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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
アルクニー公国編
2/137

Tournament2 Jackalope hunting(ジャッカロープを狩ろう!)

賢者会議からジャッカロープの群れをなんとかしてほしいと頼まれた『騎士団』の面々。

さっそうと赴いたジンたちは、ジャッカロープの置かれた意外な状況を聞いて……。

ワケあり騎士団コメディの第二弾です。

「いやぁ、今日もみんなの役に立てたねぇ。街道もすっかりきれいになったな」


 ここは、アルクニー公国のドッカーノ村。その村の西外れにある一軒の家で、僕たち『騎士団』三人組は、今日のクエスト、『道路清掃』について反省会を行っていた。


 団長である僕、ジン・ライムは、肩まで伸ばした銀髪とみどりの瞳がトレードマークになっている。古くはなったがお気に入りの黒い服を着て、ヨレヨレの黒いズボンを穿き、腰には古びた剣を吊っている。


 僕は、目の前に座った、あおい瞳をして金色の髪をポニーテールにした少女に話しかけた。ちなみに彼女は、頼みもしないけれどこの家を掃除したり、僕の服を洗ったり、繕ったりしてくれる良い子だ。


「やっぱりシェリーの『風の魔法』は便利だよね。刈り取った草なんかいっぺんで集められるし。ほんと、いつも助かるよ。さすがはシルフの一族だな」


 すると、シェリーは、ニコリと可愛らしい笑顔で答えた。シェリーの笑顔はえくぼが出てとても印象的だ。


「ありがと。アタシも自分の魔法が人の役に立っているのはうれしいわ。でもジンが騎士団を立ち上げてくれてなかったら、フツーの生活をしてたわね、きっと」


 シェリーは、目のさめるような鮮やかな青いワンピースの下に、落ち着いた群青色の細身のズボンを穿き、革のベルトに2本の短剣ダガーを仕込んでいる。


「でも、たまには『騎士団』って仕事をしたいよね。いつまでも畑の草むしりや、道路清掃、子どものお世話なんかばっかりじゃ、スキルも取得できないし、レベルも上がらないから、ジンのお父上を探しに旅に出るなんてこと、夢のまた夢だよ」


 僕とシェリーの斜め前に座った少年が、うざったく伸びた葡萄酒色の髪の毛を形の良い指でいじりながら言う。僕とシェリー共通の幼馴染みで、ワイン・レッドという。彼は村でもいいトコの坊っちゃんだが、僕の騎士団立ち上げには非常に協力的だった。


 彼は全身をワイン・レッドの衣服で固めており、その材質もシルクのような高級なものであった。彼の背中側の壁には、大身の手槍が立て掛けてある。


「ジンがこの間、妖魔イノシシをなだめた一件で村から貰った1千ゴールドだけど、資材の購入なんかで残りは2百ゴールドだからね? ここで一発、大きなクエストを受注しないと、騎士団は破産だよ?」


 するとシェリーはムスッとした声でワインに食って掛かった。


「この村はアルクニー公国の中でも、賢者のみなさんが集うくらいに平和なところよ? 大きなクエストなんてあるわけないじゃない」


「ところが、探してみるとあるんだよ。昨夜、ボクの家に賢者スラッグ様からの使いが来た。何でも大賢人マークスマン様直々の依頼があるらしい。今日のクエストが終了次第お伺いするって答えていたから、今から行ってみないか?」


 僕はびっくりした。大賢人様直々の命令など、そうそう受けられるものではない。僕たちのような弱小騎士団ならなおさらだ。


 魔法使いには国境はない。どの国の人間でも『魔法使い』や『魔導士』を名乗るには、大陸の魔導士ギルドが決めた師匠の下で修業し、ギルドから免許を受けねばならない。


 そんな全国の魔導士・魔法使いの頂点に立つのが大賢人様で、その下にいる四人の賢者様たちと共に、『賢者会議』を構成している。慣例で『賢者会議』は大賢人がいる国に置かれることになっていたので、今、僕たちのドッカーノ村に『賢者会議』があるわけだ。


 とにかく、相手は雲の上の人だ。待たせるわけにはいかない。


「そうだね、すぐにお伺いしよう。みんな、一番いい装備で行かなくちゃな」


 僕はどんな依頼が待っているのかと言う期待と不安でいっぱいになりながら言った。



 『賢者会議』が置かれている場所は、村の北東、カーミガイル山の麓でセー・セラギ川の川面を望める小高い丘の上にあった。


 けれど、大賢人様のお住まいは『賢者会議』という名前の厳めしさから想像していたよりもずっと質素で、こう言うと失礼だけれど大きさは僕の家とそんなに変わらなかった。


 ただ、さすがに大陸の魔法使いを統べる人たちが詰めている場所だけあって、あちらこちらから魔力が感じられる。姿は見えないが、何人もの魔導士や魔戦士たちがこの場所を守護しているに違いなかった。


