Tournament61 Fiends hunting:Part21(魔神を狩ろう!その21:喪失)
大陸に侵攻してきた魔軍を叩いたジンたちは、残敵掃討と戦後処理へと動き出した。
種族を超えて協力し合える世界を創ろうと意気込むジンたちだが、魔族の祖・アルケーはジンのいないカッツェガルテンに奇襲をかける。
【主な登場人物紹介】
■主人公ジン・ライムが5千年前の世界で出会った人たち
♡ウェカ・スクロルム 15歳 金髪碧眼の美少女。弓が得意なアタシっ子。5千年前の時空のカッツェガルテンというまちで出会った。貴族の娘だが弱い者に対する同情と理解が深い。ジンを運命の相手として慕っている。
♤ザコ・ガイル 22歳 茶髪碧眼のオーガの青年。大剣をぶん回す俺っち戦士。ウェカと同じくカッツェガルテンに住んでいた。鍛冶屋の息子だがウェカの同志的存在。戦術的才能があり、ウェカに乞われてスクロルム家の私兵を率いている。
♡マル・セロン 22歳 黒髪黒眼のエルフの美女。剣の腕も確かだが本職は書記で、カッツェガルテンの民政を引き受けている。性格は冷静で、ウェカを妹のように可愛がっている。ザコとは幼馴染である。
♡ネルコワ・ヨクソダッツ 13歳 茶髪で黒い瞳を持つヴェーゼシュッツェンの後継者。父の戦死と家臣団の離反で殺されそうになっていたところを、従姉の忠臣アーマ・ザッケンに救われ、カッツェガルテンに従妹のアーカ・ザッケンを遣わして救援要請した。
♡ジビエ・デイナイト 17歳 赤髪灼眼の17歳。オーガ族長の長女でジンの能力に惹かれ、異世界での仲間となる。巨大な棍棒を揮って戦うアタイっ子猛将。
♤サリュ・パスカル 17歳 金髪碧眼の美男子でユニコーン族長の長子。ジンの異世界に興味を持ち、ジビエに誘われる形で仲間になった。レイピアを持つが智謀と魔力に優れた参謀役。
♡サラ・フローレンス 精霊王アクエリアスの神殿に仕えるエルフの神官で、金髪碧眼の17歳。魔物に襲われ孤立した神殿にいたところをジンたちに助けられて仲間になる。精霊王との共感能力に優れ、数々の危機を予言する。回復魔法の達人。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
精霊覇王エレクラは、『神の宮殿』に精霊王たちを集めていた。
「ジン・ライムの活躍で、アルケー・クロウの野望はいったん砕かれた。しかしアルケーは新大陸に戻ったわけではないし、マロンもヒーロイ大陸にやってきているようだ。
さらに言うと、『運命の背反者』の動向や居場所もはっきりしていない。我々はまだ、ジン・ライムから目を離すわけにはいかないようだ」
エレクラが言うと、火の精霊王であるフレーメン・ヴェルファイアが、たくましい腕を組みながら続けて発言する。
「俺は今度のことで一つ不思議に思っていることがある。これだけの大事になったのに『摂理の調律者』様が何一つ俺たちに指示を出されなかったのは何故だ?
エレクラ、お前は何度かプロノイア様に状況を伝えたようだが、その時プロノイア様は何とおっしゃってた?」
「プロノイア様は、エピメイアが動き出さない限り状況を静観するお積りだった。
しかし、今回皆を呼び出したのは、プロノイア様から今後について明確なご指示をいただいたからだ。アルケーやマロンの処遇も含めて、これからそのことを説明する」
エレクラは薄く笑ってそう言うと、アクエリアスが口を挟んだ。
「私が見る限り、マロンも今回の事件には心を痛めているみたいよ。彼女がどうしてアルケーと行動を共にしたのか、その申し開きを聞いてあげてもいいんじゃないかしら?」
「そうだよ! 元々今回の事件も、アルケーはマロンの言うことを聞かずに暴走したみたいだし。そうする価値はあると思うなあ」
ウェンディもアクエリアスの味方をして声を上げた。
「ふむ……ウェンディ、アルケーの暴走というのはお前の考えか? それともそう信じていい何かがあるのか?」
フレーメンが静かに訊くと、エレクラが
「ウェンディにはマロンとの繋がりを保っておいてくれと私が頼んでいた。それで、今回の件でマロンはどんな立ち位置にいる?」
そうウェンディに問いかける。
「ボクたちが動き出すことが決まってから、マロンに連絡を取ってみたんだ。彼女がずっとアルケーと一緒にいることは知っていたから、状況を聞こうと思ってさ。
そしたらマロン、とっても困った様子で『アルケーは自分の言うことを聞いてくれなくなった』って言うんだ。話を聞いてみたら、最初のうちは二人で摂理についていろいろと考えたり仮説を検証したりしていたそうだけど、2・3年前急にアルケーが『摂理は虚影の空を映し出している』って言いだしたそうなんだ」
ウェンディが捲し立てるように言うと、エレクラは目を閉じて腕を組んだ姿勢のまま訊いた。
「マロンにアルケーを止めることはできないんだな?」
それにウェンディは首をかしげて答える。
「うーん、それはどうだろう? 今度も、マロンはアルケーに対して、『ジン・ライムの命は奪うな』って意見はしたらしいんだ。自分の部下にあれだけの損害を与えられながら、まだジンに手を出していないのは、マロンとの約束を守っているとも思えるし」
「情勢の不利なことはアルケーも分かっているはずだ。俺は、奴は単に機会を窺っているだけだと思うぞ?」
フレーメンがそう言った時、エレクラが目も開けずに言った。
「マロン、そこにいるんだろう? 遠慮せずにこちらに来たまえ。私たちはお前と敵同士ではないはずだろう?」
エレクラの言葉に、全員が部屋の入口へと視線を向ける。そこには見た目は12・3歳で身長140センチ程度の、新緑のような髪をした少女が、おずおずと立っていた。
「マロン、久しぶりだな」
びっくりして声も出せない三人をよそに、エレクラが目を開けて声をかける。マロンはエレクラに頭を下げると、
「今さら皆さんに会わせる顔はないのですが、ジン・ライムの件で皆さんのお力を借りたくてやって来ました。皆さんを裏切った形になったことへの罰は、いくらでも受けますから、どうか話だけでも聞いてください」
そう、震える声で言った。
エレクラは琥珀色の鋭い瞳でマロンを見ていたが、
「我々もアルケーの真意を知らないと有効な手が打てない。それに私自身も君に確かめたいことがある。話を聞いてみるのもいいだろう、座りたまえ」
そう言うとウェンディを見る。ウェンディはその意を悟って自分の隣にマロンを呼んだ。
「マロン、ここに座るといい」
「ありがとうございます」
マロンはホッとしたような、何かを思い詰めたような顔をして、ウェンディの隣に腰掛けた。
マロンの話を聞いたエレクラは、とりあえず彼女にパンテオンの一室を与え、
「よく教えてくれた。しばらくここでゆっくり休んでから新大陸に戻るといい」
と、特別に木々の精霊を呼んでマロンの世話をさせることにし、自分は引き続きフレーメンたちと今後のことを協議した。
「マロンの話によれば、彼女とアルケーの立場は同等だがジン・ライムの扱いについては約束を守ってもらえるだろうとの観測だ。『虚影の空』を晴らすのはジン・ライムであることは、アルケーも承知しているからということだったが、皆はどう思う?」
エレクラが訊くと、真っ先にウェンディが
「その前に、ボクは『虚影の空』って初めて聞いたんだけど? この空が嘘っぱちだなんて、とても信じられないんだけど?」
そう疑問を呈した。
「それは存在に関わる『摂理のパラドックス』の一つね。私はよく運命を観るんだけど、同じ人の運命でも、観る時期によって吉凶の結果は変わってくるの。
それはお告げによって行動や選択を変えたから、と言われたらそうなんだけど、私はそれこそが『摂理』に不完全さを感じる理由の一つだと捉えているわ」
