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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
暗黒領域・魔王決戦編
162/170

Tournament162 The Demon King hunting:2(魔王を狩ろう!その2:VS魔王親衛隊クン・バハ)

魔王親衛隊のクン・バハと対峙したのはウォッカとブルーそしてドーラだった。

表面硬化能力を持つクン・バハに、三人はどう立ち向かうのか?

【前回のあらすじ】


『約束の地』を目指すジンたちの前に、『魔王親衛隊』が現れた。『ドラゴン・シン』を全滅させた『魔王親衛隊』3人と、ド・ヴァンをはじめ『ドラゴン・シン』幹部団員との戦いが始まり、テキーラはオデッシアを倒したが、マディラ、ソルティの二人が散ってしまった。


     ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 『魔王親衛隊』の一人、クン・バハは屈強な肉体と精神を持つ闘将である。彼が揮う大剣も、普通の人間や魔戦士が扱うものと比べ、長さも幅も厚さも、そして重さも段違いである。


 だが、そんなクン・バハに真っ向から挑んだ男がいた。1級騎士団『ドラゴン・シン』の副官兼護衛隊長、ウォッカ・イエスタデイだ。


 ウォッカはオーガ侯国の継嗣だ。つまりは時期国主という身分であるが、そんな彼がド・ヴァンの騎士団に加わったのは、4年ほど前になる。


 その頃彼は、ヒーロイ大陸で行われる、戦士として最も権威ある大会、『全国騎士選抜武闘大会』で、初の3連覇を達成し、一躍有名になっていた。


 そんな彼の許に、ちょっと見少年のようなエルフの少女と、浅黒い肌をした少女を連れた優男、マイケル・ヤマダが訪れた。


 ウォッカはどちらかというと堅苦しい性格で、武骨ともいえる。そんな彼が、いきなり訪ねて来た優男……ウォッカとは正反対のマイケルと話をしたのは、運命の悪戯と言うべきだったのかもしれない。


『やあ、ウォッカ・イエスタデイ殿、素晴らしい試合だったよ。おめでとう!』


 控室に入って来たマイケルは、輝くような笑顔で開口一番そう言った。


『……ありがとう。掛けるといい』


 ウォッカは武人らしく武骨な対応しかできなかったが、マイケルやお付きの女の子たちはそんなことを気にした様子もなく、終始にこやかに話をした。


 その中で、マイケルは自身の希望……騎士団の立ち上げとウォッカの勧誘……を真剣な表情で語った。


 ウォッカは、それまでのマイケルの態度を見て、どちらかというといい印象を抱いていなかったのだが、騎士団や自分の夢を語るマイケルの真剣な顔を見て、初めてこの優男に興味がわいた。


『君がオーガ侯の跡継ぎであることは百も承知だ。しかし、さっき言ったように、僕の騎士団には君の力がぜひとも必要なんだ。父君への説明が必要だというなら、ボク自身が説明させてもらってもいい』


 ウォッカはマイケルの熱意に打たれ、ダメもとで故国にマイケルたちを連れ帰った。その旅の途中、この優男は見た目とは裏腹にかなり剣ができること、知識が豊富なこと、そして何よりも仲間意識が強いことを知り、


(ふむ……両大陸でも隠れもない豪商の息子にしては、抜きんでた戦闘能力を持っているな。少なくとも、騎士団立ち上げに関する情熱は本物だ。正式に叙されていないだけで、その心持ちはすでに一流の騎士のそれにも匹敵する)


 と、彼への評価を改めていた。


 それどころか、


(こんな団長の許だったら、楽しくて有意義な生活が送れそうだ)


 と考えるまで、マイケルに惚れ込んでいたのだ。当然、父であるオーガ侯への説得にも熱が入った。


 オーガ侯は、最初の方こそ渋っていたが、ウォッカの傾倒ぶりと、マイケルの人物に惚れ込み、最終的には騎士団への加入を認めたのだった。


 それ以来彼は、ド・ヴァンの側近の一人として、戦場では常に先陣を切り、平時ではド・ヴァンの身を守る盾として活躍してきた。


 そんな彼が人生最大の好敵として対峙したのが、『魔王親衛隊』のクン・バハだった。



 クン・バハの方も、ウォッカ、ブルー、ドーラの三人を見た時、最も難敵として意識したのがウォッカだった。


「やああっ!」

「うおおっ!」

 ガイーンッ!


 2本の大剣がぶつかり合う。火花が散って、刃がかみ合う。大剣を操るスピードは両者互角だった。


「それそれ、あなたの表面硬化能力を見せてちょうだい!」

 バシュッ!


 互いに押し合いに入り、動きが止まったクン・バハに、ドーラが魔力のこもった矢を放つ。だがクン・バハは、飛び来る矢をチラリと見て、


「ふん、『不壊鉄壁ストーンウォール』っ」


 自らの表皮を硬化させる。


 バフ、バフ、バフッ!


 ドーラの矢は過たずクン・バハを捉え、魔法拡散の爆発を起こすが、


「その程度の魔力で、俺様に何をしようというのだ?」


 せせら笑って、


「ふんっ!」

 カーンッ!


 斬り込んできたブルーの剣を弾く。


「やあっ!」

「むんっ!」

 ガバンッ!


 ほぼ同じタイミングで放たれたウォッカの斬撃すら、クン・バハは余裕で大剣を受け流した。



「やっぱり固いわね……」


 ドーラはウォッカとブルーの動きを見ながら矢を放っている。だが、クン・バハもウォッカも、体格の割には動きが素早く、隙を突かない限りさっきのような命中は期待できそうにもない。


(やはり、弓はこいつに効かないのかしら? でも、弱点がないなんてこともないはず)


 ドーラは思い切ってクン・バハとの間合いを半分まで詰める。10ヤードの間合いは、クン・バハにとって一跳びで懐に跳び込める距離だ。


 クン・バハはドーラのその動きを見ていた。そして彼女が距離を詰めた瞬間、


「ふっ、わざわざ死にに来るとはな」

「えっ!?」


 クン・バハが右足で軽く地面を蹴ると、彼の身体は軽々と10ヤードを移動してドーラの前に立つ。その大剣は闇の黒い炎をまとっていた。


 ぶううんっ!


 クン・バハの大剣がうなりを上げる。ドーラは意表を突かれたためとっさに反応ができなかった。


(しまった! こいつの能力ちからを見誤った!)


 ドーラが観念の眼を閉じた時、


 ジャンッ!

