ネオエスケープ
ライブが終わり、千智ちゃんが完全個室制の懐石料理店にネオエスケープの奴らと俵さんを連れてやってきた。
「え、クローンに脳を移植した……?」
「ほえー……」
「つまり、千智さんのクローンの体に音助の脳が入ってるって……コト!?」
「マジか……」
案の定直虎たちはドン引きしていた。
俵さんは驚いてはおらずほえーという顔をしていたが。
「昨日お友達になった方がまさか追っかけていた音助さんだったとは……! 数奇な運命のある者ですわね! ふふっ」
「俵さ……俵様は引かないの?」
「なにをおっしゃるんですの。クローンというのは確かに驚きましたが……。万家にはそういうのを開発しているのではないかという噂はあったので」
「え、マジで?」
その噂に関しては千智ちゃんが驚いていた。
「で、音助……」
「なんだよ」
「……生きててよかったなァ」
直虎がぶわっと泣き出した。それにつられたのか文也たちも思わず涙を流している。
「悪かったよ。俺も目覚めたのはついこの前だから」
「いいんだ。姿かたちは違うと言えど……音助が生きてるだけで俺らは……」
直虎の顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。
直虎たちは顔がいい癖に音楽に一辺倒だから彼女ができない。こういう優しさも持ってるから彼女ができてもいいとは思うんだけどな。
俺は男の人と付き合うのはちょっと嫌だけど……。俺自身男の子ですし……。
「このことは私たちだけの秘密にね。さすがに世間にばれるとあれだから……」
「了解であります! 直虎、文也! 我らだけの秘密事項でありますよ!」
「わかってる……。ぐすん」
「誰にも言わないよ……僕も」
「ふふ。私も秘密にはしておきますわね。それと……そうと知ったからには学校でもサポートして差し上げますわ」
「学校……?」
「今、俺はその……桐羅学園に通ってて……」
「あの金持ち高校の!?」
「マジか……」
三人は桐羅と聞いて驚いていた。
俺もまさか通うことになるとは思ってなかったよ。高校生をやり直すことになることも思ってなかったよ。
「俵様はそこに一緒に通う……」
「千鶴でいいですわよ音助様」
「千鶴様……」
「ちゃん」
「千鶴ちゃんも一緒に通ってるんだ」
「マジかよ……」
「制服も可愛いって聞くし一般でも受けに行く奴いるよな」
「あと単純に就職にも有利になんだろあんだけ有名だと。すっげー倍率高いしレベル高いって聞くが」
「……昨日初登校だったんだけど授業受けたら数学がもううちの大学レベルでした」
三人は唖然としていた。
「なんつーか……頑張れよ落ちこぼれないように」
「うるせえ他人事だと思って……」
「俺、脳移植されるんなら金持ちじゃなくていいでありますなー。桐羅は無理そうであります」
「僕も……。音助、頑張れよ!」
「頑張るよ。ってかお前ら、外では俺のこと音子って呼べよ。音助じゃねえから」
「音子って誰がつけたんだ?」
「俺」
「もっと可愛い名前にしておけよ」
「うるせえ」
音助だから音子だよ。別におかしくも何もねえ陳腐な付け方で悪かったな。
「ってか音助。その姿だとやっぱ俺たちとは無理……でありますよね?」
「あー……」
俺は千智ちゃんを見る。
千智ちゃんは首を横に振った。
「むりっぽい」
「あんなに未練たらたらなのに?」
「こんな形で蘇ってなかったら未練たらたらで幽霊になってたかもな。それぐらい未練はあるし諦められねえけど……俺が何かしでかしたら同じ顔の千智ちゃんにも迷惑かかっちまうし」
「千智様なんか関係ないですわ! やりたいのならやりましょう!」
「俵ぁ……」
「なんか千智様が怖いですわ!」
応援されても……俺は千智ちゃんには迷惑はかけられないしな。
「俺はまだ音楽はできそうにないよ。いずれはやりたいけどね」
「そっか……。俺らは待ってることにするわじゃあ」
「待ってる……?」
「またボーカルとしてお前が戻ってくる席を開けといてやるよ。それまでは俺のへたっぴな歌で我慢してもらおうぜ」
「いいでありますな」
「ねす……音子を差し置いて有名になったらごめんな」
「直虎、文也、仁……!」
いずれ戻ってやるよ俺たちのバンドに!
だから俺もやるべきことをやってからまた許可をもらいに行こう。