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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
リンゴーク公国編
31/153

Tournament31 Ghost hunting:part5(亡霊を狩ろう! 完結話)

リンゴーク公国で3年前に起こった一揆にまつわる陰謀がついに解明される。

ド・ヴァンをはじめ一揆に関わった者たちの結末やいかに?

そしてジンたちにも大きな変化が……。

【主な登場人物紹介】

■ドッカーノ村騎士団

♤ジン・ライム 17歳 ドッカーノ村騎士団の団長。ケンカにはめっぽう弱く、女性に好感を持たれやすいが、女心は分からない典型的『鈍感系思わせぶり主人公』

♤ワイン・レッド 17歳 ジンの幼馴染みでエルフ族。結構チャラい。槍を使うがそれなりの腕。お金と女性が大好きな『やるときはやる男』

♡シェリー・シュガー 17歳 ジンの幼馴染みでシルフの短剣使い。弓も使って長距離戦も受け持つ。ジン大好きっ子だが報われない『負けフラグヒロイン』

♡ラム・レーズン 18歳 ユニコーン族の娘で『伝説の英雄』を探す旅の途中、ジンのいる村に来た。魔力も強いし長剣の名手。シェリーのライバルである『正統派ヒロイン』

♡ウォーラ・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造った自律的魔人形エランドール。ジンの魔力マナで再起動し、彼に献身的に仕える『メイドなヒロイン』。

♡チャチャ・フォーク 13歳 マーターギ村出身の魔獣ハンター。村では髪と目の色のせいで疎外されていた。謎の組織から母を殺され、事件に関わったジンの騎士団に入団する。


■トナーリマーチ騎士団『ドラゴン・シン』

♤オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン 20歳 アルクニー公国随一の騎士団『ドラゴン・シン』のギルドマスター。大商人の御曹司で、双剣の腕も確かだが女好き。

♤ウォッカ・イエスタデイ 20歳 ド・ヴァンのギルド副官。オーガの一族出身である。無口で生真面目。戦闘が三度の飯より好き。オーガの戦士長、スピリタスの息子。

♡マディラ・トゥデイ 19歳 ド・ヴァンのギルド事務長。金髪碧眼で美男子のような見た目の女の子。生真面目だが考えることはエグい。狙撃魔杖の2丁遣い。

♡ソルティ・ドッグ 20歳 『ドラゴン・シン』の先鋒隊長である弓使い。黒髪と黒い瞳がエキゾチックな感じを醸し出している。調査・探索が得意。

♤テキーラ・トゥモロウ 年齢不詳 謎の組織から身分を隠して『ドラゴン・シン』に入団した謎の男。いつもマントに身を包み、ペストマスクをつけている。


   ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 マッシュ公は、ふくよかな顔を僕たちに向け、


「そうか、余は臣下を信じておったが、そのような者もいたということだな。すべては余の不明から出たこと、皆にはいたく迷惑をかけたな」


 そう言うと、3年前のことから話を始めた。



 もともと公は、キノコノコ洞窟の岩塩坑が落盤事故を起こして以来、危険な鉱山の整理とキノコ類栽培の推進を考えていたそうだ。


「しかし、当時は落盤事故の整理で財政的にきつくなっておった。その時、タルケ兄弟がキノコ類への税を提案してきたのだ。

財務班長のシオンが特産品の栽培や流通に対する税はかえって国力を損なうと反対したため、一時的な措置として使い道を産業振興と鉱山整理に限り、5年間の期限を切って施行することとしたのだ」


 税率は、栽培農家の数とキノコ類の市場価値を勘案して財務班で決定したという。

 もちろん、起案時にはマイタケの税率は3パーセントであり、公もそう認識して決裁したらしい。


「余も、実際に布告された文書をチェックすればよかったのだが、まさか布告を書き換えるような不届き者はいないと思っていたため、気が付かなかったのだ」


 すまなそうに言うマッシュ公に、ワインは首を振って言った。


「畏れながら、仮に公が布告をご覧になっていたとしても、税率が変わっていることは見抜けなかったと思いますよ?」


「どういうことだね?」


 不思議そうに訊く公に、ワインはまたまた数枚の紙を示して答えた。


「こちらがその布告の写しです。見ていただくと分かりますが、布告ではあくまでマイタケは3パーセントの税率となっています。

それをこちらの宰相府令で12パーセントにしているのです。公、各行政府の布告は公の決裁が必要でしょうか?」


 するとマッシュ公は、憤然として答えた。


「これは越権行為だ! 府令は相の専権事項ではあるが、税金と戒厳に関する府令は余に上程せねばならぬことになっている。タルケ兄弟ともあろう者がそれを知らぬとは考えにくい……」


 憤然としながらもどことなく歯切れの悪いマッシュ公を見て、ド・ヴァンさんはうなずいて言った。


「……公、お気持ちは解ります。確か公妃たるバニラ様はタルケ一族、マイク・タルケ殿の末の妹様と聞いております。けれど今回の事件はリンゴーク公国に大きな傷跡を残したものです。公妃への思いとは別個のものとお考え下さい」


 すると、ワインが公に訊く。


「公、ボクのような者がお聞きするのは不躾だとは思いますが、そもそも公は3年前の事件についてどの程度、報告を受けておられますか?」


 するとマッシュ公はしばらく間を開けて、思い出したようにうなずくと答えた。


「うむ、確か次席執政から『マーイータケで新たな税制に反対する者たちが抗議の集会を開いた。所在の司直隊が解散命令を出したが言うことを聞かなかったため実力行使し、たまたま近くにいたド・ヴァン殿の騎士団の応援のもと、若干の負傷者は出たものの集会を解散させた』という報告は受けた覚えがあるぞ」


 それを聞いて、ド・ヴァンさんは皮肉そうに顔をゆがめてつぶやくように言った。


「なるほど、だからお礼は書簡だったのか。次席執政殿は公に真実を知ってほしくなかったものと思われますね」


 それを聞きとがめたマッシュ公は、怪訝な顔で訊く。


「真実?」


「ええ、あの事件はマーイータケの住民のみならず、国内外の騎士団、傭兵隊まで含めて10万を数える人たちが関係し、死者数百人、負傷者数千人に及んだ大事件だったってことです。

もっとも、死者や負傷者のほとんどは国外からの騎士団や傭兵隊、そして公国に良からぬ思いを持っていた連中ですから、マーイータケの人たちからはあまり被害は出ていなかったはずですが」


「なん……だと……。余はそのような大事になっているとは一言も聞いてはおらぬぞ」


 愕然として言うマッシュ公に、今の今まで感情を押し殺したように話を聞いていたフッドさんが、低く呻くような声で訊いた。


「では、マッシュ公におかれては、私たちの騎士団『ヘルキャット』に対して、一揆の首謀者との話し合いを命じられた覚えもない、そう言うことですか?」


 マッシュ公は、左の頬から首筋にかけて酷い火傷の跡があるフッドさんの、殺気さえ感じさせる姿を見て、思わず佩剣に手を伸ばしながら訊いた。


「そなたは?」


 するとフッドさんは、不自由な身体でハルモニアさんの助けを借りながら跪くと、


「名乗り遅れました、私はフランク・フッド。3年前まで騎士団『ヘルキャット』のギルドマスターをしていました。3年前の一揆に際し、公の命令であるという次席執政様の遣いを受け、マーイータケまで出陣いたしました」