 僕たちが玄関のドアの前に立った時、ドアノッカーをくわえている青銅の狼の頭部が急に声を発した。


『よく来てくれたね、我が子たち。遠慮せずに中に入り給え』


 青銅の狼がそうしゃべると、ドアが重々しく開く。見た目よりは頑丈な造りになっているのか、それとも魔法のせいなのかはよく分からなかった。


「すげ……」


 僕たちは家の中を覗いて声を失った。目の前には両側の壁に燭台が灯った廊下が長く続いている。外から見たこの家の大きさとは明らかに不釣り合いだった。


「どうする、ジン?」


 怖気づいたのか、シェリーが小さく訊いてくる。僕は笑って、


「招待されたんだ。行くしかないだろう」


 そう言うと、家の中に足を踏み入れた。ワインとシェリーもこわごわ続いてくる。


 家の中はかなり広かった。廊下は一本道ではなく、いくつかに枝分かれしていたが、僕たちは燭台が灯った通路をたどり、やがて大きなドアの前に到着した。たっぷり15分は歩いた気分だった。


「ドッカーノ村の騎士団の方々ですね?」


 扉の前には二つ西洋の鎧が飾ってあったが、その一つがいきなり話しかけてくる。さっきの青銅の狼ドアノッカーで慣れていたので、あまりびっくりしないで済んだ。


「はい、僕が団長のジン・ライムです」


「よくおいでくださいました。中へどうぞ」


 青銅の鎧がそう言うと、ドアがまたもや重々しく開く。その先には5人の大魔法使いがニコニコしながら待っていた。


 部屋の奥、長い髭を蓄えて温和な瞳で僕たちを見つめているのが、大賢人マークスマン様で、その左右にスナイプ様、アサルト様、スラッグ様そしてハンド様の四方賢者の皆さんが控えている。その中で最も若いハンド様が、


「よく来てくれたね。まあ座り給え」


そう、若々しい声で僕たちに椅子を勧めてくれた。


「シェリー、ワイン、座ろう」


 この場に飲まれて動けない二人にそう促すと、僕は大賢人様正面の椅子に座った。右にワインが、左にシェリーが続いて着席する。


「よく来てくれた。先月、君たちが魔獣と化したイノシシを説得したことを思い出し、あることを頼みたくてご足労いただいたのだ」


 僕たちが座ると、賢者スラッグ様がそう言う。僕はうなずいた。


「どんなご用命でしょうか?」


 僕は失礼にならないよう、賢者ハンド様にそう問いかけると、今度は賢者アサルト様が僕の問いに答えた。


「君たちには、ジャッカロープを何とかしてほしいのだ」

「ジャッカロープを?」


 ワインが思わず訊き返したのも無理はない。ジャッカロープは別名『ツノウサギ』といい、その名のとおりシカに似た角を持っている。性格はイタズラ好きで人間の声真似をして道に迷わせたりする……らしい。


 『らしい』と言うのは、僕たちは今の今までジャッカロープがどういう生き物なのかは知っていても、見たことがなかったからだ。ただ、魔獣狩りをするハンターたちや旅人からそんな話を聞き知っていたに過ぎない。


 だから、いきなり『ジャッカロープを何とかしてほしい』と言われても、『そんなんマジでいたんすか?』となるわけだ。


 当惑顔の僕たちに、賢者スナイプ様が優しい声で訊いてきた。


「君たちは、ジョークタウンと言う町を知っているわね?」


「ええ、この国の南端にあるマーターギ村の近くの町ですね? 近ごろは首都のお偉いさんたちの別荘でにぎわっているとか聞きましたけれど」


 さすがにこういうことはワインが良く知っている。


「そう、その町の畑や別荘が荒らされるのでハッシュ・ポトフ公もお困りのようなのよ。ぜひ引き受けてほしいわ」


 賢者スナイプ様は、優しい顔と声だが押しが強い。美人の熟jy……もとい、お姉さんタイプに弱いワインが、目を輝かせて答えた。


「はい、お任せください!」



「どうするのよ、その場のノリで引き受けちゃって。何か考えがあるの?」


 帰り道、さっそくシェリーが心配顔でワインに噛みつく。何せ今度の依頼人は大賢人様たち『賢者会議』だ。引き受けたはいいが失敗したら僕たち騎士団が住める場所は無くなるだろう。


「もちろん、ない」


 ワインが胸を張って答えたので、シェリーがさらにヒートアップした。


「何ですってェ!? 安請け合いして失敗したら、お仕置きはアンタ一人で受けてもらうからね? アタシやジンを巻き込まないでよね、クズエルフ」


 興奮のあまりダガーを抜きかねないシェリーに、僕は優しく言った。


「シェリー、今度のお話は僕たち騎士団にとって飛躍のチャンスだ。それに名指しであった以上断ることもできない。とにかく、ジョークタウンに行って状況を確認しないと作戦も立てられない。今から君の家に行こう」


