恋知らずの聖女は、淡い恋をした。
エルラ:「リア、覚えてる?」
リア:「ええ……」
話しているのは魔王と私、聖女です。
普通なら敵対関係でしょう。実際魔王の間に来るまで私もそうでした。
というか、さっきまでドンパチやってました。
ですが聖女とはいえ、扱いはかなり酷かったので愛国心など昔の昔に消失しています。
周りに倒れている人を回復する気が出ないのがその証拠。
しかし、人生とは数奇なものです。
少し昔話をさせてもらいましょう。
こんな【恋知らずの聖女】と呼ばれる私ですが一応は子供時代があります。
当時、一人だけ友達がいました。幼なじみ、とでも言うのでしょうね。とはいえ彼に毎日会っていた訳でもありません。
彼は忙しいのか、あまり多くは会えなかったのです。いつもふらっと現れては夕暮れまで遊び、どこかへ帰っていく。私は彼のことを幼なじみだと言っていましたが、その割に彼のことはほとんど分かりません。
彼の名は……そう、エルラ。
不思議な響きを持つ名前でした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
出会ったのはずいぶんと前。
雪が深くなって暖炉が欲しくなる頃、外へ遊びに行きました。裕福でない家庭を賄うために両親は働きに出かけていました。
家の暗さに怖くなり外へ来たまでは良かったのですが、なかなか友達の出来なかった私は一人で雪の降る森を彷徨うことになってしまったのです。
街に行けば、寒さはましでしょうが街は誰かと連れ添って歩く人ばかり。そんな中に入れば惨めになって、余計に寂しくなります。
歩き疲れて座り込みました。が、やがて雪の冷たさに耐えられなくなったのでその辺にある枯れ木に登りました。
木登りは得意です。
やっとよじ登った木の上の適当な枝に腰掛けました。
リア:「木の実くらいなっていれば良かったのに。お腹すいたし、寒いな……。家にも食べるものは残ってないし……」
遠くには淡いオレンジの光が見えます。
あれは暖かい炎の光。
その元では楽しいお祭りが開かれているのでしょう。今日は確か生誕祭だったはずです。いつか大人になって友達ができたらあの光の輪に混ざる。それが私の幼い時からの夢です。
ですが今、独り身である私はお呼びではないようです。私もいつか誰かと歩くことはできるのでしょうか。
なんだか眠い……。さっきまでは寒かったけど、眠さしか感じません。
少しくらいなら木の上で眠ってしまっても問題ないでしょう。
けれど、その甘さが問題だったのです。
バキバキッ。
何がめり込むような音がして目が覚めました。
なんでしょうか、それともこれは夢で、何も起きていないのでしょうか。
リア:
「きゃっ……」
突如、浮遊感があり下から風が吹き付けます。
思わず目を固く閉じましたが予想した衝撃はいつまでたっても感じません。
リア:「ああ、そっか。雪が積もってたんだった。どうりで痛くないはずだわ。にしてもあの木がおれるなんて。腐ってたのかしら?」
エルラ:「こんにちはお嬢さん。よろしければ降りてくれないかな?」
何故か雪から声がした。正確に言えば下から。
これは……もしかして、人?
リア:「っごめんなさい。気づかなかった」
すぐさま飛びのきました。私、結構重いと自負しています。そんなのに乗られたら苦しいはずです。
エルラ:「怪我はない?」
何故か自分の上に乗った私のことを心配してくれます。
どうやら男の子だったようです。私よりも五歳ほど年上に見えます。
リア:「ええ、大丈夫よ。それよりもあなたは?」
エルラ:「もちろん大丈夫だよ。僕はそんなにやわじゃないから」
と、笑顔でしたがその頬からは血が滲んでいました。それなのにさほど気にする様子もありません。
リア:「シースラ 傷を癒やして」
手をかざして唱えるとかすり傷はどんどん小さくなり、やがて初めからなかったかのように消え去りました。
これは別に特別な力でもありません。周りの子も普通に使えるものです。ただ、力の強さは格段に多いと言えます。
この世界には七の属性魔法と二種類の人間が存在します。
基本的に癒す魔法を使えたら他の六つは使えません。反対に六つを使いこなす人は大勢いますが、癒すことは出来ません。
人口はそれぞれ半分ずつと言ったところです。
そして、何故か自分は七属性全てが使えたのです。癒し以外の威力は弱い上、二つの属性を同時には使えませんが……。
魔力が多くてこうなったか、それとも別の原因があるのかは分かりません。結果的に異端者であることしか。
そのせいで避けられたりして寂しい思いをすることは多々ありましたが、こうして人の傷や怪我を治すことができたときは嬉しいです。
あと、相手に喜ばれるのも。
エルラ:「傷が……」
リア:「治ったわよ。かすり傷でも放って置いたら駄目。悪化するわよ。簡単な魔法だけど小さな傷には効くのよ」
エルラ:「凄いね。まだこの世に生まれて数年だろうに。僕らは、僕の損傷は魔法で治りにくいのに」
長年生きた、みたいに語ってきた。
それに、こんな魔法で驚かれても困ります。もしかして、癒の魔法を見るのは初めてだったのでしょうか?