アクエリアスがウェンディの疑問に答えるように言う。
しかしウェンディはその言葉が指すものを理解できなかったようだ。頭の上に大きく『?』マークを出して首をひねっているウェンディを見て、アクエリアスは微笑んで補足する。
「摂理はこの世界の運行を規定しているわ。そして世界に存在するものは、みんな摂理に従っている。それは私たちも同じ……ここまでは分かるわね?」
うなずくウェンディに、アクエリアスは続けて説明する。
「さて、それじゃ『摂理がすべてを規定する』なら、私たち世界に存在するものは、生まれ落ちた瞬間に未来を決定されている、っていう見方もできるわね?」
そこまで聞いて、ウェンディは考え込んで言った。
「つまり、未来が決定ずみのものなら、人生でどんな選択をしようと結果が変わることはないなずなのに、実際は歩む道が違えばその後の運命も変わる……だから運命は決定事項じゃない。言い換えれば、『摂理はすべてを規定するわけじゃない』ってことだね?」
「そう。人生の一コマ一コマは、本人が選んで初めて確定するものよ。でもその事象だけを見ると、摂理の規定が万能じゃないって感じてしまうの。これがパラドックスみたいに感じる一因ね」
アクエリアスが深い海の色をした髪をかき上げてエレクラを見る。エレクラはうなずくと、ウェンディだけでなくその場にいる全員の顔を見回して言った。
「摂理の未完成問題は、エピメイアが『パンテオン』から追放される時に投げかけていった問題だ。一般的に摂理は、『世界には、変わらないものは何もない』という第一公理と、『世界の変転は不変である』という第二公理で定義される。
エピメイアは、第一公理と第二公理は矛盾するとして、それは摂理の定義または調律が不完全であるから、とした。ウェンディ、お前はこの問題についてどう思う?」
エレクラから問われたウェンディは、
「えっ!? いや、ボクはそんな小難しいこと考えるのは苦手だなあ~。エレクラ様もボクばかり標的にしてずるいよ~」
と頭を抱えるが、フレーメンが
「この問題を真剣に考えておかないと、マロンと突っ込んだ話ができないぞ」
と言われて渋々考えだした。
「簡単に言うと、第一公理は『世界に存在するものは、み~んな変わっていくんだよ』ってことで、第二公理は『変わっていくという仕組みはいつまでも変わらないよ』ってことだよね? あれ!? 確かに、変わっていくのに変わらない?」
ぶつぶつ言いながら考えを進めていたウェンディが、素っ頓狂な声を上げる。
「世界に存在するものがみんな変わってくなら、それを規定する仕組みそのものも変わらないとおかしいじゃんってことだね?」
アクエリアスがうなずいて、さらに問いかける。
「その考え方だったらそうなるわね。エピメイアは最初、摂理の綻びを見つけたと思い、自分なりにそれを繕う理論を考えたみたいね。『世界の外』という概念はその時エピメイアが創り出したものなの。でも、それでも矛盾は解決できなかった。どこが矛盾していると思う、ウェンディ?」
「う~ん、どこが矛盾するんだろう?『摂理』が『世界の外』から『世界』を律するのなら、仕組みは世界と同値じゃないから、不変の仕組みの中で変転する世界ってのもありえそうだけど?」
そう答えるウェンディに、アクエリアスは真剣な顔で続けた。
「じゃ、視点を変えるわ。あなたは虚空ってどんなものだと思う?」
するとウェンディは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして答えた。
「え? 虚空のことなんて、今まで考えたこともなかったなあ。虚空って『無』のことだよね? そこには何にもないんじゃない?」
「この世界は、最初は虚空だったっていわれているわ。では世界は虚空のどの辺りにあると思う? 言い換えれば、『虚空は世界と同値? それとも世界を包含している?』ってことね」
さすがウェンディも四神の一柱である。そう言われてハッと気付いた。
「あ、そうか! 『世界の外』があるとすれば、虚空が世界を包含することになるけれど、でも『世界の外』は『無』ってことだよね?」
ウェンディの答えを聞いて、アクエリアスは満足そうにうなずいて、
「そうね。仮に虚空が世界と同値だとすると、『世界の外』ってどんな空間?って疑問が生じるわ。そして恐らくそれを解決する理論を考えたとしても、次々と『じゃ、その外側は?』っていう疑問が生じてしまうの。
世界を包含する空間については、『虚空』そのものにしか答えは出せないと思うわ。だから、私たちはとりあえず『虚空は世界を包含する』って考えるしかないのよ。もちろん、それが間違いだって証明される日が来るかもしれないけどね?」
そう言う。
呆然としているウェンディに、エレクラは少し笑いを含んだ顔で、
「空間の問題はエピメイアが投げかけた『摂理の不完全問題』を解くカギだ。今までの議論でお前も少しは理解が深まったものと思う。
そこで、ウェンディにはマロンと協力してアルケーを探し出してもらいたい。お前は私たちの中では最も索敵や探索に向いているからな。できればジン・ライムがアルケーに襲われる前に、彼を見つけ出してほしい」
そう命令する。
ウェンディはその言葉を受けて少し何かを考える風だったが、やがて一言
「見つけ出したら、アルケーを倒せばいいの?」
そう訊く。
エレクラは厳しい表情で首を横に振りながら答えた。
「いや、私たちもすぐにお前たちに合流し、アルケーを説得する。エピメイアを封印するためにな」
エレクラの答えを聞いて、ウェンディはにこーっと可愛らしい笑みを浮かべながら答えた。
「分かった。そういうことならボク頑張るよ」
★ ★ ★ ★ ★
ベロベロウッドの森で魔軍を壊滅させた後、僕たちは復興に向けて動き出した。
魔神はすべて退治したといっても、暗黒大陸から連れられてきた魔物が全部いなくなったわけではなく、また、そいつらと気脈を通じ合って人間やエルフ、ユニコーン族と敵対していた(さすがにオーガ族に面と向かって攻撃を仕掛ける命知らずな魔物はいなかったようだが……)奴らを懲らしめる必要があったため、サリュの意見に従ってケワシー山脈の東側をサリュ率いるユニコーン族部隊の2万が、西側をジビエ率いるオーガ部隊2万が、それぞれ残敵掃討と反乱鎮圧に当たることになった。
その出発前、サリュは僕とジビエを自分の帷幕に招き、ささやかな宴を催してくれた。
「ジン、ボクは君と出会う前は、この世界はもうすぐ無くなるんだと暗い気持ちで毎日を過ごしていた。けれど君が来てくれて、ボクの積年の心配が雲散霧消した。お礼を言わせていただくよ」
僕たちが席に着くと、ホストであるサリュが神妙な面持ちで言う。僕はにこりとして首を振った。
「僕はただ、僕ができることしかしていない。君たちやネルコワさん、それにウェカの必死の思いが通じたんだよ。でないと四神までもが動いてくださるはずがない」
するとジビエまでもが、
「ジン様、それは謙遜ってもんだよ? ジン様が来るまでは、この大陸に魔物と戦おうって気概のある奴らはカッツェガルテンのお嬢さんとヴェーゼシュッツェンのおちびちゃんくらいしかいなかった。アタイたちだって、混乱の噂を聞きながら手をつかねていたんだ。
そんな雰囲気を、ジン様はあっという間に変えちまった。魔物たちの野望を叩き潰せたのは、間違いなくジン様のおかげだよ」
そう言ってくれる。
僕は心底嬉しかった。これでウェカやネルコワさんは、魔物の襲来に脅えることなく、ポリスのみんなと平和に暮らしていけるだろうし、僕自身も僕の世界に戻ったあと、やるべきことが見え始めて来たのだ。
「……ありがとう。正直な話をすると、僕はここで何ができるのか、最初はとても不安だった。けれど君たちと戦い続けて、僕にもできることがあるって自信がついたんだ。
