第二文
鞠があのまま過ごして数日経った頃。
アンテナを張り巡らせ、必死に情報を集めた努力の成果を手に入れた。
やはり、ここは中華風異世界だったらしい。
判断材料は話している言葉と格好と街の雰囲気で、決め手は文字だった。
暇だったので外をぼんやりと眺めていたら、とあるお店の看板が目に入った。
そこに書かれていた文字は明らかに中国語っぽい何かであり。
現状をようやく本当に理解したのである。
何故、中華なのが気になるが。
私が天へと旅立つ前にやっていたのは、ザ・異世界って感じの人気RPGだったのに。
こういうのって普通、直前とかにやっていたゲームの世界に転生するもんじゃないのか?
まぁ、結構中華もの好きだったけど!華流ドラマをニヤニヤしながら観てたけど!
────コホン。
それともう一つ衝撃的なニュースがあった。
あの美人──美雨さんと厳つい男──睿泽がなんと、ななななんと、夫婦だったのです!
えええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!
いや、もう、本当にびっくり。
それに大商店の店主だったなんて。
この国のシェアの半分を占めてるって!
部屋を見た時に「あ、きっと裕福な家だな〜」くらいには思っていたけれど。
やっぱ、今世の私ツイてるわ!
だが、やはり人生。都合よくはいかないのであった。
この情報を得るために私が差し出した代償は何かというと。
精神年齢がとっくに成人を超えてるのに赤子として世話をされることである。
なんかよくわからない動物の乳を飲まされるし。(なお、激マズ)
着替えを勝手にされるし。
オムツとお風呂でさえ拷問なのにまだ上乗せする気か!
なんかここ数日で、人間として逞しくなった気がする。
特にやる事も無いまま、ひたすらゴロゴロしていると。
緑っぽい髪をお団子で纏めた女性が来た。
鞠を白い布で包むと籠に入れる。
どうやらどこかへ連れて行かれるようだ。
出来れば、孤児院とか殺処分場とかじゃ無い方向でお願いします。
切実にそう願っておこう。
◆☯◆
連れて行かれたのは、とある部屋であった。
使用人一同も控えており、その場には重々しい雰囲気が漂っている。
鞠がさっきのとは別の寝台に乗せられると睿泽が口を開いた。
「赤子の名を決めようと思う。意見があるやつは言え。」
その言葉を聞き、私は盛大に寝台から転がり落ちた。
それは私の中の睿泽のイメージが崩れ落ちていくのと同時にである。
そして、好感度が0から1になった。
てれててっててー!
私の頭に有名RPGのレベルアップ音楽が流れた。