カフェでのひととき
「音子、ここのチーズケーキが美味しいんだ」
「あ、本当だ。美味しー」
「だろ?」
「……てかさ」
俺は周りを見る。
「これ周りからはカップルとして見られてない?」
「……かもな。だが周りなんて気にすることもないだろ」
俺が音助ということを受け入れたからなのか、ユキは俺に一気に距離を詰めに来た。
もともと小さいときに俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれていたからその名残だと思うけど、ばらして当日の放課後に教室でいきなり今日の放課後にカフェにでもいかないかと誘われるとは思っていなかった。
ユキは学校でも帝王としておそれ崇められている存在らしく、女性嫌いということも言われていたそうだ。そんなやつがいきなり誘っていたもんだから周りがめちゃくちゃ騒然としていた。
中には狙っていたのか恨みがましい目で見ていた子もいた。
「ユキって信頼してる相手には相当距離近いよね」
「ああ。俺はあまり人間を信用しないからな。音助……音子は信頼できる」
「そう素直に言ってくれると嬉しいけど恥ずかしいわ」
恥ずかしげもなくそんなことを言うな。
「それで……音子はもともと音楽をやってたんだろ? そっちに戻りたいとか思ってたりするのか?」
「いずれ戻るよ。とりあえずは高校を卒業してからだね」
「そっか……。俺は音子の歌を聞きたいよ」
「いずれ聞かせてやるよ。待ってろ」
俺はチーズケーキを頬張る。
味の好みもちょっと変わったのか、千智ちゃんが好きそうなものが好きになってるような気がする。クローンだから好みも似通うってことなんだろうか。
ユキもショコラケーキをちまちまとゆっくり食べていた。
「音子、イチゴやる」
「え、いらんの?」
「イチゴは苦手なんだ」
「意外」
なんでも食べそうな感じしてるのに好き嫌いあるのか。
イチゴが苦手って初情報。
「……で、桐羅はどうだ?」
「普通の高校と違いすぎ。俺が出た高校も進学校って呼ばれるくらいにはよかったほうだけどそれよりレベル高いし設備も設備ですごいよ。金持ってんなァって」
「入学金からなにやらで資本だけはあるからな」
「金の暴力ってこえー……。今まで貧乏大学生やってたからマジで温度差で風邪ひきそう」
「あっはっは。言ってくれたら支援でもしてやったのに」
「ばっかお前。お金に四苦八苦しながら限界ギリギリで過ごすのも楽しいんだぞ」
「そうなのか?」
「予算を決め、予算ぎりぎりで買い物を済ませるというのは一種のミニゲームだ」
コンビニ弁当のほうが安上がりだったけど父さんの弟が米農家で毎月米を送ってくるので俺のほうにも送ってくる。
だからコンビニ弁当だと米を消費できないから炊飯器で炊いておかずを作ってるんだけど……。それが意外にも楽しい。最初は面倒なら総菜を買ってきて済ませばいいやと思っていたけど雑な男飯が意外とよく、話のネタにもなりそうなので基本的に自炊してた。
「安くて雑な男飯は意外といいもんだったな」
「そうなんだな……。って料理できんのか?」
「人並みにはできるぞ」
「……今度手料理食べたい」
「はぁ? やめときなよ。私の手料理は人様に振る舞うもんじゃないって」
「いいんだ。作ってくれたりしないか?」
「……明日弁当作ってきてやるよじゃあ」
「頼む」
なんか弁当作ることになっちゃった。
そんな物欲しげな目でみられたら断れないじゃん。ユキは意外と甘えん坊なんだよな。昔から。
「アレルギーとかはある?」
「ない」
「嫌いなものはイチゴだけ?」
「トマトも苦手だ……。ケチャップは食べれるんだけどな」
「トマト嫌いあるあるだな」
トマトは嫌いだけどケチャップなら食べれるというあるあるを披露するな。