Tournament56 Fiends hunting:Part16(魔神を狩ろう!その16:秘密)
魔軍の増援を阻止するため、別働隊を出したジンたちは、いよいよ北部魔軍の拠点攻略にかかる。
そして精霊王たちも、それに呼応して動き始めたが、エレクラはウェンディに特別な任務を与えていた。
【主な登場人物紹介】
■主人公ジン・ライムが5千年前の世界で出会った人たち
♡ウェカ・スクロルム 15歳 金髪碧眼の美少女。弓が得意なアタシっ子。5千年前の時空のカッツェガルテンというまちで出会った。貴族の娘だが弱い者に対する同情と理解が深い。ジンを運命の相手として慕っている。
♤ザコ・ガイル 22歳 茶髪碧眼のオーガの青年。大剣をぶん回す俺っち戦士。ウェカと同じくカッツェガルテンに住んでいた。鍛冶屋の息子だがウェカの同志的存在。戦術的才能があり、ウェカに乞われてスクロルム家の私兵を率いている。
♡マル・セロン 22歳 黒髪黒眼のエルフの美女。剣の腕も確かだが本職は書記で、カッツェガルテンの民政を引き受けている。性格は冷静で、ウェカを妹のように可愛がっている。ザコとは幼馴染である。
♡ネルコワ・ヨクソダッツ 13歳 茶髪で黒い瞳を持つヴェーゼシュッツェンの後継者。父の戦死と家臣団の離反で殺されそうになっていたところを、従姉の忠臣アーマ・ザッケンに救われ、カッツェガルテンにアーマの妹アーカ・ザッケンを遣わして救援要請した。
♡ジビエ・デイナイト 17歳 赤髪灼眼の17歳。オーガ族長の長女でジンの能力に惹かれ、異世界での仲間となる。巨大な棍棒を揮って戦うアタイっ子猛将。
♤サリュ・パスカル 17歳 金髪碧眼の美男子でユニコーン族長の長子。ジンの異世界に興味を持ち、ジビエに誘われる形で仲間になった。レイピアを持つが智謀と魔力に優れた参謀役。
♡サラ・フローレンス 精霊王アクエリアスの神殿に仕えるエルフの神官で、金髪碧眼の17歳。魔物に襲われ孤立した神殿にいたところをジンたちに助けられて仲間になる。精霊王との共感能力に優れ、数々の危機を予言する。回復魔法の達人。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
僕たちは、北部の魔軍を率いるザカリアという魔神が立てこもったルツェルンの町を包囲した。
「途中で伏兵や罠があるかと思っていたけれど、拍子抜けだったね。フェーゲルンがあっけなく陥落したから、奴らもルツェルンに退くのがやっとだったんだね」
魔軍の旗が林立する城頭を眺めながら、ジビエさんが笑って言うと、
「まあ、キミたちの行動はボクの期待をはるかに超えていたからね。それにマトン殿にザコ将軍たちと同一行動を取らせたことも、きっと今後の役に立つよ」
サリュが視線をルツェルンから外さずに言う。
「そうかい、アタイはサリュから勝手なことをしたって怒られるかと思っていたよ。
それで、どうやってザカリアをやっつけるんだい?」
ジビエさんが訊くと、サリュは苦笑しながら答える。
「ザカリアの兵力は1万も残っていないはずだ。多くて8千程度だろう。
ボクたちはここに1万7千弱の兵力を集めているが、一番気にしないといけないのは、ザカリアが破れかぶれで決戦を挑んで来ることだ」
「はっ! 敵さんがわざわざ出撃してくれるんなら、まどろっこしい攻城戦なんてしなくて済むからありがたいじゃないか。アタイたちが一ひねりで勝負を決めてやるよ」
巨大な棍棒を肩に担いでジビエさんが言うと、サリュは苦笑を残したまま言った。
「まあジビエらしい言い方じゃあるが、ことはそう単純じゃない。ザカリアは魔軍の一角を担うほどの者だ。戦のセンスはともかくとして、魔力はずば抜けて高い。
そんな奴が破れかぶれになったら、何をしでかすか分かったもんじゃない」
そして彼は僕を見て、
「ボクから言わせれば、どれだけ負けが込もうとも、どれだけ魔物を失おうとも、ジン、キミ一人を討ち取れば今までの意趣も返せるし、失敗を取り返したことになるだろう。
だからジンには、軽々しく前線に立たないようお願いするよ。乱戦に持ち込まれたときにキミの援護が出来なくなることが一番怖いからね」
そう言った。それを聞いてジビエさんもうなずき、
「それはアタイからもお願いするよ。ジンに何かあったら、おちびちゃんやカッツェガルテンの彼女さんがどれだけ悲しむかしれないからね」
そう言うと、僕がウェカとの仲を説明しようと口を開く前に、
「もちろんアタイだって、そんなことになったら生きる気力ってもんを無くしちまうよ。
アタイだってジンのことを想う気持ちは、ウェカさんやおちびちゃんには負けてないつもりだからね」
そんなことを言われたので、何も言えなくなってしまった僕は、
「わ、分かったよ。けれどジビエ、サリュ、君たちこそ無茶なことはしないでくれよ?」
そう答えるのがやっとだった。
その頃、東部の魔軍がザカリアと手を結ぶのを阻止するため、ターカイ山脈東鞍部に軍を向けたザコ、カーンそしてマトンは、首尾よく峠を占拠して道を塞ぐように陣地を設けていた。
ザコもカーンも、オーガであるマトンに対し最初は警戒していたが、経験が豊富なマトンは自分に向けられた疑惑の視線に理解を示し、行軍中は意識してザコたちと意見を交換するようにした。
ザコもカーンも、マトンの穏やかな性格や静かな話し方にふれ、
(そう言えばジン殿は、みんなで『摂理の黄昏』を乗り切ろうと言っていたな。オーガやユニコーン、エルフなどは存外俺たち人間と余り変わらない心性を持っているのかもしれないな)
オーガなど、彼らが今まで『亜人』と呼んであまり信頼を寄せていなかった存在への認識を改めていた。
そのため、彼らは話し合った結果、最も大事な主陣地はマトンが守備し、ザコは主陣地を守るように造られた防御陣地に占位し、カーンは主陣地から2マイルほど突出した前進陣地を守ることになった。主陣地のマトンを信頼しないとできない布陣だった。
「マトン殿、東部の魔軍はどう出ると思われますか?」
防御陣地に移る前、ザコがマトンに訊くと、マトンは白いあごひげを撫でながら、
「今まで、各地の魔軍が連携を取って戦略的な行動をしたとの話は聞いていない。
しかし各方面軍を統括する者は存在するはずだ。その動きが見えないからと言って、魔軍がバラバラに動いていると思わない方がいい。
今まで奴らは連携を取らなかったのではなく、連携する必要を感じなかったのだろう。北部魔軍が壊滅したら、奴らは総力を挙げて私たちを潰しに来るだろうな」
そう、忌憚のない意見を述べた。
「ふむ、連携の必要を感じなかった、か……癪に障るが、恐らくそのとおりだろうな」