「ドーラさん、間合いを開けるんだ!」


 横合いから飛び込んできたブルーが、クン・バハの大剣を跳ね飛ばして叫ぶ。ドーラはお礼を言う間もなく、後ろへ飛び退いて間合いを40ヤードほどまで開けた。


「助かったわ!」

 シュンッ! ドスンッ!


 ドーラは、お礼と共に矢を放つ。その矢はブルーを追い詰めかけていたクン・バハの肩に突き立った。


(矢が突き刺さった?)


 ドーラは、刺さることを期待していなかった矢が、案に相違して突き立ったのを見て眉をひそめる。喜ぶべきことなのではあるが、そこにクン・バハの作為を感じたのだ。


「やっ!」

 ジャランッ!


 ブルーは、一瞬動きを止めたクン・バハの腹を真一文字に薙ぎ払う。盛大に火花を上げ、鉄がこすれあう音が響いたが、クン・バハには何のダメージも入らなかったようだ。


 しかし、その一撃でブルーは窮地から脱出できた。彼もまた、10ヤードほど間合いを開ける。


 クン・バハはゆっくりと肩に突き立った矢を引き抜くと、その矢じりをまじまじと見つめる。しかし、何かを悟ったのか、ニヤリと笑うと


「……ふん、怪我の功名と言うやつか。二度は起こらない奇跡だったようだな」

 パキンッ!


 そうつぶやき、矢じりを頑丈なあごでかみ砕いた。



(さっきの矢だけ、何が違っていたのかしら?)


 ウォッカやブルーと戦闘を再開したクン・バハを見ながら、ドーラは考える。自分の矢はクン・バハの『表面硬化』に対してまったくの無力だったが、さっきの矢だけがなぜ、その硬化した表皮を突き破ることができたのか……。


 一時はクン・バハの作為……罠を警戒したのだが、その後のクン・バハの動きを見ると、あれは完全にクン・バハ自身も弾き飛ばせると確信していたことが分かる。つまり、罠ではなく、何らかの偶然がクン・バハの弱点を見つけるカギを引き寄せたのだ。


「狙撃点の違いかしら?」


 ドーラは、真ん丸く弓を引き絞ると、先ほど矢が突き立った点を狙う。たった1ミリずれただけでも効果はない……そんなにシビアな条件かもしれないが、


(あそこが奴の弱点だとしたら、狙うだけの価値は十分すぎるほどあるわ)


 ドーラは狙う。先ほどの矢が貫通したたった直径1センチにも満たない点を。50ヤード先で動き回る、クン・バハの弱点かもしれない部位を……。


「……てっ!」

 ドシュンッ!


 一瞬の機会をつかんだドーラが、満月のように引き絞った弦を離す。魔力が乗った矢は、翠の線を引きながらクン・バハの肩に突き立った。


 ジャッ!

「うむっ!?」

「あっ!」


 だが、突き立ったと見えた矢は、矢じりを中心にぐるりと回り、傷口を少し抉っただけで地面に落ちる。


「……驚いたな。あの距離からこの1点を狙撃するとは……」


 クン・バハは苦り切った顔でそうつぶやく。そしてこの瞬間、最優先目標をドーラに切り替えた。


(ホムンクルスの女は思ったより危険だ。俺様の秘密に気付く前に倒しておくべきだな)


 クン・バハはそう決心すると、


「だあっ!」


 斬りかかるブルーの剣尖を巧みにかわし、


「おうりゃあっ!」

「むんっ!」

 ガイーンッ!


 ウォッカの大剣を跳ね飛ばしてドーラに肉薄する。


(狙いを私に変えたわね。ということは、やはりあそこがあいつの弱点!)


 ドーラはそう確信すると、クン・バハから距離を取るために跳躍する。ドーラはクン・バハの頭上を越え、ブルーやウォッカの向こう側に着地した。優に50ヤードを超える大ジャンプだった。


「チッ! すばしこい女だ!」


 間合いを10メートルにまで詰めていたクン・バハは、ドーラの跳躍力に驚いて立ち止まる。そこに追い付いてきたブルーが、鋭い突きを放った。


「やっ!」

 シュンッ!


「応っ!」

 パアーンッ!


 クン・バハは面倒くさくなったのか、無造作に大剣を振り抜く。ブルーの剣は中ほどから折れて宙を舞った。


「おッ!?」


 慌てて下がろうとするブルーの顔面に、クン・バハの拳がめり込んだ。


 グギャッ!「ごッ!?」


 その刹那、クン・バハは唇を歪めてつぶやく。


「あばよ、『火焔の衝撃(フォイエルクラッシュ)』!」

 ボフッ、ズバウンッ!


 ブルーの頭部は、炎と共に消し飛んだ。


   ★ ★ ★ ★ ★


「ブルー!」


 ウォッカは、ブルーが『フォイエルクラッシュ』で頭部を爆砕されるのを見て、思わず魔力を最大にまで引き上げた。


 ドウウンッ!


 開放された『土』の魔力はウォッカの身体と大剣を覆い、砂礫を巻き上げる。


(いけない! クン・バハはまだ第2形態と最終形態を残している。闇雲に突っ込んでも勝ち目はない!)


 ドーラは瞬時に判断し、三度クン・バハの肩の傷を狙う。


(これは当たらなくてもいい、とにかくウォッカ殿を冷静にさせなくちゃ)

 ドシュンッ!


 ドーラが矢を放った瞬間、ウォッカがクン・バハに斬りかかった。


「どうりゃああっ!」

「そんなに死にたいかああっ!?」


 バシュンッ!


 同時に、ドーラの矢が再び傷をえぐった。刺さりこそしないが、その正確さはクン・バハを焦らせるに十分だった。


「くっ! 何ッ!?」

 ガキョンッ、ジャガウウンッ!


 ウォッカの大剣はクン・バハの大剣を中ほどから切断した。舞い散る火花の中で、クン・バハは辛くも後ろへ跳び下がる。


「……俺様の大剣を、斬った、だと?」


 クン・バハは黒曜石のような瞳で、己の大剣を見てそうつぶやき、


「どおううっ!」

「おっ!」

 ぶうんっ! ジャジャジャッ!


 続くウォッカの横殴りの斬撃を間一髪で避ける。


 とは言っても避け得たのは大剣そのものだけであり、剣がまとう魔力の刃は硬化したクン・バハの腹部に横一文字の傷を残した。


「面白い、面白いぞ……」


「だああっ!」


「『金剛の鎧(ダイヤモンドメイル)』!」

 ガギョンッ!


