Tournament30 Ghost hunting:part4(亡霊を狩ろう! その4)
3年前の事件で地位も名誉も失ったマイティ・フッドが動き出した。
一方、ジンたちのもとにウェンディが現れ、事件解決を確約する。
【主な登場人物紹介】
■ドッカーノ村騎士団
♤ジン・ライム 17歳 ドッカーノ村騎士団の団長。ケンカにはめっぽう弱く、女性に好感を持たれやすいが、女心は分からない典型的『鈍感系思わせぶり主人公』
♤ワイン・レッド 17歳 ジンの幼馴染みでエルフ族。結構チャラい。槍を使うがそれなりの腕。お金と女性が大好きな『やるときはやる男』
♡シェリー・シュガー 17歳 ジンの幼馴染みでシルフの短剣使い。弓も使って長距離戦も受け持つ。ジン大好きっ子だが報われない『負けフラグヒロイン』
♡ラム・レーズン 18歳 ユニコーン族の娘で『伝説の英雄』を探す旅の途中、ジンのいる村に来た。魔力も強いし長剣の名手。シェリーのライバルである『正統派ヒロイン』
♡ウォーラ・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造った自律的魔人形。ジンの魔力で再起動し、彼に献身的に仕える『メイドなヒロイン』。
♡チャチャ・フォーク 13歳 マーターギ村出身の魔獣ハンター。村では髪と目の色のせいで疎外されていた。謎の組織から母を殺され、事件に関わったジンの騎士団に入団する。
■トナーリマーチ騎士団『ドラゴン・シン』
♤オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン 20歳 アルクニー公国随一の騎士団『ドラゴン・シン』のギルドマスター。大商人の御曹司で、双剣の腕も確かだが女好き。
♤ウォッカ・イエスタデイ 20歳 ド・ヴァンのギルド副官。オーガの一族出身である。無口で生真面目。戦闘が三度の飯より好き。オーガの戦士長、スピリタスの息子。
♡マディラ・トゥデイ 19歳 ド・ヴァンのギルド事務長。金髪碧眼で美男子のような見た目の女の子。生真面目だが考えることはエグい。狙撃魔杖の2丁遣い。
♡ソルティ・ドッグ 20歳 『ドラゴン・シン』の先鋒隊長である弓使い。黒髪と黒い瞳がエキゾチックな感じを醸し出している。調査・探索が得意。
♤テキーラ・トゥモロウ 年齢不詳 謎の組織から身分を隠して『ドラゴン・シン』に入団した謎の男。いつもマントに身を包み、ペストマスクをつけている。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
マーイータケ、それは彼にとって生涯忘れえぬ土地の名前となった。
3年前、彼は得意の絶頂にあった。何しろ一国の国主直々に、彼の騎士団に対して出動要請があったからだ。
「マーイータケには今回の布告に反対する農家が集まっている。課税はあくまで臨時的なもので、期間も限定的なものだ。まずはその件について農家たちに説明したいので係員を派遣するが、君たち『ヘルキャット』にはその護衛を頼みたいのだ」
エルフの若者とオーガの娘を両脇に控えさせ、じっと話を聞いている銀髪の男に次席執政ヒーラー・タルケの使いはそう言った。
「暴動鎮圧が目的でないなら、なぜ俺たちを? マーイータケの司直隊でもいいのではないですか?」
不思議に思った男が訊くと、使者は微笑を浮かべて答えた。
「ごもっともです。しかし司直隊が出れば、民衆も素直に話を聞いてくれないかもしれませんし、暴動なんかに発展しかねません。次席執政様は他国への聞こえもあるため、事を荒立てたくないそうです」
そして使者は、身じろぎもしない男に
「フランク・フッド殿、国民から“マイティ・フッド”と呼ばれ、大陸でも名が高いあなたのことです。あなたが行ってくれれば、マーイータケの民衆も話を聞いてくれるだろうと国主様も期待されているのです。ぜひ、このクエストを受けてください」
そう、頼み込むように言う。
その言葉に、フッドは引っ掛かりを感じながらもうなずいた。使者はパッと顔を輝かせると、くれぐれも事を荒立てないようにと何度も念を押して帰って行った。
「ドジソン、どう思う? 俺は何だかこの仕事、気が進まないが」
フッドが、信頼する参謀役で事務総長も任せているエルフ、キレイル・ドジソンに訊くと、彼は金髪の下で碧眼を輝かせて言う。
「団長が気が進まない、とおっしゃるのなら、ぼくはこの話を断ってもいいと思います」
すると、彼の騎士団が誇る親衛隊長、オーガのマーガレット・ブッチャーが茶色の瞳を丸くしてドジソンに突っかかる。
「ドジソン、相手は国主様だよ? いままでうちらは何度も国主様のご依頼をこなしてきているし、それだけ信頼されているってことだよ? それを断ったりなんかしちゃ、今後の団の運営にも支障が出ないかい?」
ドジソンは形のいい手で白い額に触れると、困ったように答えた。
「うん、ぼくもそれは考えた。けれどここだけの話、国主様の周囲に何か良からぬことを考えている者たちがいる気がしてならないんだ。今回の増税についても、何かしら作為的なものがあると思う。君子危うきに近寄らずともいう、ぼくはこの話を断ることをお勧めしたいな」
「変なことって何さ? お使者の説明に何か不審な点があるって言うのかい?」
ブッチャーが眉をひそめて訊くと、ドジソンはさらに困ったように頭をかいて、
「いや、不審な点は何もない。司直を見たら群衆がエキサイトするかもしれないという危惧も不自然なところはない」
そう言う。ブッチャーは呆れ顔でドジソンに
「あんたは頭がいいから、物事の裏を勘繰りすぎるんだよ。増税の布告に不満を持った人たちが集まって何か不穏な気配がするから、それが爆発しないように説明のためのお役人を送りたい。けれど司直が護衛についているとみんなが暴発するかもしれない。だからうちらに護衛を頼みたい……そう言うことだろう? 何も変なことはないじゃないか」
そう畳みかけるように言うと、今度はフッドに向かって言った。
「団長、団長はもうお使者に対してお返事をしておられます。今さらお使者を追いかけて行って『2・3日考えさせてくれ』なんて言えないでしょう? それよりマーイータケがどんな状況かを調べる方がよっぽど今後のためになりますよ」
フッドはしばらく考えていたが、やがて顔を上げて二人に言った。
「マーガレットの言うとおりかもしれないな。ドジソン、君が気にしていることが現実にならないよう、情報収集の方は頼んだぞ」
「……分かったよ、ぼくも全力で情報を集めてみるが……」
ドジソンは肩をすくめてため息と共にそう言うと、不意に真剣な顔でフッドに告げた。
「国主様の周りに不審な空気があることがはっきりしたら、ぼくはすぐに撤退を進言するよ。その時には何も訊かずにぼくの意見に従ってくれないか?」
フッドたちは、2日ほどで準備を整えると、国主マッシュ・ルーム公の使いと共にマーイータケへと旅立った。
「フッド、こんなことは言いたくないが、これから行く場所は戦場と同じだ。それなのに女性を、しかもあんな若い事務官を使いとして差し向けるというのは腑に落ちない」
公の使いがカノン・ジューンというまだ20歳そこそこの事務官であることを知り、ドジソンはひどくきな臭い顔をしたが、フッドは首を振って答えた。
「俺も同じ気持ちだったが、カノン殿と話をして少し安心している。彼女は頭もいいし物怖じしない。話し合いさえできれば民衆の暴発は押し止められるだろう」
そしてフッドは、ふと思い出したようにドジソンに訊く。
「ドジソン、それよりマーイータケの民衆を束ねているという女傑の話を聞いたか?」
するとドジソンはうなずいて、
