ロマンス小説のように。
それではごきげんよう。
そう会釈して離れていったアナスターシア嬢。
手にはいっぱいの料理の乗った皿を持って。
目で追うと、随分と離れた本当に誰もいなさそうなスペースに置かれた椅子にちょこんと腰掛け、そして黙々と食事を始める。
周囲には誰もいない。
彼女の関係者は皆国王陛下のおそばにかたまっている。
きっと、貴族同士の付き合いというものに捕まっているのだろう。
そう思って。
聞けなかった。
彼女の醜聞の意味を。
それでも大体は察することができる。
春、彼女は婚約破棄をされたのだ。それも大勢の人の目の前で。
お相手は第三王子レムレス。
彼は王太子であった。それくらいはエーリカも聞いたことがあった。
それがいつの間にか何か事件があって廃嫡になったということで……。
確かエーリカよりも一つ年上のその王子様。
貴族院初等科に通っているときにお見かけしたなぁ。そんなふうに思い出す。
ふわふわな金色の髪がひよこみたいで、可愛らしい方だった。
そんなにきつい性格にも見えなかったのに。と。
そんな彼と婚約していたのがアナスターシア嬢だったなんて、貴族院にいた時には全然気がつきもしなかった。
いや、アナスターシア嬢をお見かけした記憶も実はあまりない。
ご一緒にいらっしゃるところを、エーリカはどうしても思い出せなかった。
アナスターシア嬢の言った、「ナリス様はわたくしの初恋の相手だったのです」という言葉が頭の中でリフレインする。
「政略結婚のお相手だったレムレス殿下に婚約を破棄され、あらためて初恋の人ナリス殿下と結ばれたということなのでしょうか?」
そう言葉にしてみると、頭の中がすっきりとまとまって。
なんだかすごく微笑ましく思えてきた。
「まるで、物語のお姫様のよう」
流行りのロマンス小説にそんなお話があったかしら?
もしあったら絶対に人気のお話になりそうなのに。
そんなふうに、ふんわりと思い描く。
それでも。
仮にも一応現在は自分の夫であるジークハルトがあんなふうに思うように、きっと世間にはこのことは伝わっていないのだ。
それがもどかしかった。
アナスターシア嬢があんなにも寂しそうに見えるのがなんだかほかっておけなくて。
エーリカは、自分のお皿と、侍従からもらったグラス(今度はお酒じゃないですよね? ってちゃんと確認して受け取ったフルーツジュース)を手に持って、アナスターシアのそばまで歩いていったのだった。