「なに、次席執政がそのようなことを? いや、余は何も相談や報告は受けていない。

それにしてもその怪我はその時受けたものか? 公国のために働いてくれたそなたのことを知らなかった非礼は許してくれ」


 最初、フッドさんに対して警戒の色を見せたマッシュ公だったが、フッドさんの話を聞くと、畏れる色もなく近づきフッドさんの肩に手を置いてそう謝る。


 フッドさんは公の手が肩に置かれた時、びくっと身を震わせたが、公の優しい言葉を受けてしばらく目を閉じて唇をかんでいた。


 やがてフッドさんは顔を上げると、紫紺の瞳に光を湛えて言う。


「……そうか、俺は次席執政に操られていたのか。俺に一揆勢と話し合いをしてくれと頼んだのも、ハルモニアに俺の騎士団へ先制奇襲させたのも、すべては一揆を大事にしてベニーティング城まで騒ぎに巻き込むための策略だったか……」


 そしてフッドさんは、ドジソンさんたちに目を向けると言った。


「ドジソン、お前が3年前に言っていたことの意味が今ようやく解った。これから俺は3年前の借りを返したいが、力を貸してくれないか?」


 するとドジソンさんはド・ヴァンさんやワインに一礼すると、マッシュ公の方を向き、黒い瞳に強い光を込めて言った。


「公、今までの話でお察しのとおり、3年前の事件はタルケ兄弟が陰で糸を引いていたことは明白です。その理由は国主の座を欲したからでしょう。私たち『ヘルキャット』がお力をお貸ししますので、君側の奸臣を討つご命令をお下しください」


 するとマッシュ公は、眉間にしわを寄せて考えていたが、


「……3年前の事件がそれほどの大事だったとしたら、余はタルケ兄弟にたばかられていたことになる。その理由は糾問せねばなるまいな」


 そうつぶやくように言うと、目を開けて言った。


「余はタルケ兄弟に事情を釈明させるであろう。その際に混乱が予想されるゆえ、余を守ってベニーティング城までついて来てくれればありがたい。フランク・フッド殿、そしてド・ヴァン殿、いかに?」


 するとフッドさんはすぐに応じたが、ド・ヴァンさんは首を振って


「私の騎士団が出陣するよりも、解決のために力を尽くしてくれたノヴァ殿の騎士団とドッカーノ村騎士団の方が適任かと思います。そうだろう、レミー殿、団長くん?」


 そう、ノヴァさんと僕を見て笑って言った。


 僕は思わずワインを見た。ワインは鋭い目でド・ヴァンさんを見た後、僕の視線に気づいて首を横に振る。


 続いて僕がノヴァさんを見ると、彼女やその左右にいるアメリアさん、アンナさんまでもが僕の方を見て笑っていた。


「わたしはすぐに団員を集めます。ジン団長殿にも一緒に来ていただければ助かります」


 ノヴァさんが銀色の髪を揺らしてそう笑ったので、僕は思わずつられて笑い、


「分かりました」


 そう答えたのだった。


   ★ ★ ★ ★ ★


 一方、ベニーティング城では国主をド・ヴァンに連れ去られた形となったタルケ兄弟が、青い顔をして協議していた。


「どうする、ヒーラー。あのド・ヴァンという男はなかなかの切れ者という噂だ。ひょっとしたら3年前の事件の真相をつかんでいるかもしれない。マッシュが真実を知ったら俺たちは終わりだぞ」


 額に汗を光らせて言うマイクに、ヒーラーは低い声で


「落ち着け兄貴。俺たちにはバニラという切り札もある。たとえ秘密がバレたとしても、あのお人好しのマッシュのことだ、バニラが頼めばまさか俺たちの命を取るなんてことはしないさ。

とにかくまずはバニラに頼んでマッシュの動きを止め、その間に証拠を隠滅しないとな」


 そう元気付けるように言う。


 もはや心配のために弟の言いなりになっているマイクは、それを聞いてすぐさま宮殿の奥にいる公妃バニラ・ルームに拝謁の願いを出した。


 バニラ妃はタルケ兄弟の末の妹である。と言っても弟ヒーラーよりも10歳も下であることから想像がつくように兄弟とは言っても異母妹であり、性格も二人の兄とは全く違っていた。


 彼女は、3歳になる愛娘、ショコラ姫と遊んでいたところだったが、取次ぎの女官からタルケ兄弟の来訪を聞くと、一瞬眉をひそめて立ち上がった。


「おかあさま、ごようじ?」


 目をぱちくりさせてそう訊くショコラ姫に、バニラ妃は優しい顔を向けて言う。


「そうね、執政の伯父様たちが来られたみたいなの。すぐに戻ってくるからいい子でばあやと遊んでいてね?」


「はーい、おかあさま。いってらっしゃい」


 ニコニコとしてそう答え、再び積み木で遊び始めたショコラ姫を見て微笑んだバニラ妃だったが、すぐに一つため息をつくと部屋の外へと歩き出した。


(まったく、兄さまたちが私のもとを訪れるのは良からぬ願いがある時か、自分たちの失敗を公に取りなしてほしい時だけ。勝手なものだわ)


 マイクとヒーラーが待つ部屋に入ったバニラ妃は、二人の顔色を見て


(ははん、これは何か良からぬことをしでかして、その後始末を頼みたいみたいね)


 そう思いながら、マイクに声をかけた。


「マイク兄さま、今日はどのようなご用事でしょう?」


 マイクはおどおどした態度で2・3度つばを飲み込んだが、喉がカラカラなのだろう、声すら出せずにヒーラーの肘をつつく。


 ヒーラーは兄のそんな小心者を絵に描いたような態度にうんざりしたのか、


「うん、実はバニラに頼みがある。私たちのことを公に取りなしてほしいんだ」


 そう、簡潔に用件を告げる。


「あら、今度はどんな失策をなさったのかしら? グンタイアリの件ではあの変な騎士団が事態を収拾してくれたから公のご機嫌を取るのも容易かったけれど、余り失策が続くと私でも兄さまたちを庇いきれなくなりますわ」


 バニラが冷たい声で言うと、ヒーラーは茶色の瞳に冷え冷えとした光を宿し、佩剣の鞘に左手を添えて言う。


「今度は仕損じたら俺たちの首が飛ぶ。お前を巻き込みたくないから詳細は伏せるが、3年前の一揆について公に心配をかけたくないばかりに事態を実際より軽く報告していたのだ。そのことで公は俺たちに叛心ありと言い出すかもしれないが、俺たちは国と公のことを想って黙っていただけだ。そこを取りなしてほしいんだ」


 バニラ公妃は、下の兄の性格をよく知っていた。


(ヒーラー兄さまは目的達成のためには手段を択ばず、身内すら切り捨てて顧みない冷血なところがある。下手なことを言えばこの場で刺し殺されかねないわ)