「へっ? なんでアタシの家に?」


 目を丸くして訊くシェリーに、僕は笑って言った。


「ジョークタウンまでは急いでも2日はかかるからね。騎士団の用務とはいっても、マルサラおばさんから君を旅に連れ出す許可は取っておかないとね」


「えっ? いいよ別に。アタシももう17歳だし、ジンと一緒なら母さんも何も言わないよ。母さん、ジンのことすっごく信頼してるから」


 シェリーはそう言うが、彼女だって母一人子一人の暮らしだ。『ちゃんと筋を通すところは通さないといけませんよ』……僕には亡き母の声が聞こえるようだった。


「それだけ信頼されているなら、余計にちゃんと説明はしておかないとね。ワイン、君は先に帰って旅の支度をしておいてくれないか?」


 僕が言うと、ワインは親指を立てて答えた。


「任せとけ。大賢人様から前金として2千ゴールドもいただいたから、ばっちり準備しておくよ」



「……あの若者たちで大丈夫でしょうか?」


 ジンたち『騎士団』を見送った後、賢者ハンドが心配そうにつぶやく。それを聞きつけた賢者スナイプは、笑って言った。


「あのジンって子は、なかなかの魔力を秘めていたわ。私の弟子に欲しいくらいよ」


「けれど、実戦経験には乏しいみたいですね。大賢人様はどうしてあの者たちにこの仕事を任せようと思われたのですか?」


 賢者アサルトが訊くと、賢者スラッグも


「そうですよ。同じ依頼するのであれば、トナーリマーチで力をつけて来た騎士団『ドラゴン・シン』でよかったのでは?」


 そう言う。


 しかし大賢人マークスマンは、微笑を湛えてアサルトとスラッグに言う。


「そなたたちの言う『ドラゴン・シン』のギルドマスター、オー・ド・ヴィー・ド・ヴァンは確かに腕が立つかもしれないが、ジン・ライムには彼にない特長がある。それを今回の依頼で見極めたかったのだ」


「ド・ヴァンにない特長ですか?」


 興味をそそられたらしい賢者スナイプが訊くと、大賢人マークスマンはうなずいてポツリと言った。


「ジンの父は、あの『マイティ・クロウ』だ」


 その言葉を聞いて、四方賢者の全員が耳を疑った。


「……ま、『マイティ・クロウ』とは、20年前の魔王降臨を阻止した伝説の勇者のことですか?」


 賢者アサルトが訊くと、大賢人マークスマンは重々しくうなずいて言った。


「うむ、バーボン・クロウは彼の父だ。ジンは母方の姓を名乗っているようだな。いずれ来る嵐に、彼がバーボンの代わりを務められるか、それを私は知りたいのだ」



「あら、どうしたのジンくん」


 僕たちがシェリーの家に行くと、マルサラおばさんがいつもどおりの笑顔で迎えてくれた。僕はその笑顔につられて笑った。


「ジン、早く言ってよ」


 シェリーが横で僕の脇をつつくので、僕は笑顔を収め、真剣な顔になっておばさんに言った。


「あの、マルサラおばさん。折り入ってお願いがあるんですが」

「何かしら、折り入ってお願いなんて」


 おばさんは不思議そうな顔をして僕に訊く。僕は思い切ってシェリーを旅に連れ出したいことを話した。

 するとおばさんは、笑いながらシェリーに言った。


「シェリー、シルフの掟は覚えているわね?」

「うん。アタシはもう17だし、旅に出てもいいよね?」


 シェリーが真剣な顔で訊くと、おばさんは頷いて答えた。


「私は、相手がジンくんでなければ許さないところだったけど、あなたとは兄弟のようにして育ったジンくんだから信頼しているわ。ジンくん、シェリーをよろしくね?」


「は、はい」


 僕が答えると、シェリーはニコニコしながら僕に飛びついてきた。


「ほら、アタシの言ったとおりだったでしょ? さっ、ジン、旅の支度をしましょ?」

「分かった、分かったから、離れてくれないかシェリー」


 おばさんが笑顔で僕らを見ている。僕は急に恥ずかしくなって、慌ててそう言った。


   ★ ★ ★ ★ ★


「じゃ、行ってきます、お母さん」

「おばさん、行ってきます」


 次の日、僕とシェリーは連れ立って、村の西側の街道沿いにジョークタウンへと出発した。ここからジョークタウンは南西に30マイルほど離れている。


 ワインは家が南側にあるので、途中で合流することにしていた。


「気をつけてねシェリー。あまり無茶してジンくんに迷惑かけないようにね」


 おばさんが言うと、シェリーはニッコリとして、


「大丈夫。アタシはジンのお姉ちゃんだもん」


 そう言いながら僕の手を握って笑った。


 やがて500ヤードも行くと、旅装をしたワインが道端に立って手を振ってきた。


「やあ、お二人さん。今日は旅にはもってこいの天気だねえ」


 ワインはいつもの服の上からワイン・レッドのマントをつけ、頭には同じくワイン・レッドの幅広の帽子を被っている。荷物は手槍にくくりつけて、帽子に1本の白い鳥の羽をあしらっているところを見ると、吟遊詩人を気取っているらしい。


「早速だけど、ジャッカロープを始末する方法、考えて来たでしょうね?」


 シェリーが訊くと、ワインはクスリと笑って、ウザったい前髪に形のいい指を絡ませながら答えた。


「おやおや、すべては現地調査の後ってジンが言っていなかったかい? でもボクだって騎士団の事務総長なんだ。手は打っているよ」


(おや、僕の騎士団にいつから『事務総長』なんて役職ができたんだろう?)


