編入
私立桐羅学園。
有名な金持ち高校であり、セレブが入学させたい高校ランキングナンバーワンらしい。
設備や警備もしっかりしていて由緒正しき学園とのこと。
漫画でよくあるような選ばれたもののみが入会できる桜の会なんてものもあるらしくめちゃくちゃ怖そうな学園だった。
「こんな高え制服に身を通しちまった……! でもさすが千智ちゃんの顔と言うべきかめちゃくちゃ似合ってる……」
「嬉しいこと言ってくれるなぁもう!」
「な、なぁ……。本当に行くの?」
「もう運転手さん待たせてるんだし行くよ!」
千智ちゃんに手を引かれ俺は車に乗り込んだ。
つい先日……というか昨日女の子になったばかりなのにもう編入手続きは済んでるらしい。
俺が寝てた間にやってたんだろうな……。用意周到っつーかなんつーか。
車はどんどん高校へと向かっていく。
さすがセレブ校というべきか徒歩で通学してる人がいない。マジか。
みんな車に乗って通学してる……。歩けよ少しくらい。
学校に到着し、職員室で先生と諸々話した後クラスの方に向かう。
そして、自己紹介が始まった。
「お……私は万 音子、でぃす。ち、千智ちゃ……千智の双子の妹です。よろしくお願いします」
打ち合わせ通りの文言を述べて席へ案内された。
俺一人ならともかく知らない奴にスカート姿見られるの恥ずかしい……!
俺は股下を押さえながら俯いた。なんつースカートの防御性能の信用の低さ。よくこれで街中歩けるな女の子たち。
「千智様に妹さんいらしたのですね」
「うん。昔から入院ばっかでさ。やっと治って。勉強の方は入院中めちゃくちゃしてたから着いていけると思うよ」
「そっくりですわね……。瓜二つというか」
「一卵性だからね。近々私の方が髪切るから見分けはつくと思うよ」
千智ちゃんがめちゃくちゃ構われてる。
俺が物珍しい感じだった。でもこうしてみると普通の会話っつーかなんつーか。千智様というのが気になるけど。
「音子様」
「は、はひ!」
「私は千智様の友人の俵 千鶴といいます。よろしくお願いしますね」
「よ、よろひくおねがいひます……」
「ふふ、緊張なさって。可愛らしいですわね」
「はひ……」
すげえ、俺と全くオーラが違う。金持ちの風格を感じる。俺とは住む世界が違う……!
「音子様はバンドというのはお好きでしょうか」
「え? あ、はい。好きです……」
やってたくらいには。
「まぁ! 千智様はバンドの良さなんて知らないのに妹様はバンドがお好きで……。私実は結構な頻度で大学のバンドサークルの演奏会を閲覧させていただいておるのですが……やはり有名バンドしか好みではないでしょうか」
「いや、お……私自身無名ところも知ってるつもり……。少なくとも東京のバンドは……」
「まぁ! ならネオエスケープというバンドはご存知ですわよね!?」
「ぶふっ」
俺は思わず吹き出してしまった。
ネオエスケープ。俺がボーカルを務めてたバンドじゃねえか。なんでこんなとこで名前出るんだよ。
「は、はい。存じ上げております……よく」
「まぁ! 今度追悼演奏会というものが開かれるのです。なにせボーカルだった方が事故で亡くなりまして……」
千智ちゃんが目を逸らしていた。
「よければその演奏会に一緒に参加しませんこと?」
「えっ……」
俺の追悼演奏会に俺が出るの?
俺に手向けた鎮魂歌をマジで聞くの?
「あ、初対面で失礼でしたね……。忘れてください。趣味を共有できる友人がおりませんものでつい……」
「……い、いーです、よ」
「ほ、本当ですか!? ではスマホの連絡先を教えてくださいませ! 開催日時を送っておきますわ!」
と、千鶴ちゃんがウキウキで席へと戻っていった。
「ねぇ、そのネオエスケープって……」
「俺が元いたバンドだよ……。俺自身の手向けの歌を俺がマジで聞くのかよ……」
「なんか変なことになってきたねー」
「他人事みたいに……。俺の友人には俺のこと言ってもいいかな? あいつらも急に俺を失って悲しんでるだろうし……」
「いいんじゃない?」
そんな軽く決めていいの?
俺の友人は口が硬いと思ってるから話したいけどこればれちゃいけないやつだよな。
あぁ……。どうしよう。俺のことを知ってる友人が一人は欲しい。