第一文
───────────おかしい。死んだはずなのに。
私は定期的にくる振動と流れる水の音で目を覚ました。
「え゛」
そして五秒後に出た声がこれである。
まぁ、無理もないか。
目の前が滝で、その滝に続く川でどんぶらこしているのだから。
二度目の人生、開始五秒で死ぬのか──────。
そう思った時、救世主が現れた。
ひょい。
軽々と私を持ち上げたのは、厳ついおじさんだった。
その視線は鋭く、熊を目で殺せそうだ。
だが、私の意識は違う方に向いていた。
・・・この人、漢服着ている!
華流ドラマとか見るやつだよね。え、なんで?幻?
即座に?で頭がいっぱいになった。
その瞬間、気にもしていなかった違和感が次々と浮かぶ。
今の人、軽々と私を持ち上げたよね?
というか、川にいたの?スルーしてたけどなんで?
頭がパニックになり、とうとう目を回すと。
私は知恵熱を出した。
◆☯◆
「…それで拾ってきたの?大体どうするのよ、訳ありかもしれないのに。」
少し熱が引くと、意識が戻ってきた。
すぐそばで話し声が聞こえ、寝返りを打ち、そちらを一瞥する。
少し小柄な女性とさっきの厳つい男が話していた。
女性の方は赤子の輪端でも美人だと分かるような容貌をしており、あの男の横に並んでいるのは不自然である。
男は女性の言葉を聞くと渋い顔をして、答えた。
「だがなぁ…。流石に滝に落ちそうになっている赤子を見殺しには出来ねぇよ。じゃあ、お前は見捨てるのか?」
「そ、それは…。」
男が正論を唱えたため、女は言い返せないようだ。
そして、今私はそれどころじゃなかった。
赤子、赤子、赤子…。
男が言った言葉が頭で反芻する。
「あうー!」
もう、意味が分からなくなった私は叫んだ。勿論、赤子特有の舌足らずな感じで。
すぐさま、二人はこちらに飛んでくると私をガン見した。
怖い…怖いよ。主に右のおじさんが。
そして考えるのが面倒になった私は、ある一つの手段をとった。
ここまで来たら、ラノベ的転生でいいんじゃないかと。
鞠は割とラノベが好きなのだ。
最初は繭葉となずなに勧められたものを読んでいたけれど。
読んでいくうちにどハマりしていった。まるで底なし沼に落ちたかのように…。
落ち着いた後、周りを見回すと。
高そうな調度品の置かれた中華風の部屋の小さな寝台に私は転がっていた。