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あなたがそうおっしゃったのに。  作者: 友坂 悠


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湯浴み。

 ワゴンにタライをのせ運ぶ。

 この屋敷には地下に浴場があるのだけれど、ジークハルトは面倒がってこうしてタライにお湯を張って身体を拭くのが日常で。

 エーリカはといえば、どうしても自分が浴場を使うことに遠慮をしてしまい、やはりほとんど自室で湯浴みをすませていた。


 本来であったらメイド姿でお世話をするべきだっただろうとは思ったものの、なんだか今夜はもうかなり精神的にも疲れている。

 ジークにあんな風に意見をするだなんて以前のエーリカには出来なかっただろうし、それは今だってかなり勇気をふりしぼった結果でもある。

 これが終わったらお部屋に帰ってすぐ寝てしまおう。

 そんな風にも考え、今夜は夜着にもなる質素なワンピース一枚でジークの部屋に入った。


「お待たせいたしました」


 そう声をかけると、ぱあっとこちらをみて破顔するジークハルト。

 ラフな格好でベッドに腰掛け、


「ありがとうエリカ」


 嬉しそうにそう云うジーク。そう、それはまるでご主人様にいまにも飛びかかる寸前の子犬のようにもみえる。

 見えないしっぽをぶんぶんふっているかのよう。そんな感想を抱くエーリカ。


 決してかっこいい旦那様には思えないけれど、それでも最近は随分と情もうつって。

 エーリカが怒るとシュンとする、そんな姿をみせるジークハルトに、なんだか弟の面倒でもみているかのような気持ちにもなってきていた。


 まだ熱めのお湯にタオルを浸し、ぎゅっと絞る。

 そうしてできた蒸しタオルを手に持って。


「お背中、お拭きしましょうか?」


「いい、のかい?」


「ええ。今日は特別ですよ?」


 そう悪戯っぽく答える。


 流石に、マーヤがいない間も湯浴みだけは準備だけして退出していた。

 ジークハルトが最初に嫌がったのも幸いに、そこまでのお手伝いはして居なかったのだけれど。

(まだ、ちゃんとした夫婦だと思えるわけじゃないけど……)

 それでも。

 少しは妻らしいことをしてあげたくなった。

 ただのメイドであれば、それも年若い娘であれば、流石にそこまではしないもの。

 マーヤのような年齢であればべつ。

 彼女はジークが幼い頃からそうしたお世話もこなしていたそうだ。流石にそれをエーリカには求められはしなかったけれど。


 さらっと上着を脱ぐジークハルト。

 床に敷いた大きめのラグに、さらに大きめのタオルを敷きそこに座ってもらう。

 彼の背中。

 引きこもっているようにみえ、厚みのある筋肉質のその背中に湯気のたったタオルをそっと当てて。


「熱くないですか?」


「ああ。大丈夫。心地いいよ」


「ふふ。ならよかったです」


 背中を何度か拭いたあと、首筋の汗を拭き取って。


「前は、ご自分で拭いてくださいね」


 タオルをもう一度タライに浸し、さっと絞って彼に手渡した。

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