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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
アルクニー公国編
7/137

Tournament7 Cannibal flower hunting(人食い花を狩ろう!)

アルクニー公からのクエストを請け負ったジンたち『騎士団』一行。

先を急ぐラムの強硬な意見で、渋々『転移魔法』を使ったが……。

 僕たち『騎士団』が生まれ育ったドッカーノ村を出て10日、僕たちはやっと旅の目的地であるデ・カイマーチに到着した。


 デ・カイマーチはアルクニー公国の首府である。僕たちは国主ハッシュ・ポトフ公の招待を受け、ここまではるばる足を延ばしたのだった。


「お疲れでございましょう。まずは宿舎でゆっくりと旅の疲れを癒してください」


 僕たちを迎えてくれた身なりのいい執事が、優しい顔をほころばせてそう言ってくれる。僕たちはそれだけで舞い上がりそうになるほど感激した。


 いや、だって考えてほしい。僕たちは田舎の村で暮らしていた17・8歳の若者で、騎士団を立ち上げて村のために活動していたのだ。それが首府に招かれたのだから有頂天になるのも仕方ないだろう。


 華々しい功績とは無縁の僕たちだったが、『賢者会議』の皆さんからのクエストをクリアしたころから僕たちに運が向いてきた。今回、国主様から招待を受けたのも、デ・カイマーチの銀行を襲った盗賊団を捕まえた功績によるものなのだ。


 僕たちは宿舎に案内される途中、物珍し気にあちらこちらをキョロキョロしながら観察した。さすが一国の首府だ。田舎にあるものとは何から何までスケールも豪勢さもけた違いだった。


「団長、シェリー、あんまりキョロキョロしないでください。みっともないですから」


 こういうことには慣れているラムさんが、僕たちのお上りさんみたいな振る舞いに顔を赤くして注意してくる。


 ラムさん……ラム・レーズンは額に1本の角を持つユニコーン族の戦士で、父親は戦士長をしているとのことだ。その家柄に相応しく、彼女は長剣を軽々と操り、トオクニアール王国の武闘大会では3年連続で優勝しているという逸材だ。


 眼に見えないほど素早い攻撃を繰り出すことから『ステルス・ウォーリアー』の異名を持つ彼女は、先だってベロベロウッドの森ではスライムの群れを相手に、その名に恥じない戦いぶりを見せてくれた。


「あ、ゴメン。見るものすべてが物珍しいから、ついキョロキョロしてしまうよ」


 僕がそう言って謝ると、ワインが葡萄酒色の前髪を形のいい指でいじりながら


「ジン、キミはこの『騎士団』の団長だ。観察は大事だが、公との接見の後にしたまえ」


 そう笑って言ってくる。


 エルフであるワイン・レッドは僕の幼馴染で、いいとこの坊ちゃんだ。彼にとってはこのくらい物珍しくもないだろうが、僕やもう一人の幼馴染、シルフのシェリー・シュガーにとっては何もかもが初めての経験だった。