近い将来、僕も自分の世界に戻ることになるだろうけど、今度は君たちが守り抜いた世界がもっと未来へと続くように頑張るよ」
僕が言うと、サリュもジビエも寂しそうな顔をする。僕だって、この世界でみんなのために戦い、早くも半年の時間を過ごしていた。たくさんの人たちとふれあったし、友人と呼べる人たちもできた。何かの間違いで一生この世界で過ごさなきゃならなくなったとしても、それも悪くはないと思えるほどにはなっていたのだ。
「……まあ、まだすべてが終わったわけじゃない。残敵掃討は任せたよサリュ、ジビエ。二人とも気を付けて任務に当たってくれよ? この作戦が終わったら頼みたいことがあるからね」
僕が明るく言うと、サリュもいつもの笑顔を取り戻し、ウザったく伸びた金髪をかき上げながら言った。
「やれやれ、『伝説の英雄』は人使いが荒いな。分かってるさジン、この大陸全体を緩い同盟でつないで、今回みたいな魔物の襲来に対処できるようにしたいってことだろう?」
僕は苦笑した。やはりサリュという人物は並の男じゃない。目の前に軍事行動が控えているってのに、その先の社会の在り方を見据えていた。
でも、僕が次に言った言葉は、そんな彼をしてびっくりさせるに十分だったようだ。
「さすがはサリュだ。せっかく魔物を追い出したんだ、平穏な毎日が出来るだけ長く続くような工夫はないかなって考えていたんだ。
でもそれは人間だけでは無理だ。だから僕は、種族を超えて互いに尊重しながら生きていける社会にしたいと思っているんだ」
僕がそう言うと、サリュもジビエも食べる手を止めて、僕の顔をじっと見つめている。サリュにいたっては、これほど意外そうな顔を始めて見たほどだった。
「どうしたんだ二人とも? 僕の顔にソースでもついているのかい?」
僕が言うと、サリュははーっと長いため息をついて、
「……いや、正直なところ、ボクは君が去った後は今までのように、種族間の交流ってものは無くなってしまうんだろうなと残念に思っていたんだ。そんなことにまで気を配ってくれるとは、本当にボクは君には敵わないって思わされっぱなしだ。
もちろん、君のその考えには全面的に賛成するし、実現に向けて努力することを約束しよう。思わぬところでボクの夢も叶いそうだ」
「そうだね、アタイもジン様の意見に賛成するよ。人間ってのはアタイたちを少し誤解してるところがあるからさ。お互いをもっと知ることが出来たら、アタイたちも無駄な争いをしないで済むし、お互いに嫌な思いをしなくても済むからね」
ジビエもそう言うと、僕の顔を見て屈託のない顔で笑った。
サリュとジビエの出発を見送った僕は、ルツェルン地方にカーン・シン将軍を、ハウゼン地方にシロー・アコル将軍を鎮撫のために5千の軍と共に駐屯させることにして、ウェカとともにひとまずヴェーゼシュッツェンに向かった。今後の統治機構を整備するに当たり、どうしてもネルコワさんと話をする必要があったからだ。
ウェカのポリスであるカッツェガルテンには、まだポリスが弱小だった時代からスクロルム家の私兵を指揮してウェカを支えてきた宿将中の宿将、ザコ・ガイル将軍に5千の軍を付けて残し、僕たちはマルさんやリンさん、レンさんに守られながら5千を率いて出発した。
途中、ラウシェンバッハの村にレンさんの1千を分派し、ヴェーゼシュッツェンに到着したのは次の日の昼下がりだった。
「凱旋おめでとうございます。『伝説の英雄』様、ウェカさま」
大手門の前では、このポリスの執政官であるネルコワ・ヨクソダッツさんが部隊を整列させて出迎えてくれた。その中にはアーマ・ザッケン将軍やアーカ・ザッケン副官など、懐かしい顔も見えた。
さっそく僕らはネルコワさん直々の案内で、城内の館に向かう。リンさんは部隊をまとめて駐屯地に向かったので、今はウェカとマルさん、そして僕の三人だった。
「わたくしは、お二人に何とお礼を言っていいか分かりません」
話し合いのため席についた僕たちに、ネルコワさんが最初に言った言葉がこれだった。
「執政官だった父母を喪い、主だった重臣たちにも裏切られて途方に暮れていたわたくしに、たった一人力を貸してくださったのがウェカさまでした。
そして、魔軍を駆逐してみんなを救ってくださったのはジン様です。わたくしはお二人には感謝してもしきれません」
と言うと、後ろに立っていたアーカさんを振り返り、何事かを小声で話した。
「本当にいいのですか?」
小声だったがびっくりしたような顔でアーカさんが言うのが聞こえ、続いて
「いいのよ、もう決めたことだから」
ネルコワさんはそう言うと、僕たちの方に向き直って笑った。その笑顔はどことなく寂しそうだった。
「わたくしは、父母に負けないようヴェーゼシュッツェンを守っていきたい。けれど、今の体制ではわたくし一人の力ではどうにもなりません……」
弱々しく言ったネルコワさんは、僕とウェカの顔を交互に見て、
「ですから、ジン様に大陸のポリスを統合していただき、新たな社会を創っていただきたいのです。そしてウェカさまには、そんなジン様を助けていただけたら、と……」
声を震わせて提案してきた。
「ちょっと、それってジンを諦めるってこと? あなたもジンのことは好きだったんでしょう?」
さすがに驚いたウェカがそう訊くと、ネルコワさんは緩く首を振って答える。
「自分の気持ちに嘘はつきたくありませんから正直に言います。確かにわたくしはジン様のことが好きです。でも、同時にアクエリアス様からもエレクラ様からも、わたくしとジン様が結ばれることはないとはっきりお告げを受けていました。
実際こうなってみると、ジン様のお相手はウェカさまが一番相応しいと思います。ジン様が最初ウェカさまの所に現れたのも、そうなる運命だったんでしょう」
そしてウェカを見て、花のような笑みを浮かべ、
「わたくしは自分の分を守るだけです。ジン様やウェカさまに従って、この世界をもっと素敵に、生まれてきて良かったって思える世界にしたい……わたくしの今の願いはそれだけです」
そう言うネルコワさんの頬を、涙がこぼれ落ちる。僕はそれを見て、何も言えなくなってしまった。
ウェカはすっと立ち上がり、ネルコワさんの肩を抱いて立ち上がらせると、
「……ありがとう、お気持ちはいただいておくわ。今はあなたも今後のことを話し合うような気持ちじゃないでしょうから、とりあえず二人で話しましょう?」
そう優しく言うと、アーカさんとともにネルコワさんを部屋に連れて行った。
その場に取り残された格好の僕だったが、ウェカの後に立っていたマルさんが僕に小声で言ってくれた。
「ネルコワ様に何もおっしゃいませんでしたね」
それは非難するような響きではなかったものの、僕は思わず言い訳めいた言葉を発してしまった。
「いや、突然でネルコワさんに何て言ってあげたらいいのか分からなかったんだ。どう言葉をかけてあげたら良かったんだろう?」
するとマルさんは、慈しむような目で僕を見ると、静かな声で訊いて来た。
「ジン様はネルコワ様のお気持ちに気付いておられましたか?」
「えっ!? ああ、それはあれだけ好意をむき出しにされたら、いかに僕が『鈍感系』っていっても気付かざるを得ないよ」
僕が顔を赤くして答えると、マルさんはうなずいて言った。
「何もおっしゃらなくて正解だったと思います。ネルコワ様も悩みに悩んで出された結論でしょうから」
その後マルさんは、僕の目を覗き込むようにして、真剣な顔で
「ただ、今後もネルコワ様には今までどおり接してあげてください。変に同情することが一番彼女を傷付けますから」
そのころ、ウェカはネルコワの部屋で優しく彼女の背中を撫でていた。
(ネルコワがジンを諦める気持ちになったのは、本当にお告げだけが理由かしら?)