「ああ、レボルツィア・アナーキーと名乗っているようだが、情報では騎士団『エルドラド』の大隊長だそうだ。だとすると相手の正体は判るだろう?」
そう言って難しい顔をする。
「ふむ……エドモンド・ナカムラ様の愛弟子、レミー・マタンということか。しかしよくエドモンド様が彼女の行動をお許しになったものだ」
フッドが言うと、ドジソンは顔を振って、
「いや、エドモンド様は反体制の立場を取ることや秩序を実力行使によって変革することに関して基本的に反対の立場を取っておられる。
今度のことも、レミー・マタンの名が挙がった時にエドモンド殿は召喚状を出すとともにレミーの大隊長職を暫定的に停止し、団からの除名仮処分を表明されている。だからレミーの個人的行動だろうな」
そう説明し、さらに付け加えて言った。
「レミーはエドモンド様から騎士団結成の許可をもらっていたそうだ。そんな時期に自分の経歴をフイにしかねない行動を取るとは思えない。
レミーが本物なら、彼女が民衆の立場に立たざるを得ないほどの何かがあるってことだし、偽者なら誰かがこの事件をぜひとも大掛かりなものにしたがっているってことだ。
いずれにしてもぼくたちは火中の栗を拾わされるってことだよ」
……
「……火中の栗、か……」
マーイータケ町の東の外れ、ユグドラシル山への登山口の近くに、うっそうとした森がある。
その森の中に、うち捨てられた砦があった。
この砦は、まだヒーロイ大陸をケルナグール王国が統一していた時代に造られて、最後の王ド・クサイへの反旗を翻した人々が拠点の一つとしていたものだ。かなり古くなってはいたが石造りでがっちりしていたため、窓など朽ち果てていた部分を修理すれば使用には十分に耐えた。
その砦の中で、銀髪に紫紺の瞳を持つ男がつぶやく。彼の左の頬から首筋には酷い火傷の跡があり、それは黒い戦袍の袖から出た左手にまでつながっていた。
「……あのクエストは、まさに火中の栗だったな。そしてすべてを仕組んでいたのがまさか国主マッシュ・ルームその人だったとは……」
椅子に座り、揺れるロウソクの炎を見つめている男の所に、銀髪を肩を少し越えるほどに伸ばした乙女が歩み寄って来た。
「フッド様、出発の準備が整いました」
それを聞いて男はゆっくりと立ち上がる。乙女は壁にかけられていた剣を取ると男の右手に握らせて訊いた。
「本当に、一緒においでになるのですか?」
フッドは剣帯に剣を吊るしながら答える。
「ああ、せっかくマーガレットやドジソンの仇を取れると思っているのに、それを邪魔する奴は許せないからな」
「でも、相手の正体が分かりません。妖魔化した野犬の群れを易々と仕留めるほどの相手です。ここは私とお姉さまにお任せいただけませんか?」
心配そうに言う乙女に、フッドは笑って、
「ふふ、3年前には大陸に名をはせた『マイティ・フッド』も落ちたものだ。仲間を失い団は壊滅。そして火傷を負って身体の自由もままならない。
けれどカノン、俺にはまだ魔力がある。ヒール様のご指示どおりマッシュ・ルームの旧悪を暴き、この国を救うまでは死んでも死にきれない」
そう言うと、左足を引きずりながら歩き出す。カノンと呼ばれた乙女は哀しそうな顔をしてその後を追った。
砦から出ると、そこに立っていた女性が足音を聞きつけて振り向き
「カノン、遅いわよ……フッド様? どうしてフッド様まで」
そう驚いた顔で言う。
「カノン、フッド様はまだお身体が本調子じゃないのよ? 何故お止めしなかったの?」
女性から詰問され、カノンは黙ったまま顔を伏せる。カノンの気持ちを思いやったフッドが口を挟んだ。
「ハルモニア、カノンを叱らないでくれ。カノンからは止められたが、俺はどうしても俺の作戦を邪魔する奴が許せなくてな。自ら出ることに決めたんだ」
「しかし……」
言いかけるハルモニアに、フッドはかぶせ気味に続けた。
「ハルモニア、俺はマッシュのせいで仲間と団と名誉を失った。お前も弱者を思いやる気持ちに付け込まれて、危うく命を落とすところだった。あの時カノンが民衆への説明役として俺と共にマーイータケに来なければ、お前もみんなも、マッシュの思いどおり討ち取られていただろう。
その恨みを晴らす機会を逃すなんてこと、俺には金輪際できないぞ」
紫紺の瞳に火を灯してフッドが言うと、うつむきながら彼の言葉を聞いていたハルモニアは、仕方なさそうに言った。
「……分かりました。けれどカノンをお側に置いておいてください。20頭以上もの妖魔化した動物たちを易々と仕留める相手です。万が一にもフッド様に何かあったら、私たちも戦う意義を無くしてしまいますから」
「分かっている。今夜はどこで活動するつもりだ?」
フッドが訊くと、ハルモニアは碧眼を細めて答えた。
「そろそろこの町の噂がマッシュの耳に届くころです。今夜は思い切って東地区と中央地区の境辺りで事を起こしたいと思っています。司直の本部にも近いですので十分にご注意ください」
★ ★ ★ ★ ★
僕たち『騎士団』は、マーイータケ町の司直長セイラ・フッドさんと打ち合わせて、東地区の警戒に当たることにした。そうすればマイティ・フッドが現れたら話もできるし、仮に他の司直隊が彼を捕まえたとしても、僕たちにも話をする機会が与えられるからだ。
「この事件は3年前の一揆とつながっていると思われます。私は皆さんがこれ以上この事件に関わるのは止めていただきたいと思いますし……」
僕たちの御者を務めていたブルー・ハワイさんが真剣な顔で言う。
彼はド・ヴァンさんの騎士団『ドラゴン・シン』の団員で、ド・ヴァンさんの命令でずっとこの町で3年前の一揆に関わることを調べているのだそうだ。
そんな彼は、心底心配そうな顔で
「団長も皆さんが首を突っ込まれるのを心配されています。考え直していただき、私と共にトオクニアール王国の首都へ参りませんか?」
そう勧めてくれる。けれど僕は首を横に振った。ブルーさんの言うことやド・ヴァンさんの心配もよく解ったが、すでに僕はこの事件を投げ出せる立場からは外れてしまっていると思ったからだ。
「ブルーさん、おっしゃることはよく分かります。でも僕はノヴァの部下からも力を貸してほしいと頼まれていますし、妖魔化した動物たちが出没するのであれば見過ごしにはできません。本当にマイティ・フッドが生きていて、こんなことをしているのなら、その理由が知りたいのです」
僕が言うと、ブルーさんは理解のうなずきと共に
「団長さんのお立場は分かります。一旦関わった任務を放棄することは騎士として耐えがたいことでしょうし、助けを求めている相手の力になれないのも辛いことだと思います。
けれど私が知る限り、この事件はとても大きな闇を抱えています。私にはあなたを止める権利がないことは重々承知していますが、それでもなお、手を引いていただくことをお勧めします」
そう言った。
僕は後ろから袖を引かれたので振り向くと、ワインが真剣な顔で言った。
「ジン、これだけおっしゃっているんだ。ボクたちはこの事件に介入する余地はないと思う。騎士の『仲間を見捨てない』とか『引き受けたクエストは完遂する』という心得には反するかもしれないが、その心得には『引き受けるべきクエストを選べ』という訓えもある。この仕事はボクたちには不釣り合いだ、そう考えてド・ヴァンの言うことを聞こう」
見るとワインだけでなくラムさんも、そしてシェリーまでもがその言葉にうなずいている。僕は個人的な思いと団長としての立場の板挟みになってしまった。
その時、忘れようとしても忘れられない声が空中から聞こえて来た。
「うふふ、団長くんも困っているようだね?」
僕たちが声のした方に顔を向けると、そこにはどう見ても13・4歳、長く黒い髪をなびかせて黒い瞳をした少女が、翠色のマントを翻しながら空中にいた。『組織』のウェンディって奴だ!