 僕がそう思っていると、シェリーがうなずいてワインに言う。


「そう? じゃ、どんな手を打ったのかを副団長たるアタシに報告しなさいよ」


(あれっ? シェリーまで『副団長』なんて聞いたこともない役職を言ったぞ?)


 僕がそう不思議がっているのをよそに、ワインが説明を始めた。


「今度の依頼の件について、ボクの家からジョークタウンの町長に使いを出した」

「町長に? アンタ、ジョークタウンの町長と知り合いなの?」


 シェリーがびっくりしたように訊く。確かにワインの人脈は広いが、まだ17・8の若者が町長と知り合いってこと、あるのだろうか。


 そう思っていると、案の定、ワインは種明かしをした。


「まさか、ボクが町長を知っているわけがない。けれど、わが父上は顔が広い。父上に頼んで町長あてに協力依頼とジャッカロープの好物を揃えてもらうように依頼しておいたんだ。あっちに着いたらすぐに狩りを始められるよ」


 ワインがドヤ顔で言う。僕はうなずいて言った。


「そうだね、とにかく早くジョークタウンで話を聞いてみよう」



 僕たちの住んでいるドッカーノ村は、アルクニー公国の中にある。アルクニー公国はヒーロイ大陸の南東にあって、西はリンゴーク公国、北はトオクニアール王国と境を接している。


 とはいっても、ヒーロイ大陸には中央にユグドラシル山というとても高い山があり、その山を中心に東西にターカイ山脈が、南にケワシー山脈がある。そしてなぜかどちらの山脈もアルクニー公国側が切り立っていて、公国全体が盆地のような形状になっている……らしい。


 『らしい』というのは、僕自身、この目で見たことがないからで、村に住んでいる大賢人様たちの話や、遠くから来る行商人、そして旅の剣士たちの話を聞いて知っているだけだ。


 ジョークタウンはケワシー山脈の中腹にあり、アルクニー公国の最西端に位置する町だ。そこでは夏にも涼しい気候を生かして野菜の栽培が盛んであり、近頃は避暑地としても人気が出てきていた。

 人口は町の中では少ない方で、ドッカーノ村が5百人くらいだが、それよりちょっと多いくらいらしい。まあ、村に毛が生えた程度の町らしいが、地形の特性上面積はドッカーノ村とは比較にならないくらい広いとのことだった。



 僕たちは3日目の昼頃にジョークタウンに着いた。そこはまさに想像どおり、『高原の町』と言った風情で、白樺が生えていて涼しく、そして瀟洒しょうしゃで閑静な町だった。


「ふ~ん、なかなかいい所じゃない? あの別荘なんかオシャレで素敵だわ。ねっ、ジン、あの別荘なんかアタシたちに似合うと思わない?」


 シェリーが目を輝かせて言うが、僕はまだ貧乏暮らしの半人前の騎士だ。別荘を買えるだけのお金なんて逆立ちしたって出て来ない。


「シェリーに似合いそうな可愛い家だけれど、高価たかいんだろうな」


 僕が言うと、シェリーは微笑んで答えた。


「別に今じゃなくてもいいよ。5年……ううん、10年後くらいにあんな家に住めればいいなって思ったの」

「シェリーらしいな。君のことだからきっと夢はかなうさ。応援しているよ」


 僕はシェリーを励ますためにそう言ったが、何かが違ったらしい。シェリーは一瞬ギロリと僕を睨んだが、そこにワインが戻って来たので口をつぐんでそっぽを向いた。


「やあ、待たせたね二人とも。ちゃんとジャッカロープの餌は届いていたよ……どうしたんだいシェリーちゃん? ご機嫌斜めかい?」


「別にジンのせいじゃないもん」


 シェリーが僕を見て言うのを聞き、ワインが大人びた微笑で


「分かったよ、ジンにはボクから言っといてあげるから。それより諸君、作戦を考えないといけないよ」


 そう言う。僕は何だか救われた気がして、ワインに訊いた。


「詳しい情報は手に入れられたかい?」


「ある程度はね。もともとこの町は『ジャッカロープの里』として自然の中でジャッカロープと触れ合えることをウリにしていたみたいだ。あんなふうにね?」


 ワインが指さす方向を見ると、『ジャッカロープの里・ジョークタウンへようこそ』という看板が目に入った。


「その頃は、こんな事件は起こらなかったらしい。けれど昨年、町長が代わったことでこの町に変化が起きた」

「それが『避暑地としての活用』ってやつね?」


 シェリーが言う。ワインは片眉を上げる独特のしぐさでそれを肯定して、


「ご名答、今の町長はこの町のロケーションと野菜をセットで売り出すことを考えた。それはうまくいき、公国のお偉いさんたちの心をつかんだ。けれど、その反面、急速な需要の伸びに応えるために森は切り払われてしまった」