 クン・バハは全身硬化の術式を発動し、ウォッカの斬撃を左腕で受け止めた。


 クン・バハは、血走った目で睨んでいるウォッカに、薄笑いを浮かべて言う。


「戦場での死は戦士の習いだぞ?」

戦友ともの仇を討つのも戦士の務めだ!」


 身体中から猛気を噴き出して叫ぶウォッカは、クン・バハの腕をぐいっと押し下げる。


「……なるほど。やはり貴様は面白い」


 クン・バハは瞳を赤く光らせるとニヤリと笑い、


「だが貴様の相手は後だ! あの小うるさい弓使いを先に始末する!」

 ドウウンッ!


 クン・バハは魔力の開放度を引き上げながら叫ぶ。4本の腕を持つ姿に変わっていた。


「くっ!」


「俺様の『行の姿』だ。貴様に俺様が抑えられるとでも思ったか!?」


 クン・バハは大剣を受け止めている以外の手でウォッカを攻撃してくる。左の手は紫電をまとい、右の手は火焔をつかんでいた。


 ボウンッ、バリバリッ!

「くそっ!」


 雷撃と火焔を避けるため、ウォッカは大剣で炎を防ぎながら後ろへと跳ぶ。亜麻色の髪が少し焦げていた。


 だが、戦闘の渦中にいたウォッカと違い、50ヤードほど離れた場所から二人のぶつかり合いを見ていたドーラには、クン・バハの重要な変化が見えた。


(肩の傷が広がり、そこから魔力が漏れている……やはりクン・バハの弱点はあの場所なんだ)


 そう確信するとともに、彼女にはなぜその傷を狙った矢が、2本とも刺さり切れずに弾かれてしまったかも、ある程度の予想を付けていた。


(そうだ、あいつに致命傷を与えるには、きっと矢を『あの場所』に当てるだけではなく、『あの飛翔経路で』当てる必要があるんだ。

なぜそうなのかは判らないけれど、最初に奴を傷つけた矢は、たまたまあいつの弱点をちゃんと射抜く経路で飛んで行ったに違いない)


 それは、動き回る針の穴に糸を通すよりも困難な狙撃だった。


 的中させる場所はコンマ1ミリもズレてはいけない。


 その飛翔経路は、最初に傷を与えた矢とまったく同じ経路を飛ばさなければならない。


 しかも、クン・バハは動き回るだけではなく、その傷をガードするだろう。そのガードが外れた一瞬の隙を衝く必要がある。クン・バハの攻撃をかわしながら……。


(こんな狙撃、誰が出来るというの?……って、いつもの私なら言うんだろうけれど、今回は違うわ。何としても奴の弱点に矢を叩き込んで見せる)


 ドーラは眦を決して、クン・バハと向かい合った。ゆっくりと箙から矢を1筋、指に手挟んで取り出す。弓の弦に矢を掛ける。そしてゆっくりと引き絞り始めた。


「うはははは! 俺様がこの姿になったからには、貴様には勝ち目はないぞ。ホムンクルスの小娘よ、貴様も仲間と同じようにあの世に送ってやる!」


 クン・バハは悪鬼のような表情で駆け寄って来る。2本の右腕を火焔で、2本の左腕を紫電で包みながら。


(……もう少し、もう少しだけ我慢よ私。確実に矢を叩き込むなら、20ヤード以内じゃないと……)


 ドーラは『風の翼(ヴィンドフィーゲル)』を準備しながら待つ。そしてクン・バハの白目が見えるほどまで近寄った時、彼女は『風の翼』で宙を飛んだ。


「何っ⁉」


 慌てたクン・バハは、とっさに右腕の火焔を鞭状にしてドーラを攻撃する。


「今だっ!」

 バシュンッ!


「逃がさんぞっ!」

 ボヒュンッ!


 ドーラの矢とクン・バハの鞭は、同時に相手を捉えた。


 ドスッ! ボフワンッ!

「ぐおっ!?」


 バシュンッ!

「がっ!?」


 二人の苦悶の声が響いた。



「ドーラ殿、大丈夫か!? おうっ?」


 ウォッカが駆け寄って来て、ドーラの右足を見て絶句する。彼女の右足は、ひざから下が真っ黒に焦げていたのだ。


「……だ、大丈夫よ。これくらいの傷……まだ奴を倒したわけじゃないもの……」


 脂汗を流しながら、ドーラは歯を食いしばってそう言う。ドーラの視線の先には、左腕の1本を肩口から吹き飛ばされたクン・バハがいた。


「ぐぐぐ……これしきの……これしきの傷……」


 クン・バハも斬られた大剣を支えに片膝をついている。もぎり取られた傷口からは、漆黒の魔力が漏れ出ていた。


「……奴は確かに硬いけれど、魔力を体内で凝らせ続けると体温上昇などで無理が出てくるわ。それを避けるため、クン・バハは体内魔力結節で魔力を調節しているみたい。

そしてその体内魔力結節こそが、奴の弱点。結節に魔力を叩き込めば、あのとおりよ」


 ドーラは喘ぎながらそう言う。脂汗は酷くなり、前髪は額にべっとりと張り付いていた。ウォッカが見るところ、もうドーラには戦闘は無理だった。それどころか、すぐに治療をしないと命さえ危ぶまれる状態……ウォッカはドーラ自身そのことを理解しているため、自分にクン・バハの弱点を教えたのだと受け取った。


「……分かった、いい情報をいただき感謝する。ドーラ殿は急ぎ下がって傷を治療するといい。あとは俺が引き受けた」


 ウォッカが立ち上がって大剣を肩に担いだ時、ドーラは髪に結んでいた弓弦を外し、それを右ひざの上に巻き付けると、


「ふんっ!」

 ブシュッ!


 炭になってしまった右足を膝の上で切断した。


「ぐぐぐぐっ……」

「ドーラ殿、一体何を!?」


 痛みに歯を食いしばるドーラに、ウォッカは再び駆け寄って訊く。ドーラは肩で息をしながら傷口に魔力を集めて止血し、


「……私も戦います。ウォッカ殿一人より、二人の方があのバケモノの注意を逸らせて有利になりますから」


 そう言うと、『風の翼』の力を使って立ち上がる。


「エレメントが『風』なのは、こんな時に便利ですね。足が不自由になっても飛べばいいんですから」


 そう言うと、ふわりと風に乗る。


(……だが、魔力を使う以上、そう長くはもたないだろう。できるだけ早く勝負を決める必要があるな)


 ウォッカはそう考えながら、ドーラに言った。


「かたじけない。ドーラ殿の意地というものがおありでしょうから、ご協力を否みはしません。ですが、どうか無理だけはなさらないように」


 するとドーラは、輝くような笑みを浮かべ、


「さすがは大陸に名を知られたウォッカ殿。戦士の心というものが解っておいでですね?

