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ぼくの大事なセンパイ  作者: ふしきの
ぼくの大好きなセンパイ
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消臭剤と犯罪と

「マジ、クサイ」

 自称カノジョのナオさんは僕を見るという。

 大抵が先にセンパイの家に上がり込むのがどちらが先かと争いになるほど玄関の前では、嫌悪だ。ドアが開けば元の美人に戻るのだけれど。


「お前ら、先風呂入れ」は、ナオさんの顔色でセンパイが支持する。

「疲れたからタオル貸して、顔だけ洗顔してちょっと横になる」洗顔フォームがあるわけじゃない。台所でひたすらスポンジで泡を点てて洗うのだ。もち肌のナオさん顔のほうが色味があってきれいだとは思う。眉毛がないのを引いても。そのタオルを使って首や脇や足の親指も念入りに拭いたりしてからやっと背伸びをしながら出ていく。

「ジロジロ見んなクソガキ……ん、なにそれ湿疹?」声が怖いのでぼくは、シャツが半分脱げないままだ。臭い? どこだろう。脇の下とか、パンツやシャツのゴム部分とか。顔は、ニキビがヒトツフタツ。鼻ニキビの脂汗。

 トドメのセンパイが新しいシャンプーを詰め替えてくれたのを渡してくれたときに鼻をつまんで髪の毛を束ねたナオさんがそいつを取り上げて言ったんだ。「あんた、いじめにでもあってるの」原因で臭いのが。塩素漂白剤の落ちないヌルヌルと同じだってことを。

「これが、ぼくのニオイ? 」



 お風呂場は、ぼく独特の洗濯場にもなっていた。昔から。でも寮は許してもらえなかった。洗濯機を使えと、怒られたから。女子の同期にも洗濯方法を何度も何度も教わった。でも何度教わってもどうしてもぼくの独特のにおいが落ちていないとがっかりされた。

 がっかりされればされるほど同期と、歩数分離れていっている気がした。


「おい、これから洗濯機かけるぞ」

 センパイはぼくに指示する。蛇口を捻れ、洗剤を入れる場所に入れろ、ボタンはどれだ。やたらと何度も何度も止まるぼくに手を出さない。叱るが殴っても来ない。

 「おい、さっき言ったろう、泥洗いはつけおき別洗いだ」「あ、ごめんなさい」ナオさんが「あ、そーいうことなんだぁ、ま、言われなきゃ分からない、ははは、がんばれ童貞」それ以来、ちょっとだけ、風当たりが柔らかい気がしている。 

 たまに、ナオさんから話しかけてくれる。

「知り合いがしているエステサロン行く? そういう子大抵は施行で治るよ」ナオさんの助言も一理ある。「顔だけ押しの、いい男なんだから」ナオさんは毒も優しい。

「洗濯代ケチったのか」

「え……」

「100円コインランドリーもけちるおまえが、衣類用洗剤無しで汗だくのシミだらけが簡単に落ちるわけがないだろ」

 洗剤を使っていないことがばれた。ぼくはたくさんあるものの選別が苦痛ですぐに投げ出す癖がある。

「マイクロバブルって知っているか。今じゃ高級な家庭用品のモノに多く使われている。庶民には高くて手が出ない」

「……おじいちゃんの入れ歯洗い容器? 」

「見てろ……」

 自慢の機材のひとつの箱。右手を突っ込んで左手でボタンを押す。数秒で限界。

「うわっ、白! 」

「人の皮膚のサイクルは40から60日で古い角質が入れ替わる。だけどお前はめったに風呂にも浸からない。汗だくになるまで練習もしていない。老廃物は表面に溜ってホコリやゴミで黒くなる、それが鼻苺」

「うぉおおおおおお」

「こういうのは先に使った使用者の洗浄のカスでやっても落ちねえよ」

 どっさり怒られた。

 身体能力が下がっているのは太ったせいだと思っていた。太ったと思いこんでいたサボりだったんだ。

 はずい。

 どおりで筋肉質だらけの同期の中で目立つほどぽっちゃりなのかと。それを年少のせいにもしていた。自分で。


 ナオさんは隣の部屋で電話をしていた。時々バカっぷりで笑うと「また遊ぼうね」で電話を切る。それが数回。静かになったと思ったら、くの字で眠っていた。よだれがふわふわのセンパイの枕カバーに垂れていた。


「最低でも週イチで大物は洗う。大物っていったら、シーツやベッドカバーだ枕は小物だ。週三で洗え分かったか。復唱、除菌、漂白、清潔感」

「除菌、漂白、清潔感」

「乾燥機はケチるな。ケチったら地獄」

「ジゴク」



 で、その日とぼとぼと帰ってきた、ぼくの部屋になんでかわからない抜き打ち監査が来た。

「入隊試験時に取り立てて疾患などはありませんでしたが」

「わかりました。では、ここで彼がアレルギー症状を起こしたことに間違いないです」

「何だこの部屋」管理棟署長はマスクから腕回しに鼻を覆った。

 二酸化塩素のかわいいコマーシャルだった、あれや。吹き掛け用衣類の消臭剤のそれ。この部屋だけが換気窓の錆で開かない枠。

そして、着色されたシーツ。繊維マークを調べて更に下の布団を見つめる。

「黴ですね」

「ダニも数種類いますね」


 燻煙。


「お布団が黴びてたんだって」

「よくある。オレも修行に行かされそうになった僧院のフォーラムで、歴代のせんべい布団見て無理だと言ったことがある。歴史ってうざい 」

 センパイのお布団はいつもシャリシャリして、気持ちいい。

「まったく、猫飼ってるんじゃねーぞ。気持ちよく寝やがって」

 と、ぼりぼりあぐらをかいて勉強しているのをぼくらは見ている。

 そして眠くなる。

 陽気な太陽が沈んでいく。

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