ザコは腕を組んでそうつぶやく。魔物は自分たちの存在を歯牙にもかけないと言われたも同然だったが、マトンの言葉が正しいことは身に染みて分かっている。ジンがカッツェガルテンに現れるまでは、攻めて来る魔物を食い止めるだけで精一杯だったのだ。
難しい顔をしているザコに、同じく真剣な顔をしたカーンが
「悔しいが、ジン様が現れるまで俺は、人間には未来がないって考えていたのは確かだ。そんな俺たちに魔物どもが脅威を感じなかったのも不思議じゃない。
が、今は違う。俺はジン様を見ていて、俺たちでも未来を切り拓くことは出来るって気になった。大陸にはまだ魔物に虐げられている同胞がたくさんいる。機を見てそういう人たちを一人でも助けられればって思うよ」
胸に秘めていた思いを吐露する。魔物に寝返ったラウシェンバッハ村長の依頼でウェカの命を狙ったことを今でも激しく悔やんでいるカーンだった。
その時、ジンから斬り飛ばされた右ひじには、金属の義手を装着している。
「まあ、俺っちも同じ気持ちさ。その時が来たら、お互い思いっきり暴れてやろうぜ。
ただ、それまではジン殿が言うように、仲間と力を合わせて一歩一歩進んで行くしかないんだろうな」
義手の具合を確かめているカーンに、ザコは吹っ切れたような笑顔を向けて言った。
ルツェルンの城壁の上から、ジンたちの軍を忌々し気に眺めていたザカリアは、傍らに控えたヤギの魔物に吐き捨てるように訊く。
「クラッグ、奴らがここまで来る間、どうして一度も攻撃を仕掛けなかったんだい? 敵だって二手に分かれてここを目指していたんだ。ジン・ライムがいる兵団に攻撃を仕掛けるチャンスは何度もあったはずだよ?」
はっきりと不快感を示しているザカリアに、ヘルゴートのクラッグは落ち着いた声で訊き返した。
「ザカリア様はゼンブルグから後退するとき、私に『ジンを奇襲するお膳立てを整えろ』とおっしゃったと思いましたが、私の聞き違いでしたか?」
「ええ、確かにそう命じたわよ。けれど奇襲を仕掛けるチャンスは何度かあったのに、一度だって軍を動かさなかった。この町をジンが包囲した今、どうやって奇襲を仕掛けるつもり? まさか臆したんじゃないだろうね?」
ザカリアはクラッグに詰問口調で畳みかける。
けれどクラッグは、不機嫌なザカリアの声を聞き流すかのように、
「進撃途中に襲われることは敵も計算済みのはずです。そこに攻撃を仕掛けてもさしたる効果は期待できません。
むしろここまでの道を順調に進めたことで、敵には私たちを侮る気持ちが生まれているはずです。ザカリア様が乾坤一擲の勝負を挑まれるのはその時かと存じます」
落ち着いた声で言い聞かせるように話すクラッグだった。
ザカリアは少し機嫌を直し、
「ふん、人間風情に一時でも優越感を感じさせるのも癪に障るけど、それはまあいいとするわ。それでワタシがジンの首を獲れれば、アルケー様にも申し開きが立つってもんだし。
で、出撃はいつだい? 今夜でもワタシは構わないわよ?」
そうせっつくように訊く。しかしクラッグの答えは、ザカリアの満足するものではなかった。
「思い出していただきたいのは、我らにアルケー様が与えられた任務は、ジン・ライムたちをルツェルン攻めに拘束すること。ある程度の時間を稼ぎ、与えられた任務に忠実であるとアルケー様やロゴス様に印象付けねばなりません。
それにサリュ・パスカルというユニコーンは、油断ならない智将です。包囲が完了した夜に奇襲があることは想定内のことでしょう。彼の裏を掻くためにも、我々はしばらくこの城の守りに徹していると思わせなければなりません。ご理解ください」
ザカリアはクラッグの言葉を不満たらたらの様子で聞いていたが、
「戦は騙し合いです。我々が敵に舐められれば舐められるほど、雪辱の機会は近くにあるとお思いください」
クラッグがそう掻き口説くと、納得したのかザカリアはようやく首を縦に振った。
僕たちがルツェルンを包囲した夜、サリュは
「みんな疲れているだろうが、籠城戦の緒戦に包囲陣を攻撃して引っ掻き回すのは守備側の常道だ。もし敵が夜襲を仕掛けて来たら、それを逆手に取って城内に乗り込み、一気に勝負をつけよう。篝火を大きく焚いて警戒を厳にしてくれたまえ」
そう、部将に命令した。
「敵の夜襲を呼び込んで叩くんなら、篝火を焚かずに油断しているって思わせたがいいんじゃない? わざわざ飛んで火に入る何とやらみたいに、煌々と明るい陣地に強襲を仕掛けては来ないんじゃないかな?」
命令を聞いたジビエさんが不思議そうに訊く。確かにこちらの隙を見せれば、ザカリアは食いついて来るだろうと僕も思った。
しかしサリュは薄いくちびるを歪めると、金色の前髪に形のいい指を絡ませながら言う。
「うん、敵がザカリア一人ならそうした。けれど敢えて戦線を縮小したように、ザカリアには智慧の回る参謀がいるようだ。戦はしょせん化かし合いだ、そいつを化かせなきゃザカリアは出て来ない。
ボクなら、篝火が消えていたら敵の罠を疑うね。まさか敵の真ん前で警戒もせずに眠りこけるって舐めた真似はしないだろうと考えるんじゃないかな? 今までのボクたちを観察していたら、余計にそう思うはずだ。だから逆に篝火を明るく焚くってことは『警戒を緩めていない』って見せかけていると判断するだろう」
サリュは自身ありげに
「だからジン、ジビエ、今夜は悪いがボクに付き合って起きていてくれないかな? ザカリアが来たら、3人でおもてなしをしてあげよう」
そう言うと、不意に真剣な顔になって続けた。
「部隊を2班に分けたがいい。今夜肩透かしを食らっても明日の昼に不覚を取らないようにね。じゃ、ボクは部隊を回ってからキミの陣屋にお邪魔するよ、ジン」
★ ★ ★ ★ ★
ジンが今いる世界は、5千年も前の世界だ。もちろん、彼の元いた世界と同一の時間軸にあるかどうかは定かではないが、少なくとも地理的なものは大きな差異がなかった。
現に、ヒーロイ大陸の中央には大陸最高峰のユグドラシル山が聳え立っていたし、大陸を東西に分けるターカイ山脈、ユグドラシル山から南方にそそり立つケワシー山脈も存在した。
そのユグドラシル山中腹、5合目辺りに、大理石でできた立派な神殿がある。この世界でも人々から崇拝されている精霊王のまとめ役、土の精霊覇王エレクラの神殿である。
エレクラは、ジンがこの世界に姿を現して以降、頻繁に神殿に姿を見せていた。
普段は姿を見ることはおろか、声を聞くことすら稀だった神殿の統括者、大神官のバウム・フローレンスは、エレクラに親しく近侍してその世界の平穏維持に尽力する姿勢にさらに信仰を高めるとともに、その祭事を司る者としての責任を強く感じていた。
そのバウムが、いつにも増して緊張の表情で『宣託の間』に急いでいる。その手には分厚い書類が握られていた。
「エレクラ様、各地の神殿や遥拝所からの報告がまとまりました」
入口でバウムが声をかけると、エレクラの春風のような優しい声が聞こえてきた。