リア:「私、もう十年は生きたわよ。それにあなたもそう変わらないでしょう?」
エルラ:「ああ、まあそうだね……」
曖昧に流されたような……。
エルラ:「君はどうして木の上で寝ていたの。そんなに眠かった?」
リア:「違うわよ、それなら家で眠れば済むもの。けど家は誰もいない。私はただ外に出たかっただけ。木の上に登ったのは、高いところなら街が見えると思ったから。お祭り、せめて見たかったから………」
行けなくでも、賑やかな街並みだけでも見えると期待したから。
そして見えた。だけど余計に虚しくなるだけと理解した。
エルラ:「寂しかったんだね」
リア:「……」
同情するような口調をされても嬉しくなんてない。あなたのような人には大勢の友達がいるのでしょうね。身なりもそこそこですもの。私は少なくとも、コートなんて着ていないから。
そんな人に私の何が、苦しさが分かると言うの?
そして突如、頭に何かが乗ってきました。
エルラ:「もう大丈夫だ。今は僕がいるから」
要するに撫でられた訳です。同じ子どもといえ、年上だからでしょうね。暖かい手が頭に触れている、それだけで落ち着くようです。
悲しくなんてないのに、苦しくもないのに、どういう訳か涙が溢れました。誤魔化すように発した リア:「寒いっ……」という言葉に彼は反応して、空間に手のひらを広げた。
エルラ:「風よ、枯れ木を刻め。熱き炎よ、流転し木々を燃やせ。我が名はエル、この名を持って忠誠を誓う」
ふと彼が唱えた呪文はこの国では聞いたことのないものでした。それは歌うようで滑らかなリズム。
リア:「綺麗……暖かい」
彼は魔法で焚き火を出してくれたのでした。
その光は街の光よりもずっとずっと美しく、私たちを包んでくれるようで、しばらくはその炎に見入っていたと思います。
リア:「エル、ありがとう」
この日初めて笑顔になれた瞬間です。
口から自然と出た言葉は感謝でした。
エルラ:「エルラ。エルは魔法名で真名ではない。本当の名はエルラだ」
そうでした。魔法使いは魔法に関わる際に、偽名を使う。それはいろいろ理由があるけど有力な説は相手に呪術をかけられないようにするためで、魔法を使わない私ですら知る有名なことなのに。
教えられても普段はエルと呼んだ方がいいでしょう。
だから大切を私も教えなくてはいけません。
リア:「私の名は───よ。お母さんとお父さんしか呼ばないけれど……」
私が当時どう名乗ったかは知りません。聖女になった時に名前を奪われ縛られて、聖女としての任を果たすよう命ぜられたました。だから、名前さえ分かれば自由になれるのかもしれないです。
知りようもありませんが………。
これが私達の出会いです。
それから私たちはたまに会って遊んだり、ふらふらと今まで入ることのなかった街に行ったりしました。本当にたまにでした。
エルラはいつも風のように現れるのです。物陰から出てきたり、木の上にいたり、草原で本を読んでいると顔を覗き込まれたり……。けれど私が探した時には見つかりませんでした。
別れる時もエルラが立ち去るのは毎回違う方角です。
不思議で仕方なかったのですが、彼は私の親友で唯一の友達であることには変わりません。出会いから半年経つ頃には疑問すら抱きませんでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それは九歳を迎えたばかりの冬。
あの日も、私はエルラに会いました。
顔や腕に切り傷を負った姿で、雪に寝そべっていたところを目撃したのです。
なんだか会う時に限って、二人ともがまともな格好をしていないような……。
エルラ:「久しぶり。元気だった?あまり会えなくてごめんね」