 では、一緒にクン・バハを討ち、ジン・ライム殿の武運を祈りましょう」


 そう言うと、矢をつがえた。


「分かりました。では俺は俺で奴の弱点を狙います」


 そう言うと立ち上がって、大剣を両手で握りしめる。


「ブルー、お前ほどド・ヴァン様に忠誠が篤かった男を知らないぜ。『魔王の降臨』や『摂理の黄昏』を解決し、お前も含めた『ドラゴン・シン』みんなで平和を謳歌したかったなぁ……」


 ウォッカはそうつぶやき、よき仲間であったブルーを偲ぶ。


 ブルー・ハワイはリンゴーク公国の首府ベニーティングの出身で、ウォッカやマディラ、ソルティと違い、マイケル・ヤマダと『ドラゴン・シン』の将来性を見込んで加入してきた男である。


 しかも彼は、単独で加入を申し込んできたわけではない。彼自身が立ち上げた騎士団もどきの仲間ギルメンたちを50人も引き連れての申し込みだった。


 彼の申し出を最初に取り次いだのがウォッカだった。


 何度も言うようだが、ウォッカは寡黙で人付き合いがいい方ではない。それにマイケルに心酔しているため、彼に近付こうとする人物には、意識するとしないとに関わらず警戒心が先に立つ。


『俺は『ドラゴン・シン』の副官兼護衛隊長のウォッカ・イエスタデイだ。お前か、うちに加入したいと申し込んできたって奴は?』


 ウォッカが硬い表情で訊くと、ブルーはニコニコしながら挨拶をした。


『やあ、君が有名なオーガ侯国の継嗣様だね? おれはブルー・ミスティ。マイケル団長と面会できるよう、推薦をよろしく頼むよ』


『仲間を50人も引き連れての申し込みだそうだな? それも合併ではなく、『ドラゴン・シン』に吸収される形での……仲間たちには了解を取っているのか?』


 ウォッカの問いに、ブルーは屈託のない笑顔で答えた。


『ああ、もともとおれたちは騎士団の真似事をするためにギルドを作ったんだが、おれたちの能力じゃやれることに限界はあるし、おれ自身もギルドマスターって柄じゃないからね? だからこの際、もっと大きくなれる騎士団に入って、やりたいことをやろうぜってことで、仲間たちも了承済みだ。もちろん、マイケル団長との交渉もおれに一任してもらっている』


『お前たちのやりたいことって何なのだ?』


『はは、お恥ずかしながら、具体的にこれってものはない。ただ、『でっかいことをしようぜ』ってノリさ』


『どうしてうちを選んだ? うちだってまだ百人ほどしか団員はいない。騎士団としてのランクも低い方だが? 合併に拘らないのなら、エドモンド・ナカムラ団長の『エルドラド』の方が大きくてよかったんじゃないか?』


 ウォッカのこの問いに、ブルーはニコニコしながら答えた。この答えが、ウォッカをしてド・ヴァンに彼を推薦させることになる理由だった。


『エドモンド団長もいいけどさ、おれはマイケル団長はそれより大人物になるって思うんだ。それに『エルドラド』はでか過ぎる。『過ぎたるは猶及ばざるが如し』ってね、おれたちの個性を生かせないんじゃないかって心配もあった』


 ウォッカはこの一連のやり取りで、ブルーの強さと特技をある程度理解した。


(ふむ……こいつはある程度できる男だな。だが、それよりも情報を集めたり、組織を立ち上げたりする方が得意のようだ。マディラやソルティとはまた別の才能がありそうだな)


 そう思ったウォッカは、マディラを説き伏せてブルーをド・ヴァンに引き合わせた。


『なかなかに面白い人材だねぇ。それに彼には諜報の才能もある。いいじゃないか、ブルー含めて50人、全員『ドラゴン・シン』で引き取ろう』


 ド・ヴァンはブルーと面会して、即決で彼と仲間たちを団に迎え入れた。


 その日から、ブルーは仲間たちを各国に散らし、情報を集めたり流したりという、諜報戦を引き受けることになる。そしてその成果は、『マーイータケ一揆プッチ』の時に遺憾なく発揮された。


 変装が得意な彼は、『暗黒領域』に入ってからは、ド・ヴァンの前以外では必ずド・ヴァンに変装していた。騎士としての名乗りさえ


『オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン団長、ウォッカ、マディラ、ソルティ・ドッグ……みんなお酒の名前じゃないか。だったらおれも、ブルー・ハワイと名乗ろう』


 そう言って変えるほど、ド・ヴァンや『ドラゴン・シン』への帰属意識は高かった。


(ブルー、お前の無念は、俺が晴らす。クン・バハの首は、お前の墓に供えてやる)


 ウォッカは唇をかむと、大剣を振りかざしてクン・バハへ挑みかかって行った。


   ★ ★ ★ ★ ★


「俺様が傷を負うとは! しかもオーガやホムンクルスごときに!」


 クン・バハは激昂していた。彼の頑丈な肉体をさらに強力にする能力、『不壊鉄壁ストーンウォール』や『金剛の鎧(ダイヤモンドメイル)』をまとってなお、右腕を吹き飛ばされるなど、彼の思考ではあってはならないことだった。


「ドーラ・シエイエス、貴様はブルーとかいう男以上に惨たらしく始末してやる!」


 クン・バハは右手のうち1本で大剣を握ると、残る右手に火焔を、左手に紫電を集めながら、周囲を睥睨する。ちょうど、右足を切断したドーラが、『風の翼』の力で立ち上がるところだった。


(俺様の火焔で焼かれた右足を見限ったか。女とは思えない思い切りの良さだな)


「……だが、そのくらいなければ倒し甲斐がないってものだ」


 クン・バハが立ち上がった時、


「おらああっ!」

「むっ!?」

 ガキョンッ!


 ウォッカの斬撃を、右手の拳で叩き払い、


「貴様なんぞが、俺様の相手になるか!」

 ブウンッ、ピシャアアアンッ!


 右からの斬撃と、左からの雷撃を同時に浴びせかける。


「なんのっ!」

 ガウンッ! ジュイイインッ!


 ウォッカは襲ってきた大剣を足で蹴り上げ、雷撃は大剣で受け流した。


「おおうりゃあっ!」

 ガフンッ!

「ごっ!?」


 クン・バハの鳩尾に、ウォッカの後ろ回し蹴りが入る。『不壊鉄壁ストーンウォール』に守られたクン・バハには、さしたるダメージにはならなかったが、それでもここまで懐に入られたという事実と、一瞬とはいえ動きを止められたことに、彼の怒りが爆発した。


「おのれウォッカ・イエスタデイっ!」

 バフンッ!