「ご苦労だったな大神官。余り他人に聞かれても困る内容だ。もっと近くに寄るといい」
「はっ、では失礼いたします」
バウムはそう答えて『宣託の間』に入り、さらに身を硬くする。そこにいたのはエレクラだけではなく、他の精霊王……火の精霊王フレーメン・ヴェルファイア、水の精霊王アクエリアス・リナウン、風の精霊王ウェンディ・リメン……が揃って着座していたからだ。
「大神官、各地の四神祭殿からの報告を読み上げてくれ」
精霊王たちを目の当たりにして思考が停止したバウムに、エレクラが静かに声をかける。その声で我に返ったバウムは、慌てて手に持った書類をめくり、
「は、はい。まずはフレーメン様の神殿からシンシア神官長が寄越した報告です。
フレーメン神殿には遥拝所も含めて信者数万人が庇護を求めて避難して来ているようです。シンシア神官長はじめ神官たちが防戦に務めていますので、現状ナメーコ地域は魔物の侵攻を許しておりません。食料も自給自足で何とか賄えるとのことです。
ただ、南方魔軍がその主力をケワシー山脈西方に移動させつつあるようです。この兵団が西方魔軍と手を握ったら予断を許さないと言ってきております」
バウムはそこで一息入れた。フレーメンが難しい顔で腕組みをする。
「フレーメンも思うところはあるだろうが、まずは全般的な状況を知るべきだ。
大神官、報告を続けたまえ」
バウムはエレクラの言葉に促されて、また口を開いた。
「は、続きましてウェンディ様の神殿からレード神官長が送って来た報告です。
こちらも神殿や遥拝所に3万の人々が避難しているようですが、こちらはアルック地方とモント地方で魔軍と激闘中とのことです。
アルック地方はキミントンの神殿を中心によく守っているようですが、モント地方では圧され気味のようで、南部魔軍が西部に力点を置き始めたのも、モント地方の制圧が近いと判断したからかもしれません」
今度は黒髪で翠のマントを着た少女、ウェンディが真剣な顔で右手を口元に当てる。バウムはエレクラの視線を感じて顔を向けると、エレクラは静かな表情のままうなずく。
その合図を受けて、バウムは三度口を開いた。
「最後はアクエリアス様の神殿ですが、ここはジン・ライム殿が最初に訪問され、魔物を打ち払っておられます。サラ神官長はただ今ジン殿と行動を共にし、神殿や遥拝所に神官はいない状況ですが、ユニコーン族やオーガ族のおかげで大事に至ってはおりません。現状で最も安定した地域だといえるでしょう。報告は以上です」
すべての報告を目を閉じて聞いていたエレクラは、バウムが報告を締めくくると
「状況は分かった。大神官、ご苦労だった。我々で協議したいことがあるので、席を外してもらえないだろうか?」
あくまでも静かに言うエレクラだった。
大神官バウムが部屋から出て行くと、最初にフレーメンが苦々し気に言う。
「魔物の分際で好き勝手しやがって。エレクラ、ナメーコ地方へ眷属を送ることを許可してくれ。南方魔軍と西方魔軍が手を握る前に叩き潰してやる」
それを聞いて、アクエリアスは
「ちょっと待って。フレーメンの眷属が下界で暴れたら、魔物は一瞬で退治できるでしょうけど、その代わりどれだけの山野が灰になるか分かったもんじゃないわ。まずはウェンディに相手をさせたらどうかしら?」
少し慌てた様子で言う。
アクエリアスの反論に、フレーメンはウェンディをちらりと見て、
「ふん、そのウェンディがアルック地方の守りを固めていれば、南方魔軍が西に移動することもなかった訳だ。分かった、まずはウェンディに名誉挽回をさせてやろう」
そう皮肉っぽく言う。ウェンディは顔を赤くして何か言いたげだったが、フレーメンの性格を知っている彼女は何も言わずにうなずいた。
「ちょっと、フレーメン。ウェンディの神殿がある方面には、最初アルック地方に東方魔軍が、東南海岸には南方魔軍が上陸して来て、彼女だけ2正面作戦を強いられていたのよ? そこは考慮してあげてほしいわ」
黙りこくってしまったウェンディの心情を思い遣ってアクエリアスが言うと、フレーメンも頭を掻きつつ、
「む!? ま、まあそうだったな。俺が西方魔軍と南方魔軍を抑えておくから、デュクシ地方まで取り戻すんだな。お前ならできるだろう、ウェンディ」
と、ウェンディの機嫌を取るように言う。
フレーメンとアクエリアスのやり取りを、目を閉じて聞いていたエレクラは、ウェンディを見つめて優しく言った。
「ウェンディ、キミントンの神殿に行く前に、北方魔軍を攻めているジン・ライムを訪ねてみるといい。彼の魔力の質は『土』だが、『風』のエレメントも使いこなせるようだ。お前が行って風の魔法のイロハを手ほどきしてやるといい。きっと将来、私たちのためになるはずだ」
「えっ?『土』と『風』のエレメントを使う人間ですか? 魔力の転換とかじゃなくて?」
ウェンディがびっくりしたように訊くと、エレクラは何を思い出したのかくすりと笑い、
「そうだ。会ってみると解ると思うが、ひょっとしたら懐かしい気分になるかもしれないぞ? それと注意しておくが、ジン・ライムはただの人間ではない。しかし、その正体に思い至っても決してそのことは口にするな。分かったな?」
後半は真剣な顔になって言うエレクラだった。
ウェンディは釈然としないながらも、
「分かりました。それじゃボクはとりあえずそのジン・ライムに会って魔法を教えたら、すぐにキミントンの神殿に戻り、東方魔軍へ反撃を開始しますね?」
おもむろに立ち上がりながらそう言って姿を消した。
エレクラはアクエリアスとフレーメンに視線を戻すと、
「フレーメン、私の準備が終わるまで何とか持ちこたえてくれるか? それとアクエリアス、そなたはすぐにユニコーンやオーガと連携を取って、西方魔軍を北から圧迫するように攻撃を開始してくれ。大陸の西側は我らで魔物の跳梁を止めるぞ」
サッと立ち上がってそう言うと、彼もまたどこかに消えた。
四神が動き出した……そのことは、各精霊王が自らの神殿に仕える神官長たちへのお告げとなって、すぐに人々も知るところとなった。
その象徴的な出来事が、水の精霊王アクエリアスのホルストラント訪問である。アクエリアスはユニコーン族やオーガ族を訪ね、二つの種族に蹶起を促したのだ。
「いつか私が皆に予言したとおり、『伝説の英雄』がこの世界に降臨しました。彼とはすでに面識はあることでしょうが、私は皆さんに『摂理の黄昏』を乗り切るため、魔物たちを率いている存在を引きずり出す作戦を実行してもらいたいと思います」
アクエリアスの訪問を最初に受けたのは、オーガ族長ヴォルフだった。
ヴォルフは、アクエリアスが話している間、一族の長老であるロースや重臣のガルム、グライフ、レーヴェたちの様子を観察していた。
