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小説  作者: 椎名優衣
3/7

第3話森宋明 西野夜果、ひょうたん畑に行く

。すごいね!。

。ああ 一年ぶりだ 夜果はおぼえてる?。

。ううーん まえにもあったの? 先生はおぼえてるの?。

。うん 毎年してるよ。


 先生と呼ばれた とても美しい顔をした 絹のような葡萄色の髪の長い彼は 森宋明 そのとなりを ちいさな歩幅で 一生懸命について行くのは 西野夜果 である


 ふたりは 白い砂の道のうえを 短冊だらけの町のなかを 散歩していた 風がふくと共鳴するように はしからはしまで 短冊のざわめきが流れる そのざわめきが歩く二人をおいこして まえへ走り去った

 大きく切り立った崖のすぐした 砂漠のなかの 小さな町 いつでも優しい風が吹き ここに住む人の誰もが 穏やかな 静かな町 ふたりは ふたりきりで散歩をするのが好きだった いつもは 部屋にこもりっきりの先生を 夜果がさそってそとにでるのだが 今日は珍しく 先生のほうから提案したのだった


。一週間くらい前から 短冊が ぼちぼち 飾られはじめたの 今日はとっても多い。

。ねえ夜果 今日は何月何日かな。

。七月の 七日。

。じゃあ七夕だね 今日が一番たくさん短冊があるはずだ。

。七夕?。


 構わずすすんでゆく先生に遅れそうになった夜果が 小走りになってきく 夜果のつま先に 砂が数センチ跳ね上げられる そしてとても小さなあし跡が 先生の大きなあし跡のあいだを 点々とくぎっていた


。ぼくも知らないんだけどね 夜果 むかしは 季節というものがあったんだよ。

。きせつ? きせつだとどうなるの?。

。暖かい日や暑い日や 涼しい日や寒い日が 順番に来るんだよ それはどれも美しいんだ。

。美しい …… 日?。

。そうだよ。


 先生はひとりでにほほ笑んだ そのとき前方から 老人が歩いてくるのがみえた 彼は 牛に荷車をひかせ とてもスロウな速度で歩いていた それをみつけて夜果がとびはねた


。あ さか爺ぃだ さかじぃー。


 明るい笑顔で手をふると 老人も笑顔になった 三人がすれちがうとき 先生と老人も挨拶をした 夜果はからだごと大きく上下して牛の垂涎をみつめた 立ちどまる牛の口の下では 白い砂が色濃くなってかたまった 夜果が二歩よこにずれて見てみると 牛の足跡にそって点々とその粘着質の小水溜りが続いていた

 老人は荷物のなかから ひょうたんを一つとって それを夜果に手渡し 夜果に手をふられながら 去っていった


。よかったね。

。うん 先生 ひょうたん畑いこ まだ残ってるっていってたよ。

。そうだね いこっか。


 ふたりはすこし歩いて ひょうたん畑にむかった


。先生の小説には よくひょうたん畑がでてくるね。

。うん そうだね。

。七夕はでてこないの。

。うーん 書いたことないな じゃあ つぎの小説は七夕をかいてあげるよ。

。うん。


 夜果はとても嬉しそうにした

 先生は 持っておいてあげる と 夜果からひょうたんをうけとる


 ひょうたん畑が目にはいったとき 彼女は 両手をのばして 先生の手をつかむと めいっぱいはしった


 ひょうたん畑についた 夜果は顔を真上にむけて よろめいた 先生はそんな夜果の背中をささえてやり 優しく背中をおしながら 畑のなかに足をふみいれた

 夜果はそこに 三毛猫のいるのをみつけた 三毛猫はうしろあしで立って 両まえあしを くいくい ものほしそうに宙をひっかいていた


。あのこ ひょうたんをとろうとしてるのかな。


 うれしそうに 丸めたこぶしを口元にやり 先生のほうをちらとみるのだった


。夜果が取ってあげたら。


 先生がそういうと 夜果は なかでも大きなひょうたんに目をつけ おもいっきり跳びはね 手をのばしたが てんで届かずに 着地した そしてまた跳びはねた

 先生はそのようすを ほほえましくみながら 手をのばして 近くのひょうたんをつんだ それを夜果に渡すと うけとった夜果は そのひょうたんをもって猫に近づいた 

 するとそれに気づいた猫は いちもくさんに逃げていった それと同時に 夜果の目のまえに 四十センチほどの ひょうたんとおなじ薄い緑色の蛇が ボタンとおちてきた 蛇は 自分の尻尾をのみこもうとして 円になっていた それをみて 夜果は目を丸くし 興味ぶかそうにそれをながめた 先生は


。危ないよ。

と 夜果を呼んだ 悲しげな目で 蛇をみていた


 優しい風が ひょうたん畑の葉を さらさらと揺らした あしもとの砂がころがる 夜果の細い柔らかな髪が 風に浮かんだ くびもとが汗ばんでいるのをみて 先生は 帰ろう と夜果にさそった 夜果もうなずいた


。夜果の髪は 黒くてきれいだね。

。きれい? ふふふ。


 夜果は両脇にひょうたんを抱えて 体を揺らしながらわらったのだった


 帰り道 ひょうたんを 頑張ってかじって 歩いていた夜果は どれだけかじっても 歯が立たなかったが 家がみえたとどうじに ついに パリッとかじりとることができた しかし 美味しくなかったのか 夜果はすぐにそのかけらを 地面にはきだした


。歯が欠けちゃうよ。


 そして先生が 夜果に ひょうたんについて 使い方をせつめいしながら歩いたのだった


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