 鬼気迫るヒーラーの様子に、身の危険を感じたバニラは、とっさに笑顔で答えた。


「分かったわ、公がなんて言われるかは知らないけれど、できる限りの……」

「できる限り、では生ぬるい! 下手をすればお前だって連座しかねないんだぞ! 言うことを聞かねば殺す、それくらいの気持ちで取りなしてくれねば困るのだ!」


 ヒーラーは激高して叫び、バニラは余りの恐怖で顔が引きつった。


 バニラの表情を見て、ヒーラーは慌ててひきつった笑いを浮かべ言い訳のように言う。


「ま、まあ、殺せと言うのは言葉の綾だ。そのくらいの気持ちでいてくれなければ、今回は本当にまずいことになる可能性がとても高いから、つい俺も語気が荒くなった。悪く思わないでくれ」


(これは、どんな失策を犯したのか訊くのはヤバいわね……)


 バニラはそう思うと、ヒーラーの言い訳の言葉をしおに


「分かったわ。とにかく公にはお兄さまたちには悪気なんて一切なかったことを力説します。それでいいでしょう?」


 そう笑いとともに言った。


「うむ、俺たちの運命はお前にかかっているからな。しっかり頼むぞ」


 ヒーラーとマイクは、何度もそう言ってバニラの部屋から出て行った。


 バニラは、二人の兄を見送ると、すぐに侍女に言いつけた。


「秘書官長のマツタ・ケージルをここに呼んで」



 しかし、しばらくしてやってきたのはマツタ秘書官長ではなく、秘書主席兼副官のオーツ・カイマンだった。


「カイマン殿、秘書官長はどうされました?」


 バニラが訊くと、オーツ・カイマンは丁寧な態度でお辞儀をし、


「秘書官長殿は公からのお呼び出しで席を外されています。公妃様のご用事は代わりに私が承りますが、どのようなご用命でしょう?」


 そう答えた。


 バニラは少し言いよどんでいたが、やがて意を決したようにカイマンの顔を見て訊く。


「……先ほど、お兄さまたちが見えました。何やら失策をしでかしたようで私に公への執り成しを頼んで行きましたが、どんな失策を犯したと言うのでしょう。カイマン殿は何か心当たりはございませんか?」


 するとカイマンは、笑みを浮かべて答える。


「……ご心配なく。たとえタルケ殿たちがいかような失策を犯していたとしても、そのことで公は公妃様に責任を問われたりは致しませんから。心安らかに公のお帰りをお待ちください」


 バニラは、カイマンの優しい微笑にかえって不吉なものを感じて訊く。


「それはどういう意味ですか? まさかお兄さまたちは、それほどの失策を犯していると言うのですか?」


 カイマンは微笑を残したまま首を振り、


「私はこの件について何も申し上げる権利を与えられておりません。ただ、公や秘書官長殿から公妃様の安全をお守りせよと命じられているだけですので……」


 ただそれだけを言うと、ドアの方へ歩いて行き、


「公妃様、私はこれから副官の職責において護衛の兵たちを動かします。公妃様はこのお部屋においでいただき、タルケ殿たちとは今後一切、ご面会などなさいませんようにお願い申し上げます」


 そう言うと一瞬鋭い顔つきをしてドアの向こうへと去った。


「……どういうこと? お兄さまたちと会ってはいけないなんて、いったい何があったって言うの?」


 カイマンの態度に、取り残されたような不安を覚えたバニラがそうつぶやくと、


「何が起こっているのか、知りたければ教えてあげるよ。その代わり、ボクに力を貸してくれないかなぁ?」


 虚空からそう言う声がした。


   ★ ★ ★ ★ ★


 リンゴーク公の動きは素早かった。


 僕たち『ドッカーノ村騎士団』や騎士団『スーパーノヴァ』に守られたリンゴーク公は、ド・ヴァンさんたちの力を借りてマツタ・ケージル秘書官長を呼び出すと、


「マツタ、3年前の一揆の件について重大な疑義が出た。すぐにタルケ兄弟の身柄を確保し、余のもとに連れて参れ。余はキクーラーゲ経由で城に戻る。公妃には護衛をつけ、タルケ兄弟との一切の連絡を断たせよ」


 そう命令する。


 いつも冷静でめったなことでは顔色を変えないマツタ秘書官長だったが、この時ばかりは驚いた顔を隠しもせずに


「承知いたしました。タルケ殿たちが政務を停止している間はいかがいたしましょう?」


 そう訊くと、リンゴーク公はすぐさま


「総務班長と企画班長、そして財務班長に臨時に政務を執らせる。バジル総務班長にすぐに布告させよ」


 そう命令する。そしてド・ヴァンさんを振り返って言った。


「ド・ヴァン殿、手間をかけるが秘書官長をベニーティング城に転送してくれぬか」


「ワイン、お願いするよ。転移魔法陣を使える者の中では君の魔法が最もデバフがかからないからね」


 するとワインはニコリと笑って転移魔法陣を描き上げると、マツタ秘書官長に言う。


「では、秘書官長さん。お疲れ様です」


「世話をかけるな」


 マツタ秘書官長はそう言うと、転移魔法陣の中に消えた。


「ところで一つ疑問がある」


 黙って一部始終を見ていたマイティ・フッドさんが、紫紺の瞳に焦りと怒りの色を見せて訊いてきた。

 公の前だから遠慮しているのだろう、押し殺したような声だったが、それでも憎悪に満ち満ちているのは十分に分かった。


「転移魔法陣が使えるのなら、なぜ公を奉じて今すぐ城に乗り込まない? そうすればタルケ兄弟など俺がすぐさま処置してやるのに」


 それを聞いて、ワインが困った顔をしてフッドさんに言う。


「それはマズいですよ? 公が突然タルケ兄弟の前に現れたとしたら、どんなことが起こるか分かりませんからね。ひょっとしたら城下で無用な混乱が起こる恐れもありますし」


 ド・ヴァンさんも、うなずいて言った。


「ボクもワインの意見に賛成ですよ。こうやってじわじわと追い詰めれば、彼らはきっと尻尾を出します。彼らの行状を聞く限り、所領に帰って兵を集めるのが関の山ってところですから」



 一方でタルケ兄弟は、帰還したマツタ秘書官長が公の名前で出された召喚状を届けると酷く狼狽した。公が行動を起こすのは城に戻ってからだと思っていたらしい。


「もうおしまいだ! 公はすべてを知っているに違いない」


 周章狼狽して叫ぶ兄を見て、弟のヒーラー・タルケは舌打ちしながら


「兄上、たかが召喚状だけでそこまで絶望しなくてもいいじゃないか。俺たちにはバニラがいるんだ。俺たちと共に公のところに行って釈明してくれるよう頼んでみようじゃないか」