リア:「ええ、私はとても元気だわ。けど、あなた傷だらけじゃない!!なんで手当もちゃんとしないの。」
エルラ:「浅いし……問題ない」
リア:「あるわっ!!傷から変な病気入ったらどうするの?それに原因は?」
エルラ:「境界の戦争………」
思わず閉口してしまいました。
私たちの国は魔族の住む国と隣り合っています。なんとか落ち着いていた領土争いですが、数年前に再び戦火の火が燻り出したのです。
私は女で、しかも子供。今のところ戦争に参加することはありませんが、エルが駆り出されているのをみると私もそろそろでしょう。
戦争。戦い、争う場所にエルはいるのです。何も生まず、ただ失うばかりのそこに。
命の保証などなく……。
戦争を始めるのはいつだって頂点の王族で、実際血を流すのは私たち平民。
リア:「エル、まだ子供なのに」
エルラ:「僕は大人だよ」
即断で返されました。
たかが数年先に産まれただけのくせに。身長の差も、どんどん開いてしまうのです。
毎日、ミルクだってお椀に五杯は飲んでいるというのに。
頬をぷぅと膨らませているとつつかれました。
リア:「また子供扱いしてる。いつか私も大人になってエルより大きくなるわ」
エルラ:「はは、そうかい。頑張れ」
苦笑されました。
男より背の高い女の人は沢山います。います、よね?
リア:「もう、いいわっ。いいから傷貸して。どうせほっといたら手当すらしないのでしょうから治してあげる」
不貞腐れた私は少し高い場所にある傷を、頬につけられた傷をそっと痛めないように触れました。
リア:「傷を癒せ、シースラ」
淡く白い光に包まれ、次の瞬間にはもう綺麗に治療されていました。
一度唱えれば、継続してくれるのが便利なところ。額、腕、指……一通り治したら光も消えてしまいました。
この一年は私も勉強を頑張ったのです。
もともと癒の魔法は使えましたが、呪文を正しくしたり、改善していきより良く使えるようになったのです。魔力の消費量についても然り。
少しでも、エルに近づきたいから。
エルラ:「ありがとう。わざわざ魔力を使わせてごめん」
本日、二度目の謝罪ですね。
せっかく会えたのに謝られてばかりなんて、嫌です。それに……
リア:「私の魔力は無尽蔵よ。いくら使っても使い足りないんだから安心して。……だから、私の心配なんてしてないで自分の心配でもしてよ」
本当に。
こんなに怪我をしないで欲しいです。
でも、戦争は止められません。
だから、例え嫌がられても心配されてもエルに会うたび傷を探して癒しているのです。
エルラ:「さぁ、行こう!!」
リア:「行くって、どこに?話ならここでも」
エルラ:「今日は祭りがある。行ってみたかったのだろう?数年前、あの光を見てた」
はっとしました。確かにそんなようなことを言いましたね。
祭りの光をせめて見たかった、と。
よく、私ですら忘れていたのに覚えてくれていたのです。
エルラ:「今日は僕らが出会った記念の日でもある。だから、一緒に楽しもう」
リア:「うん!」
その柔らかな笑顔に、ある物語を思い出しました。
かわいそうなお姫様を王子様が迎えに来て、手を差し出すというありふれて、単純などこにでもある物語。
それとエルを重ねてしまったと言ったら、彼はどんな反応をするのでしょう。
私はお姫様同様、手を取りました。
そして走り出したのです。
光に溢れた夢の街に。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
祭りの後、夕日を見ていました。
川の土手に座って。
何も話せませんでした。言葉を発したら終わってしまいそうだったから。
