人ごみ嫌いなユキ
買い食い、やっぱ楽しい。
城前と九条と一緒に渋谷の街を歩いていた。恥ずかしい格好も食べていれば忘れられる。
「お前そんだけ食べて太らねえの?」
「……銀太郎、お前は少しデリカシーってもんを学べ」
「聞いちゃダメなやつなの!?」
「いやいいけど……。まぁ、あまり気にしたことないけど千智ちゃんもよく食べて太ってないし双子なら同じ体質じゃないかな」
家ではよく食べてるんだよねー。本当に食べてる。ご飯なんか茶碗3杯くらいは余裕で食べてる大食いの女性だった。結構かわいい顔しておいて本当に食べる。
それでも太ったぁとか嘆いてるところ見たことないし食べても太らない体質なんだ……と思いたい。
「そうなんだ。いいなぁ。俺なんか食べたらお腹に行くタイプだから毎日筋トレ欠かせないんだよな」
「太りやすい人っているらしいね。体質的な問題で」
「俺は太らねえ体質だぜ!」
「銀はよく動くからだろうが」
よく動きよく寝るのが九条らしい。
俺らが歩いていると。
「ん、あれ帝王サマじゃね?」
「本当だ。あんなところでなにしてるんだろ」
ユキが対面から歩いてくる。
人ごみに辟易としてるのか、あまりいい顔をしていない。が、俺と目が合った。目が合った瞬間、ちょっとだけ笑顔になりとてとてと駆け寄ってくる。子犬かな?
「よぅ、音子。何してるんだ?」
「買い食い?」
「そうか。美味しいもんな……。と、九条と城前も一緒か」
「ん、おう。帝王様こそ何して……」
「ばっかお前! 財前はその呼び方嫌ってるって……」
帝王様呼びされた途端顔が険しくなっていた。
あ、本当に嫌なんだ……。
「でも帝王って呼び方かっこいいよね」
「……だろ?」
おい、俺がフォローしたら肯定するなよ帝王様。
ユキと関わってて思うんだがこいつは基本的に犬属性かもしれない。あまり人に懐かない一匹狼みたいな感じの犬。懐いたらとことん尻尾を振る。
この状態なら多分何を言っても肯定すると思う。全自動肯定マシーン。
「で、ユキは何してたの?」
「あぁ……。父さんがお前は人が嫌いすぎるから一回人ごみを歩いて来いって投げ出されてな。なにがいいんだか人なんて……」
「大変だねー。でもまぁ、将来のことを考えたら克服はしておいたほうがいいかもね」
「……だな。頑張る」
「頑張れ」
ユキは素直だとかわいいんだよなぁ。これを俺にしか見せてないような気がするのが残念なんだよなぁ。
俺とユキって小学生の時ただただ遊んだだけの仲なのにこんな俺にだけ懐くことなんてあるんだろうか。遊んだこと以外特別なことしてない気がするんだけど。
「……音子も来ないか?」
「私も?」
「あ、あぁ。音子も一緒なら頑張れる気がする」
「まぁいいけど……。二人は?」
「俺はい」
「遠慮しておく! ほら銀、行くぞ」
九条が城前に引きずられて行ってしまった。
九条も同行するつもりだったんかな? 別にいいんだけど。
「それであの二人とはなんで一緒にいたんだ?」
「んー、ナンパに絡まれてたところを助けてもらった」
「なん……ぱ?」
「女の子になって初めて体験したけど……ちょっと強引さが怖かったね」
「特徴は?」
「探し出さなくてもいいっての」
なんで俺に仇なすものに報復しようとしてやがんだよお前は。