 そう言うと、半ば魂が抜けたようになっている兄マイクを引っ担ぐようにして公妃の部屋を目指した。


 しかし、部屋の前まで行きつかないうちに、二人は兵を連れたオーツ・カイマンに道を阻まれた。


「退け、カイマン。我らは執政官としての権限で公妃様のお耳に入れねばならないことを報告しに参るのだ。副官ずれが道を阻むなどあってはならないことだぞ!」


 ヒーラーがそっくり返って言うが、カイマンはニコリと笑って書類を差し出して言う。


「あなた方を公妃と会わせてはならぬとの公のお達しです。それからタルケ殿、あなた方は本日付で執政官としての職務を停止されております。これがその布告です」


「何ッ!? そんなことがあって……」


 ぐわんと頭を殴られたような顔をして、ヒーラーは慌ててカイマンから書類をひったくる。その書類には確かに、


『布告(政務051113第15号)

1 マッシュ公5年目11月13日付けで首席執政マイク・タルケと次席執政ヒーラー・タルケの執政職としての一切の権能を停止する。

2 別命あるまでは総務班長バジル・スコット、企画班長コリー・アンダー及び財務班長シオン・ハルの3名に執政職の権能を代理せしむ。

3 前項の3名は先任順に代理執政としての職務を代表すべし。

   附 則

 この布告は、公布の日から施行する。

   マッシュ公5年11月13日

             リンゴーク公マッシュ・ルーム』


 リンゴーク公の署名も鮮やかにそう記されていた。


「そんな……いつの間に……」


 呆然としてしまったヒーラーの手から書類を取り戻すと、カイマンは薄い笑いを浮かべて言った。


「そう言うことです。ご納得いただいたなら、部屋に戻って公のお帰りまで謹慎なされておいでください。この指示に従わない場合は、言わなくてもお判りでしょう」


 二人はカイマンと兵士たちに連れられて、自分たちの部屋に軟禁されることになった。



 やがてマッシュ公が城に帰着すると、マイク・タルケは公の前に引き出された。


「弟のヒーラーはどうした?」


 マッシュ公が訊くと、オーツ・カイマンが緊張の面持ちで報告する。


「はい、警備の隙を突いて城から遁走いたしました。私の手落ちであります!」


 それを聞いてマッシュ公は眉をひそめ、その表情のままマイクに訊く。


「そなたは弟が脱走することは知らなかったのか?」


 マイクはがっくりと肩を落として答えた。


「私に愛想を尽かしたのか、相談もせずに一人で出奔したようです」


 マッシュ公は、すっかり自らの人生を諦めきっているマイクを見て不憫に思った。ここに戻ってきてそうそう、妃のバニラからマイクだけでも助けてほしいと懇願されたことを思い出したのかもしれない。


『私、『組織ウニタルム』の所属だという方からすっかり聞きました。兄たちが犯した罪は許しがたいことでしょうけれど、上の兄はただヒーラーからそそのかされていたんだと思います。どうかご慈悲をもって、上の兄だけでもご助命賜りますよう……』


 マッシュ公は、バニラの泣きはらした顔を思い出しながら訊いた。


「余は3年前の出来事について非常に心を痛めておる。誰が、何のために特産品への課税を発案し、なぜ税率を替えたか、そして一揆の裏側について知っていることを詳細に述べよ。それに『組織』という者たちのこともだ」



 これから先は、マイクの尋問に立ち会っていたド・ヴァンさんやノヴァさん、そしてフッドさんから聞いたことだ。僕たち『ドッカーノ村騎士団』は、3年前の出来事については余り首を突っ込まない方がいいというド・ヴァンさんの忠告で、僕たちはその結果だけをド・ヴァンさんたちから聞くことにしたのだ。


 そもそもの発端は、ワインが予想したとおりヒーラー・タルケがマッシュ公に代わってリンゴーク公国の主になることを企てたことだったそうだ。


「ワインは知っているだろうが、リンゴーク公国を建国したのはタルケ家だ。現在のルーム家は三男の家系だが、百年ほど前にタルケ家のリンゴーク公がトオクニアール国王から不興を買って公爵位を取り上げられるという事件があった。その時以来、ルーム家がリンゴーク公を名乗るようになったらしい」


 ヒーラーの持つ鬱屈した心に、巧みに彼をけしかける者が現れた。それが『組織』のイーグルという男だったそうだ。


「イーグル・アルバトロス!」


 僕が声を上げると、ド・ヴァンさんは


「知っているのかい?」


 そう訊いて来る。僕は黙ってうなずいた。あんなに僕のことをコケにしてくれた男のことを忘れられるはずがない。


 僕が黙って拳を握りしめるのを見たド・ヴァンさんは、優しい顔で


「何があったかは訊かないが、その思いは心の中で温めておくことだ。どんなに高い壁に突き当たっても、いつかはそれを乗り越えるのが騎士というものだからね」


 そう言うと、続きを話し始めた。


 タルケ兄弟の公国乗っ取り作戦は、かなりの準備期間をおいて実施された。


 この作戦で終始、主導権を握っていたのは弟のヒーラーで、兄のマイクは『組織』との連絡や武器の調達など、後方支援的なことをやっていたとのことだ。


 特産品に税をかけ、その中で最も生産者が多いマイタケを狙い撃ちして税率を不当に引き上げたのもヒーラーならば、無頼の徒を雇ってマーイータケの町に不穏な空気を醸成したのもヒーラーだった。


 そして、農家たちが『マイタケの税率引き下げに関する陳情書』を提出した時、ヒーラーは遂に事態を殺伐とした方向へと動かし出した。


 まず、陳情をマッシュ公に上げもせず、けんもほろろに却下。


 それにより、一部過激な言動をし始めた住民たちのもとに、密かに息のかかった傭兵団を差し向けて協力させた。


 さらに、無頼の徒をマーイータケの町に送り込み、リンゴーク公国のやり方や税金への不満を大っぴらに煽りだした。ノヴァ・カサノヴァことレミー・マタンやハルモニアのもとに『人民の味方として主導者になってほしい』という使いが来たのもこのころである。


 そして、誘いを受けたハルモニアを『レボルツィア・アナーキー』という名でカリスマ化し、傭兵団や無頼の徒を組織化して一揆へと踏み切らせた。


 この時、ヒーラーは軍資金として10万ゴールドもの資金や武器を提供していた。もちろん、それは『組織』から供給されたものである。

 彼としては一揆勢に名のある騎士団を壊滅させ、勢いに乗ったところでベニーティング城まで押し寄せさせ、その混乱の中でマッシュ公を退位させる……そんな青写真を引いていたという。


 そして不幸にも『壊滅させる』『名のある騎士団』として選ばれたのが、マイティ・フッド率いる騎士団『ヘルキャット』だったというわけだ。


「フッドはマッシュ公への忠誠が篤い男だ。『話し合いで事を収めよ』と命じられれば、自らの騎士団が不利になると分かっていても先制攻撃は控えるだろう。

それに大陸の騎士団選抜競技会では上位入選の常連だった。ヒーラーはそこに目を付けたのだろう」


 ヒーラーの読みは当たり、『ヘルキャット』は一揆勢の先制攻撃を受けて苦戦に陥った。


「けれど、彼にとって予想外だったのは、マイティ・フッドたちの粘り強さと、ボクの騎士団の参戦だったろう。

彼は万に一つ、事態の真相がマッシュ公の耳に入った時のために保険としてトオクニアール国王に騎士団派遣を要請していた。トオクニアール王国を経由してアルクニー公国やオーガ侯国、ユニコーン侯国に要請が届き、派遣された騎士団がマーイータケに到着するには少なくとも1週間はかかる……そんな読みだったと思うよ」