「ウェンディ! どうしてお前がここに?」
僕が驚いた声を出すと、すかさずラムさんとシェリーが僕の左右を固めて訊く。
「何の用だ? もうウォーラに用事はないはずだが?」
「そうよ、話をややこしくしないでちょうだい!」
するとウェンディは音もなく着地すると、くすくす笑いをしながら
「酷いなぁ、ボクは別に悪いことをしに来たんじゃないよ」
そう言うと、僕を見て真剣な顔で言った。
「ボクは君がこの人の言うことを聞いて、マーイータケ一揆の件から手を引くことをお勧めするよ。その代わり、この事件の決着はボクに任せてくれないかな?」
僕は、初めて見るウェンディの真剣な顔におどろおどろしい殺気に似たものを感じて、一つ息をすると訊いてみた。
「……この件にどうしてお前が手を貸そうとするんだ?」
するとワインが槍を片手に前に出てきてズバリと言った。
「ウェンディさん、この事件の黒幕はキミだね? けれど何か理由があってキミが自身で落とし前をつけなきゃいけなくなった、そうだろう?」
それを聞いてウェンディは、感心したようにワインに答える。
「ふむ、団長くんの周りにはいい団員がそろっていると思っていたが、そのとおりみたいだね? お察しのとおりこの事件をそもそも仕組んだのはボクの部下だよ」
「それは、『盟主様』って奴が指令したってことかな?」
ワインの言葉に、ウェンディは緩く首を横に振って言う。
「それは違うな。『盟主様』は余程のことがない限り一つ一つの作戦について指示を出されたりはしない。ボクたちは『盟主様』のお心を汲んで、いろんな作戦を遂行するんだ。
もちろんそれは『組織』の戒律に基づいたものではあるけれどね?」
「……つまりお前はリンゴーク公国を滅茶苦茶にして、大陸の平和を乱そうとしたってわけだな。それでどうして今回、僕たちに手を貸すつもりになったんだ?」
僕が訊くと、ウェンディはニコッと笑って、
「そりゃあ、君が『繋ぐ者』になるって分かったからさ。『繋ぐ者』が出てきたってことは、『魔王の降臨』は近い。魔王が降臨しちゃったら、『盟主様』の思い描く世界なんて夢のまた夢になっちゃうじゃないか」
そう言うと、僕たちを驚かせるようなことを付け加えた。
「それに、君のことはエレーナ・ライムからも頼まれているからね」
「待て、エレーナ・ライムって、もしかして賢者スナイプ様のことか?」
不思議なことに僕よりも早くワインがそう訊くと、ウェンディはチラリと彼のことを見て、僕にうなずいた。
「うん。彼女が『賢者会議』から四方賢者を罷免されてお尋ね者になっているってことは知っているよね?」
僕は驚いた。そんなこと初耳だったからだ。以前に会った時、賢者スナイプ様はそんなことおくびにも出さなかった。
けれどワインは、沈痛な顔でうなずいて言った。
「その噂は聞いていた」
「ワイン、知っていたならなぜ僕にそのことを教えてくれなかったんだ⁉」
僕の問いに、ワインは哀しそうな笑いを浮かべて
「ド・ヴァンから聞いていたんだが、確証が掴めなかった。別に隠していたわけじゃないんだ。はっきりしたらキミにも話そうと思っていた」
そう言うと、ウェンディに向かって訊いた。
「賢者スナイプ様がお尋ね者になった理由を知っているなら教えてほしいんだが?」
ウェンディは首を振って言った。
「エレーナははっきりしたことを話してくれなかった。けれど大賢人マークスマンは『賢者会議』の主宰でありながら『組織』とも通じている。
彼の今までの動きを知っているボクが想像するに、君が『繋ぐ者』であっては不都合なことがあるんだろうね。それで君の味方をしたエレーナを邪魔者として始末するつもりになったんだろう」
「なん……だって……?」
僕は頭がこんがらがって来た。あの落ち着いて、慈愛深そうな、大陸中の魔法使いたちから仰ぎ見られる存在のマークスマン様が、『組織』とつながっている?……それが事実だとしたら、僕は誰を信じていいのか分からなくなりそうだった。
思考停止してしまった僕を見て、ワインがウェンディに言う。
「ジンのことは心配しないでいい、ボクが後から説明しておく。それでウェンディさん、キミは今言ったことをどう証明するんだい?」
ウェンディは肩をすくめるとため息と共に
「はあ、ボクは正直者だからなぁ……この事件の結末を見てもらえば、ボクが言ったことの正しさが分かると思うよ? かなり後味の悪い結末にはなるだろうけれどね。
それでも僕のことが信じられないのなら、次にエレーナに会った時、話をしてみるといいさ」
そう言うと、風の翼を広げて消えた。
ウェンディの出現で、僕は混乱の極みにあった。
(賢者スナイプ様が賢者会議からお尋ね者扱いされ、その理由が僕だなんて。さらにその賢者会議の主宰たる大賢人様は『組織』と通じている……どう言うことだ……)
僕たちは東地区の巡回にも出ることができず、ただ宿で悶々とするだけだった。
「『賢者会議』は大陸の魔法使いの元締めという存在だけではなく、『魔王降臨』をさせないようにするために活動しているはずだ。
その『賢者会議』が『組織』と通じているとしたら、20年前、マイティ・クロウ様や父上、そしてユニコーン族のみんなは何のために戦ったのだ」
ラムさんも青い顔で目を据えて虚空を睨みつけている。今や背中まで伸ばした赤い髪が青い電光を上げて帯電しているのを見ると、ラムさんもかなり動揺しているように思えた。
「スナイプ様は無事かしら? あの方はとてもジンのことを心配してくださっていたし、ひどい目にあっていなければいいけれど」
心配そうに言うシェリーに、ワインは静かに言う。それは僕にも言い聞かせているようだった。
「ウェンディの口ぶりからすると、スナイプ様はウェンディ自身かその仲間の所にいるのだろう。少なくとも『賢者会議』からは存在を察知されない場所にいることは確かだと思う……」
そう言ったワインは、僕を見て力強く
「ジン、いろいろな情報がいっぺんに集まってしまったために混乱しているだろうが、こんな時はじっとして動かないってのも一つの手だ。ド・ヴァンにしてやられたという気がしないでもないが、ウェンディの言うとおり彼女の手並みを拝見しておこう」
すると今まで黙っていたウォーラさんが、優しい目をして言ってくれた。
「それがいいと思います。ご主人様が今の状態でガイアと戦うなんてことになったら最悪ですから。
それにウェンディは私の心理判定装置で解析したところ、一つも嘘を言っていませんし。彼女を信じて待っている方が、いい結果になると思われますよ?」