エルはいつもふらっと現れて、会える間隔はまちまち。なんだか、今日別れたらその次会えるのはずっとずっと先になってしまう予感がするのです。
こんな嫌な予感に限って当たるのはどうしてなのでしょうね。当たるからこそ、自分から切り出して終わりが早まるのは嫌なのです。
しばらくの間何も話さず、隣り合って座っていました。
沈黙を砕いたのはエルの方でした。
エルラ:「手、出して」
内容の意味がよく分からなかったので、とりあえず両手を開いて目の前に広げて見せました。
リア:「あっ」
そのうち彼により近い手を、左手を取ったのです。一瞬、僅かに迷いがあったようですが人差し指に何かをつけられました。
リア:「こ、これは指輪なの?」
細い指にはめられていたのは紅の、夕日を取り込んでいっそう彩られた石。大好物の林檎の色にも似ています。残念ながら、その石の価値は貧しい暮らしをしている私には見当もつきませんでした。
純粋に綺麗だ、と。
エルラ:「ああ。だが、屋台ではなくちゃんとした店で買ったものだ。その……プレゼントに、気に入ってくれるといいのだけど」
それで、なんとも高そうな物と察することができました。
なにせアクセサリーなんて生まれてこのかた初めてなものですから。
リア:「うん、とっても気に入ったわ。素敵……。なんだかお母さんたちがしているものみたいだわ」
少し恥ずかしいです。
でも、勘違いなんてしていませんよ。これはただの贈り物。恋人や婚約者のつける指輪は左手の薬指と決まっているのですから。
エルラ:
「この指輪が、───の前に進む力となりますように」
真名を告げ、そう願いを込められました。
なるほど、願い事を叶えるための指でしたね。人差し指は。
離れていく彼の手、その手にアクアブルーの石がついた指輪がしてありました。
私の目の色と同じ……なんて自意識過剰ですよね。
エルラ:「すまない。これからは暫く、会えそうにない。遠くへ行かないと行けないから。ここに来られない。僕はもう、大人になった。……なってしまった。だから、義務としてやらなくてはいけないことが沢山あるんだ」
リア:「どういうことなの?」
突然語られる言葉を受け入れられず、聞き返してしまいました。
リア:「もう、もう……会えないってこと?」
タチの悪い嘘だ。そう叫んだのは心の中だけです。彼は嘘を私につきませんから。
エルラ:「すまない……」
きっと、きっとまた数日すればふらりと現れるのです。いつものように木登りしたり、話したり、魔法で遊んだり……。
そして、2人で大人になっていくのだと。
確定された未来だと疑わなかったのは、未熟さゆえでしょう。
エルラ:「だが、二度と会えないのではない」
リア:「ふぇ?」
エルラ:「またいつか会える。少し、離れた未来だけど」
リア:「絶対に?」
エルラ:「絶対、だ」
リア:「絶対の絶対?」
エルラ:「絶対の絶対に、必ず」
語尾を強めて言うので、思わず微笑みました。
会えない理由は、多分戦争です。
前線が動きでもしたのです。
そうなればひょいひょいと会えなくなっても当然です。
もし、命をそこで落としたらこの約束は果たされないでしょう。
この気持ちも、永遠に伝わらないまま?
それは……。
だって、私はあなたを………。
寸前で言葉にはしませんでした。会えなくなるのです。
想いを伝えても、お互いに苦しくなるだけなのですから、私の胸のみに留めておけば済む話です。
エルラ:「好きだよ。リア」
なのに、ズルいです。先に告げるなんて。
リア:「私」
私も大好きだ、と紡ごうとしたのにエルは口の前に指を添えて言ったのです。
エルラ:「今はダメ。返事は、次に会った時に」
本当にズルいです!!
自分ばかり気持ちを伝えて私にはさせてくれないだなんて!!
