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ドナドナドナー



私の脳内には前世の某有名な曲がリフレインしていた。

乗っているのは荷馬車ではなく、黒を基調とした重厚な作りの箱馬車で内装も華美ではないが質の良い上品な仕上がりだ。


貴族街の石畳を走っているのもあるだろうが軍の馬車とは明らかに乗り心地が違う。

日本風に言えば荒地を走る軽トラと高速を走る高級車といえばいいか。


そんな箱馬車の中でリント卿と無言で向き合うこと暫し、先程纏まった話に胃を痛くしながら大人しく座っている。



「そう緊張するな、ダン。誰もとって食おうというわけではない。」


「はっ」



現役を知るものとしては冗談に思えない冗談に一筋汗を流しながら答える。



「先程ニールにはあぁ言ったが、元よりアリスとあの"駄犬"の婚約は解消するつもりだった。」


「は?」



思考が追いつかず間の抜けた返事をかえす。

元から解消?どういうことだ?

疑問が顔に出ていたのだろうリント卿が言葉を続ける。



「3年前学院へと入ったあの"駄犬"がお前達の扱きの反動で訓練を怠り、夜な夜な下町に出向い酒、女、喧嘩、博打と貴族にあるまじき状態だったのはすぐに調べがついた。」



おいおい、ダメダメじゃねーかよ⁈



「まぁそれも1年の終わり頃からは例の男爵令嬢によって改心して真面目に学院に行くようになったようだが、今度はその令嬢の忠実な犬になったようでな。」



どんだけだー!内心叫びながらリント卿の話を聞く。



「男爵令嬢や王子達の振る舞いを注意するアリスやエリザベート嬢達に事ある毎に衝突するようになったそうだ。」


「なんと…」



呆れ果てて言葉を失っていると、



「それでこちらからお前達の所に乗り込んで婚約解消してやろうかと思ったのだが、アリスが学院の卒業までは大目に見てくださいと言うのでな、様子見しておった。」



神か‼︎アリス嬢は女神様だ。



「お前は騎士団の遠征で殆ど王都に居らんし、ニールの所は夫人が領都に伝わらないように情報を潰しておったようだしの。

あまり大ごとにするのもアリスに傷がつく。

穏便に済むなら卒業後でもと思っておったらのう、あの駄犬共がやらかしてくれたわ。」


「申しわけございません。」



クックックと笑うリント卿に深く頭を下げる。

背中は冷汗でじっとりだ。



「なに、前もってわかっておった事だし王家も各令嬢達の家から状況が伝えられておる。試験期間中での不祥事だ、あの者たちが今後陽の目を見ることはあるまい。」



そうなのだ。学院に在籍する子息令嬢はもちろん学業を修める為に通っているが、王族や高位の貴族からすれば社交界入りする前に子供達が幼少期からの教育がちゃんとされ身につき実践出来ているかを確認されているのだ。


なっていないとされれば如何に高位貴族の嫡男でも、周りから白眼視される。それを社交界入りしてから挽回するのは余程でないと無理だろう。

一度落ちれば拾う者が居ない、いやむしろ嬉々として蹴落とすのが貴族社会なのだから。



「これでレウス王子を推していた宰相派も暫くは大人しくなることだろう。」



「…」



レウス王子の取り巻きに宰相の息子が居たのだが、今回の婚約破棄騒動は彼がかなりの中心部にいたらしい。

学院での悪評、様々な事件の裏で暗躍していたようだ。

宰相派としては令嬢の不評や悪評をもって各令嬢家の勢力を削ぎ、下位貴族で元は王都市民の血を引く令嬢をレウス王子の妃にすることで民衆の支持を受ける。

圧倒的な支持基盤と高位貴族の不祥事で中央の勢力を書き換えようと目論んでいたらしい。


まぁ、各令嬢やその家、更には王にも目論見を看破され逆に利用されそうになっているようだが…



「お前の行動は予想外ではあったが、既に婚約破棄を宣言した後で今さら覆らない状況であったし、慌てた王子側がそそくさと退散した事でどちらに分があるか他の者によく伝わった。」



あぁ、乙女ゲームのシナリオブッチしてやったぜ、ハッハー。とかなっていた自分がはずかしい。

今まで乙女ゲームのおの字も感じないリアルな生活をこれでもかと体感して生きてきたのに、どうしてそう思ったのだろう。

穴があったら入って埋もれてしまいたい。


はずかしさのあまり燃え尽きていると馬車が、ゆっくりと速度を落とす。

どうやらリント卿の私邸に着いたようだ。



「まぁ、お前のあの行動で宰相派と共に冷や飯喰いになる所だったザム家が首の皮一枚で助かるのだから良かったではないか。」



機嫌良さげに席を立ち外から開けられた扉をくぐる。次いで自分も扉をくぐり私邸の前に降り立つ。



「お帰りなさいませ、お父様。」



鈴を鳴らすような涼やかな声でアリス嬢がリント卿を出迎える。



「ようこそダン様。お会い出来る事大変嬉しく思います。」



私に視線を合わせたアリス嬢がニコッと可愛らしく微笑み淑女の礼をとる。


一回り以上年下の女性から好意を寄せられるという経験のない事に、リント卿との会話とは別の緊張に晒されていた。


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