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第11話 酒盛りの収穫

 その後、酒盛りは様々な談笑を(さかな)としてだんだんに続いたが、やがて仲良し姉弟が酔い潰れた事により終了の運びとなった。


 とっ散らかった円卓の上、うつ伏せになったままピクリともしない二人。


 終始ケロリとして酒を飲み続けた俺とキキを虚ろに見据えた二人が最後に残した言葉は、「お前(君)達は鬼だ……」であった。


 途中から飲み比べとか始まってペース上がったもんな。酒も追加でバンバン増えたし。


「くふふふ〜、なぁっさけないのじゃ。この程度の酒と量で酩酊鼻提灯とはのう」


 キキは最後のジョッキを一気にあおり、してから二人を馬鹿にした風に見下ろす。

 多少顔が赤らみ呂律も少し怪しいが、それなりに酔っ払ってるだけでまあ(おおむ)ねに平気そうではある。


 言われた通りまさに吸血“鬼”という事で、キキは相当酒に強いらしい。


 クルルとゼクトは余程に酔っ払い気付いていなかった様だが、中頃からはほとんどの酒をキキが一人で飲みきっていた。


 しかしこの精々が数時間の間で軽く50杯は飲んだなこいつ。酒豪だ。ロリ酒豪である。


 でもあれだった、無駄な酒盛りじゃなかった。ぼちぼち色々と有益な話が聞けたわ。


 主に冒険者ギルドの内情や、それからなる国情についてそれなりに理解を深める事が出来たぞ。


 まず、冒険者には大きく分けて討伐者(ハンター)採取者(コレクター)護衛者(ガード)の三つの活動があるんだとか。


 討伐者。魔物とか賞金首、狩るよ。


 採取者。薬草とか鉱石、探すよ。


 護衛者。商人とか貴族、守るよ。


 かなりいい加減だが大体そんな感じらしい。


 因みにクルルは既に討伐ランクB、採取ランクC、護衛ランクFの飛ぶドラゴンを叩き落とさん期待のルーキー。

 一方ゼクトは討伐ランクC、採取ランクDのちょいちょい期待のルーキー。


「お姉ちゃんより優れた弟なんて存在しねぇ!」……とはクルルの言葉。


 ランクとは功績に応じた称号との事で、GからAまであるらしくCランクにもなればもう一人前との事だ。


 そして伝説のSランクとかもあるらしい。ありきたりだが素直にワクワクする。シンプルイズベスト。


 あと護衛者は他二つのランクがCに満たないうちは、基本的には登録が出来ないらしい。

 護衛という仕事柄それなりに信用が問われるのだとか。


 しかし討伐者と採取者の登録は来るもの拒まずらしく、金さえ払えば取り敢えずは誰でもなれるんだって。


 やったね、俺も冒険者になれるね。


 ところで三つの活動はギルド内で割と厳格に区分されているらしい。


 討伐、採取、護衛それぞれの活動毎に窓口も別、登録も別、果ては上役員さえも別で、どこの支部でも大抵役員達はその所属に分かれて恐ろしく仲が悪いんだとか。


 前はそれぞれ別にギルド機関が存在していて、それが尾を引いて今でも不仲との事だ。

 三つのギルドが冒険者ギルドとして統合したのがつい20年ほど前。


 意外に歴史が浅いぜ冒険者ギルド。


 そしてこの冒険者ギルドの設立。

 その立案者にして立役者がこの国の現国王様って言うんだから驚いたね。


 国王様はそれまで傲慢な領主諸侯(しょこう)から冷遇され(護衛ギルドだけは例外)、各地で細々と経営していた異種ギルドそれぞれに待遇改善やさらなる発展を語りかけ、王国傘下での一括統合を水面下で交渉。


 様々な問題を乗り越え、やがて総員30万人に及ぶ王国運営機構冒険者ギルドを設立せしめたんだってさ。


 そんな今となっては、一部の超有力領主を除きほとんどの領主諸侯は、冒険者ギルドの有志撤回を恐れ、王族並びに役職や名誉職に就く王都の法衣(ほうい)貴族諸侯に対して絶対服従を誓っている。


 ……的なニュアンスの以上の説明を。


 先程にクルルが、「なのである〜なのであるぞよ〜」とへべれけながら能弁に語ってくれたのだ。


 案外物を知ってる子だった。頭の足りない子だと思ってたのに。


 いや〜人は見かけに寄らないね。そのギャップに思わず惚れちゃうとこだったね危ないね。


 しかし王様マジ名君。


 話だけなら簡単に聞けちゃうが、実際それを成し得ちゃうとかどんだけ有能なんだよ。


 つまりあれだ、


「ワイがルールやで〜王族とか知らんやで〜」……な封建(ほうけん)領主諸侯による無法地帯な封建社会が終わりを迎え、


「じゃあお前の領地は冒険者ギルド無しなんやで(にっこり)」……な王都による絶対王政が起こり始めた的な?