「いいじゃない、ちょっとくらい。そりゃあアンタやラムさんにとっては大したことはないかもしれないけれど、アタシやジンにとってはこんな経験、めったにできないのよ?」


 シェリーがワインに頬をふくらませて抗議する。けれどワインが何か言うより先に、僕たちを案内してくれたメイドさんが優しい声で言った。


「こちらがお部屋です。入って左右に二部屋ずつ寝室がございます。寝室の鍵はこれになります。ごゆっくりしてください」

「どうも、ご丁寧にありがとう」


 ワインはメイドさんから鍵を受け取ると、優雅に笑ってメイドさんの手を両手で包み込むようにして何かを握らせた。


「御心づけはご無用ですが……」


 メイドさんはワインの美貌にどぎまぎしながら言うが、ワインはさっと髪をかき上げると、バックにたくさんのバラの花を咲かせながら流し目で彼女を見て笑って言う。


「アルクニー公のおもてなしやキミの美しさと比べたら些細なものにすぎない。遠慮せずに受け取ってくれたまえ(キラリン☆」


 さわやかな笑顔で白い歯を光らせるワインであった。


 メイドさんはワインの笑顔に顔を赤くしながら、


「せ、接見の時間になったらお知らせに参ります」


 そうやっとのことで言うと、そそくさと僕たちから離れていった。


「……どんな所でも美人と見ると口説くアンタの神経には感心するわ」


 シェリーが腕を組んでジト目で言うと、ラムさんも同じくジト目で


「まったく、君には煩悩が多すぎる。ちょっとは団長を見習いたまえ。第一ここは宿屋じゃない。チップの類は無用だ」


 そう呆れたように言う。


 けれどワインは上機嫌で、僕たちに部屋の鍵を渡しながら言った。


「いいじゃないか。優しくされて怒る人間はいないだろう? 女性には優しく、それがボクの座右の銘だよ」

「アンタの優しさには下心が見え見えなのよ」


 シェリーは鍵を受け取りながら言うと、僕を見て


「ジン、『朱に交われば赤くなる』って言うけど、ワインのこんな所には感化されないでね?」


 そう笑って言った。



「質素だが上品で落ち着いていて素晴らしい部屋だな。調度品もヒーロイ大陸のあちこちから取り寄せた一級品ばかりだ」


 部屋に入ると、ワインが辺りをサッと見回して言う。

 僕たちにあてがわれた部屋は、中央に広いダイニングがあり、左右に二部屋ずつ寝室を持つかなり豪勢なものだった。


 中央の共有スペースともいえるダイニングは幅10ヤード、奥行きも12ヤードあり、寝室も幅6ヤード、奥行き5ヤードはあった。


 ダイニングの真ん中には重厚なテーブルが置かれ、その周りにふかふかのソファがテーブルを取り囲むように配置されている。


 寝室にはこれもふわふわのダブルベッドや机があり、なんと個々の部屋にトイレやお風呂まで作りつけてあった。


「こんなに歓迎されると、これは夢じゃないかって思ってしまうな」


 僕が言うと、ワインはクスリと笑って、


「アルクニー公は非常に妹思いだと聞く。あの盗賊団が金塊を盗み出したのは妹さんの銀行だよ。だからこんなに手厚いんだろうね」


 そう言う。


「ワイン、君はおちゃらけてはいるが、そう言うところには詳しいな」


 ラムさんが感心したように言うと、ワインはニコリとして、


「まあ、父上の仕事が仕事なんでね? その後継ぎとしては各国の動向や商売上の情報に気を配るのは当たり前のことさ」


 そう答えた。


「まったく、いつもこんなだったら良いのに。アンタは女と見るとすぐに声をかけるから好感度ダダ下がりなのよね」


 シェリーが笑って言う。


 僕とワインが苦笑して顔を見合わせた時、ダイニングのドアが叩かれてメイドさんの声がした。


「ドッカーノ村騎士団の皆様、お迎えに上がりました」



 僕たちは、広い廊下を通ってアルクニー公ハッシュ・ポトフとの接見の場に向かった。接見の間では左右に臣下が居並び、ずっと奥の一段高くなったところにハッシュ・ポトフ様が椅子に座って僕らを見ていた。


「お進みください、こちらへ」


 入口に立っている若い家臣が、優雅な身振りで僕らを先導する。さすがに僕は胸がドキドキしていたが、何とかギクシャクしないで済んだ。


 先導の家臣は、臣下の列まで僕たちを案内すると右側に移動し、僕たちに


「そのままお進みください。床に印がある所で一列横隊になり、ひざまずいて公のお言葉をお待ちくださいませ」


 そう言ってニコリと笑った。


 僕は公を見たままうなずくと、小声で


「みんな、行くぞ」


 そうつぶやいて歩き出す。左右の家臣たちの視線が痛いほど集まってくるが、僕は微笑を浮かべたまま歩を進め、床に赤い印がある所で立ち止まった。慌ててラムさんが僕の右側に並び、左側にはシェリー、ワインの順で一列横隊になる。


 僕たちがサッと座って膝をつき、顔を伏せると、頭上から若々しく、感心したような声が降って来た。


「うむ、いい若者たちだ。余がアルクニー公ハッシュ・ポトフだ。先般は盗賊団を捕まえてもらい感謝しておるぞ」


 アルクニー公の声は高くも低くもなく、聞いているだけで心が落ち着いてくるような声だった。膝をついた時、僕の頭の中はかなり過熱していたが、公の声を聞いて不思議と冷静さを取り戻すことができた。


「遠慮せずに顔を上げよ。ポトフ銀行総裁からもお礼が言いたいそうだ。そなたたちのような若者がいることを知って、余も総裁も感激しておるぞ」


 僕たちは失礼にならぬ程度に顔を上げた。アルクニー公の左側から、青い清楚な服に身を包んだ女性が出てきて、僕たちの前で立ち止まる。ポトフ銀行総裁でアルクニー公の妹さんであるミート・ポトフ様に違いなかった。


「ドッカーノ村騎士団の皆さん、その節はとてもお世話になりました。盗賊たちを捕まえていただけなければ我が銀行は多大な損害を被り、取引があるお客様たちにも大きな迷惑をおかけすることになったでしょう。今回はささやかなお礼として宴席を設けています。どうかゆっくりとお楽しみください」


