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ヤンデれ!  作者: 鱈の煮付け(仮)
1/3

死ぬほど君に愛されたい...

「お、あの女性綺麗だな〜」

人の行き交う繁華街の中を歩きながら俺は隣の、俺の彼女に向けて言う。

二人きりで繁華街、そう、デートだ。

ん?デート中に他の女の話をするのはダメだって?

もちろんわかっているとも。

彼女の反応を確認する。

「そうだね〜」

笑顔でそう言う彼女…取り繕っている様子もない。

こ、これもダメなのか、と俺は内心動揺する。

側から見ればクズとも言われそうな、タブーを繰り返す、それには深い、深い理由があるのだ。


_______________________


数日前


「彼女にヤンデレ化してほしい」

「はぁ…?ついにおかしくなったの?」

「…一応何がかを聞いておこう」

「あたま」

放課後、誰もいない教室で机を向け合い、どこぞのゲン○ウのように真剣な表情でそう切り出した俺に、我が親友は本気で憐れみの視線を向ける。

「お前俺の相談に乗ってくれるっていったよな!?」

「いや乗るっていったけどそんなふざけた話が来るとは思わねぇよ!」

「いやふざけてねぇよ、真面目な話なんだよ」

「はぁ…」

観念したのか、で?と話を促す親友に俺は内心感謝をしつつ話を始めた。

「三ヶ月前から俺に付き合っている人がいるのは知ってるよな」

「あぁ君が嬉々として報告してきたからね」

「で、その子めちゃくちゃいい子なんだよ。めっちゃ可愛いし、でも…」

俺は机をドン!とグーで叩きながら言う。


「ヤンデレじゃないんだ……っ!」

「うわぁ…」


「え、ていうか君ってそんなにヤンデレ好きだったっけ?」

「よくぞ聞いてくれた!」

待ってましたと言わんばかりに立ち上がった俺は、ヤンデレとの出会いを語り始めた。

「あれは、そう彼女と付き合い始めた頃、互いのことを知るためにとおすすめの書籍を貸しあったときだった。彼女が貸してくれた本の中にいた一人の人物、彼女の主人公に向ける病的なまでの愛に、俺は震えたっ!!そして俺はこう思うようになったーーーー」


ーーーヤンデレっていいなぁ、と。


「ヤンデレって真実の愛だと思わないかい?」

そう菩薩の顔で説く俺に、「うわぁ」と本気でドン引く。

「大丈夫?最近キノコくった?」

「食ったけど」

「じゃあそれだね、赤い斑点ついてたでしょ、あんま食わないほうがいいよーそういうの」

「いや毒キノコじゃねぇよ」

というか人の好みを食中毒にすんな、全国のヤンデレ好きに謝れ。

「まぁ、で?彼女にヤンデレになってほしいと…」

突然本題に戻ったので、俺は席に戻る。

「あぁ、そうなんだよ、そこでお前を頼りにした訳よ」

にっこりと笑って俺は続ける。

「いやお前しか頼れる友達がいないって言うのもあるが、お前ってさめちゃくちゃモテるじゃん?何人も女を取っ替え引っ替えするくらいにはさ。だからさ、その泣かせてきた数多の女の中にはヤンデレと付き合ったこともあるんじゃないかと思ってな」

「…気のせいかな君の表情から微かに怒りを感じるんだけど」

「気のせいだろ」

それが気になるならテメェのこれまでの付き合ってきた女(つみ)を数えな!

と言外に主張する俺の嫉妬はさておき。

「で実際どうなんだ?」

「そうだね…確かに何人かいるね」

「本当か?!流石顔面偏差値に全てを捧げた男!」

「それ褒め言葉でいいんだよね!?」


_______________________


『今までの経験から言うと、ヤンデレに病まれたのはデート中に他の女に興味を示したときかな。嫉妬ってやつだな』

『えぇ…何してんだよ…刺されるぞ』

『刺されたよ』

『まさか突然お前が一週間休んだのってーーー』


恋愛の大先生の言葉を思い出しつつ、俺は何度も仕掛けたのだが…


「最近いろんな女の子と遊びに行っててさ(行ってない)」

「へぇ!楽しかった?」

「お、おう」

「じゃあ今回はもっと楽しまないとだね!」


「実は隣の席の子からお菓子もらってさ(もらってない)」

「いいなぁ、美味しかった?」

「お、美味しかったぞ、ものすごく」

「じゃあ今度私もお菓子あげるね!ちなみに何もらったの?」

「え?(え)……元禄餅ぃ…?」

「……渋いね!」


「お、あの子僕の好みのタイプだなぁ(違う)」

「そうなんだ!じゃあ私ももっとあんなふうにならないとね!」

「…………」




「ん“ん“ぅ“……」

い、いい子すぎる!!俺はあまりの罪悪感に思わず座り込んだ…

おそらく他の女の子にしたら「サイテー」とビンタされその日のうちに別れ話をストライクするだろう僕の言動に、だがそのことごとくを笑顔で受け止められ肯定される。嫉妬の“し“の字もない、彼女の聖母のような懐の深さに俺はやられていた。


