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誰も知らない俺のこと ③

 話を整理しておくと……。


・俺の体は実際はクローンではなく本当の双子の片割れだった

・双子の妹のほうの名前が万 百花

・俺と百花の適合率が高く、一番適しているのが俺の心臓と脳だった

・その故に俺が巻き込まれた事故はただの事故じゃない可能性が高い


 ということか。

 なんていうか……意味わかんねえ。人間、ここまで置かれている状況が不明だとよくわからなくなるもんだな。

 だとしても、だ。たしかに今俺に起きていることを鑑みてみると……道彦さんに対する信用が著しく低くなってしまうのは事実。実際、俺はドナー登録なんてしていないし、意思表示カードも持ち合わせていなかったのは俺がよく知っている。


「お父さん」

「なんだ? 千智」

「万 百花って子、知ってるでしょ?」


 千智ちゃんが怒気をはらんだ声で道彦さんを問い詰める。

 道彦さんは固まっていたがすぐに平常心を取り戻していた。


「知らな「知らないとは言わせないよ。」


 千智ちゃんが道彦さんの言葉を遮った。


「知らないとは言わせません。道彦さん。あなたには説明責任があるはずです」

「…………」

「話してくれないなら私家出するよ。私今、お父さんにものすごく幻滅してる。嫌いになりそうだから」

「千智……」

「……万 百花は、この身体の持ち主なんですよね?」

「……あぁ」


 道彦さんは話してくれる気になったようで、仕事の手を止めて、俺らをソファに座らせたのだった。

 今わかっていることをユキがすべて話す。ほとんど正解だったようだ。万 百花は心臓と脳に病気を抱えていたこととか。


「なんで……なんで私に双子の妹がいるって黙ってたの!?」

「お前が気に病むからだ」

「あー……」


 なんとなくわかる気がする。

 千智ちゃんは割と情に厚いというか、病弱な妹が知ったら自分だったらよかったのにとか責め立てて居そう。そういう感じがする。

 

「だから黙っていた。ずっと入院してることも……双子の存在も。お前が妹のことを気に病んで命を危ぶめてしまっては俺としても心が痛む」

「だからって……!」

「千智ちゃん、怒るのはあとにしようよ。話が進まないから」

「ああ。そうだ」

「……わかったよ」


 千智ちゃんは不服そうに座ったのだった。


「でもね……事故に関しては本当に仕組んだことじゃない。本当に偶然だった。俺が犯した過ちは……許可を取らずに移植してしまったことなんだ」

「…………」

「本当に偶然だった。娘が亡くなった日……運命かのように君が事故にあった。我が家の車で……。意思表示カードもなかった。だがしかし……心臓と脳に傷はなく、下半身の損傷がひどく生命維持が困難だと知って……私は黙って移植の指示を出した」

「俺の心臓と脳を……」

「君の心臓を使って百花がよみがえれば……なんて馬鹿げたことを思い浮かべたものだ。現実はそこまで甘くないというのに」


 甘くないというのは今の俺のことを指してるんだろうな。

 俺の心臓と脳を移植した結果、百花の人格がよみがえるわけもなく、俺がそのまま芽生えてしまったと。


「悔いた。君が目覚めて、クローンという嘘をついた後、ものすごく悔いた。本当に、本当に私は悔いた」

「道彦さん……」

「愛すべき百花を失った悲しさ、その悲しさを失くしたいがために犯した過ち、それを隠そうとした嘘……私は最低な人間なんだって思い知った。どこまでも自分本位で今も自己嫌悪の毎日だ」


 自分本位といえばそうかもしれないけど……。


「すまなかった。本当に……」

「……いや、俺は別に」

「許さない」


 千智ちゃんが思い切り机をひっくり返した。

 お茶菓子とお茶が宙を舞う。


「私は許さないよ! そんなことしてと誰かが言ったの!? ふざけんな! クソ親父!」

「千智ちゃん、落ち着いて」

「音子も音子だ! なんで許すの!? こんなことしてる父親だよ!? ふざけんなって怒るのが筋なんじゃないの!?」

「まぁ、たしかに今の音助は怒っていい状況だと思う」

「俺あまり怒りとか湧かないから……。それに、なんとなく同情はできる」


 家族を失うのは辛いよなということはわかるんだよ。

 きっと百花ちゃんだって愛されていたはずだ。そんな愛していた娘を失う恐怖というのは理解できる。だからこそ俺は怒れない。


「…………ッ! 音子ってつくづくお人よし! 怒りなよ! なんで音子は怒らないの!?」

「無茶言うなよ……。俺だって多分同じ状況になったらイチかバチかでやってしまうかもしれない。俺も同じ立場で考えちゃうとどうも……」


 千智ちゃんが一人でヒートアップしている。

 まぁ……仕組まれた事故じゃないだけマシかな。それだけは知ってホッとできた。


「千智ちゃんだってそうでしょ?」

「……そうだけどっ!」

「血は争えないんだな」

「うるさい。でも……せめて私には教えてほしかったよ。私だけ妹の存在を知らないでのうのうと生きてたなんてばかみたいじゃん……」


 千智ちゃんが泣き崩れてしまった。

 俺の秘密は誰も幸せにしない、そうつくづく実感してしまった。


「あの……とりあえず、俺割れたグラスとか片付けますね……」

「いや、いい……」

「あ、さいで……」


 き、気まずい……。









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