 僕たちはそろって頭を下げる。公と総裁が退場する気配がした。


 やがてさっきの若い臣下が、僕たちに優しい声で告げた。


「お疲れさまでした。お部屋に戻っておくつろぎください。宴席の準備ができましたらお迎えに上がります」



 宴席は、僕が今まで見たこともないほどの豪華さだった。まばゆいシャンデリアやテーブル一杯に並べられた見たこともない料理や飲み物やお菓子……。


 けれど、僕が意表を突かれたのは、


「ふふ、ジンくんお久しぶり。デ・カイマーチはどうかしら? あら、ちょっと見ないうちにたくましくなったわね。旅は戦士を育てるって本当のことね」


 宴席には賢者スナイプ様がいて、僕を見るなりそう言いながら近くに寄って来たことだった。


「賢者スナイプ様。どうしてここに?」


 僕がびっくりした顔で訊くと、スナイプ様はくくっと喉の奥で笑い、


「どうしてって、私の大事なジンくんの晴れ姿ですもの。アルクニー公にお願いして同席させていただいたのよ。謁見の時は堂々としていたわね、惚れ直したわぁ」


 そう言って、グラスの葡萄酒をくいっとあおった。


「賢者スナイプ様、ドッカーノ村騎士団の諸君、こちらに席を準備しておる。こちらに来たまえ」


 そこに、アルクニー公が直々に呼びかけて来た。


 賢者スナイプ様はニコリと笑って僕の腕を取り、


「さ、ジンくん。一緒に行くわよ」


 そう、僕をアルクニー公とミート総裁が腰かけている席へと連れて行った。



「……賢者スナイプ様は何を考えられているのかな?」


 ジンとスナイプのやり取りを見ていたワインがそうつぶやくのを、耳ざとく聞いたシェリーが、


「ワイン、賢者スナイプ様と知り合いなの?」


 そう訊くが、ワインはニコリと笑って言う。


「いや、四方賢者様ほどの立場のお方は、普通は個々人の動向にはできるだけ無関心でなければならないはずだ。その意味からするとスナイプ様は異常なほどジンにご執心だなって思ってね」


「……それはやはり、ジン様のお父上が『マイティ・クロウ』だからだろうな。だが『マイティ・クロウ』は……」


 ラムも緋色の瞳を持つ眼をいぶかしげに細めてつぶやく。


「? 『マイティ・クロウ』がどうしたの?」


 シェリーが訊くと、ラムはハッとした顔をした後、


「いや、何でもない。私たちもご相伴にあずかろう」


 そう首を振って言った。



 宴席は僕にとっては夢のようだった。見たこともない食べ物やお菓子はとても美味で、思わずがっつきそうになる。


(いけない、僕は騎士団の団長だ。粗相のないように気をつけておかないと)


 そう思ってワインたちを見ると、ワインとラムさんはさすがに慣れたもので、アルクニー公の家臣を相手に談笑しながらも上品に料理を楽しんでいる。


 けれど、僕の隣に座っているシェリーは、顔を赤くしたまま、目の前の料理をじっと見つめているのだった。


「どうしたシェリー、具合でも悪いのかい?」


 僕が小声で訊くと、シェリーは恥ずかしそうにもじもじしていたが、


「アタシ、テーブルマナーって知らないの。変なことしたらイナカモノって思われて恥をかいちゃう」


 そう、ポツリと言った。


 僕は、シェリーが恥ずかしそうに食事を我慢しているのを見て、彼女が可哀そうになった。こんなに美味しい料理だ、その味を堪能することも大きな経験になるはずだ。


「賢者スナイプ様、僕はテーブルマナーに疎いのですが、この料理ってスプーンで食べてもいいですよね?」


 僕は、右隣に座っているスナイプ様にそう声をかける。スナイプ様は不思議そうな顔をして、


「あら、ジンくんのテーブルマナーは作法通りだから心配要らないと思うけれど?」


 そう言いかけながらも、僕の左で縮こまっているシェリーの姿を見て、一つうなずいて言ってくださった。


「いいんじゃない? 大事なことは料理を楽しむことですもの。美味しい料理をテーブルマナーに縛られて堪能できないことの方が、料理を作ってくれた人たちに対して失礼だと思うわ」


 そしてスナイプ様は、自らスプーンを取って料理を口に運び、


「うん、気兼ねない形で食べるのも新鮮でいいわぁ。シェリーちゃん、せっかくだから食べなさいよ」


 そう、シェリーに促した。


「シェリー、食べよう」


 僕もスプーンに持ち替えると、目の前の肉の塊を口に運ぶ。


 それを見て、シェリーもやっと顔から緊張の色を解いて、料理を心行くまで楽しんだのだった。



 やがて食べることがひと段落すると、アルクニー公が僕たちに話しかけて来た。


「ドッカーノ村騎士団の諸君に、一つお願いがある」


 僕とワインは、アルクニー公の方を向いて座り直し、


「お願いとはどのようなことでしょうか?」


 そう訊くと、アルクニー公はチラリと賢者スナイプ様の顔色を窺うように見る。スナイプ様は微笑んだままうなずいた。


 アルクニー公はスナイプ様のうなずきを確認すると、僕たちに驚くべきことを提案してきた。


「実は、この国の東端にウミベーノという村があるが、そこの民がリヴァイアサンに苦しめられているという情報が入ったのだ」


 僕もワインも、驚いて顔を見合わせる。リヴァイアサンと言えば海の怪物で、大きさは何十メートルもある獰猛な魔物だ……ということを聞いている。実戦経験が浅い僕たちの手に負える相手ではない。


