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実家

 ユキと話しているといつの間にか人ごみの中を通り過ぎ、見覚えのある住宅街にやってきていた。

 見覚えもあって当然、ここは……。


「俺の実家の近くにいつの間にか来たな」

「実家がここらへんだったのか?」

「うん」

「でも通ってる小学校はこの区画じゃないだろ」

「親が私立の小学校に通わせたからちょっと遠いんだよな俺のとこは」


 昔は親も適当じゃなかった。

 親だっていいところに通わせていい教育を受けさせたくて私立を受けさせ私立に通わせていた。だがしかしいつの日か適当でいいっていう風になったらしい。

 適当に面倒見ておけば勝手に育つと思われたようだ。それは俺の妹も同様に。


「やっと追いついた……。音子、なんでこんな遠くまでくるの」

「いたのか、千智」

「もしもの時のために後ろからつけてたんですぅー。音子に可愛い格好させて歩かせたかったから」

「あ、そういや服が女の子っぽいな……」

「今気づいたの? おっそ」


 それには触れるな。


「じゃ、ここまで来たなら実家にでも寄ってく? いろいろ顔見たいでしょ」

「いいの?」

「君の両親には君のことは伝えてあるし、肉親に会いたいという気持ちは私たちには制限できないよ。音子……音助さんが会いたいなら一緒に行こうよ」

「……ちょっと顔だけは見たいかな」


 ということで俺の実家に向かうことになった。

 ただ俺の家族は割と変だから二人にはあまり会わせたくはないが……。でも誰かひとり心強い味方が欲しいというのもある。

 俺は実家の前につき、インターホンを鳴らす。


「あいあーい。今あきゃーす」


 と、けだるげな妹の声が聞こえてきた。

 そして玄関ががちゃりと開く。ぼさぼさ髪でパジャマ姿の妹が出てきた。今、休日とはいえ昼の3時だぞ。なんでまだパジャマなんだガサツな妹よ。


「誰?」

「音助」

「お兄ちゃんか。そういや女の子になったんだったっけ」

「すんなり受け入れてるけどなんでだよ」

「生きてりゃそんなこともある……。んで、そっちは?」

「友人」

「あ、そー? ま、どぞどぞ。中に入れよ兄貴」


 偉そうに命令してくる妹に連れられてリビングに入る。


「お前なァ、休日だとは言えもう昼の3時だからパジャマなのはどうかと思うよ」

「だって外出る予定ないしぃ……。兄貴もまぁ随分可愛くなっちゃって……。で、どう? 女の子は。いろいろやった?」

「まだやってねえよ」

「兄貴って昔から性欲薄いよねぇ」

「人並みにはあるつもりだったんだけど……」


 妹は冷蔵庫からカルピスを取り出し、牛乳で割って差し出してきた。

 カルピス牛乳割は俺が割と好んで飲んでいた。が、ユキと千智ちゃんの口に合うかどうかは知らない……。

 俺はカルピスに口を付け、妹はソファに座る。


「で、改めまして、音助の妹の声葉せいはでーす。声葉ちゃんって呼んでくださいねっ!」

「お前きゃぴきゃぴするの遅いよ。もうずぼらでガサツってことバレてるぞ」

「いや、鈍い人ならワンチャンと思って」


 おあいにく様ユキ達はそんな鈍くないんだ。


「初めまして……ではありませんけどね私は……。改めて、万 千智です。声葉さん、よろしくね」

「財前 幸村。よろしくな声葉ちゃん」

「……もう一度っ! 録音するので!」

「録音?」

「こんなイケメンでイケボの人に名前を呼ばれるなんてさいっこう! マジで兄貴の友人なの!? 兄貴が脅して従わせたりとかしてるんじゃないの!?」

「してないっての。あと急にテンション上げるのやめろ。ユキ達がビビってる」

「いやいや、こんなイケメンとイケボを目にしてテンションボルテージあがんないわけないでしょ!」


 だとしても急なんだよお前は。さっきまでずぼらモードだったじゃねえか。


「で、母さんたちは?」

「いるよ? 隠れてる」

「隠れてる? なんで?」

「あまりに可愛くなった兄の姿を直視したくないんだって」

「なんでだよ」

「音助のときはぎりぎり可愛くはなかったから普通に接することができたらしいけど可愛くなったらキョドるって」

「ぎり悪口だろそれ」


 自分の息子に対して可愛くはなかったっていう言葉を言うなよ。


「これって私にも普通に接してるってことだから私可愛くないってことだよね?」

「お前普通に怒っていいんだぞ」

「いやもう慣れたし……。見た目に関しては良くもなく悪くもなくっていう自覚があるからオタ女として生きていきます。一生喪女」

「高校生でその覚悟は早えよ」


 人生100年時代だぞ。高校生でそう判断するのはいくらなんでも早すぎるだろうが。

 まぁ、昔からそういってたけど……。


「ま、私は別にどうでもいいんだー。それより、兄貴が住んでたアパート、まだ引き払ってないよそういや」

「え、そうなの?」

「死んだって聞いたときは流石の両親も泣いちゃったけど……。そういう風になってるって知ってからは元気になってさ。私物とか片付けに行く元気は出たんだけど……。何が必要で何がいらないかって兄貴じゃないとわからないから放置してる。気が向いたらアパートの掃除に行きなよ。じゃないとアパート引き払えないし、ずっと家賃払い続けてるから」

「……明日行く」


 こんな親でも俺が死んだら泣いてくれてたのか。いくらちょっと変だからって俺が死んで泣かないというのはないか。それは俺が悪かったです。

 明日の予定決まっちゃったな……。日曜日は休みたかったのに。


「じゃ、バンドメンバーのあいつら誘ってやるかね……」

「俺らはいいのか? 手伝うぞ」

「あの部屋にゃ俺以外にもあいつらの私物があるからな……。あいつらのほうがいいかな」

「わかった」

「……興味本位で見に行きますね」

「面白いもんなにもないよ?」

「いいよ。興味本位だし」











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