 しかし、案に相違してフッドたち『ヘルキャット』は団員の5割を失っても戦闘を続け、そして早くも衝突3日目には『ドラゴン・シン』の5百人がマーイータケに突入したのだ。


「ボクは一揆勢にしては装備が優秀なことと統一されていること、傭兵団や三流の騎士団が加わっていることに違和感を覚えていた。だから最初から『この事件には裏がある』と感じてマディラに調べさせていた。

案の定、裏で誰かが動いていたことも分かったし、一揆の首謀者と言われる『レボルツィア・アナーキー』なる戦士はレミー・マタン殿の仲間だということも知っていた。

それで『レボルツィア・アナーキー』と対峙した時、彼女からさまざまな話を聞いた。その結果、彼女を討ち取ったことにして逃がすことにしたのさ」


 それを聞いてワインは肩をすくめて言う。


「ふん、じゃ、キミはこの亡霊と妖魔事件にはどんな裏があるか、最初から知っていたってことだね?

人が悪いな、それを話してくれさえすれば、ボクもジンをもっと簡単に説得できたのに。だからキミは『食えない奴』って言われるんだ」


 するとド・ヴァンさんは苦笑しながら言う。


「ふふ、それはワイン、君があの暗号を解いてしまったからだ。あのころボクはブルーの調査で最後の仕上げを急いでいたところなんだよ。そこで君たちに真実を告げて事が漏れてもつまらない……そう思ったから、君たちには核心となる部分に近づかない程度に動いてもらったってわけさ。

ま、いいじゃないか。君たちのおかげでタルケ兄弟の目は逸らせたし、おかげで3年前の事件も含めて物事がいいように動いたのだから」


 そこで僕は、気になっていたことを訊いてみた。


「ド・ヴァンさん、フッドさんやノヴァ……レミー・マタンさんはどうなりましたか?」


 するとド・ヴァンさんは、


「兄のマイク・タルケは20万ゴールドもの所領を持っていた。弟のヒーラーは7万ゴールドだ」


 と、フッドさんたちと関係のないことを話し始めた。


「ヒーラーは妻も子どもも捨てて遁走したため、子どもが1万ゴールドの所領を相続した。7分の1に所領を減らされたことになるが、ヒーラーがこの一連の事件の黒幕だった事を考えると本来は一家根絶やしで取り潰しになっていてもおかしくない。それだけマッシュ公は優しいんだろう」


 それを聞いて僕は、妻や子ども……愛する者たちを捨てることができるヒーラーの気持ちが分からなかった。


「マイクは共犯的立場であることと、逃亡もせずに素直に尋問に答えたことが評価されて、20万ゴールドの所領が没収され、代わりにヒーラーの所領のうち5万ゴールドが与えられた。4分の1になっても放浪しなくて済む分、ヒーラーよりはずっとましというわけだ」


「それで、フッドさんたちはどうなったんですか?」


 遂に耐え切れなくなって僕がせっつくように訊くと、ド・ヴァンさんは顔の前で形のいい指を立てて振って見せた。


「団長くん、話には順序というものがある。そう急かせずに最後まで聞きたまえ」

「すみません」


 僕は赤くなって謝る。確かに、理由もなく違う話をするド・ヴァンさんではない、ここは騎士らしく最後まで話を聞くべきだったのだ。


 僕の謝罪を鷹揚に受けて、ド・ヴァンさんは機嫌よく言ってくれた。


「正直と素直さは団長くん最高の美徳ヴィルトゥだよ。さて、そこで残されたマイクの所領20万ゴールドだが……」


 そこでド・ヴァンさんはイタズラっぽい目をして、じらすように間を開けると言った。


「マイティ・フッド殿の騎士団とレミー・マタン殿の騎士団に、それぞれ10万ゴールドずつ分け与えられた。3年前の迷惑料と今回の事件解決の報酬ってところだろうね。めでたいことじゃないか」


 それを聞いて、僕は安心すると共に心から嬉しくなった。今まで17年と少ししか生きてはいないが、僕の短い人生の中で『正しいことが報われない』という実例をいくつも見て来た。

 それが現実だと分かっているつもりだけれど、それでも心のどこかに『正しい者は報われるべきだ』という思いがあったからだろう。


「うむ、さすがにリンゴーク公。血も涙もある裁決だな」


 ラムさんが赤い髪を揺らしてうなずくと、


「よかったです。悪い奴に利用されてそのままだなんて、余りにも気の毒すぎます。フッドさんもレミーさんも良かったです」


 ウォーラさんも感動でアンバー色の瞳をキラキラさせている。


 そして、


「ジン、よかったね。正しい人たちが報われて」


 そう言いながらシェリーが僕の腕にそっと触れて来た。


 僕はハッとしてシェリーを見た。彼女はいつもの変わらぬえくぼが出る可愛らしい笑顔で僕を見ているが、その言い回しから、彼女は僕が本当に喜んでいる理由……正しい人が報われたことへの喜び……を正確にくみ取ってくれたことを知った。


 その時、ワインがド・ヴァンさんに笑いながら訊く。


「ド・ヴァン君、キミの話にはまだ続きがあるんだろう? もったい付けずに話したまえ」


 その声で僕たちは一斉にド・ヴァンさんを見る。彼は笑って言った。


「あっははは、さすがはワインだ。実はもう一つ君たちにとって朗報がある」


「朗報?」


 僕が言うと、ワインがニチャアと笑ってド・ヴァンさんに先を促した。


「さっきの話では、タルケ家の領地がまだ1万ゴールド分余っている。だいたいは想像がつくが、キミの口から言ってくれたまえ」


 ド・ヴァンさんは肩をすくめてワインを見つめ、


「さすがはワインだ。けれど君が思っているより朗報だろう。

タルケ家の領地の残り1万ゴールドは、フッド殿やレミー殿の推薦により君たちドッカーノ村騎士団に贈られることになった。

おめでとう、これで君たちも領地を持った立派な一級騎士団だ。心からお祝い申し上げるよ、団長くん」


 余り突然のことに言葉を無くしている僕に代わって、ワインがド・ヴァンさんに言う。


「ちょっと待ってくれ。それはキミたち『ドラゴン・シン』と5千ゴールドずつってことじゃないのかい? 今回の事件についても3年前のことにしても、キミたちの方がずっとこの国に貢献していると思うが?」


 するとド・ヴァンさんは首を振って言う。


「ボクはある理由で今回の件ではあまり名前を出したくないんだ。それに年に5千や1万ゴールド実入りが増えたところで、ボクにはあまり有難みはないからね」


「確かに、年に8百万ゴールドの実入りがある所領を持つキミにとってはそうだろうね。まったく嫌味な奴だなキミは」


 ワインの悪態を気にするでもなく、ド・ヴァンさんは優雅に笑って僕やワインに言う。


「まあ、遅かれ早かれ君たちも領地を拝領することになっただろう。せっかくのリンゴーク公のご厚意だから有難くお受けして、領地の経営にも慣れていた方がいい。ワイン、君の会社から数人、人を寄こして監督をさせればいいのさ」


