第四文
「まずは、自分の名前をかける様にしましょう。困っている人は…。」
そうこうしていると麗霞は8歳になった。
小学という教育機関に通い始めるお年頃である。
4歳の時から、可もなく不可もない4年間を過ごし…。時間の流れってつくづく早いと思う。
読み書きを習うのが最優先で、勉強を進めようと思った。
その一歩が自分の名前を書けるようにする事である。
私のフルネームは、『黎・麗霞』だった。
麗霞もつい最近、知ったのだ。
老師に教えて貰いつつ、木簡にひたすら綴っていく。
・・・うーん、『黎』って字が難しい。
それと、紙はまだ庶民には広がってないようだ。
そういえば、前世で和紙作り体験をしたなぁ。
材料があったら、今世でやってみてもいいかもしれない。
案外、ぼろ儲けできるかもしれないし。
下世話な事を考えつつ、書いた木簡は意外に綺麗な文字だった。
まぁ、前世の経験があるからかもしれないが。
側にあった水瓶で筆の墨を綺麗に落とすと、持ち物を風呂敷に包んだ。
帰り支度である。
実は割とルールが緩くて、課題が終わったら好きに帰っていい制度だそう。
本当、日本の学校は見習えばいいと思うね。
あのやたら並ばされたり、集まって何かしたり。
私はあまり集団行動が好きではないのだ。
ぶつぶつと言いながら歩いていると、屋敷の門が見えてくる。
表の大通りに面した方に店の建物があり、裏手に住居である屋敷がある。
門は厳つく、繊細な模様が施されており、中には風流な庭が。
そして、その広大な敷地の中に趣味のいい屋敷が鎮座していて。
差し詰め、高級住宅街にありそうな感じだ。
麗霞は門をくぐると庭を進み、玄関の扉に手を掛けた。
「ただいま。」
土間で草履を脱ぎ、上り框へと上がる。
部屋に戻る前に帰った事を一言言っておこうと、居間へ向かった。
「ただいま戻りました。父様、母様。」
あれから、二人の事を父、母と呼ぶことにしている。
しばらく二人と一緒に暮らしていたせいか、大分相手の性格がわかってきた。
美雨さんは可愛らしい人だったし、最初は怖いと思った睿泽もよく見ると男前美形ののいいやつだったし。
まぁ、いくらなんでも妻帯者な上にタイプじゃないから、恋愛感情は抱かないけども。
その後食堂に連れて行かれると、我が家の料理人たちが腕を振るった料理がズラーっと並んだ食卓に着く。
どれも美味しかったが、量が少し多かったか。
翌日、胃もたれで苦しむ事をこの時の私はまだ知らなかった。