 僕たちの顔色を見たのだろう、アルクニー公は顔をやわらげて


「君たちにその怪物退治を依頼したいわけではない。余の手元にはいろいろな情報が届いているが、何が正しいのかがよく分からぬのだ。軍を派遣する前に、君たちにウミベーノ村に行ってもらって、正確な情報を集めてきてほしいのだ」


 要するに偵察して来いってことだ。それくらいなら僕たちだってできるだろう。僕はそう思い、ワインを見る。ワインは少し何かを考えていたが、僕の視線に気づくと片方の眉を上げて言った。


「他ならぬ国主様の依頼だ。受けた方がいいだろう」


   ★ ★ ★ ★ ★


 ユグドラシル山は、ヒーロイ大陸のほぼ中央に位置する、大陸最高峰である。


 その高さは海抜1万メートルを超え、5合目から上は万年雪をいただいている。6合目ともなると、普通の人間では呼吸に困難を覚えるほどになる。


 人が定住することを拒んでいるようなその場所に、その建物はあった。空気の薄いこの場所に、どれだけの労力をかければこれほどの建築物が造れるのだろう……そう思えるほど、その建物は荘厳で、そして巨大だった。


 その頑丈な基礎は一辺が100ヤードほどの正方形であり、四つの頂点に当たる部分には高さ100フィートを超える尖塔がある。


 そして中央の建物も、50フィートの高さはあった。各層の天井は高く、内部は5階建てである。


 その建物の中で、一人の少女が椅子に座り、目の前に立つ男と何やら話をしていた。


 少女はどう見ても13・4歳。身長は150センチ足らずで、白い肌に漆黒の髪と黒曜石のような瞳を持つくりくりとした目が印象的である。


 彼女は白い上着に革の半ズボン、素足に革の長靴といういでたちで、傍らには自分の背よりも大きい両手剣が立てかけられていた。


 一方、少女の前に立つ男性は180センチを超える長身を黒いマントで包んでいた。豊かな金髪の下には底知れぬ智謀を秘めた碧眼が見える。


「それで、彼がいなくなったことは『賢者会議』の面々にはバレていないんだね?」


 少女が訊くと、男は静かな声で答える。


「ナイカトルの監房に彼の分身を残しています。彼自身の魔力をもとに編み上げた分身ですので、よほどの魔法の達者でないと見破れぬでしょう」


 その答えを、少女は注意深く聞いていたが、やがて男を見つめて言った。


「ウェルム、キミは大賢人に化けて彼のもとを訪れたと言ったね? そのことが大賢人に報告されてはいないだろうか?」


 男は薄く笑って答える。


「大丈夫です。私が立ち去る前に、看守たちには忘却の魔法をかけています。大賢人が訪れたことはきれいさっぱり忘れていることでしょう」


 それを聞いて、少女は歳に似合わぬほど艶めかしい笑みを浮かべて言った。


「ふふ、それはうまくやったねェ。ボクの計画では彼の魔力が元通りに回復するまでは、『賢者会議』に動いてもらっては困るんだが、キミの話ではうまくいきそうだね」


 そして、おもむろに立ち上がると、傍らの大剣を背負って男に言った。


「じゃ、ボクは帰るよ。彼のことはウェルム、キミに任せたよ?」


 ウェルムは頭を下げながら、微笑と共に答えた。


「お任せください。ウェンディ様のご期待には背きませぬ故」



(人間、何事も慣れだな……)


 ウェンディと言う少女がウェルムと話をしている頃、同じ建物の中庭には中年の男が目を閉じて地面に座っていた。


 黄昏の気配が忍び寄る中、彼の目の前には夕日を浴びて金色に輝く剣が地面に突き立っている。


 男は、随分と長い間そこに座っているらしい。胡坐をかいた膝と剣の柄を握る手の間に、蜘蛛が立派な巣をかけているのがその証拠だった。


「やあ、調子はどうだい? マイティ・クロウ」


 男は、背後からかけられた声に反応して目を開けた。翠色の瞳が意志の強さを表すように光る切れ長の目だった。


 声をかけて来たのはウェンディだった。彼女は男の身体から魔力が沸き立つのを見て、満足そうに言った。


「ふ~ん、体力も魔力も順調に回復してきているみたいだね?」


 すると男は静かに訊いてきた。


「……俺の魔力が回復すれば、『賢者会議』は俺の居場所を特定するだろう。その時はどうすればいい?」

「どうするって?」


 ウェンディが訊き返すと、男は静かな声のまま


「逃げればいいのか、戦えばいいのかということだ。俺は恩人であるそなたたちに迷惑をかけたくないが」


 そう言う。


 しかしウェンディは男の魔力が一瞬、黄金色に燃え立つのを見逃さなかった。


「ボクたち『組織ウニタルム』のことは心配しなくていいよ。キミが戦いたければ戦えばいいし、まだその時じゃないと思えば戦いを避ければいい……」


 ウェンディはのんびりとした声でそこまで言うと、急に真剣な顔をして重々しい声で言った。


「……ただ、忠告させてもらえれば、まだキミが立ち上がる時期じゃない。『その時』は近くに迫ってはいるが、嵐の前の静けさってほどでもない。だからキミのことはしばらく『組織ボクたち』が全力で守るよ」