 そしてド・ヴァンさんは、


「早めに領地を見てみるといい。領民とも親しく話をしてみることをお勧めするよ。

それと忠告だが、ワイン、領地からの税金については君が領民と交渉すべきだ。団長くんにさせちゃいけないよ? 何事にも相場ってものがあるし、周りにも領主がいるんだからね」


 そう忠告を言うと、


「では、ボクはシュッツガルテンに行くよ。早く来てくれたまえ、一緒に王都フィーゲルベルクに行こうじゃないか」


 そう言いながら部屋から出て行った。


   ★ ★ ★ ★ ★


 ヒーロイ大陸の真ん中には、ユグドラシル山という万年雪を戴く高山がある。この山の5合目より上の地域は、乾いた土地であることと酸素が薄いこともあり、どの国にも属していない。


 そんなユグドラシル山の6合目付近には、どのようにして建てられたのか想像もつかないほど壮大な石造りの宮殿がそびえていた。


 その真ん中ほどにある部屋に、怒号が飛び交っている。


 部屋の真ん中は一段高くなっていて、立派な椅子がしつらえてある。その椅子に座っているのは、青い詰襟服を着た青い頭髪を持つ美青年だった。


 彼の右横には、黒いメイド服を着て手槍を携えた白髪の女性が、青い瞳で居並ぶ者たちをぼんやりと眺めていた。


「失敗したとはどう言うことだ!」


 青い髪の青年はそう怒鳴ると、椅子に肘をかけたまま居並ぶ部下たちを冷たい瞳で眺め回す。青年はイライラした様子で白い服を着た男を問い詰める。


「……イーグル、貴様は前回、オレにこう報告したよな? 『タルケ兄弟は次の作戦を準備している。遠からずマッシュ・ルームは退位させられるだろう』とな? 忘れたとは言わさんぞ」


 イーグルは翠色の瞳に不思議そうな色を浮かべて答えた。


「はい、覚えています。確かにあの時は、タルケ兄弟の目論見通りマーイータケの住民は亡霊の噂に恐怖し、妖魔の跳梁に脅え切っていました。ちょっと揺すぶってやれば大恐慌が起こって国主の資質に疑問符が打てる……その一歩手前でした」


「だったらなぜ、兄は所領を削られて蟄居し、弟は国を捨てて亡命するなどという体たらくになるのだ!?

貴様の報告を真に受けて、『盟主様』にはもうすぐリンゴーク公国が手に入ると申し上げてしまっているんだぞ!? 貴様のような無能な部下の失態のせいで、オレまで『盟主様』の覚えが悪くなってしまうじゃないか! どう責任を取るんだ⁉」


 激高した青年がそう叫んだ時、


「どう責任を取るのか? それはわたしがあなたに問いたいことです、アクア・ラング」


 そう言う声と共に空間が歪み、そこから身長170センチ程度の白いフードとマントで身を包んだ女性が現れた。


 そしてその女性は、目深にかぶったフードを少し上げる。青い髪がはらりとフードからこぼれ出た。


「! こ、これはヘルプスト様!」


 アクアは、女性の姿を見た途端椅子に固まっていたが、青い髪がフードからこぼれるのを見て、彼女の蒼い瞳に直射された時、雷に打たれたように跳び上がり、段から降りてサッとかしこまった。


 女性は、その場にいる全員を均一に見回した後、アクアの頭の上から


「前回のあなたの報告を受け、『盟主様』はことのほかお喜びでした。

しかし今般、リンゴーク公国で起こったことをお知りになり、たいそうがっかりされると同時に非常にご立腹です。それでわたしが遣わされました」


 そう言葉をかける。


 決して大きな声ではない。棘があるわけでもなく、嫌味がこもっているわけでもない。けれどアクアはヘルプストという女性の声を聞いているうちに身体が震えて来た。額には訳もなく汗がじんわりと浮かんでくる。冷たい汗だった。


「アクア、『盟主様』が納得されるような説明をしてください。わたしはありのままを『盟主様』に報告致します」


 ヘルプストの言葉に、アクアは唇をかむ。どのように言いつくろっても、作戦が失敗したことは紛れもない事実だからだ。


(くっ……オレの信条には反するが、ここは素直に失敗を認めた方が『盟主様』の心証も悪くならないだろう)


 頭を下げてかしこまっているアクアは、そう胸算用するとゆっくりと顔を上げて答えた。


「……今回の失敗には言い訳の言葉もございません。事態の推移を丁寧に見守るべきでございました。

必ずこの失敗を取り返すほどの実績を上げてごらんに入れますので、『盟主様』にはそのようにご復命いただければ、と思います」


 ヘルプストは、白いフードの下で青い瞳を輝かせながらアクアの釈明を聞いていたが、ふっと笑うと、


「アクア、あなたは自分の失敗を認め、弁解の余地はないと考えている……そういう理解でよいですね?」


 そう念を押すように訊いてきた。


 アクアはぎゅっと唇をかんだが、黙ってうなずく。


 その様子を見ていたヘルプストは、


「分かりました。そのように『盟主様』には報告いたします。けれどアクア、これ以上わたしたちカトル枢機卿を困らせないでください。またわたしたちが遣わされるようなことがあったとしたら、次にここにやって来るのはきっとヴィンテルでしょうから」


 そう薄く笑いながら姿を消した。


 アクアは、ヘルプストの姿が見えなくなってもしばらく固まっていたが、ふいに太い吐息をもらすと首を振り、後ろに控えた部下たちを振り返った。


 そのアクアの顔を見て、イーグルやウェルムは悪い予感を覚えた。


「……今度の失敗は国を捧げるという目標が大きかった分、取り戻すにはそれなりの戦果が必要だ。

フレイム、お前に命じる。ジンの首をここに持って来い!」


 アクアが命令すると、大剣を背負ったガタイのいい男は、赤い瞳に殺気を漲らせて答えた。


「承知いたしましたアクア様。俺様にお任せください!」


 そう言って踵を返すフレイムをアクアは呼び止めて言う。


「待て、フレイム。今までの経緯から見ると、ジンは本人の戦闘力が高いだけじゃなく運もいい。周りの仲間たちに助けられているし、得体の知れない助っ人もいる。

だからライン・ラントを除く他の者どもは、ブラウの指揮のもとジンの周りにいる奴らを片付けろ。そしてガイア」


 振り向いて自分を見つめるアクアに、黒いメイド服を着て手槍を携えた女性は蒼い瞳を当てて訊く。


「我もジンを狙えとおっしゃるのですね、旦那様?」


「そうだ。そなたがいればフレイムの火魔法はさらに真価を発揮する。フレイムと力を合わせてジンをこの世から消滅させるのだ」


 アクアの鬼気迫る表情を見て、その場にいた部下たちは一斉に返事をして、作戦行動へと移った。


「承知いたしました!」


 ライン・ラントを除く全員が出払った部屋で、アクアはゆっくりと椅子に近づき、疲れ切った表情で腰を下ろす。


「……くそっ! オレとしたことが、なんて失策だ。いや、あのウェンディ(チャラポラ娘)の部下は本当にカスばかりだな。ライン、そなたにはブラウとの連絡役と、もう一つ頼みたいことがある」