★ ★ ★ ★ ★
ド・ヴァンとその仲間たちは、マーイータケ北地区にあるキノコ農園を訪れていた。
「団長、レミー殿たちは市内の巡回に出て行っちまっているそうです。一足遅かったようですね」
農園の門番の女性からノヴァとその一味の不在を聞いたマディラが、すごすごと引き返してきて言う。
するとド・ヴァンは、彼らしくもなく焦りの色を見せて言う。
「どの辺りに向かったか、門番は知らなかったのか?」
「ええ。まあ、いかに仲間とは言っても、非番の者に行動の詳細を伝えるわけはないと思いますけれどね?」
それを聞いて、先ほどの質問が愚問だと悟ったド・ヴァンは、一緒について来ている黒髪で黒い瞳をした少女に言う。
「ウェンディ殿、聞いてのとおりだ。このままではレミー殿は真実を知らないままマイティ・フッドたちと戦うことになりかねないぞ」
ノヴァたちの不在を聞いて
(これはマズいなぁ、レミー・マタンに真実を話せば、彼女ならマイティ・フッドとも話を付けられると思っていたのだけれど。そしたらボクの介在がパワハラ兄さんにもバレないし)
そう思っていたウェンディだが、すぐに彼女らしい楽観的な考えに戻って行った。
「じゃ、ボクたちでマイティ・フッドを探そうか。運よく彼に会えたら、何を話せばいいかはボクが指示するからさ」
それを聞くと、ド・ヴァンの決断は早かった。
「ソルティ、ブルー、すぐに東地区で怪異が起こっている場所を調べてくれ。マディラ、君にその解析とフッドの行動パターンの予測を任せる。予測ができたら教えてくれ」
ド・ヴァンはそう言うと、ウェンディに笑いかけて
「それまでボクは、君の話をもっと詳しく訊きたい。なにせ君の話はボクが想像していたより数百倍も興味を抱かせるものだしね。一緒にお茶でもしながら話を聞かせてもらえないかな?」
そう言うと、ウェンディは
「いいよ。お茶にブランデーを入れてくれれば、ボクはさらに満足だなぁ」
そう笑って答えた。
ド・ヴァンは、ウェンディと二人きりで私室に入り、差し向かいで座る。二人の前にはすでに紅茶のポットとティーカップ、ミルクの瓶、角砂糖のグラス、そしてブランデーの角瓶が置かれていた。
「うん、さすがにその名が知られた『ドラゴン・シン』の団長さんだね。ブランデーのチョイスが素晴らしいよ」
ウェンディはさっそく紅茶にブランデーを垂らして香りを楽しむ。
「う~ん、最高だよ。紅茶の香りを引き立てつつ、自らの香りも決して埋没していない……ド・ヴァンくん、君って本当にいいセンスをしているじゃないか」
ウェンディはそうド・ヴァンを誉めると、今度は紅茶を一口含んだ。
しばらく目を閉じて、味と香りを楽しんでいたウェンディは、目を開けるとキラキラした瞳でド・ヴァンを見て言う。
「この茶葉とブランデーは後で分けてもらってもいいかな? ボクはとても気に入ったよ」
ド・ヴァンはウェンディの様子を微笑んで眺めていたが、その言葉を聞くと鷹揚にうなずいて答えた。
「承知しました、後でダースでお分けしますよ。ところで今回の事件、ウェンディ殿はどのくらいウラをご存知なんですか?」
「ウラって?」
ウェンディがとぼけたように訊き返すと、ド・ヴァンは微笑のまま首を振り、
「隠さないでください。あなたが『組織』と関わりがあることは、エランドールの事件で団長くんから聞いていますよ?
だからボクは、あなたの正体を部下にも知られぬよう二人きりでお話しすることを提案したのです」
そう言うと、ウェンディは上機嫌な声で笑うと、
「あはは、さすがだね。ボクのことをそこまで知っているんなら、君には何も隠さないよ。
さて、ボクはアルコールが入ると記憶があいまいになるし眠くなる。だから先に結論だけを言うよ」
ブランデーをつぎ足しながらそう言い、
「ズバリ言うと、3年前の事件はマッシュ・ルームのリンゴーク公位に反対する重臣たちの陰謀だ。一揆という大事件を起こし、マッシュ・ルームの人望を削いだうえで彼から国を奪う……首謀者の言葉で言えば『取り戻す』予定だった。その企みはどこかのどなたさんが活躍したからうまく行かなかったけれどね?」
そう、ド・ヴァンを見て言う。ド・ヴァンは『取り戻す』という言葉を聞いた途端、ハッとした。
「うふふ、その様子では首謀者が誰かもう判ったみたいだね? その他に訊きたいことはないかい?」
ウェンディの言葉に、ド・ヴァンはしばらく何かを考えていたが、
「いくつか確認しておきたい。タルケ一族は確かにリンゴーク公国を創設した一族の一つだ。けれど今はそんなに羽振りは良くない。
レミー殿の話では、民衆の代表を祭り上げる際に30万ゴールドもの資金が一揆勢に流れているらしいが、そんな大金をあの一族が調達できたのは何故だろう?」
そう訊く。ウェンディはくすくす笑いながら答えた。
「ド・ヴァンくん、彼らの後ろには『組織』がいるんだよ?」
「ふむ、タルケ一族の懐は痛まないというわけか。けれどその代わりに失うものがあったはずだろう。ウェンディ殿は事がうまく行った時、彼らをどうするつもりだった?」
ウェンディは紅茶を一口飲むと答えた。
「ボクは彼らが『盟主様』の言うことを聞く限り、彼らの地位は保証するつもりだった。人間はボクたちが統治するより、同じ人間に統治させた方が何かと都合がいいからね」
そう言うと、ド・ヴァンの目を真剣な目で見て付け加える。
「ただし、今、この大陸で指揮を執っているヤツは、ボクとは違う考えを持っているはずだよ。彼は権威と権力が常に自分に集中していないと気が済まないタイプだからね」
「ふむ、それはタルケ兄弟の人を見る目のなさが自分たちに跳ね返っているだけだ。
それより3年前、民衆に使者を送った者とマイティ・フッドに使者を送った者は、間違いなく同一人物なんだろうね?」
ド・ヴァンが訊くと、ウェンディは感心したように言う。
「へぇー、そこを確認するとは、やはり君はただ者じゃないね? もちろんそうさ。
ついでに教えてあげると、特産品に課税するって言う策も、その税率を不自然なものにすることも、一揆が起きるように民衆を扇動することも、それを受けて騎士団を派遣することも、みんなボクの部下が首謀者に入れ知恵したものだ」
悪びれる様子もなく言うウェンディに、ド・ヴァンは皮肉を交じえて言う。
「それであなたは今、少しの紅茶と酒と引き換えに、自分の部下をボクたちに売っているわけですね」
ウェンディは肩をすくめて答えた。
「ボクの部下たちは表に立たずに動いている。だから作戦が失敗しても彼らには危害は及ばない。