 クン・バハは右手から灼熱の魔弾を放つ。その瞬間、


 ドウンッ!

「うおっ!?」


 クン・バハの右腕の1本が吹き飛んだ。


「ぐおうっ!? まさか、また!?」


 クン・バハは急いで周囲を見回す。そこに隙を見つけたのか、ウォッカが肉薄してきた。


「よそ見するんじゃねえっ!」

 ガゴンッ!

「が!?」


 ウォッカの大剣は『金剛の鎧(ダイヤモンドメイル)』に阻まれてクン・バハの肉体を両断することはできなかったが、服を斬り裂き、硬化した皮膚に深い傷をつけた。


(くそっ、やはりホムンクルスの女は邪魔だ。ウォッカ一人なら『行の姿』で十分すぎるが、あいつを仕留めるには遠距離にも対応できる能力がいる)


「……なら、やってやるか。マイティ・クロウの時は、この能力を使う前にやられてしまったからな」

 ジャリイィィンッ!


 クン・バハはそう独り言ちると、襲い掛かって来たウォッカの斬撃を大剣で弾き、


「『雷の衝撃(サンダーインパクト)』!」

 バリバリバリーッ!

「ごあっ!?」


 雷撃でウォッカを50ヤードほど吹き飛ばした。


「……くっ! 左腕が痺れるぜ……」


 雷撃をとっさに左肩の盾で受けたウォッカだったが、強力な電流は肩盾ショルダーシールドから大剣へと抜け、通り道となった左腕をすっかり麻痺させてしまっていた。


 しかし、まだ戦闘は継続している。クン・バハが自分を吹き飛ばしたのは、弱点を狙撃し続けているドーラを先に仕留めるためだと知っていたウォッカは、大剣を右手に持ち替えて、クン・バハに突撃して行った。



 ドーラの方は、クン・バハの注意がウォッカに向けられている隙を利用し、右腕の魔力結節を探し出し、そこを確実に射抜いていた。


 ドウンッ!

「うおっ!?」


 クン・バハの叫びと共に、魔力を集め始めていた右腕の1本が肩口から吹き飛ぶ。今度は初撃で挙げた成果だった。


「……ふふ、残りの腕も吹き飛ばしてあげるわ……」


 ドーラが、遠くなりつつある意識を掻き立てて、弓に矢をつがえようとしたとき、


「『雷の衝撃(サンダーインパクト)』!」

 バリバリバリーッ!

「ごあっ!?」


 雷撃でウォッカが50ヤードほど吹き飛ばされるのが見えた。


(マズい! 次は私を狙ってくるわね)


 そう覚悟したドーラは、


「仕方ないわ『風の護り(ウィンドシールド)』……くっ……」


 逃げ回るほどの魔力や体力の余裕はないと感じていたドーラは、シールドで身を守りながらクン・バハへの狙撃を続行することに決めた。


(……あとどのくらいもつかは判らないけれど、『その瞬間』まで私は戦士でいたい)


 覚悟を決めたドーラは、矢じりに魔力を込めて弓を引き絞る。


(次に狙うのはクン・バハの眉間。狙いもコース取りも最難関の狙撃点だけど、うまくいけば一撃で仕留められる……)


 なぜかクン・バハはウォッカを吹き飛ばした後、その場で立ち尽くしている。千載一遇のチャンスというべきだった。


「行けっ!」

 バシュンッ!


 ドーラが畢生の力を込めて矢を放った。その時……


「おおおおおおううううううっ!」

 ボボウウンッ、バアアンッ!


 クン・バハが突然雄たけびを上げたかと思うと、強大な魔力が身体から噴き出る。その圧力は立ち上がったウォッカをよろけさせ、50ヤードも離れていたドーラもたじろぐほどだった。


「吹き飛ばされた!?」


 そして、ドーラの矢はその圧力によって、飛翔途中で消滅していた。


「……面白い、貴様たちは実に面白い敵だ。俺様に『真の姿』を使わせるとはな……」


 火焔と稲光の中でそう言うクン・バハの姿を見て、ドーラは息を飲んだ。それは三面六臂の戦神の姿だった。


「……さて、まずは俺様をさんざんコケにしてくれた貴様から始末する」


 クン・バハは緋色の瞳をドーラに当てて言う。ドーラにとっては文字どおりの『死刑宣告』だった。


「くたばれ!『炎雷の衝撃(フォイエルブリッツ)』!」


 クン・バハが6本の腕をドーラに向ける。その掌で膨れ上がった魔力の光子は、抗いようのない圧倒的な力でドーラを『風の護り』ごと包み込んだ。


「……これまでか……でも……」


 浸食されるシールドを眺めてそうつぶやいたドーラだったが、何を思ったのか目を閉じて弓を弾き絞る。


(……ここで終わらせない。私はここで終わっても、私の『意思』はここで終わらせない。

マーリンに、いえ、カエサルに頼まれたんだもの、『ジン・ライムの力になってくれ』って……だから私は……)


 ドーラが『炎雷の衝撃』に包まれて、シールドを割られるまで1秒にも満たなかった。しかし、クン・バハの魔力がシールドを打ち消し、自身に浸透して消滅させるまでのほんの一瞬、クン・バハの魔力が内向きに作用する瞬間、ドーラは最後の力を振り絞って矢を放った。


(矢よ、私の意思となれ!)

 バシュンッ!


 弓弦が鋭い響きを上げた時、ドーラの姿は消えていた。



「くたばれ!『炎雷の衝撃(フォイエルブリッツ)』!」


 クン・バハは自身の奥義である術式をドーラに叩き込んだ。雷と炎、極限の状態を作るに相応しい魔力の束は、ドーラを包み込み、1秒ほどの時間で彼女を完全に消滅させた。


「わーっはっはっはっ! 消えろ、消えてしまえ!」


 クン・バハはドーラが消滅する様子を目を据えて眺め、狂気じみた笑いを上げる。


「隙があるぜ!」

 ビュンッ!


 ウォッカは、ドーラの消滅を目の当たりにしながらも、大剣を叩きつけるように揮う。


 ジャンッ、バシーンッ!