 男は再び目を閉じてウェンディの言葉を聞いていたが、やおら立ち上がってウェンディの方に向き直った。蜘蛛の巣は彼の魔力が沸き立った時、きれいに吹き飛んでいた。


 彼の身長は180センチ程度、やせ細っていた身体はすっかりたくましくなり、この男の昔日の武勇を思い出させるたたずまいだった。


「……そう言われると感謝の言葉もないが、そなたたちは俺に何を求め、俺に何をしてほしいのだ? 俺は『賢者会議』から危険人物とされ、長く投獄されていた人間だ。『賢者会議』から目を付けられるリスクを冒してまで、俺に期待するものは何だ?」


 男は目を細めて訊く。ウェンディはクスリと笑うと、


「ふふ、ボクたちは『賢者会議』など怖くはない。ボクたちが気にしているのは、やがて来る『魔王の降臨』だけだ。魔王の降臨は阻止しなければならない。そしてそのためには『伝説の勇者の力』が不可欠だ。前回の伝説の勇者たるキミを敵視する『賢者会議』の考えが分からないから、ボクたちはキミを救い出した……ただそれだけのことだよ」


 そう静かに、けれど断固たる決意が感じられる声で言った。


 男は、目を閉じて聞いていた。身じろぎもしない。ウェンディもただ黙って彼のことを見つめていた。


 やがて、男の身体から緊張の色が消えると、ウェンディは


「……納得してくれたかな? まあ、今のところはって感じだろうけれどね?」


 そうニコリと笑って言い、


「ボクたちの所から出て行っても構わないんだよ? けれどそれはキミが否応なく『賢者会議』と対立することを意味する。ナイカトルに戻らない限りはね?」


 そう言うと、彼に背を向けて歩き出した。


(……『賢者会議』との対立、か……彼らは何故、俺を危険視したのだろうか?)


 男はウェンディが去った中庭で、いつまでも立ち尽くしていた。


   ★ ★ ★ ★ ★


「ウミベーノって、ここからどのくらいかかるのかな?」


 僕たち『騎士団』は、アルクニー公の歓待を受けた後、その依頼に応じる形で公国の東端にある海辺の村、ウミベーノを目指していた。


「ここから先は平地が続く。途中のデキシントンの町まで3日、それからもう3日ってところかな?」


 公国内の地理には詳しいワインが、シェリーの問いに答える。


「ふむ、往復で2週間もかかったら、私たちが得た情報も最新のものではなくなってしまうが」


 ラムさんが言うことももっともだ。僕たちが引き受けたクエストは、『ウミベーノに現れたリヴァイアサンについての確実な情報を届けよ』ということだ。それには怪物の動向や現地の状況も含まれる。1週間前の情報など、状況の変化が早ければ何の価値もなくなってしまう。


「その点は問題ないよ。情報をまとめたら、『転移魔法陣』を使ってボクがアルクニー公のもとへ一足先に行けばいいだけのことさ」


 ワインが言うと、ラムさんは不思議そうに訊いた。


「なに、『転移魔法陣』だって? だったら先を急ぐこの旅だ、ウミベーノまで全員『転移魔法陣』を使って移動すればいいのではないか?」


 するとワインが何か言うより早く、シェリーが顔色を青くして答えた。


「えっ!? あ、アタシは遠慮するわ」

「ボクもお勧めはしない」


 ワインも肩をすくめて言う。


 けれどラムさんは納得しないようだ。ラムさんは僕に尋ねて来た。


「団長、一刻を争います。みんなで『転移魔法陣』を使った移動ができないのはなぜですか?」


 僕はラムさんに答えた。


「実は、『転移魔法陣』は無理やり時空を曲げるので、普通の人間では『時空酔い』みたいになって具合が悪くなるんだ。だからよほどの緊急時でないと、ワインもその魔法は使わない」


