もう、ダメ。
「なあ、エリカ。もしよかったらマーヤが帰ってきてからもこのまま私のメイドでいてくれないか?」
夕食の給仕の最中、ジークがそう切り出した。
真剣な目でこちらを見ているジーク。
「それは、わたくしがメイドでいることを許して下さった、と、そう考えてもいいのでしょうか?」
(さんざん無視したりじゃけんにしたりしてたのに。少しは心を許して下さったのかしら?)
そう思うと少し嬉しくなると同時に、このまま騙したような形のままじゃいけない。そんな気持ちが大きくなる。
「ああ。君ならそばにいても嫌じゃない。だから、どうかな」
真剣な目で見つめる彼。
でも、これはメイドのエリカに対しての瞳。エーリカにたいしてじゃない。
「若様の女嫌いが治ったのならよかったです。それならわたくし以外のメイドでも大丈夫でしょうし」
「いや、君だけだ。俺が心を許せるのは君だけ、他のメイドじゃだめだ」
「でも、メイドは一生そのままというわけにはいきませんよ? 若いメイドには皆婚期の縛りがあります。いつまでも一人の殿方に仕えるわけにもいきませんわ」
「そうか、ならこうしよう。君を私の第二妃に迎える。そうすればいいだろう?」
「って、ジーク様? あなた、女性を道具か何かと勘違いしていらっしゃいます?」
「違う! こんな気持ちになったのは君だけだ。今まで俺の周りにやってくる女はみんな俺自身じゃなくって俺の地位やこの家の金が目当てのものばかりだった。だけど君は違う。媚を売ってもこなければ俺に好かれようとあの手この手でくるわけじゃない。それなのに、俺が熱を出した時には朝までそばにいてくれて……。好きだエリカ。どうかこのままずっとそばにいてくれないか?」
(ああ。ダメだ)
「ジーク様には奥様がいらっしゃいますわ。どうかその言葉は奥様に言って差し上げてくださいませ」
そう云って。
この場から逃げるように振り返り扉に手をかけたところで彼に左腕を掴まれたエーリカ。
ぎゅっと握られた場所が、熱い。
「行くな! エリカ」
「だから、そう思うなら奥様とちゃんと向き合ってくださいませ!」
「いや、他の女なんて皆同じだろう。誰もかれも俺の地位と金に興味があるだけで。そんな薄汚いやつの子なんかいらない。あいつだって結局は一緒だろう。地位や金に釣られて俺の妻の座におさまったんだろうさ。だったら好きにすればいいし、侯爵家なんてなんだったら弟が継げばいいのさ。俺このままは魔法具の研究をしながら自由気ままに生きるんだ」
バチン!
思わず手が出ていた。彼の頬を思いっきり引っ叩いて。
手が真っ赤になって、痛い。
「馬鹿にしないで! 女がみんな地位やお金目当てだなんて思わないでよ! わたくしだって好きでこんなところにきたわけじゃないわ! わたくしのことが気に入らないのならどうぞ離婚に同意してください!」
そう言って胸元から自分の名前が書いてある離婚届を取り出して叩きつける。
そのままバッと振り返り部屋を出ると、隣の隣、自分の部屋に戻り勢いよくドアを閉めた。