ウェカが二人で話そうと言ったのは、それを確認したいからでもあったが、ネルコワの気持ちを考えると居た堪れなくなったのだ。
ネルコワはずっと俯いていたが、やがて落ち着いたのか袖口で涙を拭うと、ウェカの顔を見て言った。
「ありがとうございます。すみません、ちょっと取り乱してしまって」
ウェカは何も言わずに首を振った。まだ自分は15歳で、ネルコワに至っては13歳だ。お互い、今度の戦乱がなければ父母を喪うようなこともなく、執政家のお嬢様として暮らしていたことだろう。
ウェカは黒曜石のようなネルコワの瞳を長いこと見つめていたが、やがて静かに訊いた。
「……ネルコワがジンを諦めるのは、本当にお告げだけが理由?」
するとネルコワは小さくうなずく。そしてポツリと言葉をもらした。
「ジン様は、いつか元の世界に帰ってしまわれます。わたくしはそれに耐えられそうにありません」
その言葉を聞いて、ウェカの心もチクリと痛んだ。ジンはいつか帰ってしまう、彼が口にした『シェリー』って名前の女の子のところに……けれど……。
「……それは彼と出会った最初っから分かっていたことよ。彼が『摂理』の名の下にここに送られたのなら、たとえ彼がここに残りたいって望んだとしても、きっと『摂理』は彼を元の世界に送り返してしまうわ。でも、アタシはそれでもいいと思ってる」
ウェカはネルコワの目を真っ直ぐ見ながら言った。
「彼がアタシを愛してくれるなら、アタシはその思い出だけで生きて行こうって決めたの。
アクエリアス様からも、それが『伝説の英雄』に愛された乙女の宿命だって何度も念を押されたけど、アタシはジンとの思い出があればいいって答えたわ」
「ウェカさま……」
ネルコワは絶句してウェカを見つめる。ウェカは頬を染め、誇らしげな、そして恥ずかしげな顔をしていたが、そこには寂しさの翳は微塵も感じられなかった。
ネルコワはしばらくすると身体の力を抜き、ため息とともに首を振って言った。実質的な彼女の敗北宣言だった。
「そこまで覚悟しておられたなんて……やっぱりわたくしは、ウェカさまには敵いません」
★ ★ ★ ★ ★
風の精霊王ウェンディは、木々の精霊王だったマロンとともに、アルケー・クロウを探索していた。
「本当にエレクラ様はアルケーと話をしたがっておられるのですね?」
心配そうに訊くマロンに、ウェンディは屈託のない笑顔で答える。
「もちろんさ。そうじゃないとボク、この命令を受けてなんていないよ。そこはボクやエレクラ様を信じてほしいなあ」
「ウェンディのことはともかく、他の精霊王については、前回のことがどうしても頭をよぎって」
やや不満そうに言うマロンの心情を察し、ウェンディはイタズラっぽく、けれど目だけは真剣に言う。
「君が精霊王位はく奪された時のことだね? でもあれだって、エレクラ様は最後まで『摂理の調律者』様の決定に反対されていたんだよ?
