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あなたがそうおっしゃったのに。  作者: 友坂 悠


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お料理を。

 この侯爵家で台所をお借りしてお料理を作るのも、もう慣れたもの。

 料理人の人たちはエーリカがメイドではなくジークハルトの妻だということは承知した上で、彼女が厨房に入ることに了承してくれていた。

 貴族家に仕える料理人の中にはプライドが高い者も多く、他のものが勝手に厨房を使うことを嫌うこともある。

 伯爵家でメイドをしている時には料理長の手伝いもよく任されていたエーリカは、この侯爵家に嫁いだ初日に厨房に突撃し、真摯にこちらの料理長にもお願いしてたまに料理をさせて貰っていた。

 こうしてジークの世話をするようになった今では家族の皆とずれた時間で食事を摂る彼の分の食事の用意などでしょっちゅう厨房に出入りするようになって。

 ある程度、食材を自由に使うことも許されるようになっていたのだった。


「どうせ作るなら一人分よりみんなの分よね。料理長にお願いして今朝のメニューに加えていただこうかしら」


 そんなふうに考えつつ準備を始めていたら、朝の支度をする為に料理長がちょうど来て。


「おはようございますエーリカ様。お早いですね、今朝はどうなさいました?」


「ああ、ハサンさん、実はね、ジーク様が昨夜お熱を出してしまって、きっとお仕事が大変だったのね。お熱は治まってきたから、朝ごはんにカボチャのスープでもと思ったのよ」


「ああ、それは良いですね。カボチャは精がつきますからね」


「ふふ。でね、どうせならたくさん作って朝食のメニューに加えて貰えると嬉しいのだけれど。一人分は作り辛いわ」


「承知しました。では私もお手伝いしましょう。カボチャの下拵えはちからが要りますしね」


「ありがとう、助かるわ。じゃぁカボチャを切るのからお願いしても?」


「任せてください」


 ふふ。

 なんだかこうして料理をするのも楽しい。


 そんなふうに笑顔になりながら、お鍋に火をかける。

 厨房の竈門の火は魔法石に手をかざすだけでつく。こんな日常の生活にも魔法具は役にたっている。昔は火を熾すだけでも大変だったから、ずっと種火を消さないで置いておいたって聞いたな。そう、伯爵家で働いていた頃のことを思い出して玉ねぎをさっときざみお鍋に放り込んだ。

 そこに扇状にカットしたカボチャを入れしばらく炒め、玉ねぎが完全に茶色く溶けた頃に一度火から下ろし、小麦の粉を少しふるってからヘラでかぼちゃをすりつぶしていく。

「私がやりましょう」

 そう言ってくれるハサンに甘えてお願いすると、その間にエーリカは貯蔵庫からミルクと香草を持ってきて。

「ありがとう、もう良さそうね」

「はい、ではもう一回火にかけましょう」

 綺麗にすりつぶされたカボチャにミルク少量ずつ足しながら火にかける。

 混ぜながらヘラで擦るようにしていくと、だんだんとなめらかなとろみのあるスープになってきた。

「ここでこれを使ってください」

 ハサンがそう言って渡してくれた濃厚な野菜のエキス。それをおたまに一杯分混ぜる。

「味が整いますから」

「ありがとう」

 煮込んで煮込んでぎゅっと濃縮したスープの素。

 ハサン特製のそれは、この侯爵家の食卓の味になっているのだろう。

 火にかけることで濃厚で旨味をたっぷり含んだそんな美味しそうな匂いがキッチンに充満してきた。

 塩と胡椒で味を整えてから鍋から下ろし、粗熱をとって。

 鍋ごと氷庫に入れしばらくおいたら完成。

 人数分盛り付けたら刻んだ香草を少量ふりかけて。


「ありがとう。じゃぁわたくしはこれをジーク様のところにお持ちしますね」


 手伝ってくれたハサンに、満面の笑みでお礼を云う。


「はい。こちらこそありがとうございます。坊ちゃん、はやく良くなるといいですねぇ」


 ハサンも、笑みを浮かべてそう答えてくれた。


「はい! ほんとに」


 できたお料理をワゴンにのせ、エーリカはちょっとだけいつもより気分良くジークの寝室に向かった。

(お料理ができたことが嬉しかったから?)

(うん、そう、そうにちがいないわ)

 そんなふうに、心の中で呟きながら。

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