 するとラムさんは納得するどころか


「何を言っているんですか! 公の依頼内容こそ緊急の最たるものじゃないですか。それを具合が悪くなるからって避けていては、騎士として失格です」


 そう言うと、ワインに向かって


「君たちがそんな不甲斐ないことを言うのなら、私だけでも先にウミベーノ村へ転送してくれ」


 そう言いだした。


「……ジン、どうする? この魔法は移動距離が長くなればなるほど、具合の悪さにもバフがかかるが」


 困った様子で言うワインと、何を言っても聞かなそうなラムさんを見比べていた僕は、はあっとため息をついて答えた。


「……分かった。ワイン、僕とラムさんを転送してくれ」

「ジン! 具合悪くなっても知らないからねっ」


 シェリーが怒ったように叫ぶ。けれどラムさんには一度経験してもらわないと分からないだろう。


「仕方ないよ、行った先でラムさん一人にはできないからね。少しは耐性がある僕がついて行かないと。それともシェリーが行ってくれるかい?」


 僕が言うと、シェリーは一瞬言葉に詰まったが、


「わ、分かったわよ。好きにしなさい! ラムも一度あの具合悪さを経験して、()()()()になればいいわ」


 そう、吐き捨てるように言ってそっぽを向いた。


「ワイン、頼むよ」


 僕はワインに向かって目配せをする。ワインはその意を悟ってうなずくと、


「分かった。それじゃ、『転移魔法陣』を描くから、心の準備ができたらそれで移動すればいい」


 そう言って、右手の人差し指をボウッと青く光らせた。



 ……頭が痛い。目を開けると視界がぐるぐると回り、吐き気がこみ上げてくる。


 僕は、『転移魔法陣』から抜けると、すぐさま目を閉じて地面に寝っ転がった。


 『時空酔い』の状態異常には僕の治癒魔法である『大地の頌歌(ラントホルスト)』や『大地の賛歌(ラントリーベン)』が効かないことは、何度も経験して分かっている。身体を動かさずに姿勢を低くして、できるだけ早く視界の旋回が止まるまでやり過ごす……この方法しかないのだ。


「だ、だんちょお、だいじょおぶれすか?」


 僕が寝っ転がったのを見て心配になったのだろう、ラムさんが訊いて来る。けれどラムさんの呂律もかなり怪しい。


「大丈夫だ。幸い周囲には危険はないみたいだ。こうやって目を閉じて姿勢を低くしていれば、1刻(15分)もすれば具合はよくなるよ」


 僕はそう言ってあげたが、ラムさんは聞こえなかったのか


「ぐ、ぐあい、わるいんれすか? まっててくらひゃい、わらひが……」


 そこまで言うと、


「うえっぷ……げろげろげろげろ……」


 盛大に戻してしまった。


 少し頭はふらつくが仕方ない。この様子では今の彼女の戦闘力はゼロだ。早く介抱してあげないと具合は悪くなるばかりだし、何かあったときが怖い。


 ラムさんは背中から長剣を鞘ごと外し、それを杖にして何とか立っていた。


「大丈夫かい?」


 僕が彼女の背中をさすると、ラムさんはハッとしたように身体をこわばらせて、


「み、見ないれくらひゃい。騎士にあるまじき醜態れすから……」


 そう言う。僕は笑って、


「恥ずかしがらなくていいよ。『時空酔い』ってかなりキツいからね。落ち着いたら静かに横になって。僕が周りを見張っているから、ゆっくり休むと良い」


 そう言うと彼女に肩を貸し、ゆっくりと座らせた。


「ヤダもう……ジン様に恥ずかしいところを見られちゃった」


 僕がゆっくりと彼女の身体を横にしてあげると、ラムさんは目を閉じてそうつぶやきながら、軽い寝息を立てて眠ってしまった。


 僕は、ラムさんの隣に腰かけて、風に吹かれながら周りを警戒し始めた。



 どのくらい経ったろう、ラムさんはぐっすりと寝入ってしまっている。吹く風も気持ちよく、辺りも平穏そのものだったため、僕もウトウトし始めた。


 その時、突然『あの声』が聞こえた。


『何を油断している、お前は知らないうちに地獄にいるんだぞ? 奴らが活動し始める時間だ。そのお嬢さんも守らないといけないし、まあステージ3だな。しっかりやれよ、ジン』


 その声が終わると同時に、辺りの雰囲気が変わった。


「何だ、あれ?」


 僕は、遠くにくねくねと不気味に動く物体を見つけて、思わずそうつぶやいた。


 それは、みるみるうちに数を増し、何かを探すかのように動いていたが、僕に気付いたのか一瞬そいつの動きが止まると、地面に吸い込まれるようにして姿を消した。


(あいつはヤバい奴だ!)


 僕の本能がそう告げる。僕は立ち上がって剣を抜いた。その時、僕の目の前5ヤードのところに、直径3メートルはある花が地面から湧いて出た。そいつは6枚の血のように真っ赤で分厚い花弁を持っていて、うねうねと動いていたのはそいつの触手だった。


『ジン、人食い花(カニバルフラワー)だ。触手には気をつけろ!』


 僕の頭の中に、誰かの声が響く。それを聞いて僕の意識は飛んだ。



 ジンは、チラリと眠っているラムを緋色の瞳で見ると、


「ステージ2・セクト1『大地の花弁(ラントボイメ)』」


 そうつぶやく。途端にジンを中心に12枚の花弁のような刃が地面から突き出た。


 ズババンッ!