そして重臣の三人だけでなく長老も神妙な顔をしているのを見て取ると、アクエリアスに迷うことなくこう答えた。
「我が娘ジビエが報告してきましたが、ジン殿は仲間を信頼すること篤く、機を見るに敏で、他人の意見をよく聞くとのこと。
気難しい我が娘がべた褒めしておりますが、扱いの難しいユニコーン族の若君が協力を惜しまないところを見ると、ジビエの評価も故無きものではないと思います。
アクエリアス様が我が一族に期待しておいでいただいたものをどうして無碍にできましょうか。すぐに軍備を整え、『摂理の黄昏』を食い止めるべく行動を開始いたします」
それを聞いてアクエリアスは微笑み、
「色よい返事をもらって嬉しい限りです。では私は引き続きユニコーン族のアルフレオの所に参りましょう。軍を整えたらトリューフ地方に出られるよう、速やかにホルストラント南方で待っていてください」
そう言い終えると、その姿は虚空に溶けるように消えて行った。
「……族長、我らが最初ジン殿から聞いて想像していたより、事態は深刻なようですね?」
重臣筆頭のガルムが言うと、ヴォルフはロースに頭を下げて、
「長老、ことここに至っては、もはや我らも状況を静観しているべきではありません。アクエリアス様から直々の出陣要請を賜ったからには、一族挙げて力を尽くすことを認めてください」
そう言うと、ロースは案に相違して静かな声で答えた。
「わしは無道な戦いは好まぬが、今回はジン・ライム殿が申して来た時と状況が違う。大陸の安寧守護に責任を持っておられる四神からの依頼、断れるはずもなかろう。
ヴォルフ、出撃するからには我が一族の名を辱めぬよう、しっかりとアクエリアス様の手助けをして来るといい。わしはこの里を守っているので、何も心配いたすな」
ヴォルフは顔を上げてニヤリと笑うと、
「レーヴェ、お前に後方支援をお願いする。要所要所に遅滞なく物資を届けることに関して、お前の右に出る者はいないからな。
先鋒はグライフ、後陣はガルムだ。出撃は明日の8点半(午後1時)とする、それまでに準備を完了させておいてくれ」
三人の重臣にそんな指示を出した。
「アルフレオ、あなたの息子の活躍は耳にしています。『伝説の英雄』を助けて北方の魔軍を追い詰めている手腕は誠に見事です。さすがは『摂理の黄昏』について早くから研究を進めてきただけはあります」
ヴォルフからオーガ族の協力を引き出した水の精霊王アクエリアスは、休む間もなくその足でユニコーン族の里を訪ねた。
「あなた方ユニコーン族は、オーガ族やアルック地方のエルフ族と並んで、人間たちといい関係を結んできた種族。『摂理の黄昏』に対抗するために、ぜひ力を貸してください」
アクエリアスの言葉を聞き、アルフレオは居並ぶ臣下たちの顔を見回した。
長老であるエドウルフ・パスカルは、四神の一柱であるアクエリアスが自ら足を運んで来たことに、大きな衝撃を受けたような顔をしている。日頃からサリュが『摂理の黄昏』について調べることを苦々しく感じていたエドウルフだが、事態の深刻さをここに至ってはっきりと悟ったのであろう。
同じく重臣であるエメ、タロス、ダッセンも、神妙な顔でうつむいている。エメとダッセンはサリュと認識を同じくしていたので、今後の戦略を考えているような鋭い瞳をしていたが、人間に対して面白くない感情を抱いていたタロスは、アクエリアスの言葉に当惑の表情を浮かべていた。
(強情なタロスだが、さすがにアクエリアス様に口答えはできないようだな。まあ、タロスも思い込みが激しい男だが、もの分かりが悪いわけではないからな)
アドウルフが心の中でにんまりとした時、エドウルフが口を開いた。
「ただの言い伝えに過ぎないと思っていた『摂理の黄昏』だが、アクエリアス様自らが動かれるということは事態がそれだけ切迫しているということ。
アドウルフ族長、里のことは心配無用だ。アクエリアス様のご指示を承り、『伝説の英雄』とともに『摂理の黄昏』を留めるため光輝ある我が一族を率いて勝利へと進め」
長老たるエドウルフの言葉を受け、アドウルフはうなずいて言った。
「今、長老のお言葉にありましたとおり、我がユニコーン族は一族挙げてアクエリアス様のご指示に従います。急いで出撃準備をいたしますので、オーガのヴォルフ殿との会合日時をご教示いただければ幸いです」
アドウルフの決断を聞き、アクエリアスは満足そうに微笑むと、
「うむ、さすがは知力に優れたユニコーン族ですね。アドウルフ、エドウルフ、私はあなた方の決断を嬉しく思いますし、大陸に住まう人々もあなた方に感謝するはずです。
それでは明後日7点(午前8時)までに、ホルストラント南方のトリューフ街道口まで来てください。ヴォルフも来るはずですから、そこで私の計画をお話しします」
そう告げて、虚空に溶けるように姿を消した。
「さて、それでは準備に掛かりたいが……」
アドウルフは薄い笑いを浮かべながらタロスを見て
「タロス、いつかお前はこの戦いに関しては留守に回してくれと言っていたな。今でも同じ気持ちか?」
そう訊くと、タロスは厳つい顔を緩め、頭をかきながら答える。
「いや、お館様もひとが悪い。あの時は俺もこれほどの事態だとは思いませんでしたし、あの小僧も何となく胡散臭かったんでああ言いましたが、若君がすっかり信頼されているみたいですからね、もちろん前線で戦わせていただければ幸いです」
それを聞いて、アドウルフは命令を下した。
「分かった、それではタロスには先鋒で頑張ってもらおう。ダッセン、お前には後陣で全体を見ておいてもらおうか。エメ、お前には後方支援と全軍予備をお願いする」
★ ★ ★ ★ ★
「奴らは絶対に油断しているんだ。今を措いて奇襲の機会はないよ」
ジンたちに包囲されたルツェルンの城壁の上で、北方魔軍を統括している『偽善の魔神』ザカリアは、側に控えているヤギの頭をした魔物に力説する。
「いいかいクラッグ、あんなに篝火を明々と灯すのは、ワタシたちの夜襲を警戒していると思わせるためだと思わないかい? 奴らは今日ここに到着して陣を構えたばかりだ。ゆっくり身体を休めたいって思うのは自然だろう? だからわざと篝火を焚いて、ワタシたちが夜襲を諦めるように仕向けていると思うね」
ザカリアの主張を聞いて、クラッグと呼ばれたヘルゴートは重々しく首を横に振る。
「その見方も出来ましょう。ですが私は、ザカリア様の奇襲を呼び込むために敢えて篝火を焚いているのだと思います。
確かに、罠を仕掛けるのなら普通は陣地内をあんなに明るくはしないでしょう。寝静まっているように見せた方が我々を騙せると思うでしょうから。
しかし相手には知恵者のユニコーン族がいます。かえって陣内を明るくして我らを待ち受けるという策を取りかねません。現にザカリア様は斬り込もうとおっしゃっているではありませんか」
