婚約破棄でザマァになるはずだった【連載版】
再編集&次話投稿の為連載に戻しました!
人の背丈の何倍もの高さで作られた吹き抜けの回廊を足早に歩く。
走るのは流石に自分を持ってしても宮中の儀礼に反するので出来ないが心内の怒りが己が身を急がせる。
最低限のマナーのみで王宮を進み報告のあったホールに向かう。
遠目から私を確認していた衛兵が敬礼をし目的のホールの扉を開ける。
止まることなく室内に入り目的の人物を見つける。
「あ、叔父う」
ドッゴウ‼︎
私の姿を見て声を上げた甥のカナックの顔を問答無用で殴り飛ばす。
「この馬鹿者が!侯爵家の恥を晒しおってからに!」
殴られて吹き飛んだ甥に怒声を浴びせかけ、さらに詰め寄って襟首を掴み持ち上げる。
「貴様のやった事、身をもって教え込んでやる‼︎」
治らぬ怒りのままにムウンと持ち上げた甥の体を入ってきた扉側へ投げ捨てる。
「ベイン!東の訓練場へ連れていけ、決して逃すなよ!直々に説教をくれてやる‼︎」
「はっ。」
遅れて入ってきた副長と部下が気を失った甥を抱え出ていく。この間1分も無い。秒殺だ。
他にホールにいた令息令嬢はあまりの展開に誰一人声をあげる事なく唖然としていた。
一際格式高い礼装の青年のまえに跪き臣下の礼をとる。
「レウス殿下、御前にて見苦しい所業失礼いたしました。
甥のカナックがありえない愚行を行ったと聞きましてあまりの怒りを抑えきれず申し訳ございません。」
「そ、そうか、」
レウス殿下は衝撃冷めやまぬままどうにか言葉をかえす。
「まったく衆人環視の中で婚約破棄などと。
しかも親に断りもなく一方的にアリス嬢に叩きつけたと聞いております。」
「えっ、」
殿下の顔が引き攣る。
ここは畳み掛けの一手だな。
「貴族家の婚約・結婚は家同士の契約で王の許可によって認められた物だというのになにを血迷ったのか。
このままでは醜聞のみならず契約の不履行、王への不敬と家が傾いてもおかしくない事態でして。」
「なっ」
「大変申し訳ございませんが直ぐにでも王並びにリント侯爵殿に謝罪に向かわねばなりません。早々に御前を辞することを平にご容赦いただきたく。」
ひざまづいた姿勢からさらに頭を下げて許しを請う。
基本ここまでされれば余程のことがない限り否はない。
「あ、あぁ。許す。」
「ありがとうございます。」
震えた声で許可を出す殿下に短く答え、立ち上がる。
そして部屋を出んと振り向いた際に殿下とは反対側に集まる令嬢達のなかにアリス嬢が居るのに気づく。
「あぁ!アリス嬢もこちらにお出ででしたか。
此度の件、愚かな甥の所業大変申し訳ない。
後程兄と共に謝罪に伺わせていただきます。仔細はまたその時に。
では失礼致します。」
腰を折り謝辞を伝えサッと扉をくぐる。
控えていた部下にすぐさま大声で指示をだす。
「王の元に使いを出せ、それと兄上に急ぎ登城の要請を。あとリント侯爵殿所在の確認と後程謝罪に向う旨を連絡してきてくれ。」
「はっ」
指示を受けた部下数名が行動を別にする。
続いて寄子の部下に小声で
「ジル、事態の再確認と収拾を頼む。アリス嬢には一切非がないよう取りはからえ。カナックはどうなろうとかまわん、ザム家の評もある程度瑕疵がついていい。
とにかく事態収束の速さが肝心だ。遅れると他にまきこまれるぞ。」
そう、先程のホールでのやり取りでおおよその状況が確認できた。
あの場に居た王子以下取り巻き5人の内3人は王子と同じく顔色を悪くし1人は苦虫を噛み潰したような顔、もう1人だけが顔色も変えず冷静にこちらを見ていた。
おそらく…
「まったくあの女、疫病神ではないのか。」
ホールからある程度離れてから愚痴が口をつく。
分かっていたこととは言えこの後の面倒事を思うとため息とあの主人公への恨みが浮かぶ。
「どこが"聖女"だ、そこらの毒婦よりタチ悪いではないか。」
たとえあの女の行動が物語通りとしても、はっきり言ってこの世界からすれば異様だ。
国の歴史も風習も世界情勢すら無視して、只々男女の恋愛模様を繰り広げる。
ドラマやアニメならわからんでもないがリアルとすれば正気を疑うレベルだ。
(それこそが物語の強制力なのかもしれないが。)
自分という異分子が居ながらここまで物語通りに進んだ事を考えるとあながち"無い"ではないかもしれない。
「まぁ、だとしてもザム家がその通りする必要はない。シナリオは変更させてもらおう。」
と先程の部屋でのやり取りとこの後のザマァを思ってニヤリと笑うと横を付いていた部下アニーから
「うわ、キモッ」
と言われ心にダメージを受けた。