第21話 勇者の力
「俺を……殺すだと!?」
「そうだよ、ライアン」
「フザケンじゃねええええーー!!」
ライアンが強大な魔力で全身を強化し、巨人殺しの大剣を振り上げる。
魔力が迸った衝撃で、闘技場内に亀裂が生じ、破片が飛び散った。
怒り狂っている。
「殺す、殺す、殺す、殺す……無様に殺されるのはてめえの方だ! クソガキイイイーーー!!!」
僕は黒手袋で包み込んだ指先を上げて、クイクイと手招きして挑発する。
「お生憎様。殺されるのは、慣れてるよ」
ライアンがキレて、巨人殺しの大剣を振りかざして飛び込んでくる。
僕の小さな身体に、大剣を叩きつけて――。
先生が魔力を込めた《手刀》を払って、僕の首を切り裂く。
僕は死ぬ。
ここは、死に戻りの闘技場。
だから次の瞬間には、僕と先生は戦う前と同じように、互いに生きて闘技場のリングの真ん中で向かい合っていた。
元の位置に、戦う前の時間に戻ったんだ。
また死んだ。
これで、何回目? 僕は、何回先生に殺された?
全然、おぼえてない。
闘技場の観客席で、ルナがじっと見ている。
彼女の膝の上で、二匹のドラゴンが気持ちよさそうにお昼寝していた。
僕は、先生に殺されることにすっかり慣れてしまっている。
「もう一度!」
「いいぞ、何度でも来い!」
再び挑み、先生に《拳》を叩き込む。
次は、《手刀》を。
次は、《剣》を、《銃》を。
しかし先生がちょっと手を動かしただけで流され、防がれ、《剣》や《手刀》を返されて、また殺されてしまう。
「ダメだ、少年。全然ダメだ。まだ私の技術に頼り切っている」
また時が戻って、先生が容赦なく僕を叱咤する。
先生の言う「私の技術」というのは、先生が僕に授けてくれた自分自身の技だ。
アサシンの技巧。異世界最強の暗殺者が持つ暗殺術。
これをまるごともらえたおかげで、まだ子供で新米の僕は、超一流の暗殺術を使える。
《影》を、《眼》を、そして《手》を十分に使いこなすことができるのもそのためだ。
建物の土台のように、僕の暗殺者として振るう技の基盤になっている。
その恩恵のために、僕は先生の技に頼り切るようになってしまっていた。
そして元々この技は、先生のもの。
この技の熟練度は、当然、借りている僕より、持ち主である先生の方が上だ。
だから先生の技に頼り切っている僕では、先生との技比べに勝てず、こうして何度も殺される羽目に陥っている。
「もうわかっているだろう。君が私に勝つためには、二人目の勇者である君自身の力を引き出して、それを使いこなすしかない」
先生の言うとおり。
僕が勝っているのは、技ではなくて力。技術ではなく魔力だ。
先生に勝つためには、僕自身が持つ勇者の魔力を活かすしかない。
勇者の魔力で肉体を強化して、先生の力と技を打ち破るんだ。
「もっとだ。もっと魔力を解き放て。己の限界を超えて、使いこなしてみせろ!」
「……わかったよ!」
僕はもっともっと気合を入れて、内なる力を解き放つ。
すると僕の魔力が――今までの三倍以上に膨れ上がった。
先生の魔力の数倍だ。
身体中に力が溢れ、肉体がとてつもなく強化されていく。
僕は、たちまち確信した。
今の僕は、先生のより強くなったって!