 森がなくなると、そこに暮らしていた動植物が影響を受ける。ジョークタウンの開発は、ジャッカロープに限らず他の動植物にも影響を与えていることが容易に推測できた。


「しかも問題はそれだけじゃない」


 ワインが憤然として言う。彼にしては珍しいことだった。


「そうだろうね。影響を受けた動物たちはジャッカロープだけではないはずなのに、ジャッカロープだけがこの町を目の敵のように襲うのは、それなりの理由があるんだろうね」


 僕が言うと、ワインはうなずいてその『理由』を話し始めた。


「ジャッカロープは、この町では普通に見かけることができるが、本来は『珍獣』だ。簡単に見つけることはできず、その分数も少ない。けれどこの町で避暑を楽しむ人たちが、あろうことかジャッカロープ狩りを楽しんでいるみたいなんだ」

「何だって? なんてことを」

「それじゃこの町が襲われるのもムリないわよ」


 その話を聞いて、僕にはジャッカロープを退治する意欲が消えてしまった。けれど、ジャッカロープを狩るのはこの町の人々ではない。この町の人々は『避暑』として町に来る人たちのとばっちりを受けているようなものだ。


「ジャッカロープは数百の単位で村の畑を荒らしている。自警団の人たちの中にはジャッカロープに騙されて山の中でケガをしたり、その角で重傷を負ったりしている者も多いらしい。さて、ジン、どうする?」


 僕は短く答えた。


「話し合いだね。妖魔イノシシと同じだよ」


   ★ ★ ★ ★ ★


 その日の夜、僕たちは自警団の人たちに事情を話し、自警団の人たちにはずっと後方に控えてもらうことにした。


「ジャッカロープと話し合いたい」


 と言う僕の提案は、最初のうちは鼻で笑われたが、ワインが大賢人様の名前で出された依頼書を見せると、渋々いうことを聞いてくれた。


 ……やがて日が暮れて、辺りが宵闇に包まれ始める。


「ジン、ジャッカロープたちは来るかな?」


 闇を見透かしているシェリーに、僕は地面に広げたテント用の帆布の上にジャッカロープたちの好物である玉葉菜や芋を置きながら答える。


「来てくれると思うよ。彼らは鼻も利くはずだから」


「……ジンの言うとおりだ。来たみたいだよ」


 ワインが静かに言う。僕はゆっくりと立ち上がって、闇を透かし見た。月はないが星明りはある。暗く沈んだ森の影に紛れて、一匹一匹の姿を判別することはできないが、草木のざわめきや伝わって来る魔力で、かなりの数のジャッカロープが近くに来ていることが分かった。


「ごはんのにおいだ」

「ホントだ、ごはんのにおいだ」


 闇の中から、そんな可愛らしい声が聞こえてくる。


「まて、ニンゲンがしかけたワナかもしれない。チュウイしろ」


 そんな声も聞こえて来た。僕は静かに闇の向こうに語りかけた。


「そんなに多くはないけれど、君たちへのプレゼントだよ。安心して食べてくれ」


 ジャッカロープたちは僕の声を聞くと、身体を固くして気配を消した。それは見事に連携が取れていて感心したが、僕は続けて語りかける。


「心配しなくてもいい。君たちがこの1年、どんな目にあってきたかは薄々知っている。その話を聞かせてくれないかい」


 そして僕は、10ヤードほど彼らから遠ざかって言う。


「僕が近くにいると食べづらいだろうから、少し離れたよ。安心して食べると良い」


 すると闇の中の気配は確かに前進してきた。やがてパリパリ、ポリポリ、シャクシャクと野菜をかじる音が聞こえて来た。


「このごはん、おいしいね」

「とってもジョウトウなやさいなんだね」


 そんな満足そうな声が聞こえてくる。


「だれかはしらないが、おいしいごはん、ありがとう」


 おそらく群れのリーダーだろう、立派な角を持ったジャッカロープがただ1匹、僕のすぐそばまで近寄ってくるとそう言ってぴょこんと頭を下げる。そして彼はまじまじと僕を見るとうなずいて言った。


「なるほど、キミは()()()なんだね。だから、ニンゲンよりボクらのキモチがわかるんだね」


 僕は苦笑した。魔族と間違えられるのは初めてだったからだ。けれど今なら分かるけれど、彼ら妖魔の類は魔力の質を直感的にかぎ分ける。その時もそうだったのだろう。


「まあ、そう思ってくれて構わないよ。それより君たちに相談がある」

「ソウダン?」


 ジャッカロープが首をかしげる。僕はうなずいて、彼らを酷い目に遭わせたのはこの町の住民ではないこと、だから町の畑を荒らさないでほしいことを頼んだ。


 けれど、彼の答えはこうだった。


「キミのいうことはわかる。でも、いまはマチのニンゲンたちもボクらのケガワやツノをほしがっている。だからキミのいうことはきけない」


「……ジャッカロープは珍獣だ、毛皮やはく製は高く売れる。町の人たちもそのことに気付いてしまったんだろうな」


 僕の隣でジャッカロープの話を聞いていたワインが、そうつぶやいた。そして僕に耳打ちする。


(このままでは彼らは絶滅するかもしれない。カーミガイル山に移住する気持ちはないか訊いてくれ。そのつもりがあるならボクが何とかする)


 僕がそのことを彼らに伝えようとした時、突然僕らの周りで松明が灯された。


「なんだ⁉」


 僕は慌てて周りを見回した。あろうことかこの町の自警団の皆が手に手に武器を持って取り囲んでいるではないか!


