プロローグ
俺の名前は榎田 音助。大学一年生の冴えない男の子だ。
俺は自宅からは遠い大学に進学し、勉学に勤しんでいる。友人と呼べる友人は数人しかおらず、その数人でバンドを立ち上げたりして順風満帆とまではいかないが楽しい生活を送っていた。
「音助〜。今日打ち合わせくんだろ?」
俺のバンドメンバーである友人の柊 直虎が俺に聞いてくる。
「あ〜、すまん。今日一回実家に帰るんだわ。言ってなかったか?」
「あ、すまん! 忘れてた。まぁいなくてもなんとかなんだろ! 気をつけてな!」
「おう」
俺は一度自宅に戻り荷物を少しまとめて実家に帰ることにしていた。
愛用のギターを持ち、今住んでるボロアパートの扉に鍵を閉め、俺は最寄りの駅へ足を進めて行く。
コンビニを通り過ぎ、信号が青になったのを見計らい止めていた足を進めた時だった。
クラクションの音が鳴ったかと思ってそっちの方を振り向いた瞬間、黒い車が俺めがけて突っ込んできたのだった。
俺は車に突き飛ばされ、電柱にぶち当たる。車と電柱に挟まれてしまった。
俺……死ぬ……?
俺は自分の意識がどんどん薄れていくのがわかった。
俺、まだやりたいことあったんだけどな。
後悔を残しながら俺はそのまま意識を失った……。
と思ったが死んでなかった。
俺はぱっちりと目を開ける。見知らぬ天井、そして隣には見知らぬ男の人と女子高生。
俺が目を覚ましたのがわかったやいなやに俺の手を握りしめてくる女の子。
俺の手……こんなに細かったか? あとこんな色白だったかな……。
なんて疑問を抱きつつ俺は身体を起こす。
「俺生きてたんです……か?」
おかしい。
声が妙に高いっつーか……。女の子っぽい。
「急な変化で戸惑ってるだろう。まずは自分の姿をよく見てほしい」
そう言って男の人は手鏡を手渡してきた。
俺は手鏡を受け取り、自分の姿を見てみる。
黒く伸びた髪、色白の肌と整った顔立ち。
ちょっと華奢な女の子が手鏡に写っている。俺は男の人に手鏡を返す。
「いやいやいや、手鏡に写真貼り付けてドッキリっすか? 冗談きついっすよ。俺あんたのこともよく知らねーのにこんな……」
「いや、それは正真正銘手鏡だ」
「いやいや、そっちの女の子にそっくりな顔が手鏡に写ってるんすよ?」
「……それが君の姿だ」
「……えっ」
俺はもう一度手鏡を奪い取り自分の姿を見てみる。
俺がウインクすると鏡も同じようにウインクしていた。手を振ってみると鏡の中の女の子も手を振る。
いや、いやいやいや……。
「すまなかった」
「えっあっ……えっ?」
「榎田 音助くん。説明をさせてほしい」
「えっ……?」
俺、本当に女の子に……?
俺は股間のものを確認してみる。股間には何もなかった。
「えええええええええ!?!?!?」
部屋の中に俺の叫び声が響き渡る。