「うっ!?」


 だが、ウォッカの『土』の魔力を込めた斬撃も、弾けるスパークと共に弾かれてしまう。


「……愚かな。『真の姿』となった俺様には死角はない」


 右の肩越しにウォッカを見て、クン・バハはどす黒い笑みを浮かべる。


「くっ! 全方位をシールドしていやがるだと!?」


 ウォッカは、跳び下がりながら吐き捨てる。圧倒的魔力を持ち、圧倒的な破壊力を見せつけるクン・バハに、さすがのウォッカも打つ手なしと勝負を諦めそうになった。


 クン・バハはゆっくりとウォッカの方へと向き直りながら、


「ふん、たとえ貴様がオーガだといっても、魔王様を守護するために生まれた俺様たちの敵ではない。貴様を倒したら、次はオー・ド・ヴィー・ド・ヴァンの番だ。

 あの世で団員たちと共に団長を出迎える準備でもしておくことだな」


 そう言いながら魔力を集めつつある6本の手をウォッカに向ける。


「うおおおおっ!」


 ウォッカは、大剣を振り上げながらクン・バハに肉薄する。もちろん、考えなしに突撃したのではなく、ウォッカなりの勝算があってのことだった。


「……猪突猛進は戦士の最も愚劣な行為だ」

 ドムドムドムドムッ!


 クン・バハは、『炎雷の衝撃』のために集めた魔力を、そのまま魔弾としてウォッカにお見舞いする。


「くっ、はっ、やっ、とうっ!」

 バン、バガン、バフン、バウンッ!


 ウォッカは、雨より繁き魔弾の中を、あるいは大剣で跳ね飛ばし、あるいは華麗に避けて突進を続ける。その身体と大剣は『土』の魔力に覆われて黄色い光をまとっていた。


「往生際が悪いぞ!」

 ダムッ! ドウンッ!

「ぐっ!」


 クン・バハが大地を踏み鳴らすと、ウォッカに向けて青白い稲妻が走った。ウォッカを雷電が直撃し、一瞬動きが止まる。


ねっ!」

 バシュンッ!


 クン・バハは、止めの魔弾をウォッカに叩きつけた。


 ブシュッ!

「ぐっ!」


 身体が痺れていたウォッカだったが、それでも『止めの一撃』を何とか避けた。その代わり、ウォッカの右腕が大剣を握ったまま宙を舞った。


   ★ ★ ★ ★ ★


『ウォッカ、君は『ドラゴン・シン』の切り札だ。だから雑魚なんかを相手にする必要はない』


 古い教会を目の前に、包囲の陣を敷いたド・ヴァンが、朝風にマントを翻しながら言う。


『はっ……』


 ド・ヴァンの隣で、黒い革鎧を着たウォッカは、猛気に満ちた声で短く答えた。ド・ヴァンはそんなウォッカの声を聞いて、やれやれといったように首を横に振ると、


『ウォッカ、あそこにいるのはレボルーツィア・アナーキーと名乗る人物とその取り巻きを除けば、金で雇われた3流騎士団や破落戸ゴロツキどもだ。いわば烏合の衆に過ぎない。

 それに、この攻囲戦の主攻撃はマイティ・フッドの『ヘルキャット』が担うことになっている。だからそんなに気負わなくてもいい』


 そう言う。


 ウォッカは毒気を抜かれたように猛気を収めると、不服そうな声で訊いた。


『しかし団長、我が『ドラゴン・シン』も助攻を承っています。いずれにしても、教会への突入は避けられませんが?』


 すると、ド・ヴァンはうなずきながら、何が面白いのか笑って言う。


『あはは、そうだね。確かに教会には突入するさ。

 だがこれは命令だ。レボルーツィア・アナーキーとその仲間たちは全員生け捕りにしたい。そしてその身柄はマイティ・フッドをはじめリンゴーク公国の関係者には引き渡したくないんだ』


『……話によると、レボルーツィア・アナーキーの正体はエドモンド・ナカムラ団長の『エルドラド』第3大隊長だったレミー・マタンだそうですが?』


 ウォッカが訊くと、ド・ヴァンはまたも首を横に振って答える。


『いや、レミー殿はすでにお仲間二人と身を隠している。あそこにいるレボルーツィア・アナーキーの正体は、レミー・マタン殿の親友だ。だからこそ彼女は生かして捕らえ、レミー殿の下に送って差し上げる必要があるんだ。それがマディラの作戦の主眼だからね』


『……マディラの策なら、それに従いましょう。それで団長、俺は何をすれば?』


 ウォッカの問いに、ド・ヴァンはさらりと言ってのけた。


『レボルーツィア・アナーキー殿がいる場所までの露払いさ。何が何でもマイティ・フッドより先にレボルーツィア・アナーキーを見つける必要があるからね。

 君がいれば、敢えてボクたちの前を遮ろうとする奴は少なくなるからな。君は敵を討ち取るよりも、常にボクの側で一揆衆ににらみを利かせてくれないか? 期待しているよウォッカ』


 今から3年半ほど前、リンゴーク公国で起こった『マーイータケ一揆』は、最後の局面を迎えようとしていた。


 一揆勢は、何度かの野戦や市街戦を繰り返したのち、マーイータケ町の東にある教会に最後の拠点を作って立てこもった。その数、周囲の陣地含めて約1千名。


 それを包囲しているのは、リンゴーク公国でも隠れのない騎士、フランク『マイティ』・フッド率いる1級騎士団『ヘルキャット』5百、トオクニアール王国所属の伝説の騎士、エドモンド・ナカムラ指揮する1級騎士団『エルドラド』の2個大隊1千、そしてやっと名を知られてきたマイケル・ヤマダ指揮する騎士団『ドラゴン・シン』の5百、合計2千名だった。


 この戦いでマイケル・ヤマダは、ウォッカ他選りすぐりの団員50名を連れて教会内部に一番乗りし、見事一揆首謀者と目されていたレボルーツィア・アナーキーを討ち取った。


 だが実際は、


『一揆には公国内部の人物が関わっている。マッシュ・ルーム公のためにも、レボルーツィア・アナーキーを生禽し、レミー殿と共に匿っておいた方がいい』


 というマディラの意見を容れて、ド・ヴァンはレボルーツィア・アナーキー……ハルモニア・ジューンを捕えてレミー・マタンの許に送り届けていた。この布石があったからこそ、『組織ウニタルム』がタルケ兄弟と共に画策したリンゴーク公国乗っ取りを阻止することができたのだった。


 その時にウォッカの胸に芽生えた、


(ド・ヴァン団長はエドモンド・ナカムラ団長のように、ゆくゆくは両大陸の騎士団を代表する騎士になるべきお方だ……)


 という思いは、今も消えていない。むしろド・ヴァンと様々な事件や魔物討伐に参加するにつれて大きくなっている。


(……だから俺は、こいつに負ける訳にはいかない!)


 ウォッカは、クン・バハの魔弾が迫って来るのを見ながら、そう強く念じた。



ねっ!」

 バシュンッ!


 クン・バハは、止めの魔弾をウォッカに叩きつける。


 ブシュッ!