 リーダージャッカロープの向こうでは、数百匹のジャッカロープたちが互いに身を寄せ合って震えている。リーダーは僕を見て一言、


「だましたんだね?」


 そう哀しい目をして言った。


 僕はとっさに決心した。言葉で彼の誤解を解いている暇はない。実力行使あるのみだ!


大地の護り(ラントケッセル)!」


 僕は防御魔法をジャッカロープたちにかけ、彼らをシールドの中に閉じ込めた。


「ワイン、彼らをカーミガイル山に転送してくれ。シェリーは僕と一緒にあいつらを説得だ」

「了解」「分かったわ」


 早速、ワインがシールドの前に行って呪文を唱え始める。自警団の連中は血相を変えて僕たちを取り囲んだ。


「そのジャッカロープを渡せ。それだけいればかなりの金になる。死にたいか小僧」


 最前列の男が言うが、僕は


「僕は大賢人様に彼らの処置を全権委任されている。僕は彼らを新天地に案内することに決めたんだ。邪魔をしないでくれ」


 そう断った。けれど激高した男は、剣を振り上げて叫んだ


「何が大賢人様だ。こうしてやるっ!」


「ジン、避けてっ!」

 ビュンッ、ドカッ!


「……いててて……」


 僕はシェリーに突き飛ばされて地面に転がった。すぐに起き上がって次の攻撃に備えたが、不思議なことに誰も動かない。


 いや、男たちはみんな、僕のいたところにうずくまる何かを見つめていた。


「……シェリー!」


 転がっていたのはシェリーだった。僕は慌ててシェリーを抱え起こす。シェリーはうっすらと目を開けて僕に訊いた。


「……ジン、無事だった?」


 僕の手に生温かいものがじんわりと伝わる。僕はうなずくとシェリーに言った。


「すぐヒールをかける。気をしっかり持て! 大地の賛歌(ラントリーベン)


 僕は知っている中で最も強力な治癒魔法を使った。これならかなりの傷でも瞬間的に治癒させるが、その代わりかけられた者はしばらく意識が飛ぶ。術者と患者の生命力を最大限までシンクロさせ、患者の治癒能力を限界まで引き上げるためだ。


 僕は、シェリーがすうすうと寝息を立て始めたのを見て、ほっと溜息をついた。


 その様子を見ていた男たちは、自分たちが無益の殺生をせずに済んだことに安心したのか、またもや、


「ジャッカロープを寄越せ」


 と喚きだした。


「ジン、こいつらを何とかしてくれないか」


 ワインは自分自身を『水のシールド』で守りながらも辟易して言う。


 僕は、男たちを見てふつふつと怒りがわいてきた。


「君たちは、昔はジャッカロープたちと共存していたはずだ。そのことを思い出して、ジャッカロープたちと仲良くしてくれ」


 僕がそう言っても、男たちはシールドを叩き壊そうと武器を揮っている。僕はあまりの浅ましさに剣を抜いて、


「止めろっ! 止めないと、僕が相手になるぞ」


 そう叫んだ。


 男たちは僕の剣幕に少し怯んだが、ワインにとってそれだけの隙があれば十分だった。


「サンキュー、ジン。こいつらは確かにカーミガイル山に届けてくるよ」


 ワインとジャッカロープたちは、その言葉とともに消えてなくなった。


「小僧、邪魔しやがって。その落とし前は手前とそこの娘でつけてもらうぞ」


 男たちは血相を変えて僕に跳びかかってくる。僕はシェリーをかばってしばらく剣を揮っていたが、その剣を叩き落とされ、殴る蹴るの暴力を受けて気が遠くなっていった。


(シェリー、シェリーを助けないと……)


 僕は、遠ざかっていく意識の中で、身包み剥がされかけているシェリーを見ながらそう思っていた。


 男たちは下卑た顔でシェリーの服を斬り裂こうとしている。


(ダメだ、止めろ!)


 僕は声にならない声を上げ、悔し涙がこぼれた。僕のせいでシェリーが辱められようとしている。僕がもっと強ければ……その時、懐かしい声が聞こえて来た。


『やれやれ、ジン、お前の力を少し元に戻してやる。まあ、あいつらなら、ステージ1で十分だな。昔みたいに暴れてみろ』


 その声が終わると、僕の身体には急に力が満ちて来た。


 僕は不思議に思う間もなく、シェリーを助けに動いた。



「へっへっへっ、今時純粋なシルフの女なんてめったにお目にかからないからな。高く売れるぜこいつぁ」


 そう言ってシェリーの頬をピタピタと叩いているのは、最初にジンに突っかかって来た男だった。この男は町でも乱暴者で通っており、ジャッカロープのはく製や毛皮を使った土産物で金を稼ぎ始めた人物だった。


 ジョークタウンの人々は、彼のやり方を嫌っていたが、何しろ乱暴者で通っている男である。見てみぬふりをしているというのが実情だった。


「さて、最初は俺が味見してやる」


 男がそう言ってシェリーの服を引き裂こうとした時、


「げほっ!」

「がぼっ!」


 男を取り囲んでいた人垣が、悲鳴と共にすっ飛んだ。


「何だ?」


 男が驚いて振り返ると、そこには銀髪を風に揺らし、緋色の瞳を輝かせたジンが立っていた。


「なんだ手前か、くたばっていなかったんだな……げぽっ!」


 男がへらへらしてジンを揶揄した瞬間、男の身体は5メートルほど宙を舞った。


 ドサッ!