『盟主様』のお望みは『純粋で、不変の世界』だ。ボクはリンゴーク公国でそんな世界を実験してみたかった。けれど今のこの大陸の指揮官は、きっと殺伐とした世界を創ってしまうだろう。それはボクの美意識に反するからね」
それを聞くと、ド・ヴァンは、
「その言葉を信じることにしよう。さて、これからボクは3年前のウラについて知っていることとあなたから聞いたことをつなげて話をしてみる。間違っているところがあったら指摘してもらってもいいかな?」
そう言うと、ウェンディは目を輝かせて答えた。
「面白そうだね。謹んで拝聴するよ」
ド・ヴァンとウェンディが30分ほど話をしていると、ドアがノックされた。
その音を聞いて、ウェンディはティーカップを下ろし、
「君の想像力と推理力には驚かされたよ。君の話のとおりで大きな間違いはないよ。早くレミーやマイティ・フッドに真相を知らせて、彼らに正義の味方をさせるといい」
そう言うと、
「それから、ボクが君に力を貸したことは、君の中だけに留めておいてくれないかい? ボクにも立場ってものはあるからね」
そう、念を押すように言う。
「あなたは団長くんには甘いと聞いていましたからね。『お姉さま』の件もあるにはありますが、ガイアさんを悪用しているのがあなたでないのならば、今回のご協力に感謝の意を表して、騎士の名誉にかけてあなたの名は出さないことにしますよ」
ド・ヴァンがにこやかにそう言うと、ウェンディもニコニコ笑いながら、
「そうしてくれれば助かるよ。それに紅茶とブランデー、最高だったよ」
そう言って風の翼を広げると虚空に消えた。
ド・ヴァンはそれを見送ると、ドアに向かって言った。
「話は終わったよ。早く君の予測を聞かせてくれないかい、マディラ」
そして、部屋に入って来たマディラたちに、ド・ヴァンは驚くべきことを言った。
「ブルー、マディラの予測と共に『マイティ・フッドとノヴァの仲介を頼む』と団長くんに伝えてくれないか?」
「えっ⁉ しかし団長はジン殿たちがこの件に関わることを心配されていたのでは?」
ブルーが驚いて訊くと、ド・ヴァンはイタズラっぽい目をして答えた。
「彼がボクから止められておとなしくしているとでも? そのうちに彼はこの事件の核心にまで迫るだろうさ。何しろあのワインがついているんだからね?
それよりはある程度のところまで真実を知らせ、時間を稼いだ方がいい。ボクたちはその間に巨悪を懲らしめよう」
★ ★ ★ ★ ★
マーイータケの中央部やや東よりの街並みは、東地区よりはまだまともである。
この辺りは3年前の一揆の際、最後の決戦でレボルツィア・アナーキーが率いる軍が攻め込んできた限界であったため、崩れ落ちた建物は少なかった。ただ、ほとんどの建物の壁には矢や魔弾の跡が残っていて、当時の戦いの激しさを伝えている。
そのため、東地区ほどではないにしても、日が落ちると街並みにはどことなく不気味な感じが漂う。それは東地区で亡霊騒ぎや妖魔の出没の噂が広がってからは余計に顕著になっていた。
「さすがに中央区に近いと明かりが灯っている窓も多いですね、ノヴァ様」
金髪を大きな三つ編みにしたアメリアが言うと、
「でも、こんな人気の多い場所に、本当にフッドが現れると思いますか? これだけ明るかったらすぐに正体がバレるでしょう?」
茶髪茶眼でツインテ―ルにしたアンナが、大剣の位置を確かめながら言う。もしもの時のために気を抜いていないのが彼女の彼女らしいところだった。
「ここで亡霊の真似をする必要はないわ。まずは妖魔を使って町を不安に陥れ、亡霊の出番はそれから……わたしがハルモニアの立場なら、そうするわね」
弓を肩にかけたままノヴァが言うと、アンナはびっくりした顔でノヴァを見て訊く。
「えっ、ハルモニア? じゃ、団長はハルモニアが生きていて、フッドの手先になっているって言うんですか?」
ノヴァは翠の瞳を持つ眼で夜の町を油断なく見つめながらうなずいた。
「ええ、何度も妖魔たちと戦って気付いたの。今まで妖魔たちに私を仕留めるチャンスがなかったわけではないのに、その度に攻撃の手が緩んで結果的に私はいつも無傷……それは妖魔たちの指揮を執る人物が私を知っているからだと思っているわ」
「確かに、フッドもハルモニアも遺体は確認されていないし、フッドの騎士団の主だった騎士たちもそうっすね。でもだったら、ハルモニアはあたいたちを見てなぜ名乗ってくれないんでしょうかね?」
アンナの問いに、アメリアが答える。
「ハルモニアは一揆勢の首領に祭り上げられてノヴァ様の名前を騙ったのよ? そのことをなかったことにできるほど、彼女は厚顔無恥じゃないと思うわ」
「それか、フッドともども何かの秘密を知っているかだわ」
「「えっ⁉」」
アメリアとアンナがノヴァの言葉にびっくりした時、街並の先から絹を裂くような声が響いた。
「きゃあああーっ!」
それを聞いた途端、三人は一目散に声がした通りへと駆けだした。
「くそっ、来るなっ! あっちへ行けっ!」
三人が角を曲がると、30メートルほど先、街灯の明かりの下で野犬の群れに囲まれている男女が見えた。
男は女をかばって棒をふるっているが、相手の野犬からは明らかに瘴気のような魔力が感じられる。妖魔化しているに違いなかった。
「くそっ! わっ!」
バウッ!
見ていると、魔犬は男の振り下ろした棒をかいくぐり、その足に噛みついて男を引きずり倒した。そして一斉に飛び掛かり、男のあちこちに噛みつく。
バウウッ! ガウッ! グルルル!
「た、助けてくれーっ!」
男は血まみれになりながらも、のどや首筋などの致命的な場所はまだやられていないらしい。転げ回って魔犬の攻撃を避けながらそう叫び声を上げる。
一方の女は凄惨な様子に腰が抜けたのか、その場にへたり込んでただ震えているだけだった。このままではいずれ二人とも餌食となってしまうだろう。
ノヴァはとっさに弓を執り、矢をつがえながら言う。
「アメリア、アンナ、あいつらが怯んだら突撃よ」
「分かりました」「りょーかい!」
そしてノヴァが今しも矢を放とうとした刹那、
シュンッ! ドムッ!
ギャウンッ!
シュパッ! ドスッ!
キャン!
弓弦の音が響き、魔犬たちが次々と射て取られて行く。
「だれ?」
ノヴァがいぶかしげに言った時、アンナが
「ノヴァ様!」
目顔で突撃許可を訴えて来る。ノヴァはとっさに、
「だめ、隠れるのよ!」
そう言うと、矢を弦から外して物陰に隠れ、魔力も消した。アメリアとアンナもそれに続く。
ワン、ワンワンワン、バウッ!
