ですの!? ふふ、よかったですわ……。ではっ! 明日お待ちしておりますわねっ!』
と、嬉しそうに電話を切られた。
そしてそのあと。
『もしもーし……。俺だ。銀太郎だ。熱出したんだってな? 大丈夫かよ? お前がいなくて俺のノートが真っ白だから早く復帰してくれ……』
「えぇ……」
『自分で写せよそれぐらい。あー、八城だ。大丈夫か? うちの馬鹿がこれぐらいで電話してごめんな。銀もお前のノートだよりにして困ってんだ。まぁ、体調に気を付けろよ』
「あはは。ごめんねって言っておいて」
『言わん。お前もノート貸す必要はないからな』
そう言って切られた。
「……九条とお前ってどういう間柄なんだ?」
「友達?」
「そうか。友達、か」
何ちょっと嬉しそうなんだよユキ。