そろそろ修学旅行の季節だな
桐羅新聞の信用も失った朝比奈さんはもう学校には来ていないようだった。
話によるとユキのところに朝比奈の父が謝罪に来たらしいけどその場で帰らせたらしい。朝比奈に怒鳴る朝比奈の父の姿は滑稽だったと笑っていた。
ちょっとかわいそうなことをしたなと思いながら事の顛末を聞く。
「これから朝比奈さんはどうなるの?」
「どうなるんだろうな。そこそこでかい新聞社だからすぐにはつぶれないと言えど周りの信用もなくなった今、廃刊になるのも時間の問題か」
「廃刊……」
「俺の家がきっぱりと離れたことで周りの信用も徐々になくなっていくだろうさ」
新聞社にそういうのあるのかなぁと思いながら昼飯を食べていた。
「それより……だ。もう秋になる。そろそろ修学旅行の季節になるが」
「私行ける? 金払ってないと思うけど」
「そこは万家だろ。金なんてすぐに用意できる」
「してもらえるのかな……。私、一応赤の他人だよ?」
「今は万家だろ」
そうなんだけど。
さすがにそこまで支援する義理にはあっちはないと思うし……。
「どうなんだ? 千智」
「うーん。怪しいね」
と、千智ちゃんが怪しいという声を出した。
ほらやっぱり。
「そっちがこういう体にしたのに費用は出さないのか?」
ぎろりと千智ちゃんを睨むユキ。
「違うんだよ。費用はもちろん出せるんだけど……。桐羅の修学旅行って海外でしょ? 海外に行くにはパスポートが必須なんだけど……」
「……なるほどな。用意できるかどうかが危ういか」
「そういうこと。割とグレーな存在だからあまり公にはできないしね。パスポート申請がたぶんできないんだよ」
そういうこと……。
たしかにパスポート申請はできなさそうだな。そもそも俺に身分証なんてものは発行できるのだろうか……。
車の免許、とかいろいろ持っておきたかったものもあるんだけどな……。
「私のパスポートをあげるわけにもいかないし」
「犯罪だからな」
「だから本当にごめんなんだけど修学旅行は無理そう」
「いいよ。私はあまり遠出は好きじゃないから」
これは本当。
あまり地元を離れたくないのもそのため。一人暮らししたかったから大学生のときは親元から離れて一人暮らししていたが、あまり遠くにはしなかった。都内で部屋を見つけたのはそのため。
遠出すると疲れるし、わけわかんない土地で迷ったりしたらどうしようとか考えたら怖いし。海外なんか言葉が通じないから特に。
「なら俺も修学旅行は行かないでおく」
「え、なんで? 行けばいいじゃん」
「もとより好きでもない輩との旅行なんてごめんだ。浮かれて騒がれるのは嫌だしな。それに……音子と一緒なら楽しめると思ったが音子がいないのなら行かない」
「俺のこと好きすぎかよ……」
「それに、国内でも十分楽しめるしな」
それはそう。
国内でも観光地とかは言ったら楽しいとは思う。行きたくないけど。
「えー、二人行かないなら私も行かないで置くかなー」
「行けよお前は」
「行ったほうがいいと思うけど」
「女子にわらわら囲まれてる幸村を見るのは面白そうなんだけど見れなさそうだしぃ」
「……お前って割とサディスティックだよな」
「千智ちゃんも女子だけどユキにそういう感情ないの?」
「ない。こんな面倒くさい男は無理だって」
「お前と付き合う奴は心底同情するよ……」
ユキが本当に心配そうな目で千智ちゃんを見ていた。
ユキは千智ちゃんには普通に話せるんだけどな。そのほかの女子には厳しい態度をとる。それは千智ちゃんがユキに一切気がないというのがわかってるからなのかも……。