第13話 適正価格と逆レイプ
「ここが私の仕事部屋だ。……“少し”散らかっているが、まぁ気にしないでくれ」
「少し……ですか?」
オッパイさんに招かれたそのお部屋は、お部屋ならぬ汚部屋だった。
部屋中に散乱する書類や本の山、脱ぎ散らかされた衣服、放り出された大量の武器や防具。まさに足の踏み場もない。
一見して高級そうな机や本棚、ソファーといった調度品もその中へと埋もれに埋もれ、まるで見る影もない有様だ。
部屋自体は凄く広いはずなのに、全然広く感じない。
辛うじて異臭がしない事だけが唯一の良心だった。むしろ匂いは悪くない。
なんか、こう……ムッとした生活臭が香しい。美人の生活臭、こんぐらっちゅれーしょん。
「前は折を見て部下が片付けてくれていたんだが、最近とうとう愛想を尽かされてしまってね……あぁ、私はどうすれば良いのか」
オッパイさんはいかにも大げさな仕草で額に手を当てる。
「どうするもこうするも……自分で掃除して下さい」
「なっ……! 君も部下と同じ事を言うのかい!?」
「そりゃ言うでしょ……まぁ、もしくは……」
俺は少し部屋の中へとガサゴソ進んで、その足元に埋まっていた特大ブラジャーをスルスルっとつまみ上げる。
「男性の職員にでも頼めば多分快く掃除してくれると思いますよ」
黒。素晴らしい。
「なるほど……その手があったか」
いや……そんな目からウロコな顔しないで。
きゃっ! えっち! みたいな恥じらいを期待してたのに。
ぐぬぬ、これでは逆にこちらが恥ずかしいやらバツが悪いやらでモニョモニョっとしてしまうではないか。
黒ブラ片手にぐぬモニョった俺の様子にふとして気付いたオッパイさんは、すぐにその端正な顔に悪戯そうな笑みを浮かべてゆっくりとこちらに近付いてくる。
「ふふふ、なんなら君が掃除してくれないかな? なに、私の懐は深い。下着の一枚や二枚は甘んじて差し出そう」
言いながら、オッパイさんは指を立てつつ横目でスルリと俺の隣を通り抜けた。
ーーぽふっ。
その直後、頭の上に何やら柔らかい感触。
取ってみるとブ・ラジャー。
薄ピンク。これまた素晴らしい。というかなんか温いぞこれ。
「脱ぎたてほやほやだ。煮るなり焼くなり君の好きにしてくれ」
俺は耳を疑い、一瞬遅れてオッパイさんへとがばり振り返る。
「ん〜……確かここら辺にあった筈なんだが……」
既にオッパイさんは素知らぬ風に、なにやら壁沿いの上棚をゴソゴソと漁っていた。
オッパイさんの先程よりもプルみを帯びた、先端がツンと主張した二つの頂。横からの眺めはすこぶる良好。
サービス精神がヤバい。エロ漫画かよこの人。
とりあえずブラジャーはローブの中にしまっておく。
「……ふぅ、あったあった。“魔約書”を用いる程の取引なんてこっちに来て初めてだったからね。すっかり奥に潜み込んでいたよ」
ややしてオッパイさんは端のよれた二枚のB4程度の用紙を棚から取り出した。
それから部屋の中央、物でごった返した四角いテーブルまで歩いて行き、そこに備えられた革張りのソファーにドサッと腰を下ろした。
「なんだ、テーブルも散らかっているな。ふんっ!」
そのままオッパイさんはテーブルの上の物を一挙どんがらがっしゃんとその腕でなぎ払う。
ふんっ! じゃねーよ。
そして“片付いた”テーブルの上、オッパイさんは持っていた魔約書とやらをぱさりと投げた。
俺は呆れながらに歩み寄り、オッパイさんの向かいのソファーに腰を下ろしてから、魔約書の横に魔石を置く。
見ると、魔約書にはまだ何も記されていない。
その紙面上、何やらユラユラと澄んだ青色が浮かんでいる。
まるで波打つ海面みたいだ。いかにも異世界っぽいアイテムである。
「では商談を始めようか。単刀直入に、今回の君の魔石、私どもとしては金貨8000枚で買い取らせて頂きたい」
「5000枚から随分ですね」
「こちらが適正価格だ。あの男は何かと人の足元を見る。本当に卑しい男だ」
唾棄すべし、といった風ななんとも苦々しげな顔である。本当に嫌いなんだな。
思わず苦笑。それを見て、オッパイさんもニヤリと笑い返す。
「私がこの支部に来た当初は何かにつけて私の体をベタベタ気安く触ってくる男でね。口では歯の浮く様な安いおべんちゃらを並べてきたが、下世話な思惑がその生臭い顔つきから丸分かりだったよ。それでもしばらくは辛抱してたが、遂にある夜、奴が股間を膨らませてこの部屋まで押しかけて来た日には、寛容な私もとうとう粗末な“ソレ”を蹴り上げてやったがね。それからは……ふふ、さっき君が見た通りの関係さ」
そこまで言って、ふと真面目な顔を取り戻す。
「おっと、話が逸れたね。という訳で私が提示する金額は金貨8000枚だ。納得してくれるかい?」
「そりゃもう是非もないです。是非是非それでお願いしたいです」
8億円。もはや途方も現実味もないな。
俺の二つ返事に、しかしオッパイさんの表情は妙に優れない。
