やり直し。
結局、しばらくの間対外的にはお飾り妻のまま、侯爵家の中ではメイドの仕事を続けることとなった。
まだ、信じきれない。
ただ、なんだか追い縋るような瞳でみてくるジークの手を振り払うことができなくて。
なら、ちゃんと初めからやり直そう。
メイドとして彼と向きあって、もうちょっとだけ彼のことをちゃんとみてみよう。
そう思ったエーリカ。
ジークは残念がったけれどそれでも。
「君の嫌がることはしないよ」
と、そう約束してくれた。
正直なところ、ジークを好きになれるのか、自信がなかった。
それでもただただ嫌いな相手と政略結婚をして、そしてなすすべもない状態にされるのよりはマシなのかな? そうも思う。
彼の気持ちだって、一時的なものかもしれないし。
いつかまた心変わりをされるかもしれない。
それも、怖かった。
♢ ♢ ♢
婚姻が秋。
今はもうだいぶんと冷え込んでくる季節になり、そうして世間一般は社交の本番を迎えようとしていた。
フォンブラウン侯爵家にもあちらこちらからパーティーやお茶会の招待状が届いていた。
主に侯爵が夫人を伴って出席すれば事足りるとあって、ジークハルトがそこに出なくてもそこまで咎められることもなかったけれど、今年は少し事情が違った。
各家からの招待状に、ジークハルトとその妻エーリカの名が連盟で添えられ、ぜひお越しくださいと書かれているのをみて、フォンブラウン侯爵は悩ましい日々を送っていたのだった。
「そろそろ、君らのお披露目も兼ねてこうした社交の場に出てみるのはどうかね?」
家族が揃った夕食の場で、フォンブラウン侯爵がそう切り出した。
あれ以来、夕食の時間には必ず間に合うように帰ってくるようになったジークハルト。
カトラリーをおき顔を上げると、
「ええ、わかりました。いいよね? エーリカ?」
と、エーリカの顔を覗き込んでそう云う。
びっくりして顔を上げるエーリカ。
それでも。
「はい。承知しました」
と、頷いた。