「ぐっ!」


 身体が痺れていたウォッカだったが、それでも『止めの一撃』を何とか避けた。その代わり、ウォッカの右腕が大剣を握ったまま宙を舞った。


「がぁーっはっはっはっ! 痺れた身体でよく俺様の攻撃を避けたな、褒めてやる!」


 呵々大笑するクン・バハを見ながら、ウォッカは唇をかみしめて、魔力を右肩の傷に集める。噴出していた血がぴたりと止まり、ウォッカはゆっくりと立ち上がった。


 だが、その姿はクン・バハから見て、すでに限界を超えた男のそれだった。亜麻色の髪は乱れ、マントは破れている。黒い革鎧は雷電でささくれ、足取りも覚束なかった。


 肩で息をしているウォッカを見て、クン・バハは心地良さげに


「もう貴様に勝ち目はない。戦士らしく従容と瞑目することだな」


 そう言うと、魔力を膨らませ6本の腕をウォッカの方に向けた。


「俺様の『炎雷の衝撃(フォイエルブリッツ)』で、苦しまずに送ってやる」


 クン・バハの魔力が膨れ上がり、6本の腕に集まる。腕は紫電と火焔をまとい、掌の先の空間に巨大な光球を作り始めた。


 ウォッカは、ふらふらと身体を揺らし、やっとのことで大地を踏みしめながらクン・バハを凝視している。すでに限界を迎えつつあるように見えたウォッカだが、その瞳にはまだ強い光が灯っていた。


(ドーラ殿は、奴の『体内魔力結節』を狙っていた。ならば俺も、最後の魔力を込めて奴を叩く! 散って行った団員たちと、団長のために……)


「さらばだ、ウォッカ・イエスタデイ! うっ!?」

 ドジュルムッ!


 まさに『炎雷の衝撃』の光球を放とうとしたその瞬間、クン・バハの脳天に1筋の矢が突き立った。


「……そう簡単に行かないのが、勝負ってもんだぜ?」


 ウォッカはそうつぶやくと、身体中を魔力で包んで駆けだした。今、ウォッカにはクン・バハの『体内魔力結節』が見えていた。それも、一撃でクン・バハの死命を制するか所……喉笛に開いた結節が。


「くっ!? 身体が動かない、だと!? なんだ、どんな攻撃だ!?」


 クン・バハは『炎雷の衝撃』の光球を放つこともできず、さりとて魔力を拡散して攻撃をキャンセルすることもできず、突然身体の自由を奪われたことで酷く動揺している。


 その時、クン・バハの脳裏に、ドーラの最期の場面が蘇った。


(……そうか……ホムンクルスの弓使いめ……)


『……ここで終わらせない。私はここで終わっても、私の『意思』はここで終わらせない。

マーリンに、いえ、カエサルに頼まれたんだもの、『ジン・ライムの力になってくれ』って……だから私は……』


 ドーラが『炎雷の衝撃』に包まれて、シールドを割られるまで1秒にも満たなかった。しかし、クン・バハの魔力がシールドを打ち消し、自身に浸透して消滅させるまでのほんの一瞬、クン・バハの魔力が内向きに作用する瞬間、ドーラは最後の力を振り絞って矢を放った。


『矢よ、私の意思となれ!』

 バシュンッ!


 ドーラが放った矢は、翠の魔力の軌跡を残しながら天空へと消えていく。


(……それで終わりではなかったんだ。あの弓使いの『意思』。それは俺様の隙を衝いて、俺様に致命的なタイミングで、俺様を攻撃してきた……)


 今になって、クン・バハの意識が混濁してきた。目の前にドーラが弓を構えて微笑んでいる幻影が見える。


「俺、俺様は……」

 バボウンッ!


 その時、制御が利かなくなった光球がクン・バハの正面で弾け飛ぶ。それと同時に、


「『大地爆散ラントバースト』っ!」

 ズバウンッ!


 ウォッカが左手の拳を、大地を穿つように叩きつけた。


 ザシュッ、ブジュリュッ!

「ごああっ!?」


 ウォッカの魔力が、クン・バハの喉笛を斬り裂き、胸を深くえぐった瞬間、『炎雷の衝撃』の魔力が炸裂し、火球と稲妻が辺りの空間を震わせた。


(……俺様が……この、俺様が……)


 爆炎が薄れた時、クン・バハは6本の腕を吹き飛ばされ、胸を深く抉られた姿で立っていた。脳天から流れる血で目がふさがり、口からも血泡を噴いている。


(……オーガや……ホムンクルスずれに……)


 そこまで頭の中でつぶやくと、クン・バハはがっと血を噴き、地響きを立てて仰向けに倒れた。


 ウォッカは、火球と爆炎に包まれ、50ヤードほど離れた場所で仰向けに倒れていた。ぼんやりと開いた眼に、砂塵で暗くなっていく空が映っている。


「……倒したのか?……」


 クン・バハが倒れた地響きを感じ取り、ウォッカはかすれた声でそうつぶやいた。


(俺は……勝った……団長の所に行かねば……)


 ウォッカは立ち上がるために左手を動かそうとした。しかし、魔力を使い果たしたウォッカは、すでに指一本すら動かすことが億劫だった。


(……魔王親衛隊クン・バハか……人生の最期に出会った価値ある敵だった……)


 そう声もなくつぶやいたウォッカは、ゆっくりと息を整えていたが、目を閉じながら


「……団長、お先に……」


 今度ははっきりとそうつぶやき、そして二度と目を開けぬ眠りについた。



「……オデッシアとクン・バハを倒したか。どちらも3人がかりだったとはいえ、君たちは思ったよりも手強い敵であるようだね」


 金髪碧眼の魔導士、魔王親衛隊のファルカロスは、火球が空間を揺らすのを感じ取って前後にいる敵にそう言う。


「……こちらこそ、さすがは魔王親衛隊と名乗るだけあると感服しているよ」


 ファルカロスの正面にいる金髪碧眼の騎士が、双剣を構え直しながら続ける。


「……何にしても、君はウォッカやマディラ、ブルーやソルティ、テキーラやドーラの仇にもなったわけだ。

『ドラゴン・シン』のギルドマスター、オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン。必ず貴様を倒し、仲間の無念を晴らしてやる」


 するとファルカロスは、左手を後ろにいる戦士に向けて牽制しながら、片方のくちびるの端をつり上げて答えた。


「オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン殿、今や私も立場は同じだ。クン・バハやオデッシアの仇を取らせてもらう。これから先は手加減などしない、覚悟していただこう」


 そう言うと、ファルカロスの姿は砂の城が波に流されるように消えた。


「ド・ヴァン団長、上ですっ!」

 シュンッ!