「クラッグ、それはワタシが相手の思う壺にはまっているっていうことかい?」
ザカリアは柳眉を逆立てる。これは意固地になりかけている証拠であり、これ以上剥きつけに反対意見を述べれば、ムキになったザカリアは敵陣に突っ込みかねない。
「いえ、そんなつもりではありません……それではこうしましょう。ザカリア様がおっしゃるように敵が我々に夜襲を諦めさせるために篝火を焚いているとしても、ザカリア様自らが斬り込む必要はございません。単に敵陣を引っ掻き回すことが目的なのですから。
ですから、シロエに2千ほどを与えて試しに夜襲を仕掛けさせてはいかがでしょう? その際に戦果を拡張できそうならザカリア様も出られることとされては?」
クラッグはザカリアに折衷案を示した。そうでもしないとザカリアの突出を抑え切れないと思ったからだが、奇襲部隊の指揮官に推したシロエは万事に慎重なので、仮にジンたちに備えがあっても深入りしないだろうとの読みもあったのだ。
ザカリアはクラッグの必死な表情を見て、渋々ながら彼の意見に同意した。
「分かったよ、じゃまずはシロエに敵を蹴散らしてもらおう。シロエをここに呼んで」
ザカリアは側近くにいた副官にそう命令すると、クラッグを振り返って言った。
「戦は機を逃さないことが大切だよ。シロエが敵を崩したらすぐに突っ込めるよう、ワタシも部隊を準備して城門内に待機するよ。文句はないだろう?」
ザカリアの命令を受けたシロエの部隊は、さっそく城門に集まり始める。静粛が大事だと知りながらも、兵たちの鎧や武器が立てる音を抑えることは困難だった。
「もっと静かに準備はできないのかい? これじゃ今から攻撃することを奴らに教えているようなもんじゃないか」
ザカリアが自分の部隊を整列させながら、苦々し気につぶやく。そうこうしているうちにシロエ部隊は準備が整ったのだろう、先頭にいるシロエが剣を抜き、門を守る兵たちに命令するのが聞こえた。
「今から出撃する。急いで門を開けよ! わたしたちが出たらすぐに門を閉じよ!」
シロエの声に応じて、城門は重々しい音を立てて開いた。シロエには行く手に見える篝火は幻想的で、まるで異界へと通じているように思えた。
(しっかりしろ、敵陣に備えがあったとしても、サッと駆け抜けて戻ってくればよい。クラッグ殿もそう言っていたじゃない)
シロエは出陣前にクラッグから注意された言葉を思い出すと、身震いしながら命令を下した。
「出撃、我に続け! 狙いは敵陣をかき回すことだよ!」
おおおっ!
シロエが剣を振りかざして飛び出すと、2千の兵士たちはそれに続いて城門から押し出した。
その少し前、ジンたちはルツェルンの町を見ながら敵を迎え撃つ態勢を整えていた。
「……本当に敵は出て来るかな?」
ジンがつぶやくと、側に立っているジビエが真剣な顔をしてうなずく。
「出て来ますよ。それがザカリアって大将なら御の字ですが、敵にもサリュみたいな奴が居るってんなら、誰か部下を出して来るでしょうね」
そこに、ちょうどやって来たサリュが笑いながら言う。
「やあジビエ、相変わらず戦場での眼力は素晴らしいね。ボクもザカリア、と言うよりその参謀は、ザカリアではなく部将を試しにぶつけて来るだろうと観るね。
それじゃ敵さんの参謀の株を上げるだけで、こちらとしては面白くない。そこでちょっと作戦を変更したいんだ」
「何だよ、その部将にしても、ルツェルンを取るにはどうせ討ち取らなきゃいけない敵だろう? わざわざ首をくれるってんなら、ありがたく頂戴すりゃいいじゃないか」
ジビエが不思議そうに言うと、サリュは形のいい指を顔の前で横に振って見せ、
「ノンノン、もちろんその部将の首級もいただくよ。けれどちょっと手を加えて、ザカリアもこの場におびき出してやろうってことだ。
ひと手間かけたら料理はずっと美味しくなるだろう? それと同じさ」
そう、薄く笑って言う。
「ひと手間か。具体的にはどんなことを考えているんだい?」
ジンが訊くと、サリュは流し目をジンに当てて言った。
「済まないがジン、キミが最初に出撃して来る部将の矢面に立ってくれないかい? そして頃合いを見てボクの陣地に逃げ込んでくれればいい」
それだけを聞いて、ジビエはサリュの作戦を理解した。
「なるほど、それでザカリアはアタイたちが慌てていると勘違いして出撃して来るってんだね? じゃ、アタイはジン様を助けることに専念して、敵をぶっ叩くのは後回しにしてやるよ。サリュ、それでいいんだろう?」
「ふふ、さすがはジビエだ。何度も一緒に戦ったから、ボクの作戦のクセをすっかり覚えてしまっているようだね? そのとおり、ジンに近づき過ぎず、離れ過ぎないように敵をあしらってくれないか? ついでに最期の止めはキミに任せるよ」
サリュが爽やかに笑うと、ジビエも心底おかしそうな笑顔を浮かべてジンに言った。
「じゃジン様、危なくなったらアタイが必ず助けるから、無茶だけはしないでおくれよ?」
ジンも苦笑交じりにうなずいた。
「出撃、我に続け! 狙いは敵陣をかき回すことだよ!」
おおおっ!
シロエは、幻想的な篝火の光に照らされながら、不気味に静まり返っている敵陣へとしゃにむに吶喊する。彼女は、ザカリアの読みどおりジンたちがぐっすりと寝こけていることを期待しながらも、
(いや、そんなにうまく物事が進むことなんてめったにない。私たちを待ち受けているのなら、早く攻撃を仕掛けて来てほしいものだわ)
そう考えながら、部隊の先頭に立っていた。
やがて、敵陣の50ヤードほどまで近づいた時、ジンたちの兵が慌てて天幕から飛び出して来るのが見えた。
「そりゃあここまで近づいて何にも反応がないなら面妖よね。とすると、奴らは本当に油断していたってこと?」
シロエがそうつぶやいたとき、革鎧を付けて美々しい剣を佩いた少年が、配下の兵たちに命令を下しているのが見えた。人間にしては大きい体躯を持つ銀髪の少年……噂に聞いた『伝説の英雄』ジン・ライムに違いない!
ジンを見つけたシロエは、剣を握る手に力を込めて叫んだ。
「みんな、あそこに我らの敵、ジン・ライムがいる! この目で見たのが幸い、討ち取ってザカリア様のお心を軽くせよ!」
わあっ!
シロエから具体的な目標を示された魔物たちは、一層闘志をたぎらせて得物を振り上げる。その目は最高の獲物を見つけた肉食獣のようにギラギラとしていた。
「よし、敵の目標は僕だ。みんなは落ち着いて指示どおり敵をあしらうんだ」
ジンは、戦意を迸らせるシロエの部隊を見て、恐れる色もなく兵たちに言うと、全員に『大地の護り』でシールドを付与した。
(なんとしてもザカリアって言う魔神をおびき出すぞ)
ジンは『払暁の神剣』を引き抜くと、手勢とともに討って出る。
「みんな、バラバラになるな! 分隊ごとにまとまって戦うんだ!」
バシュッ!