肉体の力が、圧倒的に上回ったはずだ。
「行くよ、先生……。僕の勇者の力で圧倒してやる!」
「来い!」
僕は闘技場の床を蹴って飛び込み、先生に《剣》を振り下ろす。
――これで勝てると思ったんだけどね。
「はああああああああーー!!!」
怒り狂うライアンが、自慢の大剣に全ての魔力を込めて振り下ろす。
僕は、魔力を込めて作った《剣》で弾き返した。
「なっ!?」
僕に力負けして、ライアンが驚愕する。
「このー!!」
ライアンは屈せず、再度魔力を込めた大剣を叩き込む。
「この! この! この!」
何度も、何度も叩きつけて、その度、僕の《剣》に打ち返される。
僕の《剣》の威力は、ライアンの自慢の大剣による斬撃を上回っていた。
「おまえ……ガレオンは、その《剣》で!?」
「そうだよ。あんたのライバルをこの魔力の《剣》で斬り裂いてやった」
「だああああああーー!!」
僕は《剣》を消して、ライアンの渾身の一撃を左腕一本だけで受け止めた。
僕の左腕に、《防壁》を纏ったんだ。
シリウスと同じように受け止められて、ライアンは愕然となる。
「どうしたの、ライアン。それで全力?」
「う、う……うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
勢いで恐怖を打ち消し、ライアンが大剣を振り上げる。
その瞬間、僕は足元から魔力の《噴射》をかけて瞬間加速。
ライアンの懐に飛び込み、鎧の腹部に《拳》を打ち込んだ。
「……ぼっお!?」
鎧越しの腹部に鋭く刺さって、ライアンが悶絶しかける。
僕の《拳》なら、鎧を着ていても防ぎ切れない。
「ぐっ! がああああああああああああーー!!」
ライアンが耐え抜き、目の前にいる僕めがけて、大剣を振り回す。
僕は今度は《疾走》して、ライアンの大剣をよけ続けた。
全力全速の大剣がかすりもせず、ライアンの表情がたちまち曇る。
当たるわけない。
ライアンより速いんだから。
「なぜだ!? なぜだ!? なぜなんだあああー!?」
「忘れてない、ライアン。僕の魔力は莫大だってこと」
「!?」
今まで僕は内に宿す魔力自体は莫大でも、魔力を外に出せる量は低かった。
シリウスやライアンと違って、魔力出力が脆弱だったから。
けど先生との修行のおかげで、僕の一度に出せる魔力量は何倍にも跳ね上がる。
「その魔力を存分に引き出して、僕自身を強化すれば、パワーも、ガードも、スピードも、あんたより上になるのさ」
「バカな!?」
「そうだよ。魔力頼みだけど、僕はあんたより強くなれた。なにしろ僕は、二人目の勇者だからね!」
《手》を身につけるための修行は、僕の魔力出力を覚醒させるためでもあった。
ライアンより強くなった僕は、ライアンよりも速く動いて、
「がっ、ごっ、がああっ!?」
両手の《拳》で、鎧を着たライアンを滅多打ちにする。
最後に飛び上がり、ライアンの顔面に《脚》をお見舞いした。
「だっはああーー!!」
ライアンの巨体はぶっ飛ばされて、闘技場のリングの上にうつ伏せになって転がされる。
「どうだい、ライアン。僕は強いだろ?」
「……恐れ入ったぜ。さすがは二人目の勇者様だ」
ライアンが何とか四つん這いになって、身体を起こす。
「結局、お前も、俺たち凡人を踏みにじる勇者様だったってわけだ」
「……シリウスやお前と一緒にするな」
「バカ言うな、同じだぜ! こうして俺を踏みにじってるくせしてよ! お前とシリウスの何が違う!? 善人面してるんだから、余計にタチが悪いぜ!!」
「そうやって自分より力を持っている奴が善人面してくるから、四年前にヴィレンスキー公爵を裏切ったのか!?」
「……ああ、そうさ。顔も、身分も、才能も、女にも恵まれやがって、あの野郎。こっちがちょっと悪さしただけで、娘みたいにぎゃあぎゃあうるさく言いやがる。この手でブッ殺せて、最高に嬉しかったぜ!!」
「……そしてシリウスのようになりたかったから、やっと持てた地位と名誉とその力を使って、弱い人たちを踏み躙ってきたのか。お前も、ニコライも!?」
「そうだな……。俺もニコライも、あいつに憧れたのさ。偉大なる勇者シリウスに! 力が強くて、人気者、弱い者いじめは楽しいもんな! 今のお前ならわかってくれるよな、クソガキ!? なあ、二人目の勇者様!?」
「なんとなくわかるよ……。お前たちと一緒にして欲しくないけどね!」
「いいや。お前はシリウスとは違う! 勇者としての格が違うんだよ、格が!! このとおりなああああーーー!!!」
立ち上がったライアンの身体が、シリウスの黄金の魔力で覆われた。
「これが……偉大なる勇者様の御力だあああああーー!!」
勇者シリウスからもらった黄金の魔力だ。
ライアンの魔力が、爆発的に増大する。
「なるほどね。僕を殺すために、勇者の力を分けてもらったわけか」
戦士長の力に勇者の魔力が上乗せされた結果、ライアンの肉体の限界を遥かに超えて強化された。僕につけられた傷も、たちまちのうちに全回復する。
僕が今見せている魔力量を明らかに上回った。
「これでお前は、俺に勝てなくなったぜ!」
「そうだね。今のあんたは、僕より力が強い。だけど……」
「俺に勝てると、思ってんじゃねええええーーーー!!!!」
会話するだけ無駄か。
けど一つだけ。
「バカだな、ライアン。すごい力をもらったって、それを使いこなすことができなかったら意味ないんだぜ」
僕がそうだった。
勇者の魔力で圧倒しても、先生にまるで勝てなかったように。
「僕が教わった大事なことを……お前に教えてやるよ!」