 その声とともに、ファルカロスの後ろにいた戦士が、槍でド・ヴァンの頭上に突きかかる。


「はっ!」


 ド・ヴァンがその場から後ろに跳んだ瞬間、ド・ヴァンがいた空間が立方体状に黒く沈み、勢いよく縮小した。


「……空間規定の術式か。アントン、助かった」


 ド・ヴァンが言うと、槍を振り回しながらアントンが答える。


「ド・ヴァン団長、ファルカロスの能力で最も厄介なのは、やはり『身体拡散』です。実体が無くなったわけではありませんから、捉えられないことはありませんが……」


 そう言いながら、アントンは周囲の空間が暗くなりかけたのを見て、


「ふん、どうしても私と団長を引き離したいようだな」


 そう言いながら、穂先に魔力を集めて空間の結節を突き破る。


 バシッ!


 鋭い音と共に空間を切り取ろうとしていた魔力が、まるでカーテンを開けるように消えていく。


「……なるほど、これは『奥の手』を使う必要があるだろうね……」


 ド・ヴァンは、空間規定の術式が起こすかすかな振動を感じ取りながら、ファルカロスの空間規定魔法の回避に全力を挙げることにした。


   (魔王を狩ろう!その3に続く)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ブルーとウォッカがクン・バハとの戦いで散り、ド・ヴァンたちの戦いもクライマックスであるド・ヴァン対ファルカロスを残すだけになりました。

序盤からジンたちと共に戦ってきた盟友オー・ド・ヴィー・ド・ヴァンとその仲間たちですが、騎士の誇りと友情の名の許、どのような結末を迎えるのでしょうか? 次回もお楽しみに。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

【主な登場人物紹介】

■ドッカーノ村騎士団

♤ジン・ライム 18歳 ドッカーノ村騎士団の団長。典型的『鈍感系思わせぶり主人公』だったが、旅が彼を成長させている。いろんな人から好かれる『伝説の英雄』候補。

♤ワイン・レッド 18歳 ジンの幼馴染みでエルフ族。結構チャラい。水の槍使いで博学多才、智謀に長ける。『PTD7・淑女』と共に『PTD6・ナルシスト』を倒した。

♡シェリー・シュガー 18歳 ジンの幼馴染みでシルフの短剣使い。弓も使って長距離戦も受け持つ。ジン大好きっ子で負けフラグをへし折った『幼馴染ヒロイン』。

♡ラム・レーズン 19歳 ユニコーン族の娘で『伝説の英雄』を探す旅の途中、ジンのいる村に来た。魔力も強いし長剣の名手。シェリーのライバルである『正統派ヒロイン』。『右鳳軍団』に先行し、ジンと合流を果たした。

♡チャチャ・フォーク 14歳 マーターギ村出身の凄腕狙撃手。謎の組織から母を殺され、事件に関わったジンの騎士団に入団する。シェリーが大好きな『百合っ子ヒロイン』。

♡ジンジャー・エイル 21歳 他の騎士団に所属していたが、ジンにほれ込んで移籍してきた不思議な女性。闇魔法の使い手で、『PTD4・幽霊』を倒すも、右腕を失った。

♡メロン・ソーダ 年齢不詳 元は木々の精霊王マロン・デヴァステータだがその地位を剥奪された。『魔族の祖』アルケー・クロウの関係者で、彼を追っている。現在ジンたちとは別に『先遣隊』を率いて行動中。

♤ダイ・アクーニン 28歳 賢者ストックの息子で卓越した知力と魔法を誇る弓使い。魔王を目の敵にしているが、魔王の攻撃で傭兵隊長だったコア・クトーや錬金術師のシロヴィン・ボルドーを失った。

♡アイリス・ララ 『PTD10・ドール』を名乗り、ジンを瀕死に追い込むほど善戦した自律的魔人形エランドール。ジンの魔力マナで再起動し、新たに仲間となった。

■トナーリマーチ騎士団『ドラゴン・シン』

♤オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン 21歳 アルクニー公国随一の騎士団『ドラゴン・シン』のギルドマスター。大商人の御曹司で、頭も切れ双剣の腕も確かだが女好き。

♤ウォッカ・イエスタデイ 21歳 ド・ヴァンのギルド副官。オーガの一族出身である。無口で生真面目。戦闘が三度の飯より好き。オーガの戦士長、スピリタスの息子。現在、『左龍軍団』と共にジンとの合流を目指している。

♤テキーラ・トゥモロウ 年齢不詳 謎の組織から身分を隠して『ドラゴン・シン』に入団した謎の男。いつもマントに身を包み、ペストマスクをつけている。現在、ド・ヴァンの許可のもと、『暗黒領域』で単独行動をしている。

♤ブルー・ハワイ 25歳『ドラゴン・シン」の遊撃兼偵察隊長である槍使い。金髪碧眼で観察力と記憶力に優れる。変装に優れ、情報を分析する能力に長ける。

♡メアリー・ブラッドレイ 25歳『ドラゴン・シン』で物資調達を引き受けている槍使い。ド・ヴァンを詐欺ろうとして失敗、許されて彼に心酔し仲間になった。

■退場した仲間たち

♡レイラ・コパック 博識で氷魔法の使い手。スナイプのスカウトで加入した。『PTD5・法律家』を倒すも『PTD3・道化』に止めを刺された。享年17歳。

♡ウォーラ・ララ ジンの魔力マナで再起動した自律的魔人形エランドール。彼に献身的に仕えたが、『PTD2・戦士』との戦いで相討ちとなった。

♡ガイア・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造ったエランドールでウォーラの姉。『PTD1・学生』と対峙したが、相討ちとなって果てた。

♡エレーナ・ライム(賢者スナイプ)28歳『賢者会議』の一員だった才媛。ジンに自身が人工生命体ホムンクルスであることを明かし『風の宝玉の欠片』を譲る。『PTD3・道化』を倒すも、『道化』が残した瘴気に侵されてしまったが、マーリンの秘薬『諸刃の韻律』によって命は救われた。現在、視力を失いマーリンの許にいる。

♡マディラ・トゥデイ 『ドラゴン・シン』事務長。金髪碧眼で美男子のような女の子。『魔王親衛隊』のオデッシアが召喚したゴーレムに叩き潰された。享年20歳。

♡ソルティ・ドッグ 『ドラゴン・シン』の先鋒隊長である弓使い。調査・探索が得意。『魔王親衛隊』のオデッシアが召喚したゴーレムに握り潰された。享年21歳。

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