表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくの大事なセンパイ  作者: ふしきの
ぼくの大好きなセンパイ
5/31

鏡の中センパイ

「センパイ、ごめんなさい。ごめんなさい」

 ずっと泣いているのは、ぼくだった。

 ぼくの手が涙で濡れて温いのに、先輩はどんどん冷たくなっていっていく。

「ばぁか」

「死んじゃだめだ」

「なんで死ぬ前提なんだよ」

 だって、だって。

 その半身が、左顔から肩までの半身が、……もげている。濡れた竹には血とか何かが土と一緒に混じっていて…。

「鏡ねぇか? 」

「……」

「お前、そういうところだぞ。けーさつかんってのは、身だしなみも整えるのも仕事だと思え。ほら、おれのリュックの内ポケットにあるからさ」

 リュックにはテッシュとか、笛とか、電池ライトとかといっしょに鏡もあった。

「それを見て見ろ。ほら、俺の顔! どうだ、普通だろ」

「センパイ、グロいよ……あれ、あれ、顔、顔、普通に普通になっている」

「お前、ほんとにちょろいな」

 と、げほげほ笑って僕の手の中で崩れていった。


 そんな夢を見た。



「なんで朝っぱらから呼んでもないのに来るんだ」

 の怒号。

 そして、

「あげてしまったら、お茶なんか入れなきゃなんねぇだろうがや! 」

 と、湯を沸かすセンパイは普通の寝起きの顔だった。

 まあ、普通よりも一段と目つきが悪いのとテンションが落ちているのは、寝起きだからだと思う。


「で? わけを聞こうか」

 天気がいいですね。から、山菜取りに行きましょう。とぼくが言って、センパイが「怖いわ」っていうからぼくが「ダイジョウブです、食えるキノコだけ取ればいいのですから、安心ですよ」って大見え切って、「貧乏を舐めないでください。こういうのは慣れているので」といって、出かけて、その日の山でがけ崩れで遭難したという出来事をかいつまんで説明していくと、

「俺はフロイトじゃねぇ! 」

って、のと、「へえぇ、面白いな」が入って行った。

「で、交通手段は」

「えっと」

「センパイのバイクかな? 」

「俺、二人乗り持ってねぇぞ」

「車? 電車? バス? 」

「場所は? 」

「近所だった気がするけど、ほら、山道ってどこもよく似ていて」

「腐葉土も堆石も人が入る山によっては違う、まあ、いいわ。で、次」

 センパイはかっこいい。

 ぼくが不安な要因をすべてあげてくれる。

 ちぐはぐを許さない。

 でも鏡の話は面白いと言ってくれた。

「お前の夢で俺がそういうのするのね」と、笑う。

 だから、これの今している話すら夢ではないのかと、ぼくが突然泣き出したから、

「右と左で証拠を見せてやる」

 と、眉毛と口元を片方だけ歪ませてくれた。

「せんぱーい、そういうのって、普通、ウインクとかの方がいいんじゃないですかぁ」

 なんて、いったら、「お前は正常だ、脳に乱れはない、たちの悪い夢は忘れて、二度寝して来い。帰れ」って追い出されそうになった。


「日曜日の朝からうるさいぞ」

 と、奥の部屋から女の日との声が聞こえた。

「あ、この前のメギツネだ。なんでここにいるの」

 居酒屋で突然彼女つらして腕を組まれた女がいた。

「なによー、顔しかいけていない男が」



「俺のリンゴ。半分食ったの、鏡でごまかしたの誰だ! 」

 あれ、だれだっけ。

 昨日のこと忘れている。


 


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