三人が見ていると、魔犬の群れは男を打ち捨てて、矢が飛んでくる方向へ一斉に吠え立てている。
すると、
「うおおおおっ!」
物凄い雄たけびを上げ、地響きと共に一人のオーガが闇の中から突進して来て、魔犬の群れに突入すると、
「覚悟しなっ!」
ぶうんっ ドカッ!
ギャンッ!
「逃がさないよっ!」
ぶんっ ズバッ!
グオーッ!
大剣を縦横無尽に振り回し、あっという間に魔犬の群れを全滅させてしまった。
オーガの女は大剣を背の鞘にしまうと、血まみれの男をチラリと見て、震えている女に優しい声で言う。
「アンタの旦那かい? まだ息はあるし、致命傷も受けていないよ。早く医者に連れて行ってあげな」
そう言うと、男はゆっくりと立ち上がり、オーガの女に礼を言った。
「誰だか知りませんが、危ない所を助けていただき、ありがとうございました」
「ああ、礼なんかいいって。それより早く医者に行きな。彼女さん、アンタを守ってくれた彼氏につき添ってあげなよ」
やっと人心地がつき、ゆっくりと立ち上がった女も、小さく礼を言って男と共に立ち去った。
「マーガレット、この魔力は見覚えがあるな」
男女がその場から立ち去ると、闇の中から弓を持った黒髪の男性が現れてオーガの女に言う。その男は耳の形からエルフと思われた。
「ああ、魔力を込めた魔法石もあるね。いずれにしても同じ手口ってことは、同一犯の可能性が高いってことだろう、ドジソン?」
二人がそう話し合っているところに、
「生きていてくれたか、ドジソン、マーガレット」
そう言いながら、フランク・フッドその人がカノンに付き添われて現れた。
ドジソンとマーガレットは、フッドの出現に特段の驚きも見せず、ゆっくりとフッドの方を向くと、
「……フッド、やはり君の仕業だったか」
ドジソンがそうつぶやく。マーガレットは目を細めたまま無言であった。
フッドは二人の様子から、その気持ちを察したのだろう、薄く笑って言う。
「ああ、今この町を騒がせている亡霊や妖魔は、ドジソンが想像しているとおり俺が仕組んだことだ。俺たちを罠にハメたマッシュ・ルームを地獄に叩き落とすためにな!」
フッドの言葉を聞き、ドジソンは眉を寄せて訊く。
「公を? フッド、君は何か勘違いしている。どうして公を憎んでいるのか、そのわけを聞かせてくれないか?」
するとフッドはうなずいて、
「いいだろう。同じ罠によって死にかけた仲間だ。お前たちも俺の話を聞いたら、俺と共に公に仕返しをして、騎士団を再建することに力を貸してくれるだろうからな」
そう言うと、
「マーイータケ一揆は、自分の経済政策に反対する農家たちを黙らせるために、公が仕組んだ茶番だ。農家のためには扇動者としてレボルツィア・アナーキーという女傑を創り出し、国に不平不満を持つ者たちを結集させた。それを暴発させるために俺たち『ヘルキャット』をマーイータケへと送り込み、俺たちとレボルツィアたちが干戈を交えたら、軍を投入して俺たちごと邪魔者を消す予定だったんだ」
そう一息に言った。
ドジソンとマーガレットが黙っていると、その沈黙を何と思ったのか、フッドはまた口を開き、
「その証拠に、俺たちが一揆勢と激突した後すぐに、各国の騎士団や傭兵隊が戦に加わって来たじゃないか。
公の使いは俺にこの仕事を頼むとき何と言った? 『公は騒乱を望んでいない。君たちが行ってくれれば農家たちは話を聞いてくれるだろう』……そう言ったじゃないか、俺は忘れていないぞ」
叫ぶように言うフッドに、ドジソンが静かな声で言い聞かせるように言う。
「……フッド、あの一揆がこの国の上層部による茶番だってことはぼくも否定しない。ただ、その上層部のお方が一揆を仕組むに当たり、自分自身のために別の目的があったとしたらどうする?」
「別の……理由? 単に反対する農家たちを黙らせるだけじゃないって言うのか?」
紫紺の瞳を持つ目を細めて訊くフッドに、ドジソンは深くうなずいて
「ああ、考えてもみるんだ。農家たちは最初、公に税率を下げるように申し入れするとか、地域の有力者に頼んで閣内にいるお偉いさんに働きかけるとか、温厚な活動しかしていなかった。
それがいつの間にか『一揆』などという動きが出てきた。マーイータケの町に無頼者の姿を見かけるようになったのもその頃だ。君も覚えているだろう?」
そう言われて、フッドは記憶をまさぐるように言う。
「……確かに、マーイータケにはよそ者が増えてきたらしいとの噂についてお前と話をしたな。ドジソン、お前はその件で何か作為的なものを感じると話していたが……」
「そうだ。ぼくはマーイータケに入り込む奴らの中には、農家を扇動してその気にさせるものがいるに違いないと思っていた。それで事件が起こったら、騎士団にも話が来ることは必然だからね?