 アクアの言葉に、金髪で浅黒い肌をした女性が黒い瞳をアクアに向けて問う。


「何でしょう、自分に頼みたいこととは?」


「……土の眷属の動きがおかしい。ラントス・ミュールは配下の者どもを各地に散らせ、『組織』と敵対しているようだ」


 アクアはそう言うと、ラインの瞳をのぞき込むようにして訊く。冷たく光る青い瞳だった。


「お前は土の眷属の一人、土の精霊王エレクラは本当に行方不明なのか? あの堅物のラントスが、エレクラのじじいの命令なしに勝手なことをするとは到底思えないのだが」


 ラインは、アクアの刺すような視線を表情のない顔で受け止めていたが、やはり無表情に答えた。


「自分はアクア様の配下になってから仲間とは連絡を取っていないので、現在エレクラ様がどのような状況にあられるのか詳しくは知りません。ラントス様に動きがあるのでしたら、まずはそこから調べてみましょう」


「分かった、頼むぞ」


 アクアがそう言うと、ラインは地面に融け込むように姿を消した。


「ちっ! どいつもこいつも、オレが精霊覇王になるという夢を邪魔しやがって」


 今度こそ一人残ったアクアは、そう悪態をついて椅子に座り直した。


   ★ ★ ★ ★ ★


 ヒーロイ大陸の東側に、伝説に包まれていたホッカノ大陸がある。


 この大陸は今から5百年ほど前に、ドン・ペリーという冒険者が率いる一団によって発見された。今ではマジツエー帝国が大陸の南東に存在し、大陸内部の探検を進めているのであった。


 マジツエー帝国の北西、辺境に近い場所に、アルカディア・イム・オルフェという牧歌的な町がある。辺境に近いと言いながら、妖魔もバケモノも出現しない稀有な町だった


 町の郊外にある山小屋の中で、25・6歳の金髪の美女が、27・8歳の白髪の青年とテーブルを囲んでいた。


 食事中なのだろう、テーブルの上にはパンの入ったかごと、二人の前にはそれぞれ何枚かの皿が置いてあった。


 金髪の女性は顔を真っ赤にしながら白髪の青年にすまなそうに言う。


「こ、ごめんなさいヴィクトールさん。私、あまり料理ってものは慣れてないから、ちょっと火加減が分からなかったの。む、無理して食べなくでもいいから」


 ヴィクトールと呼ばれた青年は、優しい瞳で女性を見ていたが、


「料理は確かに見た目や味も大切だが、誰かのために作りたいという気持ちや、新しいものにチャレンジしたいという気持ちの方がより大切だと思うぞ」


 そう言うとヴィクトールは、皿の上に載った、焦げて縮んだベーコンをフォークで突き刺す。ジャリッという不吉な音がしたが、ヴィクトールは気にもせずにそれを口に運ぶ。


 ヴィクトールが咀嚼するたびに、ジャリッ、ジャリッという破滅的な音がする。女性は耳を塞ぎたいような顔でそんなヴィクトールを見ていたが、


「うん、ベーコンはカリッカリに焼いた方が美味しいと呑兵衛娘ウェンディが言っていたが、確かにそのとおりだ。それにアスパラガスもすっかり火が通って軟らかくなっている。これはこれで味が染みてまた違った味わいだな」


 そんなヴィクトールの言葉に、泣きそうな顔で言う。


「もう、慰めるつもりなら止めてちょうだい。はっきりと『まずい』って言われた方がまだ気が楽だわ」


 けれどヴィクトールは、パンで皿を拭きながら言う。


「うん? そんなに自分を卑下しなくてもいいぞエレーナ・ライム。下手だと自覚しているのなら何度も料理に挑戦して腕を上げて行けばいい。

しかし言っておくが、このベーコンエッグやアスパラガスとほうれん草の炒め物については、私の好みの味だったぞ。これは慰めでも何でもない。ごちそうになったな」


 真剣な顔で言うヴィクトールに、エレーナは救われたように言う。


「いいえ、お粗末でした。次はもっと上手にできるように努力するわ」


 その時、空間が歪んで、そこから黒髪を長く伸ばした少女が姿を現す。少女はどう見ても13・4歳で、翠のマントの下には白いシャツと革の半ズボンをはき、素足にブーツといういでたちだった。


「ヤッホー、エレーナと()()()()。お食事中かい? ちょうどボクもお腹が空いていたんだよね~。ラッキー☆」


 するとヴィクトールは、アンバー色の瞳を少女に向けて訊く。


「呑兵衛娘、リンゴーク公国のゴタゴタは収まったのか?」


 すると少女は、勧められもしないのに椅子を持ってきて二人の間に位置を占めると、さっそくパンに手を伸ばし、


「うん、『組織ウニタルム』の悪だくみは団長くんたちの活躍で阻止されたよ♪ もっと後味の悪い結末になるかな~って覚悟していたけれど、団長くんたちが一枚かんでいたから思いのほかハッピーエンドだった」


 そう言いながらエレーナの皿からベーコンを取り上げる。


「あっ! ウェンディ、それは止めた方が……」


 慌てて止めるエレーナの言葉が終わらないうちに、ウェンディという少女はベーコンを口に放り込んだ。


 ジャリッ!

「んご!?」


 コンクリートを鋼の剣で切断したような音がして、ウェンディが何とも言えない顔をする。けれどウェンディは吐き出すなどというはしたないことはせず、ゆっくりと口の中のものを咀嚼した。


 ジャリッ、ジャリッ、ジャッ、シャリッ……ごっくん。


 やがてそれを飲み込むと、ウェンディはジト目でエレーナを見て訊いた。


「……まさかと思うけれど、このベーコンの黒焼きってキミが作ったのかい? エレーナ」


 エレーナは顔を真っ赤にしながらも、開き直ったように


「そ、そうよ! だから止めたじゃない? 人の言うことも聞かずに食べたのはウェンディじゃない?」


 そう逆切れする。


 ウェンディはくすくす笑いながら、


「ヤダなあ、そんな逆切れしないでよ? 歯ごたえはともかくとして、ボクの好みの味だったから確かめただけじゃないか」


 そう言うと、黙り込んだエレーナを優しく黒い瞳で見て、


「味付けはバッチグーだったよ。火加減を覚えたら、エレーナってば団長くんの胃袋を虜にできるかもね? 昔から言うじゃないか?『男を捕まえるには三つの袋を捕まえろ』って。