だから、恨むのならエレクラ様じゃなくプロノイア様を恨まなきゃ」
そう言われると、マロンも
「そんな、プロノイア様を恨むなんて……」
と慌てて答える。ウェンディは、
「ま、君が不安がるのはよく分かるよ。でも君だってアルケーは救いたいだろう? 騙されたって思ってボクに協力してよ」
そう笑って言うと、マロンが刮目するセリフを吐いた。
「アルケーはジン・クロウに勝てない。そしてジンとアルケー、どちらを失っても『摂理の黄昏』を止めることが出来なくなっちゃうから……そうでしょ?」
「どうして、そのことを?」
思わず立ち止まったマロンを振り返り、ウェンディはズルそうな顔をして答えた。
「あれっ!? やっぱりそうだったの? 当てずっぽうに言ったんだけどな~。ボクの勘も捨てたもんじゃないなあ」
「ウェンディ、勘でいいから答えて。どうしてジン・ライムがアルケーを超える存在だと思ったのか、そして彼も『摂理の黄昏』を止めるために必要な人物だと思ったのか」
マロンは厳しい顔でウェンディに問いかける。見た目は12・3歳の少女だが、魔力を迸らせた姿はえも言われぬ迫力があった。
けれどウェンディは、マロンの様子をまったく意に介さずに、飄々とした態度で答える。
「ふふ、マロン。君はさっきのボクの言葉のうち、大事なところを聞き逃したみたいだね? ジン・ライムの本名はジン・クロウ、つまり彼はアルケー直系の魔族だ。
それに彼には四神と縁が深い一族の血も混じっている。だからこそ、5千年の未来からエレクラ様がこの世界に彼を送ったわけだよ。それだけ知れれば、ジンがどんな運命を持ち、虚空から何を期待されているか、推測できない方がおかしいよ」
ウェンディの言葉を聞いて、マロンは一層深刻な顔をした。
「……ウェンディ、そのことはどうやって知ったの?」
深刻な顔のままマロンが訊くと、ウェンディは種明かしする奇術師のように大げさな身振りをして、
「じ・つ・は、5千年後のボクが教えてくれたんだ☆ エレクラ様の命令でジン・クロウの様子を見に来たんだって。どう、これで分かったでしょ?」
そう答えると、マロンは鋭い目で天を仰いで嘆じた。
「ああ、これで『絶対にジンとアルケーを戦わせてはいけない』というわたくしの見立ては正しかったと解りました。ウェンディ、あなたも全力でアルケーを探してください。二人が出会ってしまったら、世界の因果が崩壊してしまいます!」
そう言うと、翠色の魔力で身体を覆い、ウェンディの返事も聞かずに
「木々の精霊たちよ、世界とは異質の魔力を探すため、萌え盛る今を高らかに笑え。『花萌える唱』!」
呪文を唱えると、マロンの身体を覆った光が空に昇り、四方八方へと拡散していった。
余りの眩しさに目を覆っていたウェンディは、そこにマロンの影も形もなくなっているのを知って、慌てるでもなく『風の翼』を広げて空へ飛び立ち、
「マロンの魔力はちっとも衰えていないな。けれど彼女だって数百年の時を封印されていたはずだけど?」
そうつぶやいたが、すぐに真面目な顔になって魔力を開放した。
「探し人だよ、ボクの精霊たち。アルケー・クロウという名の摂理を外れた存在だ。『風の楽譜』の不協和音を見つけておくれ」
ヒーロイ大陸の南半分で残敵掃討と反乱鎮圧を行っていたサリュとジビエの軍は、ほぼ1か月でその任務を達成してカッツェガルテンに帰還した。
僕はその間、ウェカやネルコワさんをはじめ、オーガのヴォルフ族長やユニコーン族のアルフレオ族長、カッツェガルテンの民生首班マルさん、ヴェーゼシュッツェンの民生主任ブロック書記官、そしてアクエリアス神殿のサラ・フローレンス神官長を中心に、ポリスの共同体を創り上げるため、寝る間も惜しんで働いた。こんなに働いたのは、かあさまが居なくなった後、『騎士団』を立ち上げた時以来だ。
しかし、今度の目標は『騎士団』の立ち上げどころじゃない。恐らく数百万人の生活が懸かっている事業だ。僕はこの場にワインやド・ヴァンさんがいないので不安でしょうがなかったが、幸いにもヴォルフ族長やアルフレオ族長が僕の理想を理解してくれて、
「オーガやユニコーン族、エルフなどへの協力依頼は私たちに任せておけ。
それよりジン殿は、人間たちが不安に陥らないような仕組みづくりに知恵を絞るべきだな。不安は猜疑心や不信を生み、猜疑心や不信はつながりを断つ見えない刃だからな」
そう言ってくれたし、マルさんやブロック書記官がまた有能で、僕やウェカ、ネルコワさんの思いを次々と具体的な指示として施行してくれた。
そして、サリュとジビエも加えて熟議を重ね、『大陸律令』を発布した僕たちは、ベロベロウッドの森の決戦後3か月目にして、ようやく一息つくことができた。
「ジン、君やボクたちの夢がようやく形を整えてきたようだね。後はこの仕組みを軌道に乗せるだけだ。こんな明るい未来があろうとは、数年前のボクだったら想像すらできなかっただろう」
馬を歩かせる僕の右隣で、サリュがカッツェガルテンの城門を振り返りながら言う。今日は事業がひと段落したので、『統領会議』の面々で狩りを楽しむことにしていたのだ。
ちなみに『統領会議』は大陸共同体の最高意思決定機関で、ウェカ、ネルコワさん、サリュ、ジビエそして僕の5人で構成されている。統領としての権限に差はないが、みんなの要望で一応僕が『代表統領』を務めていた。
そう述懐するサリュの後ろで、ジビエさんが揶揄するように
「まーたサリュがセンチになってる。アタイたちはまだ若いんだからさ、過ぎ去った心配事なんて忘れちまいなよ」
そう言って笑う。
「でもジン様、本当に一時期は眠る間もないほど働き詰めでしたね? ウェカさまがいらっしゃるとはいえ、わたくしはジン様が身体を壊されないかと心配していました」
左斜め後ろからネルコワさんがそう声をかけて来る。彼女はあの時以来、僕の横には常にウェカが居られるよう気を配っていた。
「そうね、アタシも不思議に思っていたわ、『ジンっていつ寝るんだろう』て。でも、近ごろは早くに就寝できているから心配いらないわよ?」
ウェカが頬を赤くして言う。そんな彼女を、ネルコワさんとジビエさんは羨ましそうに見ているが、決して悪い感情を持っているようには見えない。
実はこの頃には、僕とウェカが恋人同士だってみんなが思っていたし、僕も敢えてそれを否定しはしなかったので、ウェカに対してみんなが温かく接してくれていた。
「でも、体制が整って来ると、カッツェガルテンは首府として手狭じゃないか?
ボクは新たな首府を建設することをお勧めするよ。センターヴェルクとルツェルンの中間にある『鳥の草原』なんてどうだい?」
サリュがそう献策してきた。
するとウェカが心配そうに僕を見る。僕はウェカに笑いかけると、すぐに真面目な顔に戻ってサリュに答えた。
「その必要性は認めるよ。近い将来は首府をそこに遷すことを具体的に検討していいと思う。
でも、まだアルケーがどこにいるかもはっきりしないし、情勢も安定したとは言い難い。カッツェガルテンを暫定的に首府としたのは、ここが守るに堅い場所であることと、アルック地方にもすぐ軍を派遣できる場所だからだ。
それに、まだ大規模な事業を実施できるほど民力は回復していないんじゃないかな?」
「ふむ、言われてみればそうかもしれない。では、アルケーの所在確認と民力の回復を最重点事項としておこう」
サリュがそう言うと、ジビエさんが呆れたように
「何だい、仕事を忘れて楽しむための狩りじゃなかったのかい? こんな時まで仕事の話をするんじゃないよ。せっかくの休みが詰まんなくなっちまうじゃないか」
そうサリュをどやす。僕は慌てて、
「そうだね、狩りをするときは狩りに集中しよう。誰が一番大きな獲物を仕留めるか、せっかくだから競争しようじゃないか」
そう提案すると、全員が賛成してくれた。
その夜、僕は狩りで疲れた身体をお風呂で癒すと、さっぱりした服に着替えて寝台に横になった。夜風が窓を叩き、ヒュウッと風が鳴る。この世界に来て半年が過ぎ、僕がやらねばならないことはほとんどやり終えたと思っているのだが、まだエレクラ様の迎えが来ないのはなぜだろう?