(どう言うことだ大先生言われた通りにやったが全く効果ないぞ!!)

『いやそんなの僕が知りてぇよ!』

とついに聞こえ始めた幻聴に(まあ、そうだよな)と思考する。


「え!え?!大丈夫!?」

そう慌てた様子で問う彼女に、俺は「大丈夫…大丈夫…」と繰り返す。

「パフェ…食いにいこっか…」

「う、うん!」

死にそうな顔で言う俺に、彼女は元気よく頷いた。

予定通り喫茶店に入った俺たちは同じパフェを頼み向かい合って席に座る。

以前雑誌にも載っていた人気店なのだが、掲載から時間が経っていたためであろう、人の入りは落ち着いていて、すぐに席に着くことができた。

「空いててよかったねぇ」

「うん、そうだね…」

彼女の言葉に答えつつ俺は別のところへと思考を巡らせる。すなわち

(これからどうしよう…)

様々なやり方で嫉妬を誘ってみたが全く効果がない。それどころか彼女の見せる満面の笑みが俺の精神を罪悪感という形でゴリゴリと削っていく。正直に言って限界に達しつつあった。

光属性が闇属性に強いのってこう言うことだったんだなぁ…

そう遠い目で悟る俺の頭の中に、一つの思考がシャボンのように浮かんで弾ける…


ーーー「じゃあ諦めるか?」と


否…否否、否っ!!!諦めてなるものか!!

心の中で叫ぶ。

ヤンデレは俺の悲願だ、夢だ、理想郷だ!!そしてこの機会を逃せばこれからの人生の中で二度とチャンスは訪れることはないだろう最後の糸だ!この糸を手繰り寄せてでしかヴァルハラに行くことはできず!!ヤンデレとハッピーでシュガーな生活を送ることはできない!

うおおおお!!負けてたまるかあぁぁぁ!!柚乃!言葉!さとう!桜!

うおおおお!!!


「おまたせしましたデラックスストロベリーパフェでございます」

「あ、きたよ!!すっごく綺麗だね!」

そう闘志を燃やす俺の心は、だが彼女から向けられた、天岩戸から顔を覗かせた天照大神のかがやきをも連想させる満開の笑みにーーー

ーーーぽっきり

と情けない音を立てて崩れ去った。


(まあ、今日はもういいか…)


そう白旗を揚げた俺は、卓上に置かれた籠からスプーンを2個取り出し、「はい」と彼女に渡す。

「ありがとう!ねぇ写真撮ってもいいかな?」

「いいぞ〜」

そう笑みとともに返す俺。

今日は失礼なことをいっぱいしちゃったからな。午後は何も考えず楽しんでもらおう。

そう心に決めて俺は写真を撮る彼女の姿を見守る。

その時、ふとその光景に違和感を感じた。

(カメラの角度が、少し高い…?)


「撮れたよ!じゃあ食べよう!」

「あ、うん」


気のせいか……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局その後はヤンデレ化のための試みは何も起こさず、心からショッピングなどを楽しみ、そして別れの時間になった。

辺りは少し暗くなっており、何かあっては心配ということで彼女の家まで送る。

学校生活のこと、これからの予定のこと、迫り来るテストなどの話をしているとあっという間に彼女の家の前に着いてしまった。

「じゃあ、またね!」

名残惜しそうな表情でそう言いながら玄関のドアに手をかける彼女に

「うんまた明日」

と優しく手を振り俺は踵を返す。

結局今日の計画は失敗に終わってしまった、がこれからも機会はある。今度こそは上手く行ってみせる。

そう決意して帰路につこうとしたその時ーーー


「おーーい!」


背後から声が響く。振り返ると彼女の家の二階、おそらく自身の部屋であろう、窓から身を乗り出しこちらに向かって大きく手を振る彼女の姿があった。


「今日は楽しかったよーー!ありがとーー!」

「ーーーー!」


“楽しかった“その言葉に目を見開いて驚く。

そうか…楽しかったのか…

微かに頬を染めながらこちら反応を待つ彼女に、俺は大きく手を振り返し、背をむけ歩き出す。


あぁ、早く…早くーーーーー


ーーーーーヤンデれ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こちらに背中を向け、歩き去る男の姿を見つめる少女、どこか恍惚とした表情で彼を見送るその姿はまさに恋する乙女そのものであった。