えっと、三つの袋って何だっけ? 胃袋と、きゅーりょー袋と、キンタ……」


 指を折りながらそう言いかけるウェンディを、エレーナは慌てて止めた。


「ストップストップ! それ以上は言っちゃダメよ? 可愛らしい顔でキン(ピー)マ袋なんていうもんじゃないわ」


 ……止めたが、意味がなかった。


 ウェンディはジト目(2度目)でエレーナを見て呆れたように言う。


「まったく、ボクを止めてもキミが口にしたら意味ないじゃないか。そんな言葉をアッサリ口にできるなんて、エレーナってば見た目よりオバサン入っていない?」


「あら失礼ね? まだ24歳の乙女をつかまえて『オバサン』だなんて。私はまだお肌も曲がり角を曲がっていないのよ?」


 エレーナがそう異議を申し立てた時、ヴィクトールが咳払いをして二人の茶番をぶった斬って来た。


「おほん、お嬢さん方、そろそろ話を元に戻していいだろうか?」


 ウェンディとエレーナはぴたりと黙り込んでヴィクトールを見る。


 ヴィクトールは苦笑しながら


「ウェンディ、リンゴーク公国の現状と事件解決の詳細を教えてくれ」


 そう言うと、エレーナに顔を向けて笑顔で言った。


「エレーナ嬢も、三つもサバを読むのは今後よした方がいい。そうしなくてもそなたは十分に魅力的だ」



「まずは結果から言うよ。首謀者のヒーラー・タルケは妻子を捨てて国外逃亡、その所領は没収されて7分の1を息子が継いでいる。

その兄のマイク・タルケはヘタレだからリンゴーク公に捕まって『組織』との関係や悪だくみを洗いざらいしゃべっちゃった。おかげで所領は4分の1に減らされたけれど命は助かった。もちろん、二人とも執政官の職は失ったけれどね?」


 ウェンディが言うと、エレーナがすかさず突っ込む。


「ウェンディ、『悪だくみ』って言うけれど、それを許可したのはあなただからね? しかも軽いノリで」


 するウェンディは、ムッとした顔で


「だからボクが事態を収拾しに行ったんじゃないか、じいさんから脅されてさ。

ところでじいさん、これでボクはここを出禁にならなくて済むんだよね?」


 そう訊くと、ヴィクトールは目を閉じて腕を組んだ姿勢のまま、


「それを決めるのは最後まで報告を聞いてからだ。続けてくれ」


 そうウェンディに先を促す。


 ウェンディはニコニコしてうなずくと、


「次はマイティ・フッドだね。彼は昔の仲間たちと再会して、リンゴーク公から騎士団の再結成の許可と所領をいただいたよ。

もう一人、レミー・マタンだけれど、彼女もノヴァっていう変名を辞めて、堂々と活動ができるようになった。それに彼女たちの騎士団にも所領が与えられたね」


 そう嬉しそうに報告する。


「それは良かったわね。3年前の事件によって不遇な目にあった人たちが、再び日の目を見られるようになったのは喜ばしいわ」


 エレーナもうれしそうに言うと、ウェンディはさらに笑いを大きくして、


「それに~、これはエレーナにとってもと~っても嬉しいことだと思うけどぉ~」


「な、なによ、気持ち悪い言い方して。もったいぶってないでさっさと話しなさいよ」


 ニチャアとした顔で自分を見るウェンディに、エレーナはやや引きながら言う。


「うん、団長くんたちもリンゴーク公から所領を与えられたよ。まだ1万ゴールドぽっちの領地だけれど、これでキミのダーリンはまごうことなき一級騎士団の団長になったんだ。どう、嬉しいでしょエレーナ?」


 それを聞くと、エレーナはびっくりしたように固まり、そしてしばらくして喜びをかみしめるようにうつむくと、小さくつぶやいた。


「……そう、ジンくん、そこまで成長したのね。エレノア姉様も喜ばれるでしょうね」


 ヴィクトールも、そのままの姿勢でうなずくと言う。


「うん、これからの彼にとって領地の経営はきっと役に立つだろう。エレーナ嬢、とりあえずおめでとうと言っておこう。遠からずジン・クロウはそなたの力を必要とするだろう、その時は遠慮せずに彼を支えてやるといい」


 ヴィクトールの言葉を聞いて、思わず自分とジンの未来を想像して赤くなるエレーナだったが、すぐに気持ちを切り替える。


(ダメダメ、まだ運命は少しも回っていないのよ。今はいわば入口のドアを開けたばかりの状態。こんなことで浮かれていたら、思わぬところで不覚を取るわ)


 エレーナの表情の変化を感じ取ったのか、ヴィクトールはウェンディに問いかける。


「あのパワハラ兄さんの方には、特別な動きはないか?」


 するとウェンディは、初めて真面目な顔をして答えた。


「うん、ボクも気になっていたんだ。あの作戦は『盟主様』にも知らせていると言っただろう? これだけ完璧な負けを食らったんだ、あのアクアがどれだけ怒りを爆発させるかってね? けれど、それどころじゃなかった」


「それどころじゃなかった、とは?」


 ヴィクトールが目を開いて訊くと、ウェンディは逆に黒い瞳を持つ目を細めて答えた。


「アクアのところに、カトル枢機卿の一人、ヘルプストが訪れたらしい。詰問されたアクアは団長くんに対する総攻撃を開始するらしいよ」


「それは確かなの!?」


 エレーナが驚いて訊くと、ウェンディは残念そうに首を振って言う。


「ああ、残念だけれど本当らしい。テキーラ経由でウェルムが知らせてくれたからね」


「じゃ、急いでジンくんを守らなきゃ!」


 慌てて席を立つエレーナを、ヴィクトールは泰然自若とした態度で止めた。


「慌てる必要はない。ジン・クロウを仕留めるためには彼らだってそれなりの作戦や配置を考える必要がある。こちらも相応の準備をして、ここで『組織』の一端でも潰そう」


「どうやって? あいつらはかなりの強さと組織力を持っているし、よしんば話ができたからと言って、ウェンディみたいにホイホイと私たちの味方になってくれるとは限らないのよ?」


 エレーナが必死な顔で言うと、


「あれ? ボクはいつの間にかキミたちの味方?」


 おちゃらけたウェンディだったが、


「違うのか?」


 というヴィクトールの言葉と視線に凍り付いて、慌ててぶるぶると首を振った。


 ヴィクトールはそんなウェンディをじろりと見つめると席を立ち、


「私は少し留守にする。私が帰るまで、呑兵衛娘、お前はエレーナ嬢が暴発しないように気を付けておいてくれ。これから先、エレーナ嬢の力がジン・クロウの運命を左右することになるからな」


 そう言うと、ウェンディのうなずきを確認してエレーナに


「エレーナ嬢、ここからのそなたの運命は、四方賢者だった頃より数倍も過酷で、そして大事なものとなる。

その覚悟をもって、まずは自重するということを覚えるんだ。それを身に付けていないと、この先ジン・クロウは何度死に捕らわれるか分からないからな」


 そう忠告すると、何か訊きたそうなエレーナに構わずその姿を消した。


(Tournament31 亡霊を狩ろう!完)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

5回にわたって書いてきたエピソードも、一応の区切りがつきました。

次回の投稿は、仕事の都合や本作及び『青き炎の魔竜騎士』の構成変更、そして新たな物語を構想している関係などもあって、9月になる予定です。

少々長い休みを頂きますが、どうかご容赦ください。

なお、新構想の物語について、読み切りの形で何篇か投稿するかもしれません。その際は是非お立ち寄りいただき、感想など残してもらえれば幸いです。

では、例年以上の暑い夏になりそうですが、皆さまお身体ご自愛いただきますよう。

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