その当時、ぼくは一揆などが起こるとすればそんな奴らのせいで、突発的に起こると楽観視していた。まさか国の上層部が噛んでいるとは思っていなかったし……」
ドジソンは黒い瞳を光らせると続けて言う。
「……ぼくがおかしいと感じたのは、公からのお使者が君を訪ねてきた時だ。あの時はすでに農家側にはレボルツィア・アナーキーなる人物がいて、農家や無頼の者たちの組織化を始めていたころだ。
それをあのお使者は全く知らぬふりでおくびにも出さなかった。それと、お使者はタルケ様の家人だった。それでぼくは『タルケ様は国主様を邪魔にしている』という噂を思い出したんだ」
「待て、俺はそのタルケ様から直々に訊いたんだ。一揆を首謀し、話し合いを演出したうえで一揆勢を暴発させ、事件が起こったらすかさず反対者を処罰する……すべて公がシナリオを書いてタルケ様たちにもその目的を秘して実行させたものだと」
フッドが怒ったように言った時、闇の中から、
「そのタルケ様って言うのは、この国の次席執政であるヒーラー・タルケ殿のことかな?」
そんな声がして、銀髪に翠の瞳をした少年を中心に、5・6人の男女がぞろぞろと姿を現した。
「なんだ、お前たちは?」
フッドが身構えながら訊くと、少年が答えるより早く、別の方角から声がして3人の女性が現れる。
「その方々は、ドッカーノ村騎士団の皆さんです。マイティ・フッド、今回の亡霊や妖魔の件であなたに話があるそうですよ?」
「ノヴァさん、どうしてここに?」
ジンがびっくりしたように言うと、ノヴァは薄く笑って答えた。
「わたしもマイティ・フッドに話があるのです。内容はそちらのミスタ・ドジソンが話されたことと概ね同じです」
そう言われたドジソンは、黒い瞳を細くして丁寧にノヴァに訊く。
「間違っていたら謝罪しますが、あなたはひょっとしてレミー・マタン殿では? エドモンド・ナカムラ殿の下で大隊長を務めていた」
「なに、そなたがレミー・マタン殿? ハルモニアがずっとそなたに謝りたいと言っていた。自らの意思ではないとはいえ、そなたの名前を騙る形になってしまったことを悔やんでいた」
フッドが言うと、ノヴァは翠色の瞳を持つ目を細めて首を横に振り、
「過ぎたことです。わたしは真実さえ知れればいい。そこにハルモニアがいるのであれば、彼女の口から当時のことを詳しく訊きたい」
そう言うと、ワインが葡萄酒色の髪を形のいい手でかき上げながら提案した。
「マイティ・フッド殿とそのお仲間、ハルモニア殿やノヴァ殿たち、当時の関係者がすべてそろっているんだ。それぞれで何があって、誰から何を言われたのかを突き合わせてみたらどうだい、その後のことも含めてね? そしたらつじつまが合わない部分は自ずと明らかになるだろう」
その言葉に、全員がうなずいた。
★ ★ ★ ★ ★
リンゴーク公国の首府、ベニーティング城。
その、遠目から見たらマイタケのように見える城の中を、ド・ヴァンたち『ドラゴン・シン』の面々が闊歩していた。
「お久しぶりです。わざわざお越しいただきありがとうございます、ド・ヴァン殿。公も取次ぎを受けてとても喜ばれていました。今日は何か特別なご用事でも?」
ド・ヴァンたちを先導するオーツ・カイマンが訊くと、ド・ヴァンはウザったく伸びた金髪を形のいい右手でかき上げながら
「ふふ、この国にとって重大なことを聞き込んだものだからね、急遽リンゴーク公に謁見を申し込んだんだ」
そして続けて訊く。
「ボクの要望どおり、今日は執政のお二人もご同席願えるのかな?」
「はい、マイク・タルケ様もヒーラー・タルケ様も、ド・ヴァン様にお会いすることを非常に心待ちにしておられます」
ド・ヴァンは、オーツの言葉に機嫌よくうなずいて
「それは良かった。今日の用事はお二人がいらっしゃらないと始まらないからね」
そう、薄ら笑いと共に言った。
ド・ヴァンたちが接見の間に入ると、リンゴーク公マッシュ・ルームがにこやかに語りかけて来た。
「おお、ド・ヴァン殿か、3年前にはいたく世話になったな。その後の活躍は聞いているぞ、余も陰ながらそなたとそなたの騎士団の発展を願っておる」
そして、おもむろに立ち上がるとド・ヴァンの手を取って
「それにエーリンギーの商人たちやヒラータケ村の危難の解決にも力を尽くしてくれたようで、余はどうお礼をしたらよいか分からぬほどに感謝しておる」
そう、人懐っこい丸顔に笑みを湛えて言う。
ド・ヴァンは優雅に笑うと、
「これは過分なお言葉を頂き恐縮いたします。本日は旅の最中に公にとって大切だと思われることを見聞いたしましたゆえ、かくはお目通りをお願いしたものです。お忙しいところお時間を取っていただき感謝いたします」
そう、身体を曲げながら挨拶をした。
その時、同席していた気の弱そうな男が、神経質そうにそわそわしながら口を挟む。
「それでド・ヴァン殿、公にとって重要だと思われることとは何でしょうか?」
「うむ、余も気になっているところだ。ド・ヴァン殿、聞かせてくれないか」
リンゴーク公も眉をひそめて言う。人の良さそうな顔のリンゴーク公だったが、八の字眉になると子どもが困っているようにも見える。
ド・ヴァンは、少し微笑みかけたが、慌てて笑顔を消して言った。
「3年前、マーイータケで起こった事件については、まだ覚えておいででしょうか?」
リンゴーク公は、大きくうなずいて答えた。
「おお、よく覚えておるぞ。確かそなたたちが一揆の首謀者であるレボルツィア・アナーキーなる女を討ち取ったのだったな?」
ド・ヴァンは、緩く首を振って言う。
「今、マーイータケ町で妖魔や亡霊の騒ぎが起こっていることはお耳に入っていますか?」
するとマッシュ公は怪訝な顔で
「いや、初耳だ。亡霊はともかく、妖魔が出たとすれば由々しきことだ。首席執政、なぜそのことを余に報告しなかった?」
首席執政のマイク・タルケに訊くと、マイクはおどおどしながら答えた。
「そ、それは、現地の司直たちからはっきりとした報告がございませんでしたので……」
「ふむ、ボクが聞いたところでは、妖魔や亡霊騒ぎが起こり始めたのはここ数週間と言ったところだそうだが、何人もの人たちが司直隊には相談しているという。それでも報告はなかったと言われるのですね?」
ド・ヴァンが訊くと、マイクが何か答えるより早く、弟で次席執政のヒーラー・タルケが突っかかるように言った。
「確かに報告は上がっておりませんでした。そのことについては後で私が司直隊を詰問いたしましょう。
ところでド・ヴァン殿、そのことと3年前の事件がどう関わり合いがあると言うのですか?」
ド・ヴァンは血相を変えて言うヒーラーを受け流すように
「大いに関係がありますよ。その亡霊が3年前の事件の恨みつらみを口にし、リンゴーク公を罵っているとのことですからね」
そう言うと、マッシュ公をひたと見つめて、
「それに、その事件の犯人はフランク・フッドという噂もございます。
心覚えまでにお訊きいたしますが、3年前、一揆勢との話し合いに『ヘルキャット』を遣わそうと言うのはどなたのご発案だったのですか?」
そう訊いた。
「それはそこにいるヒーラー・タルケが緊急に派遣したものと覚えておる。
けれどド・ヴァン殿、『話し合い』とはどう言うことだ? 余はヒーラーから『一揆鎮圧のために各国の騎士団に依頼を出した』という報告しか受けておらんぞ?」
マッシュ公が驚いた様子で言うと、ド・ヴァンはタルケ兄弟が何か言うより早く、
「なるほど、それでは公よ、私たちが護衛を承りますのでマーイータケ町までおいで願えませんか? 彼の町ではドッカーノ村騎士団が目下、事件解決に動いてございますし」
そう、微笑と共に勧める。
「待たれよ! その程度の事件でわざわざ公が御出馬なさることはない」
慌てて止めるヒーラーに、ド・ヴァンは冷たい視線を投げて
「ふむ、次席執政におかれては何十人もの人々が被害を訴えている事件を『その程度』とおっしゃるのですね?」
そう、ヒーラーを牽制すると、再びマッシュ公に瞳を向けて、