 地面の中を這ってジンの真下に到達しようとしていた触手が、刃に貫かれ、斬り裂かれて宙を舞う。危ない所で彼は人食い花の奇襲を退けたのだった。


「ステージ2・セクト2『大地の嘆き(ラントドレイン)』」


 ジンが追い討ちの魔法を放つ。人食い花の真下の地面にぽっかりと穴が開いたように見え、人食い花の瘴気と魔力を凄い勢いで吸い取り始めた。


 ゴゴゴウ……


 魔力を吸引する音が辺りに響く。人食い花は見る見るうちに萎れ、縮んでいった。


「いやっ! なにこれ!?」


 後ろでラムの悲鳴が響く。ジンが振り向くと、ラムは人食い花の触手に絡めとられ、宙に持ち上げられていた。


「ラムを放せっ!」

 ズバンっ!


 ジンが揮った剣は、ラムを拘束していた触手をまとめて斬り払う。


「きゃっ!」


 地面に落ちようとしていたラムを、ジンは跳び上がって受け止めると、


「やっ!」

 バンッ!


 追いすがって来た触手を空中で蹴り上げて撃退する。


「立てるか?」


 着地したジンは、緋色の瞳でラムを見る。ラムは長剣を杖にして何とか身体を支えた。


「その分ではまだ戦闘は無理だ。俺の側から離れるな」


 ジンはそう言うと、辺りを見回す。いつの間にか彼らは無数の人食い花に囲まれていた。恐らく近場の人食い花が、ジンたちの匂いに誘われて集結しているのだろう。


「……こんなにいたのか」


 ジンは落ち着いた様子で人食い花の群れを見つめて言う。


 ラムはその光景を見て、身体が震えて足から力が抜けた。立っていられなくなり、ぺたりと座り込む。さしもの『ユニコーン侯国獅子戦士』である彼女も、奇襲を受けたうえに身の自由が利かない現状では、ただの少女に過ぎない。


「安心しろ。『大地の護り(ラントケッセル)』」


 ジンは薄く笑ってラムの頭を優しくくるっと撫でると、二人をシールドで覆った。


 そして、緋色の瞳を光らせてつぶやいた。


「いちいち倒すのもめんどくさいな、まとめて料理するか。ステージ3・セクト1『大地の刃(ラントソード)』」

 ドバババッ!


 人食い花たちは、地面から突き出た無数の刃で、花弁や触手を貫かれて動きを止めた。

 そして、


「ステージ3・セクト2『大地の怒り(ラントメテオ)』」


 ジンがそうつぶやくと、天から燃え盛る隕石が落ちてきて、ジンのシールドを直撃した。


 ズドドーン!


 隕石は灼熱の炎と爆風を生み、それらは周囲をあっという間に薙ぎ払った。


 ラムは、自分の目を疑った。先ほどまで地面を埋め尽くしていた人食い花の群れが、一瞬で消し飛んだのだ。


 その時、ラムの脳裏に、父の言葉が浮かんだ。


『そのお方は、身に寸鉄も帯びずに天地の理を駆使し、異形の者どもも従えるという……そのようなお方と出会ったら、この国に連れて参るのだ。よいな?』


(ジン様が、父上のおっしゃった『伝説の英雄』であるに違いない)


 ラムは地面に座り込んだまま、ジンの横顔を見つめていた。


「怖かったか?」


 ジンが緋色の瞳を当ててラムに訊く。ラムはそれを見て『やはりジン様が伝説の英雄だわ』と確信した。


 ラムは頬を染めて首を振ると、


「いいえ。ジン様が側にいてくださいましたから……ジン様?」


 そう言う目の前で、ジンがゆっくりと膝から地面に崩れ落ちた。


「ジン様、ジン様っ!」


   ★ ★ ★ ★ ★


(ここは、どこだ?)


 高い天井が見える。夕方なのだろう、目に映るものがいやにオレンジがかって見えた。


 身体を動かそうとするが、力が入らない。僕はゆっくりと、僕の身に何が起こったのかを思い出そうとした。


(ワインに、ラムさんと共に転送してもらったことは覚えている。そして『時空酔い』したラムさんを介抱して……ラムさん、ラムさんは無事か?)


 僕がそこまで思い出した時、ドアが開く音がして


「おお、気が付いたかい?」


 そう言いながらワインが部屋に入って来た。


「ワイン、ラムさんは無事か?」


 僕が訊くと、ワインは一瞬、目を細めて、


「じゃ、今度は覚えているんだね? キミがラムさんを『人食い花』の群れから助けたことを」


 そう言った。


「……悪い、ワイン。もう一度言ってくれ。僕がラムさんを何から助けたって?」


 僕がそう言うと、ワインはクスリと笑って


「そうかい、また記憶が飛んでいるんだね? キミはラムさんを『人食い花』の群れから救ったんだ。ラムさんの話では、かなりハイスペックな魔法を使ったらしいね。キミが1日半も寝ていたのも無理はないよ」


