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ちょっと短い…。
作戦室は沈黙が落ちていた。
兄上はリント卿が室内に入って言った一言で抵抗を諦め、机を挟んでリント卿に向き合って座る。
その横に私もリント卿の視線だけの指示で座る。
部下2人も入り口近くの壁に直立不動で立つ。
1番の被害者はこの2人だろう。
「さて。」
沈黙を破ったリント卿の言葉に他全員に緊張が走る。
「先程学院卒業の場に置いて我が娘アリスが婚約破棄をされるという事が起きた。」
「「…」」
ヤバイ、情報が早い⁈
「まぁ、我が娘だけでなくブウム卿、ノマロフ卿、ゼスター卿、エヴァン卿の娘達も同じ場でそれぞれの婚約者から婚約破棄を言われたそうだが。」
更なる沈黙が落ちる。
おまけに情報が実に正確だ。状況を確認したジルが戻って報告を受けたのは兄上に会う直前だ。
まだ事が起こって1時間と立ってない。
「娘の婚約者はお前の息子だったな、ニール。」
兄上の顔色が目に見えて悪くなり冷汗が流れているのが分かる。気持ちは分かる、自分が兄上の立場だったら絶望の真っ只中だろう。
例えるなら帝国の一個師団(およそ1万人)に対して一個小隊(50人)で特攻をかける気分だ。
「6年前、中央において勢力拡大著しい宰相派を牽制する為に国王派と中立派で結ばれた婚約の殆どが破談となった。
このままであればこの国の趨勢は決まったと言っていい。」
そうなのだ。6年前宰相派の一強独裁を防ぐために先に上がった4家の子女と皇太子および取り巻き子息の間の婚約が決まったのだ。
子女は皆中立派の娘で国王派との架け橋となるはずだった。それが今回の騒動で白紙だ。
宰相派を抑える楔が抜けてしまったといえる。
「だが流石にこのままおめおめと宰相派の策略通りに事が運んではこちらの面子も立たん。今現在国王に連名にて訴状を出しておる。」
いやいや待ってくれ、話が早すぎる。
心の中でツッコミをいれながら此方が考えていた対応策が丸っ切り役に立たない事に冷や汗が出る。
「その訴状にはいくつか条件が入っているがその条件の確認にお前達に会いに来た。」
「…どのような条件でしょうか?」
兄が意を決したように聞き返す。
「ふむ。まず第一にニール、お前の馬鹿息子だが廃嫡の上貴族籍を抜き国外に放逐。
第二に賠責としてエイガス地方の割譲とリーム金山の収益の3割を向こう5年間。」
内容に血の気が引く。
カナック自身の事は仕方がない。処刑で無いだけマシだろう。
だがエイガス地方はザム家有数の穀倉地帯、リーム金山はザム家の金庫と言える程のものだ。
爵位返上よりはかなりマシだがはっきり言って今後のザム家統治にかなり影響がある。
傘下の有爵貴族にかなりの気を使った治世を求められるだろう。
「第三に現侯爵夫人と離縁し側室のエルーナ夫人を正妻とする事。」
此方も理解できる内容だ。
現侯爵夫人ザービナは意図的にカナックの情報を隠蔽していた様だし、カナック廃嫡となれば次男を産んでいるエルーナ夫人が正妻となるのは自然だ。
「最後にお前の馬鹿息子の代わりにダンを我が娘アリスの婚約者として迎える。」
へ?
ダンて誰?
うちにはダンて1人しかいないけど、他の家に年頃のダンていたっけ?
言われた意味がわからずあらぬ方向に考えが行きかかったが此方を見てニヤリと笑うリント卿をみて察する。
「良かったなぁニール。ダンがまだ妻帯者ではなくて。」