ジンは群れてくる魔物に剣を叩きつけるが、いつもと違う手応えを感じ、サッと後ろに跳んで、戦っている兵士たちを観察する。みんなジンの『ラントケッセル』を信頼しているのだろう、わき目もふらず目の前の敵にかかっている。
しかし、ジンは剣で倒された魔物が、しばらくすると何事もなかったかのように立ち上がって、兵士たちの後ろから襲い掛かるのを見た。
(何だ、あいつらは不死身か!? いや、きっと何かカラクリがあるに違いない)
ジン驚きとともにそう思いながら、蘇った魔物に斬りかかる。
「やあっ!」
ジンは魔物に斬りかかったが、やはりいつもと違う手応えを感じていた。
(おかしい、確かに魔物に刃は通ってるし、倒れもするが、それにしては手応えが軽すぎる?)
釈然としないジンは、魔力視覚を使ってその違和感の正体を突き止めた。魔物には魔力はあるが生命力といったものが見えず、さらには魔物たちには何か不思議な糸のようなものが絡みついていたのだ。
ジンがその糸の流れをたどると、それは人型をした者たちと繋がっていることが分かった。魔族の傀儡使い……それが彼ら・彼女らの正体だったのだ。
(そうか! 奴は依代にしたものに魔力を込めて魔物に仕立て上げているんだ。だから魔物を攻撃しても意味がない……ワインがそう言っていたっけ)
ジンはそう気が付くと、今こそサリュの策を実施するタイミングだと悟った。
「きりがない! みんな、とりあえずサリュの陣地まで退くんだ!」
ルツェルンの城壁の上では、シロエ隊がジンの部隊に突っ込み、ほどなくしてジンが部隊を引かせるところを見て、ザカリアがクラッグに皮肉そうに告げていた。
「ほらご覧、奴らは慌ててシロエを迎撃したけれど、傀儡に閉口して部隊を退いたよ。クラッグ、あんたが頭が切れて何事にも慎重なのはいいことだと思うけど、こんな時には思い切った動きも必要なのさ。
ワタシは今から出るけれど、ルツェルンの守りは頼んだよ」
北方魔軍の参謀役として今までザカリアを補佐してきたクラッグは、現にジンの部隊が算を乱してサリュの陣地へと逃げるのを見せつけられては、これ以上何も言えなかった。
「……分かりました。ザカリア様のご武運をお祈り申し上げます」
硬い表情でザカリアの出撃を見送ったクラッグは、残った魔将である幻術使いのクロエを呼び出して言った。
「シロエが敵陣を崩した。ザカリア様は戦果拡大のため出陣された。
けれど私はまだこれが敵の策略だという疑いを拭えない。そこでクロエ、君にはザカリア様の後ろを守ってほしい。敵に不測の動きがあればそれを阻止し、ザカリア様を無事にここに連れ戻ってほしいんだ。頼んだぞ」
「了解いたしました。お任せください!」
クロエは上気した頬を輝かせるとそう言って、すぐに自分の部隊を呼び集める。
「私たちも出撃する。ザカリア様をお守りするんだ!」
クロエは取り急ぎ集まった2千を率いてルツェルンから出撃した。
そのころ、ジンの撤退を見たシロエは、いつもの慎重さを失っていた。
(私はいつもクロエと比べられ、後方支援的な任務しか与えてもらえなかった。ここで『伝説の英雄』を討ち取ったら、私も正当な評価をしてもらえるに違いない)
シロエは、常日頃心の中に抱えていた鬱憤を晴らすように、逃げるジンたちを追って陣地に深入りをしてしまった。何しろ、ジンは彼女と百ヤードも離れていなかったのだ。こんな千載一遇のチャンスを逃す手はない。
「みんな、敵は崩れた。もうひと押しして木端微塵にしてやれ!」
シロエのいつにない積極的な命令を受けた傀儡使いたちは、勇躍して前進し、逃げるジンたちを追ってサリュが率いる陣地の前面まで押し寄せた。
「ふふ、ジン。キミは本当に素晴らしいセンスを持っているよ」
陣内に駆け込んできたジンを目敏く見つけたサリュは、そうつぶやくと号令を発した。
「みんな、敵は罠にかかった。両翼を広げて敵を包み込み、一兵残らず討ち果たせ!」
「よし、ジン様もサリュもいい具合に敵を引き付けているね。アタイたちもそろそろ本気を出すとしようか」
敢えて猛気を隠して敵の攻撃を受け止め続けていたジビエは、ジンやサリュの軍の動きを見て、ニヤリと笑うとそうつぶやいた。
そして彼女が既定の命令を下そうとした時、ルツェルンから出撃したザカリアの軍を発見する。その報告を受けたジビエは、迷いもなく考えを改めた。
「北方魔軍の大将が出てきやがったよ。二度とルツェルンに戻れないよう、アタイたちで包囲して殲滅するよ。みんな、覚悟の準備はいいかい!?」
ジビエの命令を聞いたビーフとポークは、
「分かりました」「合点承知!」
それぞれ槍と大剣を握り直すと、2千5百ずつを引き連れてザカリア部隊の前後を抑えるように動き出す。
ジビエは、ルツェルンからさらに2千ほどの軍が出撃してくるのを見て、
「ポークには敵の後詰を抑えるように伝令を出しな。アタイはザカリアっつう大将の後ろに回り込むよ。みんな、続け!」
直率の2千5百に命令を下し、目の前で自分たちを攻めたてていた5百ほどの魔軍をあっという間に蹴散らす。
「よし、このまま敵の大将の後ろに回り込むよ!」
ジビエは鞍の上に立ち上がると、偉大な棍棒を振り上げて叫んだ。
その頃、サリュの陣地まで突出したシロエは、突如として左右からエリンとレーヴェの部隊に討ち掛かられて、部隊の突進を止められてしまった。
「くっ! 敵は待ち構えていただと?」
シロエは唇をかんでそうつぶやく。クラッグ殿の心配は、やはり杞憂ではなかったか!
しかし、今更慌てても仕方がないことをよく知っていたシロエは、落ち着きを取り戻し、
「左右の翼を締めろ! 両翼は向きを変えて敵の部隊を受け止めるのよ。ザカリア様が追い付いて来られるまでここで踏ん張るしかないわ!」
剣を執り直してそう叫ぶ。しかし彼女はその時すでに、自分の脱出を諦めていた。
(私がここで崩れたらザカリア様まで敵に包囲される。ザカリア様が戦線を離脱されるまでの時間を稼がねば)
そんな気持ちで、彼女は畢生の魔力を込めて呪文を唱えた。
「我は無念の思いと共にこの地に眠る精霊たちに力を与える者なり。大地よ、その哀しき記憶を呼び起こし、大いなる形をこの地に顕現せしめよ!」
ガアアッ!