 そう言うと、シェリーとラムさんを呼びに行ったのだろう、部屋から姿を消した。


「ジン、目が覚めた?」

「ジン様、大丈夫ですか?」


 シェリーとラムさんが、心配顔で部屋に入ってくる。どことなくデジャ・ヴな光景だった。


「ジン、話を聞いてびっくりしたわ。『人食い花』に襲われたんでしょ? まったくワインもよりにもよって『人食い花』の群生地に転送しなくてもいいのに」


 シェリーがぷりぷり怒っている。どうやらワインは僕の目配せから気持ちを読み取って、ウミベーノ村ではなく『時空酔い』が起こるギリギリの距離で転送してはくれたが、たまたまそこが『人食い花』の群生地だったということらしい。


「怒らなくていいよシェリー。ワインだってあんな所にあんな化け物たちが巣くっているなんて知らなかっただろうからね。実際、あいつらがいなければのんびりとしたいい場所だった」


 僕が言うと、シェリーの怒りの矛先はラムさんに向かった。


「それに、ラムがジンの言うことを聞いていれば、今回みたいなことは起こらなかったのよ。ジンが無事だったからいいものの、何か起こっていたらどう責任を取るの?」


 するとラムさんは、今まで見せたことのないような苦し気な顔をしてうつむくと、小さな声で言った。


「その点は……何も申し開きができないわ。ジン様に何かあったら、私が死んだって責任を取ったことにはならないもの……」


 そう言うと、ラムさんはゆっくりと顔を上げた。僕を見つめる目には、涙がいっぱいたまっていた。


「私、ジン様のためにもっと強くなって、もっと賢くなって、ジン様の隣にいて相応しい女になって見せます。それが今回の失敗に対するせめてもの罪滅ぼしです」


 それを聞いて、シェリーは、


「ちょ、ちょっと、何そのジンのカノジョみたいなセリフは? アタシはジンの幼馴染で、ジンのことはアタシが一番知っているんだから」


 そう慌てて言う。


 けれどラムさんも負けずに言い返した。


「あら、昔から『一つ年上の姉さん女房は、金の草鞋を履いてでも探せ』って言うじゃない? それにきょうび、幼馴染って盛大な負けフラグなのよ、知らなかったの?」


「ゔ~っ、それを言うならアタシだってジンより一つ年上だもん。4か月の間だけだけどお姉ちゃんだもん!」


 シェリーはシェリーで、桜色の頬をふくらませてラムさんに突っかかっている。僕は、なんで二人が言い争いをしているのか分からなかったし、とにかく眠かった……。


「ねえジン、何とか言ってやってよ!」


 シェリーがそう言ってジンを振り返ったが、その時にはジンは深い眠りの中にいた。


「……ジン」


 心配顔でそっとジンの頬に触れるシェリーに、ラムは静かに提案した。


「大丈夫よ、ジン様はお疲れになっているだけ。明日になればきっと回復されるわ。今はゆっくり眠らせて差し上げましょう?」


 シェリーは、ジンの寝顔を見て


(ジン、変わっちゃったな。どんどんカッコよくなってる……)


 そう、どこか寂しさや焦りを感じたが、


(アタシだって、ジンに相応しいオンナノコになって見せるもん。ラムさんなんかに負けないもん)


 そう強く思うシェリーだった。



「……そ~お、まだジンくんの『能力』について詳しいことは分からないのね?」


 四方賢者の一人、賢者スナイプは、難しい顔をしているワインにそう笑って訊く。


 ワインは、眉間にしわを寄せたまま、


「ジンは自分の持つキャパシティをはるかに超える魔法を使っています。彼の魔力が潜在的に高いことは、幼い時から感じていたことですが、さすがに今のジンはぶっ壊れです。このままではジンは魔力に潰されてしまいます」


 そう、助けを求めるような瞳でスナイプに訴えた。


 けれどスナイプは、他人ひとをとろかすような笑みを浮かべて、


「うふふ、ジンくんは大事なトモダチだものね? ワインくんの心配も分かるけれど、ジンくんは私にとっても大切な子よ? 無茶なことはさせたくない気持ちは同じよ」


 そう言うと、急に真顔になって続けた。


「だから、彼の能力が『マイティ・クロウ』と比べてどうなのか、はぜひ知っておかないといけないの。辛いかもしれないけれど、私を信じて」


 ワインはうつむいて聞いていたが、


「ジンと彼の父親(マイティ・クロウ)の魔力を、何のために比べるのですか? ジンがマイティ・クロウを超えていたらどうするつもりですか? 超えていなかったら?」


 そう、絞り出すような声で訊く。


 賢者スナイプは、うつむいて手を握りしめ、肩を震わせているワインをしばらくの間見つめていたが、


「……信じて、私を」


 そう一言言って、虚空に消え去った。


(Tournament7 人食い花を狩ろう! 完)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ジンの能力がどんどん派手になっていってますし、マイティ・クロウと『組織』に関しても謎だらけです。

でも毎回「おっかしいなあ、今回はギャグを書いているはずなのに」と首をひねってます。

次回は、都合で8月第一週の日曜日投稿になります。少し時間が空きますが、よろしくお願いいたします。

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