「……そうか。まずは安心かな……だが、話はまだ半分なんだ。実はね、奴にさっき指摘された通り、今の討伐者部門が動かせる金は確かに少ないんだ……」
オッパイさんは心底悔しそうな顔をする。そのまま続けた。
「精一杯に捻出したところで、今日に用意出来るのが……金貨200枚といったところか。それを前金として君に支払い、残りの支払いはこちらで魔石の換金が終わってから、後払いでお願いしたいんだ。様々な手配と手数を鑑みて、おそらく支払うまでに数ヶ月はかかってしまうだろうが……」
そこまで言って、オッパイさんはふぅと息を吐く。
それから深く、深く頭を下げた。
「……無理を承知でお願いします。どうかこの条件で、貴方の魔石をお譲り下さい」
「全然大丈夫ですよ。元々当面の生活費の足しくらいに考えていただけですので、前金で金貨200枚頂けるのでしたら充分です。残りはオッパ……エクレツィアさんの言う通り、そちらの都合がつき次第で平気ですよ」
「……本当かい?」
「はい」
数秒の沈黙。オッパイさんはゆっくりと頭を上げた。
「……なんともあっさりで拍子抜けした。ふふふ、身構えて損をしたかなこれは。私はてっきり体でも求められる物と思っていたんだが……」
どんな心構えだよ。
「そこまで意外だったかい? なにせ私の事を心の中で“オッパイ”と呼んでいる相手に大きな譲歩をお願いするんだ。それくらいの覚悟はあって然るべきだろう?」
なぜばれたし。
俺は一瞬ドギッとしてしまうが、こほんと咳払いで平静を装う。
「……オッパイではなくオッパイ“さん”です。心の中とはいえ最低限の敬意はしっかりと払ってお呼びしていますよ」
「……ふふ、さきの件といい、つくづく君は妙なところで律儀だね」
言って、突然立ち上がったオッパイさんは、わざわざこっちのソファーへと移動してきて、俺の隣に改めて腰を下ろした。
なんか距離が……やたらと近い。
「……あの、どうして隣に?」
「さぁ? どうしてかな」
オッパイさんはとぼけた風に笑いながら、俺の太ももに手を乗せる。
「……エクレツィアさん」
「うん? 他人行儀じゃないか。オッパイさんで構わないよ?」
ぷにっぷになそのお胸を俺の腕に押し付けながら、オッパイさんは太ももに置いた手をゆっくりと内股に滑らせる。
おいおいこれって……まさか、そういう事なのか……?
「……えっと、“こういう”のは別に、なしでも、魔石はお売りします、ので」
「実はね、私はちょっと期待していたんだ。分からなかったかい?」
「こ、こんなのっぺり顏ですよ? オッパイさんはよっぽど溜まってんですかね」
俺は精一杯の余裕をなんとか絞り出し、そんな軽口を叩いた。
当然そんな物は軽く受け流されてしまい、オッパイさんはクスリと笑って小さく首を傾げる。
「確かに平たい顔立ちだけど……君の顔、私は嫌いじゃないよ?」
目を細め、俺の頬を撫でながら、
「少し幼げで、ちょっと無愛想で、でもどこか愛嬌があって……ふふ、黒猫みたい」
言って、撫でるその手がやがて耳元まで届く。
思わず体がビクリと跳ねた。
「や、やです。触んないで下さい」
ぺシリとその手を払う。くそ、恥ずかしい、顔が熱い。
そのまま俺は目を伏せ、顔を逸らす。
「あ、あぁもうっ、か、可愛いじゃないか……!」
しまった、と思った時には遅かった。
ソファーがぎしりと軋み、その革張りの表面が擦れては、ギュッと鈍く音を鳴らす。
押し倒された。
うそ、やだ、逆レイプやだ! 正直言うと全然やじゃないけど、絶対やだやだ!
覆い被さるオッパイさんの体の下、必死にもがく。
「ちょ、止めて下さいっ」
「すぐ! すぐ終わるから!」
ちょっと、これじゃあ下半身だったオッさんの事とやかく言えないじゃんオッパイさん。
一気に鼻先に迫ったオッパイさんの綺麗な顔、その長い金髪が俺の頬に垂れて触れた。
オッパイさんの口から断続的に落とされる荒く湿った息遣いが顔に生温かい。
俺は目一杯に非難がましくオッパイさんを睨んで見上げ、すると俺を見下ろすオッパイさんはどこか困った風な表情を浮かべる。
ふにゃっとその眉尻を下げては頬を赤らめ、いかにもいじらしそうに口元をむずむずっと結びつつ、
ぐりぐり、ぐりぐり。
オッパイさんは腰をくねらせ、俺の足にお股を当てこすってくるのだ。
……駄目だ。もうおしまいだ。俺、痴女に食べられちゃうよ。
俺の心が砕け散る、まさに直前だった。
「……ん、んむぅ!? な、なんなのじゃ!? お、重いぃ!ブヨブヨなのじゃ!」
俺とオッパイさんの間、オッパイさんのオッパイの中から突如として上がったそんな声。
……そういえばいたね、お前。
総合PV10000、総合ユニーク2500人達成致しました! 日頃から本作品を読んで下さっている皆様へ土下座りたくなるほど感謝の気持ちでいっぱいです!
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