シロエの魔力は一帯の大地から一瞬、光を奪った。そしてシロエの眼前でボコッと土が盛り上がると、それはたちまち身長数十メートルのゴーレムと化した。
「おやおや、なかなか面白い能力を持っているみたいだね」
シロエのゴーレム召喚を見たサリュは、興味深そうな顔でそうつぶやくと、驚いている兵士たちに向かって言った。
「心配しなくてもいい。摂理によって生み出されたものは摂理によって無に還るように、魔力によって生み出されたものは魔力によって処置ができるものだからね」
★ ★ ★ ★ ★
四神には自分たちの世界がある……これはジンがいた世界でもそうだったように、5千年前のこの世界でも同じである。
風の精霊王ウェンディ・リメンは、精霊覇王であるエレクラが自分の世界である『フィーゲル』を突然訪ねて来たことに驚いていた。
「いったい何事ですか? エレクラ様がボクのところにわざわざおいでになるなんて、珍しいこともあるもんですね?」
ウェンディが目を丸くして言うと、エレクラはアンバーの瞳を持つ目を細めて言う。
「……私がここに来たのは、お前にお願いしたいことがあったためだ。他の皆がいるところでは摂理の調律者様の耳に入らないとも限らないからな」
エレクラの言葉を聞いてウェンディは、黒曜石のような瞳をひたと彼に当てる。常日頃プロノイアの気持ちを汲んで世界の平穏と安寧に心を砕いてきたエレクラらしからぬ口ぶりだったからだ。
「……エレクラ様、プロノイア様のお耳に入れるのを憚るって、いつものエレクラ様らしくない言い方じゃないですか。いったいボクに何をしろとおっしゃるんでしょうか?」
エレクラの顔を穴が開くほど見つめていたウェンディは暫くして口を開き、まるで側にプロノイアがいるようにひそひそと訊くのだった。
そんなウェンディにうなずくと、エレクラもまた静かに言う。
「お前もマロン・デヴァステータのことを覚えているだろう? 彼女は木々の精霊王だったが、アルケー・クロウとのことが原因でプロノイア様から精霊王としての立場を奪われた。お前とは仲が良かったと記憶しているが?」
それを聞いてウェンディは、目に見えて表情を曇らせた。
「……それを今さらボクに訊いて、どうしようとおっしゃるんですか? 確かにボクとマロンはいい友だちでしたが、彼女とはあれ以来一度たりとも会っていないんですよ?」
エレクラはウェンディの言葉の中に、怒りや怨嗟の思いを読み取ってうなずくと答えた。
「……お前の気持ちは判る。私も、いや、フレーメンやアクエリアスも、あの時のプロノイア様の決定には釈然としないものを感じている。マロンはアルケー・クロウこそ『繋ぐ者』であると信じ、それを確かめようとしていた。
私はあの時、皆の意見を携えてプロノイア様と話をしたが、マロンは背反者エピメイアと手を結んだため、プロノイア様も看過すことはできないとのお言葉だった……そのことは、すでにあの時皆に伝えたと記憶している」
ウェンディは黙ってうなずく。彼女の瞳には相変わらず不満の色が浮かんでいた。
エレクラはそんな彼女に、真剣な顔のままひとつうなずいて続けた。
「私はあれからずっと、マロンとアルケー・クロウのことを調べていた。
二人は背反者エピメイアを封印したが、マロンはその時の戦いで力を使い果たして永い眠りにつき、アルケー・クロウはマロンのためにプロノイア様や我々四神に復讐を誓い、魔族の始祖となった……それが避けられない運命だったとしても、どのようにして彼は自らの摂理を変換したのか。私はそれが知りたいからだ」
「……それを知ったからって、マロンが戻ってくるわけじゃありません。それにボクはたとえアルケー・クロウが『繋ぐ者』だったとしても、そうじゃなかったとしても、彼には恨みしかありません」
ウェンディが首を振って言うと、エレクラは厳しい目で彼女を見て
「ウェンディ、お前の気持ちは理解するが、『摂理の黄昏』が近付いている今、私情は捨ててもらわなければならない。
お前にとって辛いことかもしれないが、私はお前に『アルケー・クロウが魔族を創った理由』と、『魔族の存在意義』を調べてほしいのだ。アルケー・クロウがマロンの思いを理解した上でのことならば、魔族という存在はきっと摂理の中に組み込まれた存在理由があるに違いないと思っている」
そう力強く言うと、ウェンディを慰めるように訊いた。
「……お前も知っているだろうが、ジン・ライムという男がこの世界に現れた。彼とはアクエリアスの仲介で一度会った事があるが、アルケー・クロウの直系の子孫で、『摂理の黄昏』を阻止するためこの世界に送られてきた存在に間違いはない。
彼と会って、彼と行動をともにすれば、あるいはマロンやアルケー・クロウがこの世に残した思いを知ることができるかもしれない。やってくれないか?」
ウェンディは顔を俯けて長い間黙っていた。エレクラもそんな彼女を急かすでもなく、ただ黙って葛藤の中にいる彼女をじっと見守っていた。
……長い時が過ぎたように思われた。ウェンディはやっと心の整理がついたのか、何かを思いつめたような顔を上げてエレクラに尋ねる。
「……そのジン・ライムって子は、今どこにいるんですか?」
ウェンディがエレクラの命を受けて動き出したころ、水の精霊王アクエリアスは火の精霊王フレーメンと『天空の神殿』で話をしていた。
「なあアクエリアスよ。俺はそのジン・ライムと言う少年に会ったことがないから何とも言えないが、エレクラ様が期待なさるほどの存在なのか?」
燃えるような灼眼を細めてフレーメンが訊くと、アクエリアスは深い海の色をした豊かな髪を揺らして言った。
「あら、フレーメンはエレクラ様の判断が間違っていると思うの?」
「いや、俺はエレクラ様のことは信頼している。数万年の時を生き、この世界の始まりから今までを見て来られたお方だ、俺なんかは足元にも及ばない。
ただ、ジン・ライムが5千年もの時を超えた未来からやって来たのが仮に本当だったとして、誰がそんなことをしたって言うのかが疑問だ」
「……『何のために』ではなくて?」
アクエリアスが訊くと、フレーメンは目を閉じて答える。
「ああ、『何のために』って疑問については、エレクラ様の期待のしぶりを見ると分かる……って言うか、それは『摂理の黄昏』に対処するためとしか思いようがない。
そしてもう一つ、ジン・ライムは話を聞く限り魔族ではないかとも思う。その点についてはどう思っているんだ、アクエリアス?」
フレーメンの危惧に似た言葉を聞いて、アクエリアスはくすりと笑って、
「あら、ジン・ライムが何のためにこの世界に送られてきたのかが分かっているなら、最初の疑問の答えは自ずと明らかじゃない? 私は彼をこの世界に送り届けてくださったのは、5千年の未来にいらっしゃるエレクラ様だと思うわ。あなたもそのことは薄々分かっていたんじゃなくて?」
流し目をフレーメンに当てて答えるアクエリアスだった。
フレーメンはその答えを聞くと、目を開けてため息をつき、
「はあ、やっぱりお前もそう思っていたのか。とすると、俺たちの直面している状況は、思ったよりシビアってことだな……。
それでアクエリアス、俺のもう一つの疑問については、お前はどう考えているんだ?」
そう訊いた時、その場に白髪で琥珀色の瞳をした男が現れて二人に声をかけた。
「その点については、私から説明しよう。大事なことだからな」
「エレクラ様」
「ウェンディの所に行かれたのではなかったのですか?」
二人が驚いて訊くと、エレクラは笑って答えた。
「ウェンディには『魔族の存在意義』を調べてもらっている。ジン・ライムと言う男を見ていると、魔族もまたなにがしかの理由があって摂理に組み込まれた存在ではないかと思うようになったのだ。
アルケー・クロウとマロンが最期に感じた思いを辿れば、その謎が解けるのではないかとな。だからウェンディが適任だと考えた」
エレクラの述懐を聞き、アクエリアスもうなずく。
「そうですね。ウェンディとマロンはとても仲が良かったですから。マロンの思いや願いは、彼女が一番解っていたんじゃないかと思います」
エレクラは一瞬、遠い目をしたが、すぐにフレーメンとアクエリアスに視線を戻して言った。
「ウェンディが調べを進めている間、私たちもやるべきことはたくさんある。まずは魔軍を統率していると思われるアルケー・クロウの居場所を特定せねばならない」
「あれは、もうずいぶんと昔のことになるなあ……」
『風の翼』を広げて虚空を移動しながら、ウェンディはつぶやく。彼女はエレクラからこのようなに任務を与えられるとは思いもよらなかった。
(だいたい、あの時マロンの言葉を聞こうとボクが言っても、プロノイア様がマロンの精霊王を剥奪するって決められた後だったし……さすがのエレクラ様だって、プロノイア様に面と向かってマロンを擁護することも難しかったんじゃないかな?)