「…好き」

あぁ、だがーーーー


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、好き!好きっっ!!」


ーーーその異常さに目を瞑ればの話だが


光のない目で何度も彼に愛を囁く彼女の姿は、あぁ狂っている。

でも、でもでもでも!好きなのだ愛しているのだ敬愛して鍾愛して親愛して溺愛して熱愛して情愛して狂愛して、愛して愛して愛しているのだ。

ずっと彼と一緒にいたい一緒になりたい。

でも、きっとその願いは叶わない。なぜなら…


彼が消えた街角をずっと眺める彼女の意識を引き戻したのは、「ピー」という電子音だった。

その音の元は、部屋の隅に置かれたプリンタ。印刷完了の音を知らせる音だ。

幽鬼の如き歩みでプリンタへと向かい印刷されたものを手に取った彼女は、思わず「あは♡」と嬌声を上げる。

それは、数枚の写真であった。それら写真にはいずれも真ん中に大きく一人の男が写っており、どう見てもその男が目的で撮られているものばかりだった。

興奮に顔を赤らめながら、頬を擦り付けんとする勢いで写真を見つめる彼女は、それらを壁の方までもっていくと、棚に置いてある画鋲で、壁に、壁一面のコルクボードにそれらを貼り付けた。

「はぁ…っ♡」

一歩引き全体図を見た彼女は思わず艶かしい息を漏らす…

あぁ、それは彼女の宝物であった…

壁一面にコルクボードを貼り付け作った写真を飾るための場所。そこに貼られた無数の写真、それらは全て愛しい彼の姿を写していた。

あまりの興奮に胸が高鳴る舐め回してしまいたい。

笑顔の写真悩んでいる写真真剣な表情の写真そしてーーーパフェを前に目を輝かせている写真。

しかしそれらはどれもこちらに視線を向けてはおらず、彼が撮られることを意識した構図でないのは明らかだった。つまるところはこれら全てが彼女の盗撮写真(たからもの)である。


今回のデートは楽しかったなぁと今回の収穫物を眺めながら思い出に浸る。

高揚とした笑みは、だが段々と険しいものに変わっていく。


『お、あの女性綺麗だな〜』

『最近いろんな女の子と遊びに行っててさ』

『実は隣の席の子からお菓子もらってさ』

『お、あの子僕の好みのタイプだなぁ』


あぁ、一体何度あいつらを殺してやろうと思っただろう。彼に褒められるなんて、彼から施しを受けるなんて、嫉妬から気が狂いそうだった。

バレないように殺してしまおうかそうも思った。


「でも…そうはいかないのよね…」


なぜなら…そうなぜなら…


彼はきっとヤンデレが嫌いだから


バレなければあんな女ども何人殺したって心は痛まない、そう彼にばれなければ…

でも、もしバレたら…?


彼から向けられる蔑みの目。遠のく彼のぬくもり。

考えただけで恐ろしくて呼吸ができなくなる。


はぁ……お願いだからーーーー



ーーーー彼がヤンデレを好きになりますように

こんにちは!鱈の煮付け(仮)です。

お久しぶりですね。初投稿から三十分しか経ってませんが。

さて、なぜこんな高スパンで二作品投稿しているのかと言いますと、実はこれ、不殺の勇者の休憩として書いておりました。

執筆作業という慣れない事の中で疲弊した私はこう思ったのです。

(疲れた、他のもの書きたい、ヤンデレもの書きたい)と。

というわけでして、ヤンデれ!は私の趣味全開の話になっております。

趣味全開ということもありなぜか休憩用の話のはずなのにこちらの方が先に出来上がっていました。不思議ですね。

休憩用の話ということもあってかなり雑に書いておりますが楽しんでいただけると幸いです。


ちなみにキャラクターの名前は考えてあるのですが、載せる暇がなかったので次回に載せます。載せないかもしれません。


ヤンデレ…ヤンデレ!!!

ヤンデレ好きですよね?

えぇ!私はもちろん好きです。


ご意見ご感想お待ちしております。

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