明晰夢
気がつくと俺は見知らぬ天井を眺めていた。
俺は……たしか夜になって眠くて寝たはずだ。となるとここは夢の中だろうか。
ベッドで寝ている俺がいて、隣には道彦さんと香織さんが俺の手を握って涙を流していた。
明晰夢ってヤツだろうか。
俺の手に触れる肌触りが、涙を流している息遣いや音がすべてリアルに感じる。
"+÷×……ごめんな……"
道彦さんが誰かに謝っていた。だがその名前はノイズが走り聞こえなくなった。
不思議な夢。これも俺の脳がクローンに移植されたからが故に起きる現象だったりするのだろうか……。
いや、でも道彦さん、香織さんはいるのに千智ちゃんがいないなんて変だな。夢なら千智ちゃんが出てきても良いはずなのに。
俺が不思議な夢を体験していると、ひとりでに俺の口が開いた。
「旅行に……行きたい……」
と、口走る。
それは道彦さんたちにも聞こえていたようで、手をぎゅっと握りしめて「あぁ……」とただ頷くだけだった。
「いけるよね……。私の中の……」
んん?
と、いったところで目が覚めた。
目を覚ましたのは俺の部屋。万 音子の部屋。
シングルベッドで目を覚まし、俺は洗面所へと向かう。顔をバシャバシャと洗っていると千智ちゃんも起きてきた。
「おはよー……」
「おはよう。千智ちゃん、今日不思議な夢を見たんだけどさ」
「不思議な夢?」
「俺が病院で道彦さんと香織さんに手を握られながら俺が旅行に行きたいって夢なんだけど」
「よく覚えてるねー……。夢のことなんて起きたら忘れるよぉ」
「明晰夢ってヤツでさ、なんか体験してきた気分」
「ふーん……。私も顔を洗わせて〜」
俺はタオルで顔を拭き、旅行に思いを馳せる。
俺がそういう夢を見たってことはもしかしたら俺も修学旅行行きたかったりすんのかな。そういう深層心理的な何かでこんな夢を見せたんだろうか。
でもそれにしてはリアルな夢だったな。何もかも体験したかのように鮮明に感じ取れた。
「ダメ元で道彦さんに修学旅行行きたいって言ってみようかな」
「いいんじゃなぁい? ふあーあ……」
ということで俺は道彦さんのところに向かう。
道彦さんはコーヒーを片手に新聞を読んでいた。経済新聞なんて難しそうな新聞を。
俺は道彦さんの名前を呼んで話をすることにした。
「その……。俺も修学旅行行きたいというか……」
「ん? あぁかまわないが……。あぁ、パスポートか。すでにとってあるよ」
「え、取れたんですか!?」
「……あぁ。なんとかね」
よく取れた……。
「それにしても……。音助くんはそういうの興味ないと思っていたんだが……」
「いやぁ、今日不思議な夢を見まして。道彦さんと香織さんが涙ながらに手を握りしめてるんですけど、その時俺が旅行に行きたいって口走ったんですよね」
というと、二人は一瞬だけ手をとめた。
「そ、そうか……。なら存分に楽しんでくるといいよ」
「ありがとうございます!」
許可も貰えた〜。
俺はユキにも一応伝えると、"パスポートよく取れたな"と返信が来て"俺も行くことにする。一緒に回ろう、俺は行ったことのある国だから案内してやれる"と頼もしい返事がきた。
「なに? やっぱいくの? てかいけたの?」
「パスポートあるんだって」
「え、マジ? どうやってとったんだろ……」
「さぁ……」
「ま、行けるんなら行こー! 私もイタリアなんてたくさん行ってるから新鮮味ないけど音子と一緒なら楽しそー!」
「あぁ、当日はユキが案内してくれるって……」
「姉妹水入らずを邪魔すんなって送っておいて」
「えぇ……」
ユキ怒るぞ。