傷跡
俺は家に帰り、ギターを弾いていた。
いつか戻るネオエスケープのために、ギターの腕は落としたくない。
こんなか細い腕でギターは弾けるのかと一瞬心配こそしたがそれは杞憂だったようだ。きちんと弾けている。歌も歌ってはみているが、男の時と違い完全に女の声なのがちょっと気になる。
アニメで例えると俺はCV木〇昴だったのがCV花澤〇菜になったような感じ。
うーむ。音程とかはつかめるけど女声なのが気になる……。この体になっている以上仕方ないことだけど。
「音子! 風呂入るよ!」
「あとで……」
「絶対入らないでしょう! 私の体で不衛生は許さないよ!」
というので泣く泣く入ることになった。
俺は湯船につかり、今日のことを思い出す。三人は俺を忘れて居なくてよかったと思った反面、もう少し俺に囚われず自由にやってほしいという思いもあった。
俺のギター、歌のうまさはほかのバンドと比べるとちょっと劣っているような気がする。それもそうだ。
ほか三人はずっと音楽をやってきて音楽の道をずっと目指してきた人間だ。
俺は大学に入ってからギターを始めた。歌だってカラオケで少し歌うくらいだった。積み上げていた年月が違う。
千鶴ちゃんのように俺を含めてファンになってくれてる人は少ない気がする。俺らに関するSNSのつぶやきは基本的にほか三人を褒める内容ばかりだったしな……。
「でも俺は音楽にドはまりしてんだよ……」
「何の話?」
「こっちの話……。なぁ、千智ちゃん。今日俺の歌聞いてどうだった」
「歌ですか? あまり良し悪しはわかりませんが……上手だとは思ったよ? 私にそっくりで……。まぁ、私は音痴だから音子みたいには歌えないけど」
「上手だと思ってくれてるならまだいい……」
俺もほか三人みたいに上手くなりたい!
けど、積み上げてきた年月には敵わないんだよな。
「実際問題、俺がボーカルとして戻るとなるとどうよ」
「そうだなぁ。ちょっとインパクトに欠ける?」
「だよな。あんな迫力の演奏に俺のか細い声が負けちまう」
今日の俺、ちょっとナーバス。
俺はため息をはき、自分の胸のほうを見ると、なんか深い傷みたいなのができていたのだった。
「なんだこの傷」
「え、ほんとだ。気づかなかったけどなんかできてるね?」
昔の古い傷のように、胸のあたりに包丁で突き刺したかのような傷があった。ただそれはもう皮膚で覆われている感じになっていて、そこだけ色が違う。
この傷に関しては千智ちゃんも知らないようだった。
「ちょうど心臓のあたりだね……。ここら辺に移植したからその傷跡……なわけないもんね。脳移植なら頭だし」
「千智ちゃんにはないよね?」
「ないけど傷とかはコピーされないよ。だからなくても不思議はないけど……こんな目立つのに昨日見ても気づかなかった……」
「昨日はパニクってたし大体前隠してたし……」
一日経って俺も少し慣れてきた。
その時にこの傷を見てしまった。心臓あたりにあるこんな傷はなんなんだろうと考えてみるも何もわからないので考えるのをやめた。
「いずれわかるでしょ……。あ゛〜」
肩まで浸かり、俺は少し湯の温度にのぼせそうになってしまった。