(魔軍を撃滅し、新たな体制もほぼ整備し終えた。あと考えられる可能性としては、アルケーに関することか、この世界に伝わるアクエリアス様の予言に関することだな)
僕は目を閉じてそう考える。この二つなら、アルケーとの決着がついていないからという理由の方が可能性としては高いな。
それにしても、アルケーはどこにいるのだろうか。ウェンディの話によれば、四神が手を尽くして捜索しているにも関わらず、杳として行方が知れないそうだけど……。
(まさか、暗黒大陸に逃げ帰っちゃいないだろうな。だとすると、エレクラ様がいつか言われたように、僕はこの世界に5年はいなくちゃいけないってことになるんだが)
僕は目を瞑ったまま、シェリーの顔を思い浮かべる。しかし、最近ではなぜかシェリーの顔にウェカの顔がダブって見えるようになっていた。確かに二人は遠い親戚であるかのように、顔かたちや雰囲気が良く似ている……にしたって、17年も姉弟同然に育ったシェリーと、まだ出会って半年のウェカが、僕の中で同じような比重を占めつつあることに気付いて驚いてしまった。
(僕はいつかこの世界から消える人間だ。恋人ごっこならともかく、ウェカの本物の恋人、ましてや旦那さんになんてなれない)
僕がそんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音がした。
「どうぞ、鍵はかけていませんよ」
僕は寝台から飛び起きてそう声をかける。するとドアが音もなく開き、リンさんが顔を見せた。戦乱の間はウェカの親衛隊長として軍装をしていたリンさんだが、落ち着きを取り戻し始めた今は、元のとおりメイド長としてウェカの側近くにいるのだ。
そんな彼女が僕の部屋を訪れる理由、それは一つしかない。
「ジン様、ウェカお嬢様がお会いになりたいそうです。お嬢様のお部屋までおいで願えますか?」
やはり、想像どおりウェカの呼び出しだった。僕は苦笑しつつうなずいた。
ウェカの部屋は、城の中央にある城主の生活空間の中にあり、ごつい扉で内外を仕切ってある。この扉が閉じられたが最後、衛兵である女官の許しがなければ出入りは一切できない。
僕は部屋着に『払暁の神剣』を佩いただけの軽装で、そのごつい扉の内側へと足を踏み入れた。ウェカの部屋には幾度となく招待されたが、何度通ってもここは緊張する。
いつもどおり、部屋の中には煌々とロウソクが灯され、爽やかなお香が焚き染められている。いつもは甘ったるくて眠気を誘うような香なのにと、僕は少し不思議に思った。
「すみませんが、ここから先はジン様お一人でお進みください。私は扉の横の詰所におりますので」
いよいよウェカの部屋の前まで来たとき、これもまたいつになくリンさんがそう言って立ち止まる。これまではウェカの部屋の真ん中にある衝立の所まで案内してくれるのが常だったのだ。
「僕一人で入ってもいいのかい?」
僕は念のため訊いたが、リンさんが微笑みとともに、
「はい。今宵はジン様だけをお通ししろときつく言われておりますので」
と答えたため、意を決してドアを開け、
「ウェカ、入るよ」
そう声をかけて部屋に入った。ドアを静かに締めると、ゆっくりと衝立まで歩を進める。
「ジン、席に座って。アタシもすぐそっちに行くから」
そうウェカが言ったので、僕は指示どおりお菓子が置かれたテーブルの方へ歩み寄り、椅子に腰掛けた。そのとき、僕の気配を探っていたかのように、衝立の影からウェカが姿を現す。彼女は、最初僕がこの部屋に招待された時と同じ、青い光沢を放つシルクのドレスに身を包んでいた。
ウェカは微笑を浮かべながら僕の斜め前に着座すると、首をかしげながら言う。
「わざわざ来てもらってありがとう。今日はアタシにとって特別な日だから、ジンと二人っきりで過ごしたかったの。我がまま言ってごめんなさい」
「それは一向に構わないけれど、特別な日って?」
僕が訊くと、ウェカは僕の方に身体をねじるように向けて
「アタシ、今日で16歳になったの。それで、カッツェガルテンを救ってくれたお礼も兼ねて、ジンと二人っきりで話したいなって。迷惑だったかな?」
そう頬を染めて言うウェカだった。
「迷惑なんてことはないさ。それより、お誕生日おめでとう。事前にそのことを知っていたら、何か贈り物を選んでおいたんだけど」
これは僕の本心だった。この世界にやって来たばかりの時は、誰も僕に近寄ろうとしなかった。でもウェカだけは、僕が悪い奴かもしれないのに話しかけてくれたのだ。おかげでこの世界に早く慣れることができたし、『摂理の黄昏』などの状況も知ることができた。
しかしウェカは、すまなそうにしている僕に、にっこりと笑って言った。
「ジン、アタシ、欲しいものがあるの。アタシのお願いを聞いてくれる?」
僕はウェカの表情や服装が何を意味しているのか、深く考えずに返答をする。
「何だろう? 贈り物を準備できなかったお詫びに、僕が手に入れられるものなら何でもプレゼントするよ」
するとウェカは、笑顔を張り付けたまま立ち上がり、衝立の向こうに消えた。ほどなくしていつもよりさらに甘ったるく、そして魅惑的なお香が焚かれた。
「ちょっと雰囲気を作るために、お香を変えたわ。この香りはいかがかしら?」
花のような微笑を浮かべ、ウェカが僕の側にやってきて訊く。ウェカのドレスは光沢があるとはいえ、高級なのかかなり薄い。胸と腰を隠しただけの下着が、ともすれば透けて見えて、僕は目のやり場に困った。
「あ?……いい香りだと思うよ? ところで僕にお願いしたいことって?」
ドギマギしながら僕が訊くと、ウェカは大胆にも僕の右腕に胸を押し当てながら、僕を上目づかいに見て言った。
「アタシ、ジンとの赤ちゃんがほしいの。アクエリアス様の予言を成就させてくれない?」
★ ★ ★ ★ ★
次の日、僕が目覚めたのはお昼に近かったが、目を覚ました時、見慣れない天井が目に飛び込んできて、自分がどこにいるのか理解するのにしばらくかかった。
(あれは、夢……じゃないよな?)