エルラ:「君は、僕をよくは知らないだろう?」
リア:「っ……、知ってるわよ!優しくて、魔法が上手くて、傷ばっか作って、そのくせ手当は全くしないで、よく食べ物くれて、話が楽しくて、それからっ、それからっ……」
エルラ:「次に会う時は、本当の意味で僕を知ることになると思う。僕は君から見たら、醜く怪物のように映るかもしれないね。好きだけど、こんな僕を好いて欲しいだなんて願わない。後になって後悔なんて、して欲しくないんだよ」
その声はひどく憂いを帯びていて。
聞いているだけで胸が締め付けられます。
“好いて欲しいだなんて願わない”
語った彼は何を考えているのでしょう。いつもなら読める彼の感情は一つも分かりません。
どう見たって、怪物になんて見えません。
黄昏、逢魔が時。
もうすぐ夕日が沈んでしまいます。
あなたは誰か?そんなの関係ないです。
あなたは私にいつもいつも優しい人。それが私の知るあなたです。
なのにどうして不安な顔をするのでしょうか。
分かりません。
ただ、エルにはこの未来が分かっていたのかもしれません。かつてあの人は言ったのです。
エルラ:「いつかきっと会えなくなる。とても嫌だけど……そうなったとき、再会できたとき、僕を嫌わずにいてくれたら嬉しい」
好きになってくれたらでも、好いてくれ、でもなく嫌わずにいてくれたら。
それはこちらを向かずに言ったもので、何も無く、広大な空に呟いているようでもありました。
憂いを帯びたその言葉は、今もなお心に残っています。
その後、エルラ:「無理だろうな……」と放たれた声は、あまりに小さすぎて聞き取ることが出来ませんでした。
聞いていたら聞いていたで、子供らしく反発したのでしょうね。
そして少し大人になれた今の自分。
けれど、まだまだ幼すぎて世界は変えられません。
大きくなったら、戦争を止めてやります。
そうすればエル、あなたに早く会えるでしょう?
リア:「エルぅ〜」
子供っぽいと思いますが仕方ありません。
これから唯一の友達と、親友と遊べなくなるのですから。
精一杯の力で腕にしがみつきました。
リア:「ふわぁ〜ん。さびしい、さびしいよぅ〜。エルとずっと一緒がいい。なんで戦争は終わんないのよ〜」
エルラ:「よしよし。ごめんね、リアを一人にしてしまう。僕だってここに居たかった。だけど……」
ごめん、と。
戦争が憎い。この国が憎い。
一番憎いのは私自身です。寂しいと縋りながら、何も出来ないちっぽけな私自身が。
去っていく彼の背。
それは十分すぎるほどに大人のもので、知らない彼を見た感覚でした。
追いかけることもできず、声をかけることすらできない。
そして、再び彼に会うことができないまま、選定の儀式で私は聖女に選ばれてしまいました。
そこから私は平民の身で王宮に置かせてもらうのですが、王子を初め侍女などにいじめられてました。
当たり前です。
私は場違いな人間ですから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リアの「エルよね?」
エルラ「ああ」
懐かしい顔には不安が浮かんでいます。
変わったことは目が赤くなったことくらい。昔は普通の焦茶だったはずです。
リア:「あの時の返事だけど、私はあなたのことが好きよ。魔王だったのには驚いたけど、そのくらいで嫌いになる訳ないじゃない」
微笑んでみせると彼は私に笑い返す……ことなく泣いていました。
何が彼を悲しませたのでしょう。
エルラ:「いいのか?俺、いや僕は魔王だ。最近、代替わりしたといえ、人が忌み嫌う魔王だ」
リアは 「そんなの人間が決めたことよ。それにね、私この数年間王宮で暮らして、人間が大嫌いになってしまったの」
為政者を沢山見て、自分勝手な人が多いのを学びました。だから分かります。彼に邪な気持ちなどないと。
にしても、そっか最近魔王になったのですね。
だから目の色が変わったのでしょうか。
リア:「知ってる?指輪を贈るのは人の間では求婚の意味があるの。このまま勘違いしてここにいていい?あなたの傷を癒やして生きていきたいの」
返答を待っていたのに返ってきたのは言葉ではありませんでした。いつの間にか抱きしめられていたのです。
エルラ:「勘違いではない。だから僕を嫌わないなら側にいてくれ。リア……セフィリア」
あの国の縛りが解けるのを感じました。
セフィリア、私の名前。ようやく取り戻せた。
唯一の両親の形見を。
唯一私がもらったものを。
リア:「うん、エルラ。一生側にいるわ!!」
セフィリアは魔族史に残るたった一人の聖女となりました。
何しろ魔族を癒す魔法はセフィリア以外使えないそう。だからこそ、かつてエルは驚いていたのですね。
そうして【恋知らずの聖女】から【癒やしの聖女】となり、その後魔族の国は永遠に栄えました。