取捨選択
数日が経過した。
また再び桐羅新聞が掲示板にでかでかと張り出される。今度の内容は桐羅の帝王、財前 幸村の素性!と書かれた見出しだった。
だがしかし。
「財前様がそんなご趣味はあるわけないとご存じないのかしら」
「意外……でもないわね。あまり普通のことを書いてらっしゃる……」
「いえ、嘘ばかりですわ」
と、周りから猛烈な批判を受けていた。
外部生もさすがにこれは嘘だと感づいたようで、でたらめしか書いてないことに疑問を呈していた。すると、赤家さんが掲示板の前に立ち、大声で。
「あらあら! この記事は嘘しか書かれてないじゃないの! 財前様はこんなことしないのよ!」
と、嘘を強調する形で騒ぎ始めた。
さすがのユキの人気。絶対こんなことするはずもないと誰もが思っているようだった。というのも桐羅新聞にはユキが万引きする様子の写真が貼られていたから。
ユキは万引きするほど困窮した環境じゃないし、そういうことをするような人じゃない。ユキの人となりを少しでも知っていれば普通に嘘だとわかる。
けれど、そういうのは朝比奈も知っていそうなものだけど……。
「あれ、赤家様が作ったんですのよ」
「マジぃ?」
「なんていうか……。やり方が姑息ですわ」
それは同感。
一歩間違えたら危ない橋わたってるじゃねえか。
「何の騒ぎだ」
「ユキ!」
「……ああ、あのくだらない桐羅新聞が出たのか。内容は? ……嘘しか書かれてねえじゃねえか。あの朝比奈……」
「……作ったのは赤家さんですけど」
「あいつが? ……なるほど。まぁ、危ない橋だがいいだろ。利用させてやれ俺を」
「いいの?」
「多分あいつも音子のために動いてるんだろ。人のためにいいことをしようとする奴を止めては可哀想だろ。手口はあれだが」
「そういうのは見逃すんだぁ……」
「あとできつく言っておくけどな。今は止めないでおいてやる」
ユキはけらけら笑っていた。
すると騒ぎを聞きつけた新聞部の朝比奈が駆けつけてきた。
「誰!? こんな新聞作ったの!」
「新聞部の朝比奈先輩! あなたね! こんなでたらめな新聞を書いたのは!」
「違う! 私は神に誓って正しい情報しか載せないの! こんな財前様を貶めるようなデタラメな記事……!」
どの口が。
「いや、嘘だろ」
「桐羅新聞は新聞部が書いてるし新聞部しかないだろ」
「それに、部長のあんたが全部監修してんだろ?」
と、周りは桐羅新聞は嘘だという認識が高まっているようで、朝比奈の話を聞くことは誰もしなかった。
ユキに関するデタラメな記事を書いたのは新聞部と、桐羅新聞のでかでかとした文字で印象づいてしまったらしい。
「新聞部ってそういう人を貶めるような記事書くんだってな。井達から聞いたぜ」
「ああ、音子様のこと? たしかに嘘くさかったもんなー」
「井達が悪く言わないで仲良くできてる時点でそういうことしねえって」
「じゃああれも嘘だったのか……」
朝比奈はだらだらと汗を流していた。
隣でケラケラ笑っていたユキが歩みを進める。
「新聞部部長、朝比奈 美鶴。潮時だな」
「ざ、財前……様」
「お前のことは聞いている。このようなデタラメな記事を書いた挙句、神に誓ってもデタラメを書いてないとのたまうその胆力。神経のずぶとさに関しては一流の記者並みだな」
「ち、ちが……! これは本当に書いてな……」
「言い訳は無用だ。たとえこの新聞を書いていなくとも、万 音子の記事に関してはデタラメだらけだっただろう? 音子はそういうことをしないと俺が証言しておこうか」
「ひっ……」
「あと赤家……。お前も手口は選べ。これに関しては許してやる」
「申し訳ございません」
「あ、あなたがこれを……? 何のために……?」
「桐羅新聞の信用性を無くすのはこうやってでっち上げるのが一番でしょう? まぁ、”とうら”じゃなくて”おうら”新聞ですけどね」
にやりと笑っていた。
読み方が違うだけ……。たしかによく見たらフリガナが振られている。
「周りの奴らも、何が正しくて、何が間違ってるかの判断は慎重にすることだ。これでわかっただろ」
周りは静かにうなずいた。
朝比奈はユキに詰められる。
「ご、ごめんなさ……」
「謝罪は無用だ。俺にはな……。あと、ここで言うのもなんだが、君の親父さんが経営している新聞社、これからは俺の家の支援は打ち切らせてもらうから。財前家の支援が急に打ち切られたって周りが知ったらどう思うだろうな? 俺に関して記事にしないのは俺を刺激して支援を打ち切らせないため。全部わかってる」
「そ、そんな……」
「デタラメな記事を書いて風評被害をばらまいたツケだと思ったほうがいい。では」
「待って! 支援だけはっ! 支援だけはなにとぞ……」
「俺は決定を覆したりはしない。検討ではなく、決定事項だからな」
縋りつく朝比奈に、見向きもしないユキ。
こうして人ははかなく散っていく。