僕は、おぼろげに覚えているウェカの表情や声、そして柔らかな肌の温もりなんかを思い出して、思わず顔を赤くする。
「ジン、起きた?」
僕が布団の中でゴソゴソしているのが聞こえたのか、隣の部屋からウェカが入って来た。いつもはポニー・テールにしている銀髪を、今はほどいていた。
彼女は僕の顔から眼をそらして、それでも優しい声で
「ちょっと遅いけど、朝ご飯を準備したの。早く起きて着替えて」
そう言うと、逃げるように部屋を後にした。
僕はすごく照れ臭かったが、言われたとおり部屋着に着替えると、ウェカが待つ部屋へと足を運んだ。
ウェカは僕を見ると、首筋や耳まで赤くして、それでも精一杯幸せそうな笑顔で言った。
「ジン、昨夜はありがとう。母から教わったんだけど、我がスクロルム家では夫になった殿方の最初の朝ご飯は、メイドや料理人ではなく花嫁自身が作るって決まりがあるの。
アタシ、お料理には全然自信がないんだけど、お母様の見よう見まねで作ってみたわ。お口に合わなかったとしたらごめんなさい」
僕は、目の前に並べられた料理を見て、思わず笑みがこぼれた。堅パンのスライスにチーズを載せたものやサラダはともかくとして、丸ネギのスープやラム肉のシチューはかなり手が込んでいる。具材の形は不ぞろいだったが、それでもウェカの努力が感じられて、微笑ましく感じた。
ふと見ると、ウェカの指には包帯が巻かれている。それも新しいものだ。僕はウェカに失礼かなと思いながらも、
「ウェカ、その指は?」
そう訊くと、ウェカはサッと手を隠し、恥ずかしそうに白状した。
「み、見ないでよ。ちょっとお料理中に手が滑っただけだから心配しないで」
「悪かった。でも気を付けてほしいな。君がそうやって怪我をしているのを見たら、僕も済まないって気持ちになる。君が作ってくれるってことが一番大事なことだから、急いで作る必要はないんだよ?」
僕はさらっとそんな気障なことを言う自分に驚いた。と同時に、僕の中でウェカが一番大事な女の子になってしまったことを、シェリーに済まないとも思った。
僕は、食卓に肘をついて顔を支え、僕が料理を口に運ぶさまをキラキラした目で、そしてどことなく心配そうに見ているウェカに、
「美味しいよ。ウェカは料理も上手なんだな」
そう言うと、ウェカはホッとしたように笑って言った。
「ホント? よかった。ジンに気に入ってもらって」
朝食の後、僕はネルコワさんが新しい法令の施行状況を視察するためにヴェーゼシュッツェンに戻るのに同行し状況を確認するとともに、アコル将軍やカーン・シン将軍の駐屯地を訪問するため、1千の軍を率いてカッツェガルテンを出発した。
「ジン、いつごろ帰って来てくれる?」
僕が軍装を整えるのを手伝いながらウェカが訊いてくる。僕はちょっと考えて、
「遅くとも2週間ってところかな? 昨日の今日で、ゆっくりしてあげられなくてごめん」
そう言うと、ウェカは首を振って、
「気にしないで。そりゃあジンとしばらくは二人っきりで過ごしていけれど、アタシもこのポリスのみんなに責任を負っているもの。帰って来てからたっぷり甘えさせてくれたらいいから」
そう言うと、僕にキスしてきた。僕もウェカの思いに応えるため、彼女をしっかりと抱きしめる。
やがて、名残惜しそうに僕から離れたウェカは、えくぼが出る笑いを浮かべて、
「いってらっしゃいジン。早く帰って来てね?」
そう言って僕を送り出してくれた。これが僕と彼女の今生の別れになるなんて、どちらも思いもしなかった。
「あれがジン・クロウか」
カッツェガルテンの東にそびえる峰の上から、ジンとネルコワの部隊が出立するのを白髪で緋色の瞳を持つ男が眺めてつぶやいた。
「我が魔軍4万を壊滅させ、ロゴスをはじめとした魔神たちまで全滅させた男だけあって、魔力は大したものだな。本当はこの手であの首を引っこ抜き、部下たちの恨みを晴らしてやりたいものだが……」
そう言いながらも、アルケー・クロウは首を気だるげに振り、
「……マロンとの約束もあるし、それにヤツはただの魔族だとは到底思えない。ここ3か月ほど奴のやり方を見ていたが、ヤツは紛れもなく『繋ぐ者』だ。
だとすると、ヤツの命をここで奪うのは考えものだが、それでおめおめと新大陸に逃げ帰るのも癪に触るな。さて、どうしたものか……」
そう自問自答していたアルケーは、何を思いついたのか急にニヤリと笑い、
「そういえば、アクエリアスは面白い予言をしていたな。その予言、この俺が成就させてやることとしよう。ジン・クロウ、お前も喪う辛さをじっくりと味わうがいい」
そう言うと、空間の歪みに姿を消した。
一方、ジンを送り出したウェカは、いつもの服に着替えると、マルやリンを呼び出して政務を執りはじめた。
真面目に書類と取っ組み合っているウェカを見て、マルはくすりと笑みをこぼす。それに気づいたウェカが、怪訝そうにマルを見て訊いた。
「何、マル。何かおかしいことでもあった?」
するとマルは、この上なく優しい顔で、
「いえ、ウェカ様がこのポリスを継がれた時のことを思い出したもんですから。ウェカ様、ジン様とのことはいつザコに報告いたしましょうか?」
そう訊くと、一瞬何のことかとポカンとしていたウェカは、急に赤くなった頬を両手で隠して答える。
「も、もう、マルのイジワル。あなたとザコはアタシの姉や兄みたいなものなんだから、折りをみてアタシから話すわ!」
照れ隠しでつっけんどんな態度を取るウェカに、マルはそれこそ本当の姉のように瞳を潤ませて言う。
「カエサリオン様やアステリア様が生きておいででしたら、さぞ喜ばれたことでしょうね」
それを聞くとウェカも神妙な顔をして、
「そうね。でも、あの騒乱がなければ、アタシはジンとは出会えてなかった。そう考えると複雑な気持ちだわ」
そんなことを話していると、そこに硬い顔をしたザコが入って来た。
「お嬢、マル、城の近くに物凄い魔力の渦を発見した。とりあえずトソーの爺ちゃんが5百ほどの兵を連れて様子を見に行ってくれてるが、戦闘準備をお願いする。
それと相談だが、ジン殿を呼び戻せないか? 俺っちも詳しい報告を受けたわけじゃないが、何だか妙な胸騒ぎがするんだ」
それを聞いたマルは、すぐにリンとレンを呼び出した。ザコはそれを見て、部隊を指揮するため部屋を後にする。
「何事ですか?」
リンとレンが慌てた様子で駆け付けると、マルはウェカの顔を見てうなずく。
ウェカは立ち上がると、
「ザコ将軍が城外に不穏な魔力の渦を発見しました。リンはすぐに親衛隊を召集して戦闘態勢を完了させて。レンはこのことをジンに知らせて、すぐにカッツェガルテンに戻ってくれるようお願いして」
凛とした態度で命令した。
「分かりました」「お任せを!」
二人がそう返事して部屋を出ようとしたとき、再びザコからの伝令が飛び込んで来た。
「大変です、城外にドラゴンの群れが攻め寄せて来ました。ウェカ様には、直ちに親衛隊とともに城を脱出し、ジン様の部隊と合流していただきたいとのことです!」
カッツェガルテンは混乱の極みにあった。大して大きくもないこのポリスに、空を覆わんばかりのドラゴンが突然襲来したのだ。
魔物の侵攻を食い止めて平和な日々を取り戻しつつあったので、これは完全な奇襲となった。ザコやオー・トソーが直前にでも気付いたのが、せめてものことだった。
オー・トソー将軍は、その豊富な実戦経験から、偵察しに来た魔力の渦の異質さと異常さにすぐさま気付いた。彼はまだ渦から2百ヤードも離れていたのに、
「いかん! あれは55年の魔戦士生活の中でも経験したことがないほど凶悪な魔力じゃ。すぐにウェカお嬢様やザコ将軍に、城から退避されるよう伝えるんじゃ!」
急いで部隊を撤退させようとした。
しかし、渦の中から白髪の男が姿を現し、
「待ちたまえ、せっかく俺がご挨拶に伺ったんだ。一合も刃を交えずに逃げ出すつもりかい?」
そう言うと、男の右手の上でピラミッド型の法器が鈍く光る。その途端、トソーが率いていた兵たちがものも言わずにバタバタと倒れだした。
「おい、どうした!? むっ?」
トソーは倒れた兵士を抱き起そうとして絶句する。兵士たちは一瞬にして完全に干からびていたのだ。
「どうした、老いた魔戦士よ。お前はまさか、魔力も持たぬ役立たずばかり連れて来たのか?」
男の声に、トソーはハッとして跳び下がり、槍の鞘を払って構えた。男はトソーが居た場所からわずか5ヤードの所に突っ立っていた。
「うぬっ! わしはカッツェガルテンの魔戦士、オー・トソー。貴様の名を聞いておきたい、名乗れっ!」
トソーの怒声は周囲の空間を震わせた。『風』の魔力を持つ彼の『無用な雑音』である。しかし、男は周囲をざわつかせる魔力を意にも介さず、右手の上で法器をいじっている。
トソーはその姿に言い知れぬ恐怖を覚えたが、
(わしがここで敗れても、逃げ延びた兵たちがウェカお嬢様に急を知らせるじゃろう)
と覚悟し、無謀にも攻撃を試みた。
「名乗らぬのか? ならば、名無しの魔導士として逝くがいい。『暴戻なる突風』!」
トソーが突風のように突きかかると、男の前後左右上下からも風の槍が襲い掛かる。
しかし、
「ははっ、無駄なことは止めろ!」
カーン!