「がっ!」


 地面に叩きつけられた男を無視するように、ジンは黙ってシェリーを抱きかかえると、男に背を向けて歩き出した。


「待てっ! 貴様、俺に恥をかかせやがって、タダじゃすまないぞっ!」


 するとジンは、肩越しに振り返って静かに言う。


「俺にこれ以上手を出すな。ケガするぞ」


「ふぅうざけやがっってぇぇえ!」


 男は怒りで顔を赤黒く染め、剣を振り回しながらジンに突進した。


 その様子を周りで見ていた男たちは、何があったのかを今でも思い出せない。


 男が剣を振り下ろした時、ジンはシェリーを抱えたまま跳び上がり、男の顎に蹴りを叩き込んだ。

 思わずのけぞった男の胸に、サッと近寄ったジンが手刀を叩き込む。そしてサッとジンが跳び下がったとき、男は白目をむき、泡を吹いて地面に崩れ落ちたのだ。


 ジンは、男が気を失ったことを確かめると、冷たく光る緋色の瞳で男たちをサッと見回し、


「暴力ハンタイ」


 そう一言言って立ち去った。


   ★ ★ ★ ★ ★


 こうして、僕たちの初の大仕事は成功裏に終わった。


 ジャッカロープたちは、今はすっかりカーミガイル山にも慣れて、山の神である妖魔イノシシとも仲良くしているようだ。


 ワインは、大賢人様たちからお褒めの言葉にあずかり、後金2千ゴールドをいただいてご満悦だった。


 けれど、僕にはシェリーが今まで以上に馴れ馴れしくなったのが気にかかる。旅から帰った日には、


「ねえジン、アタシこれからもっとジンに尽くすね?」


 そう言って、その日から僕の家に泊り込もうとさえしたのだ。


 ……僕は彼女に対して何かしたのだろうか?


 それに、マルサラおばさんもなぜか急に僕のことを『ジン殿』と呼びだした。


(これは僕一人で不思議がっていても仕方ない。シェリーに訊いてみよう)


 そう思った僕は、思い切って料理中のシェリーに問いかける。


「ねえシェリー、君がこうやって僕の世話を焼いてくれるのはとてもありがたいんだけれど、少し気になることがあるんだ」


 するとシェリーは、フライパンで器用に野菜炒めを作りながら、


「なあに、ジン?」


 そう答えた。フライパンを振るたびに、ポニーテールがゆれて可愛らしいことこの上ない。


「この前の旅の途中、僕は君に対して何かしたのかい? 今までだって僕にずいぶんと世話を焼いてくれていたけれど、近頃は一日中僕にべったりじゃないか。君だって君がしたいことがあるはずだから、四六時中僕に構ってくれなくてもいいんだよ?」


 するとシェリーは、フライパンを火からおろして僕に向き直った。顔がとても赤くなっているし、何か恥ずかしそうに、そして少し怒っているみたいだ。


(マズいな……これはいよいよ僕が何か誤解されることをやらかしたに違いない)


 僕がそう思っていると、シェリーはつかつかと僕に近寄ってきて、


「ジン、しらばっくれるの?」


 そう、問い詰めるような口調で言ってきた。


「へ? しらばっくれる? 何を?」


 全く心当たりがない僕には、そうとしか言いようがない。


 けれどシェリーは急に涙ぐんで、


「ひどい、ジンったら! アタシのこと弄んでいたのね!」


 そう言って泣き出した。これはいよいよマズい、何か誤解があるのなら早めに解かないと、シェリーを無駄に悲しませることになる。


「シェリー、僕は君のことは大切に思っているよ。幼馴染じゃないか。僕のどんなところを見て君を弄んでいるような気がしたのか、教えてくれないか?」


 僕が優しく言うと、シェリーはしゃくりあげながらも、


「ジン、アタシたちシルフには、男性にも女性にも掟があるの」


 そう言う。


 僕はうなずいた。シルフやエルフ、オーガには『掟』と『誓約』があるってことだけは知っていた。具体的なことは知らなかったけれど、今回のことはシルフの掟が関係しているらしい。


「その掟はね、『15歳を過ぎたシルフの女性は、最初にハダカを見られた男性と結婚しなきゃいけない』ってことなの……」


「……なるほど、だからマルサラおばさんは旅に出る時、心配して何度も僕に念を押したんだね?」


 僕が言うと、シェリーはこっくりとうなずく。それにしてもなぜ、彼女は僕に『裸を見られた』などと勘違いしたのだろうか。僕はシェリーが恥ずかしがり屋なのを知っていたから、旅の途中でもお風呂やトイレなどには特別に気を遣っていたはずなのに。


「……ジャッカロープたちをカーミガイル山に転送した時、アタシは気を失っていたわよね? その時ワインはいなかったから、側にいてくれたのはジンだけよね?」


 僕はうなずく。僕には記憶がないが、何とかあの男たちを退けた後、僕はいつの間にかシェリーを抱えて宿に戻っていた。その時のことを言っているのだろう。


 シェリーは、顔を真っ赤にしてうつむきながら小さな声で言った。


「……アタシの服、かなり乱れていたの。それって……その……()()()()()()()()?」


(そう言うことか!)


