片づけは踊る、されど進まず ②
ゲーム機を何とか死守、直虎は不服そうにしながらも片づけに手を出した。
俵さんは押し入れを開けている。
「うわ、ものすごい本の数……!」
「わ、ほんとだ。結構いろんなのあるね。これ大学のもの?」
「いや、俺らが通う大学では使わんなそれは」
「音助さんって本を読む趣味あったっけ」
「あー、それはな、歌詞とか考える際にそれを見て勉強してたんだよ」
星座を何かに例えてとか、なにかぐっとくる単語とかないかなとか探す際に知らない分野の知らない本に手を出してそこからなにか持ってくることもある。
だから本がたまってく一方だったんだよな。
「天文学、ロボット工学、物理学……」
「古今和歌集なんてものもありますわ!」
「全部読んだ形跡がある……。付箋とかめちゃ貼ってる」
「買ったら読むよさすがに」
割と読み進めてたら面白いんだよな。
俺あらゆるジャンルに興味がないわけじゃない。触れてきてなかった分ちょっと面白く感じちゃって全部読まなくてもざっと目を通して探すだけでもいいのに読み込んじゃうんだよな。だから半端に知識ばっかり持っていく。
「整理整頓きちんとされてるのもすごいね。ジャンル別に分けられてる」
「音助は割とまめな性格だからねー。わかりやすいように分類して保管してるから助かる。ゲームソフトもジャンルごとに分けてるしね」
「いつでも取り出しやすいようにしてるだけだよ」
俺の場合、読み返すことが多々ある。
その時どこに置いたっけ?ってならないように一応分類分けしてるだけ。読み返さなかったらそもそもそういう分類分けしない。
「さ、掃除をさっさと進めないとな」
ゴミ袋にいらない衣服とかをぽいぽい突っ込んでいく。
外着は古着屋に売るけど普段着は捨てなきゃな。ボロボロになるまで着るから売っても勝ちにならないもんばかり。外出用と部屋用はきっぱり分けてるから外出用に比べてめちゃくちゃボロボロすぎるんだよな部屋着は。
「あ、このジーンズいいなー! 俺にくれよ」
「ん? あぁ、いいぞ。それどこで買ったやつだっけな」
「それ……随分物がよさそうでありますな」
「いいなー。めっちゃ高そう」
「それ……高級ブランドのものですわよ?」
と、俵さんが驚いたように言っていた。
俺もぎょっとしてそのジーンズを見る。たしかにタグは見慣れない会社だなと思っていたけど……。
俵さんはジーンズに触れ、生地の質感を確かめていた。
千智ちゃんも驚いてジーンズを見ている。
「これは少し前に生産が止められたシャ・ル・ウィーという会社のものですわね。世界的有名な高級ブランドというわけではありませんが、イタリアに本社を構えるファッションブランドのものですわ。結構お高いというか、本当にいいお値段する者なのですが……」
「これマジで買ったの? 10万はくだらないものだけど……」
「10万!?」
これそんなにするの!?
俺これ買った記憶がないんだけど……。
「……そういや去年、外国の人が君の歌は素晴らしいって言ってなにかプレゼント寄越してきたよな」
「音助だけにね……」
「それじゃないでありますか?」
「あ? あー……あったな」
老年齢のイタリア人みたいな男性に笑顔で拍手され、手をぎゅっと握りしめられて後日プレゼントを俺だけに持ってきた。
ほかのメンバーの分はとも思ったが有り難く受け取っておいたんだけど……。
「……この方、シャ・ル・ウィーの社長ですわね?」
「えっ」
仁がそのイタリア人と肩組んで笑ってるところを撮った写真を見せると、俵さんがそう言いだした。
有名ブランドの社長と肩組んで笑ってたってこと? 知らなかったとはいえ今考えたら相当怖くなってきた。
「結構気難しい方だとお父様が言っておりましたが……」
「そんな人と俺肩組んで笑ってたの!?」
「あ、ホームページに日本のミュージシャン、音助の死を追悼してって社長のコメントがある」
「うせやろ」
見せてもらうがイタリア語で読めない。ただ、音助って書かれてるのが見えた。
「社長……。音助様が相当気に入ってたのですわね……」
「世界進出も目じゃないね!」
「いや、もう音助じゃねえし俺……」
「チャンス無駄にした……」
「一気にメジャーになれたのに」
「なんで社長って気づかなかったんでありますか!」
くっ、音楽生活で初めての経験だ。
社長と気づかなかったから普通にファンの一人として接しちゃったじゃねえかよ。