【ジークSide】3 懇願。
「ああ、そうだよ! 悪いか!」
思わずそう吐き出していた。
相談に来たはずだったのに。もう完全にこのクソ親父を敵にまわしている。
「悪くはないさ。ただね、お前があの子を手放したくないのだったら、真摯に謝るのも必要だとは思わないかい?」
俺の癇癪など意にも介さない様子でそうさらっと云う親父。
間違っちゃいない。
その親父のセリフに間違いなんてない。
確かに、至極当たり前なアドバイスだった。
俺が、謝るっていうそんな場面に、今まで遭遇したことがなかっただけ。
それも、真摯に?
そんな真似、できるのか?
「彼女の笑顔、また見たいんだろう?」
ああ……。
この人のことを見透かしたような態度は本当に気に食わない。
気に食わない、けれど。
降参だ。
強がっていてもどうしようもない。
俺は多分、この親父に対してはじめて頭を下げた。
「どうしたらいいかわからないんだ。頼む、親父。助けてくれ」
「そうだね。とにかく一度素直に謝って懇願してみよう。私も一緒に話してあげるから」
♢
朝。
一晩中、結局寝られずに過ごした。
それでも。一晩中考えても。
エリカが、彼女が一体どんなに傷ついているのか、俺には理解ができなかった。
だから。
真摯に謝る。
それしか結局俺にはできないんだな。
そう考える。
クソ親父の言う通りだ。
そんなふうに。
朝日が黄色く瞬いている。
そろそろエリカがここに来る。
彼女をどう迎えようかとか、そんなのは考えるだけ無駄だ。
俺は、懇願するしかできないんだから。
食堂にエリカがやってきた。
正面に座る親父しかみえていないのか、給仕の侍従の横にいる俺には目もくれず親父の前に立つ彼女。
何度も擦ったのか瞼が赤く腫れている。
一晩中泣いていたのか、真っ赤に充血した瞳が痛々しい。
「おはようございます侯爵様。突然ですみません。わたくし、もうここにはいられません。どうか侯爵家からは離縁していただけませんでしょうか……」
泣き出しそうなそんなか細い声でそれだけ告げると、深々と頭を下げるエリカ。
「父が頂いた仕度金は何年かかってもお返しいたします。どうかそれでお許しくださいませ」
涙がボロボロと溢れるように床に落ちた。
しかし、何だって? 仕度金? そんなものに縛られていたと言うのか?
「好きでこんなところにきたわけじゃない」
そう叫んだエリカの声が頭の中でリフレインする。
ああ。
俺は、なんてことを言ってしまったんだ。
俺は、なんてことを言ってエリカを傷つけ貶めて……。
取り返しのつかないことを言ってしまったんだと、今更ながらに気がついた。
ああ、もう遅いのか?
俺は……。




