誰も知らない俺のこと ②
万 百花。それは今朝俺の夢に出てきた女の子の名前だった。
千智ちゃんも今朝そんな女の子の名前を言ってたよねと俺のほうを向いてくる。
「知ってるのか?」
「いや、俺の夢に出てきたってだけなんだけど……」
「そうか……」
「その百花ちゃんって子がどうしたの?」
「……千智。勘のいいお前ならすでに気づいてるんじゃないか?」
と、千智ちゃんが何か気づいたかのような震えた声音で問いかけるとユキがすでに気づいているだろうという声を出す。
千智ちゃんは明らかに動揺していた。
「どういうこと?」
「そうだな……。まず今一つの疑問は修学旅行に行けたパスポートだ。あれは戸籍がないと無理なんだが……万 音子の名前で取れている。クローンだった場合、小関は途中から用意されることになるが、そんなことができるか?」
「できないんじゃないかな?」
「あぁ。となると、最初から用意されていた」
「最初から……」
というと?
「結論から言うと……お前と千智は本当の実の双子なんだよ」
「えっ、クローンという話じゃないの?」
「違うんだ。お前は万家の親に騙されて……いや、そういわれたから信じてるだけだろう。クローンなんて実際は荒唐無稽。ありえない」
「……」
ユキは一つの書類を出してきた。
万 百花と書かれた診断書。読んでみると、心臓の病気と脳の病気を患っているという診察結果が描かれていた。
「もとより、万 百花は生まれつき心臓と脳に病気を抱えて長くは生きられない体だった。道彦さんもそれを嘆いたろうよ」
「…………」
「ただそれはいい。それはいいが……。千智、お前が百花の存在を知らなかった。それに嘘偽りはないな?」
「うん……。私は本当に知らなかった……」
「実の娘にすら双子の片割れを秘密にし続けた。理由はわからないがな。そして、余命宣告され余命を迎えた当日……。榎本 音助が事故にあった」
「それは偶然……ってことじゃないの?」
「違う。偶然なんかじゃない。榎本 音助と相性がいいという診断結果があった。そして、運転手は事故に見せかけてお前を殺したんだよ」
「俺を……?」
つまり俺がこの身体に入ったのは……。仕組まれていたことだったのか?
俺は万 百花の体に入れられるためだけにわざと事故を仕組まれ、殺された……。運転手の人は損切りするだけでいいということで……?
「すべては愛すべき百花を生かすために……。榎本 音助を殺し、脳と心臓を移植することで生きながらえさせようとした……。が」
「が?」
「誤算だった。手術は成功したが、意識は百花ではなく、音助のほうになってしまった」
「……つまり俺の意識があるほうが誤算だったということ? でも道彦さんは俺をサポートして……」
「せめてもの罪滅ぼしだろ。事実、百花がよみがえることはないと身に染みて実感したからな」
俺の事故が仕組まれていたってこと……?
それを聞いても、あまりの話の壮大さにちょっとついていけず怒りの気持ちすら湧いてこなかった。
「音助さんはこれを聞いて怒らないのか?」
「怒るも何も……。ちょっと話が大きすぎて……」
「そうか。だが……」
そういってユキは千智ちゃんを見る。
「俺は万家が大嫌いになった。千智。お前はどうだ?」
「……お父さんの話も聞いてみないことには判断しづらいけど、でも百花の存在とあの事故が仕組んだものだったとしたら本当に私も許せない」
「だろうな。だが……俺の憶測もこれは入っている。事故が仕組まれたものかどうかはまだわからん。仕組んだ体で話したが、あとから検査した可能性も十分ありうる。だが……」
「だが?」
「音助さんはドナーカードを持っていなかったにもかかわらず勝手に移植した点ですでに怪しい」
「あー」
そういう意思表示カードがあるのは知っていた。が、俺は持っていなかった。その時点でちょっと限りなくクロに近いシロか。
「音子、今から父さんのところに行くよ。問いただす。すべて明らかにさせる」
「……二人ともめっちゃ今日怖い」