表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クソが

作者: 小椋智大

何だよ、また濡れ場じゃねーか

多いんだよ、性描写

あたし、ヴァージンだから、セックスの仕方とかよくわかんねーけど

気持ちいいのかな?

いや、きょーみねぇーけど


あたしの肩に衝撃


「痛」


「あ、ごめん」


誰だよ? せっかくの貴重な読書タイムを邪魔すんじゃねーよ


「ごめん。平井さん」


あ、こいつ。名前は確か、えっと? あれ?

確か、石田衣良みてぇーな名前だった気がする 石田...


「いいよ。石田くん」


「いや、俺、石野だけど。石野良矢」


「あ、ごめん。石野くん」


そうだ、石野良矢。そんな名前だった。


「いや、謝ることないよ。それよりさ、平井さん何の本読んでるの?」


あ、世界で一番聞かれたくねぇ質問きた


「ま、まあ」


村上春樹だけどよ。海辺のカフカだけどよ。

あ! 村上春樹か! みてーな反応されるのが嫌of嫌 どーせなら、中島らもっつって、え? 誰? みてーな反応してくれた方がいいから、中島らも持ってくるべきだった

なーんで、ハルキムラカミ読んでる時に聞くんだよ 無能of無能


「あ、海辺のカフカか」


は? なんでわかったし

字面だけで?


「あ、ごめん。俺、本が好きでさ」


嘘つけ お前確かサッカー部だろ

運動部のやつが本なんか読まねーだろ

それかたまたまこいつがハルキストだったとかミーハークソヤロー


「こう見えて家帰ったら、小説いっぱい読んでるんだ」


「例えば誰の?」


東野圭吾とかなら、まあ、そうか、って感じ

浅田次郎とかなら、ビビる


「好きなのは、宮部みゆきさんとか、北村薫さんとかかなー。ミステリーだと、メジャーだけど法月綸太郎さん、我孫子武丸さん。純文学だと、古井由吉さんとか、人選ぶかもだけど、町田康さんとか、あと、山下澄人さん」


多い!

想定以上に多いんだが!

山下澄人って、マジか?

しんせかい、で芥川賞とったけどさ

すげーチョイスじゃん マジ?


「すごく知ってるね」


「読者通だからね。そうだ、平井さん。おすすめの小説教えてよ」


おすすめ?

ムズイ質問すんなよ、とか思ったけど、山下澄人知ってるこいつになら、おすすめできるかもなって思う

えっとね


「純文学だと、宮本輝の泥の河。中上健次の岬。どっちも家族のつながりをテーマにした小説だけどね、いい感じに泥臭くてね、すごく居心地いいんだ。ミステリーだと、何だかんだで綾辻行人かな? 十角館の殺人はもちろん、どんどん、橋落ちた、とか。あとは、奥田英朗とか、やっぱり空中ブランコ。なんていうか、文学の中にポップな笑いを取り入れた感じですごく好き」


あ! 語りすぎた

恥ずい

目、合わせられない

引いてるだろうな


「すごいよ! 平井さん! あのさ、これから、いっしょに小説について語り合わない?」


「え? え?」


マジ? マジofマジ?


「俺、昔から小説談義みたいなことしたかったんだよ。平井さんとなら、できるかなって思ってさ」


「い、いいよ」


「ありがとう」


変なやつだな

ま、まあ? 暇だしぃ?

付き合ってやらんでもないが?


それから、あたしと石野は学校がある日は昼休み、小説について語り合った。


今までひとりだったあたしにとって、その時間はとても幸せだった。


とても幸せ。


「平井!」


そう、石野に呼び捨てにされたことで、あたしは彼との距離が縮まったように思えた。


いや、縮まった。


すごく近く。


このまま、できたら、

あたしの彼氏に

なってほしい


そう思うようになっていた。


でも


あたしは


あたしは


臆病


臆病だった。


「付き合ってください」


たった9つの文字。

言えなくて、言えないまま、夏休みに入ってしまった。


小説について語り合うひととき、至福の時間


なくなる。


あたしは


夏休みでも、語り合いたいと思っていた。


でも、石野は


「また、夏休み明けにね。俺がすすめた小説読んでこいよ。マジ面白いから」


と言った。


あたしは


「西加奈子のサラバ!でしょ? 名前は知ってたんだけどね。読んだことなかったよ」


と言った。


臆病だ


夏休みでも会いたい


付き合ってください


言えなかった。


ーーー


あたしはいっぱい小説を読んだ。

石野と、あたしより、小説のことに詳しい石野と、語り合うため


ーーー


夏休み明け


「おはよ」


石野の声


「おはよ」


動揺隠し 振り向く


「おはよ!」


あたしじゃない女の声


「身長伸びたな、ミズホ」


石野の声


石野はあたしを見た

あ、ヤバみてーな顔して

決まり悪そうに


「平井さん。久しぶり」


平井さん


泣いてねーし


泣いてねぇーて、言ってんだろ涙


ふざけんなし


クソクソ クソofクソ


てめーがすすめた本


サラバ!


クソ


さよならかこれで


クソ


泣いてーねーし


クソがぁ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] え、なにこれ普通に面白いんだけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