 僕は迂闊にも忘れていた。目覚めたシェリーは、急に何かに気付いたかのように慌てだし、


『ジ、ジン、あなたなの?』


 と訊いてきた。僕はてっきり『ここに連れてきたのはあなたなのか』と言う意味だと思ったから、何気なく。


『うん、もう大丈夫だよ。痛くないかい?』


 そう答えたのだ! 考えてみればずいぶんと際どい意味にも取れる受け答えだった。


 僕は、シェリーに真剣な顔で説明した。彼女の勘違いだが、笑って話すことではない。彼女にとっては大切なことだろうからだ。


「ねえ、シェリー。僕は君に誤解させたことを謝らなきゃいけない。あの時、僕は君を助け出すのに精いっぱいで、君には何もしていない。それは誓って言う」


 けれどシェリーはムッとして僕に食って掛かる。


「なによそれ!? 今さら言い逃れ? 男らしくないわ、ジンってサイテー!」


 そう叫んだ時、ドアが開いてワインが入って来た。


「おお、びっくりした。どうしたんだい二人とも? 犬も食わない何とやらかい?」


 そう、おちゃらけて訊くワインに、シェリーが訴えるように言う。


「聴いてワイン! ジンって酷いの。アタシに『シルフの掟』を破らせておいて、『君には何もしていない』なんて言うのよ?」


 それを聞いてピンときたワインは、葡萄酒色の前髪を形のいい指でいじりながら言う。


「……ふむ、『シルフの掟』かい? 悪いがシェリー、それはキミの誤解だ。道理でここ数日、キミがイヤにジンべったりだと思ったよ」


 それを聞いて、シェリーか何か言おうとするが、それをワインは手で押し留めて、


「キミの言いたいことは分かっている。けれどジンが説明したとおりだ。ボクがジャッカロープたちをカーミガイル山に転送している間、ジンはキミを守ってあのいけ好かない連中と戦った。キミは失神していたから知らないだろうが、かなりジンは苦戦していたんだよ? ボクが加勢したからよかったものの、そうでなければキミの『シルフの掟』を破るのはあの男たちだったろう」


 それを聞いてシェリーはぶるっと身を震わせた。これは嘘ではない。そうさせないために僕は奴らと剣を交えたのだ。いや、拳かな?


「奴らを片付けた後、キミをボクら二人で宿に運んだ。その後ボクはカーミガイル山の主と話をしに再びドッカーノ村に戻ったけれど、ジンがキミに何もしていないのはボクが請け合うよ」


 ワインがそう言うと、シェリーはがっかりしたような顔で僕に訊く。


「ジン……そうなの?」


 僕はワインを見た。ワインは薄く笑って僕にウインクする。僕は真剣な顔でうなずいて答えた。


「そのとおりだよ。誤解させたままで済まなかった」

「あ~あ、お母さんにもジンのこと話しちゃったのに、アタシどうしよう?」


 シェリーの言葉に、ワインが静かに言う。


「そこは誤解だろうが、キミがジンをどう思っているのかはみんな知っている。今までどおりでいいんじゃないか? 誰もキミをジャマしないよ。少なくとも、この村の人たちはね?」


   ★ ★ ★ ★ ★


「……誰も犠牲者を出さずに、見事に解決しましたわね?」


 『賢者会議』で、賢者スナイプが言うと、賢者ハンドもそれに同意して言う。


「私は彼の一部始終を観察していましたが、彼が見せた『能力』はまだまだ上がありそうです。楽しみな坊やですね」


「しかし、まだ子どもだ。どう転ぶかは分からんぞ。特に『マイティ・クロウ』があんな具合では、その子どもも信用はなりません」


 賢者スラッグがそう言うと、その言葉には賢者アサルトが同意した。


「そうですな。『マイティ・クロウ』は封印されていますが、魔王降臨の時期に彼がどう動くかは未知数。ジン・ライムも要注意人物として全大陸に監視命令を出すべきでは?」


 しかし、大賢人マークスマンは、いずれの意見にも偏らず、


「わしは今のところジン・ライムが有為な人物であると思っておる。しかし、『マイティ・クロウ』のことを考えるとアサルトやスラッグの意見も分からんでもない。彼が同じ村にいることは幸いだ。今後も注視して行こうではないか」


 四人の賢者たちは、それぞれの思惑を秘めながらも、大賢人の意見に賛意を示すのだった。


(Tournament2 ジャッカロープを狩ろう! 完)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ジンの父親の話が出て、早速『看板に偽りあり』になりましたね。

ギャグはどこに行ったんだろう。

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