「この事件は3年前の一揆が深く関わるものです。そしてその秘密を知ることは公にとって有益なことと信じます。どうか一緒においでください」
深々と頭を下げるド・ヴァンであった。
マッシュ公は、そんなド・ヴァンや、明らかに動揺しているマイクの顔を見比べていたが、やがてニコリと笑って言った。
「うむ、3年前の一揆はこの国始まって以来の艱難だった。それがまだ尾を引いているとすれば、余も何かせねばならないであろう。ド・ヴァン殿、余と共にマーイータケ町までご足労願えるか?」
僕たち『騎士団』は、ワインの
「マイティ・フッド殿とそのお仲間、ハルモニア殿やノヴァ殿たち、当時の関係者がすべてそろっているんだ。それぞれで何があって、誰から何を言われたのかを突き合わせてみたらどうだい?」
という発案に従って、それぞれから3年前のことを詳しく話してもらうことにした。
まず、フッドさんが次のように話し出した。
「俺は最初、次席執政からの使いから『一揆勢を落ち着かせ、話し合いをしてくれ』と言われた。ここに居るドジソンやマーガレットも聞いていたはずだ」
「確かに、それはフッドの言うとおりだ。お使者と共にカノンという事務官がついて来ていたからね」
黒髪のドジソンがそう言うと、フッドの側にいた碧眼で銀髪を肩まで伸ばした乙女もうなずいて、
「はい、私は上司から『一揆勢に新たな税金の必要性を説くとともに、あくまでも一時的なことを話して聞かせよ』という業務命令を受けて、フッド様と共にマーイータケへと向かいました」
そう言う。
続けて、カノンさんと共にフッドさんの隣に歩み出た女性が言う。
「あたしはレボルツィア・アナーキーことハルモニア・ジューン。初めまして、ドッカーノ村騎士団の皆さん。そして……」
ハルモニアさんはノヴァさんの方を向くと、伏し目がちにあいさつする。
「久しぶりです、レミー・マタン団長。あたしの勝手な行動でご迷惑をおかけして、帰るに帰れませんでした」
「……過ぎたこと。それよりあなたの話をわたしは聞きたい」
ノヴァさんが首を振って言うと、ハルモニアさんはうなずき、
「団長も覚えておいででしょうが、『人民の味方』と名乗る男は、団長から追い払われた後、あたしのところにやって来ました」
そう言うと、アメリアさんやアンナさんを見て、
「その男は言いました。『マッシュ公は自身のぜいたくのために国の財政が危うくなったため、特産品のキノコに税をかけるのだ』と。
税をかける理由が身勝手なものですし、特にマイタケがマツタケやトリュフと同じような高率で税金の対象とされることはおかしいと感じたので、あたしはその男の話を詳しく聞いてみることにしたんです」
それを聞いて、クスリと笑ったワインが先を促した。
「ふむ、実に興味深いですね。それで『人民の味方』とやらはどんな話を?」
「軍資金として30万ゴールドを提示してきました。ベニーティング城までみんなを連れて行軍するのが条件でした。それと……」
ハルモニアさんは言いにくそうに言葉を濁したが、
「……これはフッド様にも言ってはいなかったことですが、あたしたちを征伐に来る騎士団を先制攻撃して潰せ、という依頼でした。どうせ戦いになるのだから、名のある騎士団を最初に潰せばその後の展開が有利になる、ということでした」
そうはっきりと言った。
「ふむ、さっそく大きな突っ込みどころが出てきたね。そういう依頼の仕方だったのなら、フッド殿に依頼した人物と『人民の味方』は同じところから派遣されているってことだね」
ワインが言うと、ノヴァさんは何かを考えるようにして言う。
「なるほど、普通は一揆などの征伐には軍か司直隊が派遣されるのが普通。
それなのにハルモニアを征伐に来るのが騎士団と言ったということは、『人民の味方』は通例と違って少なくとも騎士団が派遣されることを知っていたということですね?」
「けれどそれは両方の使者を遣わしたのがマッシュ公だってことを否定しないぞ? マッシュ公がこの件とは関係ないとどうして言えるんだ?」
フッドさんの問いには、ワインではなくドジソンさんが答えた。
「フッド、3年前の事件にはいろいろと不審な点がある。まずはマイタケの税率は当初、シイタケなどと同じ3パーセントだったってことだ」
これには、フッドさんだけでなくハルモニアさんやカノンさんも驚く。
「うそ、実際マイタケ農家は12パーセントの税金を納めているじゃない?」
ハルモニアさんが言うと、今度はワインが補足説明する。
「その点については、ボクもこの国の公文書で確認したよ。
『リンゴーク公国のキノコ類及び特産品に係る臨時的な税の徴収について』という特別税の決裁文書を見てみたが、決裁文書では確かにマイタケは3パーセントとなっていた。
布告の段階で誰かが12パーセントに書き換えているみたいだ」
「どう言うことだ?」
ワインが提示した文書の写しを食い入るように見つめながら、フッドさんが呻くように言う。いや、ハルモニアさんも怒りの色を眉に表して言う。
「誰が、3パーセントのものを12パーセントに? 単なる間違いにしては腑に落ちないわ。仮に国主様も知らないとしたら、これは越権行為じゃない!」
カノンさんも不思議そうな顔をして文書を眺めながら言う。
「私は一揆首謀者と話をしろと上から命令された時、あくまでもマイタケの税率は12パーセントって信じ込んでいました。このことを知っていたら、一揆の人たちの怒りの矛先も変わっていたんじゃないかって思います」
三人の話を聞いて、ワインはチラリとドジソンさんを見た。ドジソンさんもうなずいて
「フッド、君がタルケ殿から何と聞かされているのかは知らないが、こちらの騎士団の方が調査されたとおり、あの一揆には不自然な部分がたくさんある。一度君が聞かされていることを白紙にして、物事の裏を考えてみようじゃないか」
そう言うと、フッドさんは唇をかみながら
「……確かに俺はヒーラー・タルケ殿から、国主が自身のために税金を取ることを決め、税率も思いどおりに決めたと聞いた。税率の差額を国主が独り占めにしていないという証拠はあるか?」
そう、呻くように言う。
ワインは葡萄酒色の髪をかき上げると、すまなそうな顔をしてさらにもう一枚の紙を取り出した。
「これはここ3年間のこの国の収支決算と、公が公表している内帑金の決算だ。
見てもらうと分かるが、特産品への課税収入はすべて産業振興と鉱山整理のための特別会計として処理されている。そのための基金もあるみたいで、収入分の税金の動きはとてもクリアだ。
一方で内帑金の方は3年間、ほとんど増えていない。何だったら昨年と一昨年、続けて減少している。公が税金の差額を着服しているとは思えないな」
ワインがそう話していた時、
「なんと、誰がマイタケの税率を不当に引き上げていたのだ⁉」
驚いたような声と共に、リンゴーク公マッシュ・ルームがこの場に現れた。後ろにはド・ヴァンさんとウォッカさん、そしてソルティさんが付き従っている。
ド・ヴァンさんはニコニコ笑いながらワインに言った。
「ワイン、さすがに君だ。そこまで調べてくれていたんだね。おかげで公に長ったらしい説明をしないで済んだよ」
そして、当惑しているマッシュ公に、ド・ヴァンさんは優しく促した。
「公、ここに居るのはみんな、3年前の事件の関係者です。心ならずも事件に巻き込まれ、奸臣の言葉に惑わされて公を恨んでいた者もいますが、公の口から直々に当時のことをお話しいただければ、みんな納得するものと思います」
するとマッシュ公は、ふくよかな顔を僕たちに向け、
「そうか、余は臣下を信じておったが、そのような者もいたということだな。すべては余の不明から出たこと、皆には甚く迷惑をかけたな」
そう言うと、3年前のことから話を始めた。
(Tournament31 亡霊を狩ろう!⑤へ続く)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
マイティ・フッドやウェンディ、そしてド・ヴァンと3年前の一気に関わった人たちがそろい踏みしました。
次回、エピソード『亡霊を狩ろう!』完結です。