トソーの奥義はあっけなく阻止される。
「うむ、貴様はやはりアルケー・クロウだったんじゃな?」
男の胸の前でピクリとも動かぬ槍に力を込めながら、トソーが鋭い目で問うと、男は面倒臭そうにトソーを見やり、
「俺を知っていたんなら、最初から突っかかって来るな。お前程度では退屈しのぎにもならないからな」
そう言うと緋色の瞳を光らせた。トソーはただそれだけで、
「うむっ!」
ボシュンッ!
くぐもった破裂音とともに、ただの肉片と化した。
アルケーは詰まらなさそうな顔で、
「さて、俺が出るまでもないか。眷属たちよ、あの城を恐怖のどん底に叩き込み、絶望の中ですべてを灰燼に帰せ!」
と、魔力の渦から幾千ものドラゴンを召還すると、高笑いしながら消えて行った。
「みんな、頑張るのよ! ジンが来るまで持ちこたえるの!」
ウェカは内城の城門の上で、群がり寄せるドラゴンに矢を放ちながら、大声で兵士たちを励まし続けていた。
そんなウェカに、至近距離まで近づいて来たドラゴンがブレスを浴びせかける。
ガアアッ!
「ウェカ様、危ないっ!」
横合いからマルが突っ込んできて、ウェカをタックルで突き飛ばす。先ほどから、こんな状況の繰り返しだった。
「ありがとうマル、また助けられたわね」
ウェカがお礼を言うと、マルは長剣を手に大声でウェカに
「また、じゃありません! お嬢様はこの大陸の統領の一人で、復興に取り掛かったばかりです。ザコ将軍の言うように早くここから脱出してください! ウェカ様に何かあったら、ジン様がどれほど悲しまれるかお判りにならないのですか!?」
叱りつけるように頼む。
けれどウェカは、煤で汚れた顔を横に振って、きっぱりと言った。
「そのザコ将軍とリンは、町の中で人々を守るために戦ってくれています。アタシはこのポリスの執政官、それらのみんなを見捨てて逃げることはできません」
「しかし……」
なおも脱出を勧めようとするマルを無視して、
「今はそんなことで言い争っているヒマはないわ! 来たわよ!」
ヒュンッ!
ウェカは弓勢鋭く矢を放った。
そのころザコとリンは手勢を率いて、町中に着陸したドラゴンの群れと戦っていた。
ザコは部下に射落とさせたドラゴンを、自慢の大剣で屠っていく。リンも双剣でドラゴンを仕留め続けているが、その数は一向に減らない。
遂に、
「リン、後だ!」
「えっ!?」
ザコはドラゴンの一匹がリンの後ろからブレスを吐こうとしているのを認め、リンに大声で注意した。
ボワアッ!
「やっ!」
リンは間一髪でそれを避けたが、次の瞬間、
ゴアアアッ! バシーン!
「あがっ!」
「リンっ!」
別のドラゴンの尻尾の一振りで、リンは血煙を残して消えた。
この瞬間、ザコは城壁と町の防御の放棄を決めた。
戦況は絶望的だった。狡猾なドラゴンたちは、矢の届かない距離からブレスを吐いて来る。さしも勇猛な親衛隊たちにも、疲労の色が濃くなって来た。
疲労が蓄積すると行動が緩慢になる。そのため、交戦1時間を超えた辺りから味方の損害が急増し始めた。
それでもウェカは、弓を手放さなかった。
(もう少し、もう少ししたらジンが来てくれる。ジンが来れば、こんな敵は者の数じゃないわ)
グワアアーッ! ドカン!
「あっ!」
ドシンッ!
ドラゴンの攻撃で城の見張塔が崩れ落ちた。その残骸が不幸にもマルを直撃したのだった。
「マルっ!」
ウェカは急いでマルに駆け寄ったが、巨大な壁の残骸に圧し潰されたマルの目には、もう光はなかった。
そこに、城そのものに守備範囲を狭めたザコが、援軍を連れて駆け寄って来た。
「お嬢、ここは俺っちたちに任せて郭内にお戻りください!」
ザコは、マルの遺骸に気付くと一瞬声を失ったが、すぐさまウェカにそう言うと続けて
「トソー将軍が引き連れていた兵たちの話では、このドラゴンはアルケー・クロウの眷属とのこと。魔王の眷属に対抗できるのはジン殿しかいません。早く脱出してジン殿と合流してください! 俺っちの最期の頼みです」
と、頑強に脱出を勧めた。もはやそれは懇願ではなく、哀願に近かった。
しかしウェカは、髪を振り乱して頭を振ると、
「アタシはこのまちの執政官よ? 魔王だか何だか知らないけれど、市民やあなたたちを見捨てて引っ込んでいるなんてできないわ! そんなことしたら、ジンに怒られちゃう」
そう叫び返すと、再び弓に矢をつがえる。
そのときだった、
ガアアッ!
「あああっ!」
「お嬢!」
ウェカはドラゴンの吐く炎に包まれた。それに続いてザコも
「ぐおっ!……無念ッ!」
別のドラゴンのブレスをまともに受け、あっという間に火だるまになる。
炎の中のウェカは、最後の力を振り絞って弓を引いたが、弦がバンっという音とともに切れた。
ウェカは弓を投げ捨てると、
「いやだっ! ここで死ぬのはイヤっ! せっかく『摂理の黄昏』を止めてジンと暮らせると思ったのに!」
燃え尽きる直前までそう叫んでいたウェカは、最期の瞬間
「ジン、さよなら。愛してる」
そうつぶやいて灰になった。
急を聞いたジンがカッツェガルテンに到着したのは、ウェカが灰になってわずか10分後のことだった。
(魔神を狩ろう その22へ続く)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ジンとウェカ、こうなるだろうなとは思っていましたが、やはり最後まで『これでよかったのかな』と迷っています。
そもそも、『違う時空の昔物語編』は、ジンの覚醒には欠かせない伏線になりますので、できる限りシリアス路線で書いて来ました。それに僕の作品で主要メンバー(それもヒロイン枠)がいなくなる場面を描写するのは珍しいのですが、『ヴァリアント』のオリザしかり、『ハシリウス』のセントリウスしかり、それぞれの描写にその登場人物の役割を象徴させることに気を付けました。
ウェカの役割は、今後の話の中でハッキリさせていくつもりです。次回もお楽しみに。