………………
『プロノイア様は、マロンが『繋ぐ者』となるかもしれない存在と関わりを持ったこと自体を問題視されているのだ。その点に関しては私もマロンを擁護しきれない。
ただ、アルケー・クロウが確かに『繋ぐ者』なのかを調べよという指示は私が出した。その点についてプロノイア様に説明し、マロンの処遇について再考していただくことは可能かもしれない』
木の精霊王であるマロン・デヴァステータが出会った少年、アルケー・クロウが何者なのか、彼は本当にこの世界の摂理を危うくする『摂理の黄昏』を引き起こす存在『繋ぐ者』なのか……そのことはエレクラはじめ精霊王たちも、摂理の調律者の指示を受けるまでもなく問題としていたところであった。
いや、当事者といえるマロン自らが、
『アルケーは一般の『魔力を扱える人間』を超えた波動を持っていますし、特別な何かを感じます。ひょっとしたら『繋ぐ者』として現在の摂理が摩耗してきたことを知らせているのかもしれません』
そうエレクラに話していたのだった。
『マロン』
エレクラはしばらく何かを考えていたが、緑色の髪の下で目を伏せているマロンに呼び掛ける。ハッとして顔を上げたマロンの表情に、アルケーという少年への好意を感じ取ったエレクラは、静かに言葉を続けた。
『マロン、お前が感じているように、私もアルケー・クロウという少年には不吉なものを感じている。それは彼自身が不吉だというのではなく、彼が授けられた運命がプロノイア様の規定する摂理の外から与えられたものではないかという疑いがあるからだ』
『摂理の外からの運命……そのようなことが実際に起こりうるものなのでしょうか?』
マロンがびっくりして訊くと、エレクラは眼を閉じてうなずき、
『この世界の成り立ちについて聞いたことはあるだろう? 世界は無の揺らぎから始まった。しかしプロノイア様やエピメイア様が揺らぎの中から形成される前に、何かしらのひずみが現れたというのなら、それは摂理の外……『外』という言い方が誤解を生むのなら『存在を確定させる何か』と言った方が良いかも知れないが、摂理は存在を確定するものではなく、存在を規定し言語化したものと思わざるを得ない。
もしそうなら、この世界の摂理は我々が存在するために必要な要素を規定しているにすぎず、我々の存在を阻害する要素に書き換えが可能だということになる』
そう、驚くべきことを口にした。
マロンは思わず辺りを見回す。精霊覇王としてプロノイアの考えを理解し、摂理の守護と世界の安寧のために力を尽くしてきたエレクラらしからぬ言葉だったからだ。プロノイアに聞こえたらエレクラの立場が悪くなるのではないかと心配している顔だった。
目を開けたエレクラは、マロンの表情に気付いて、薄く笑みを浮かべると言った。
『心配要らない。私が今言った疑問については、プロノイア様にも話をしているところだ。プロノイア様ご自身も、自らの存在が確定する前の時空については何らはっきりとした知識をお持ちではなかった。だからこそエピメイア様はいち早くそのことに気付き、摂理の欠陥という自説をプロノイア様と長らく協議されているのだからな』
マロンはあからさまにホッとした顔をして、エレクラに訊く。
『それでエレクラ様、わたくしはアルケー・クロウが『繋ぐ者』であるか否かを調査すればいいのでしょうか?』
エレクラのうなずきを見て、マロンは一瞬、息を飲んだが、
『……分かりました。これは世界の存立にも関わることでしょうから、わたくしの私情は捨てねばなりませんね? お引き受けいたします』
そう決然として言った。
エレクラは立ち去ろうとするマロンを呼び止めると、
『マロン、考え違いをしないようにあらかじめ言っておくが、アルケー・クロウが『繋ぐ者』であった場合、お前が手を下す必要はない。
彼がそのような運命を持ってこの世界に降り立ったのなら、そこにはそれなりの理由や必然と言ったものがあるはずだ。そしてその理由や必然性は、私やプロノイア様たちが抱えている摂理の相対性といった疑問に対する答えを指し示してくれる可能性が高い。
だから彼が『繋ぐ者』だった場合は、そのことを誰よりも先に私に知らせてほしい。私が自ら彼のもとに出かけ、親しく彼の話を聞いたうえでプロノイア様やエピメイア様のもとに連れて行く。その時、お前が立ち会ってくれればそれでいいのだ』
エレクラの話を聞いて、マロンは輝くような笑みを咲かせて答えた。
『ありがとうございます。わたくしはその言葉を聞いて気持ちが楽になりました。
エレクラ様、存在の秘密につながるかもしれない任務をわたくしにお与えいただき、感謝いたします』
木の精霊王マロン・デヴァステータはそう言ってエレクラのもとを辞し、そして二度と顔を合わせることはなかった。
………………
「……マロン一人に負わせるべきではなかった……エレクラ様はいつかそうおっしゃられていたなあ。でも、エレクラ様はマロンのアルケー・クロウに対する思いを分かっていらっしゃったからこそ、そんな任務を与えられたんだろうし……今のボクにマロンの気持ちを追いかけろって命令を出されたのと同じように」
ウェンディは、自分に命令を下すときのエレクラの瞳を思い出しながらそうつぶやく。慈しみと後悔がないまぜになった瞳の色、何万年の時を生きてきたエレクラは、いったい何度そんな瞳で世界を見つめてきたことだろう?
「……ボクみたいにチャランポランな性格じゃ、とてもやっていけないな。そう言えばマロンもエレクラ様と似たような性格だったっけ。それなのにどうして魔族という存在の発現に手を貸したりしたんだろう?」
いぶかしく思ったウェンディだったが、すぐにその疑問を頭から振り放し、
「とにかく、先ずはジン・クロウって子と話をしてみないとね?」
そうつぶやいて、風の翼に力を込めるのだった。
(魔神を狩ろう その17へ続く)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
いよいよこの章の山場の一つにかかってきました。ここでジンの、というよりクロウ一族の秘密の一端が明らかになり、そしてジンもその後の彼を大きく変える体験をすることになります。
本章もあと数話、次回もお楽しみに。