 イメージ的にはそんな背景なのかなこの国は。


 でも俺の世界の中世の史実と違って、各地の有力封建領主がこぞって在命してて、それを王都がそのままごそっと掌握しちゃってる訳だから、多分封建制も普通にまだ残りまくってるんだよな。


 とするとこれは王政に支配され一つの国家として機能する封建社会という事か。


 なんとなく“王政封建国家”とでも呼べば良いのかどうなのか。まあ定かではないが。


 とにかく今のところの俺のイメージはそんな感じで固まった。水を垂らした片栗粉くらいには固まった。多分すぐ崩れちゃう。


 まあそんな感じでこんなとこである。いや〜知ったわ。異世界を。


「さて、じゃあ行こっか」


「うむぅ!」


 当初の目的がすっかり遅れてしまった。

 早く魔石売りてぇ。そして冒険者になりてぇ。

 こいつらは……全然起きないしほっとこ。そのうち勝手に起きるだろ。


 ご馳走になっといて我ながらクズっぽいが仕方がない。


 そんな事より早く魔石売りてぇ。そして冒険者になりてぇ。


 はやる気持ちを余しつつに俺は席を立つ。そそくさと階下に向かって歩き出した。


「えへへへ〜。のう、のうのうっ、お主よ〜?」


 そんな折、不意にくいくいと首袖を引かれる。

 見ると腕の中、キョトキョトした上目遣いのキキが、口元に両手で可愛らしいラッパを作って待っていた。


 ……なんだろう。耳を寄せろっていう事か? 俺はその手に耳を寄せてみた。


 ややしてキキの甘える様な小声が、コショコショっと耳をくすぐり始める。


「あのな〜? 妾は、妾はの〜?」


 ふむふむ。


「妾は〜お主がの〜?」


 ほうほう。


「だーい好き、なのじゃ」


 ゴフフゥ。


 破壊力がゴフフゥ。


 そのまま「にょじゃ〜」とぐりぐり頭を押し付けてくるもんだから更にゴフフゥ。


 イエス、イエス、イエス。

 ヤリタッター。この素晴らしき可愛いらしさにヤリタッター。


 これは震えるぞハート。

 燃え尽きる程にヒートだ。


 今なら俺にもあの紳士と同じ疾走感のある山吹色パンチとか繰り出せそうである。


 おい吸血鬼(キキ)、どうするよお前。


「んにゅう……カエデに……本当に……似て……」


 思わずオーバードライブしかけたそんな俺をよそに、しかしキキは最後うわ言の様にそう呟いただけ、やがて静かに寝息を立て始めた。


 なんだかんだ酔いが回ったらしい。


「……」


 カエデ、ね。

 きっと前から言ってた俺が似てる“あやつ”。

 女か男か微妙な名前だけど。というか日本人ぽいよね。


 察するところキキにとって何やら大切な人らしい。


 モヤモヤ、モヤモヤ。


「……ん〜」


 ……まぁでも。そんな事を今に深く考えたってしょうがないか。


 俺とキキは昨日知り合ったばっかだし。急ぐ必要はまだまだないのだ。


 これからこの世界で一緒に過ごしていけば、その内においおい、である。


 俺は頭を軽く振り払ってから、改めて階下を目指し出した。


 ◇◆◇


 一階のギルドに戻ってきた。

 窓口はどこだ?


 あった。奥方にズラッと並んでいる

 とりあえず適当に、丁度空いていた窓口の受付嬢さんに話しかけてみた。


「すいません。冒険者ギルドでは魔石の買い取りってやってますか?」


「……はい? えぇ、やってますよ?」


 何を当たり前なといった顔だ。

 してからローブの中で寝ているキキに気付いて訝しそうな顔を向けてくる。


 俺は気にせず続けた。


「そうですか。冒険者登録はまだしていないんですけど、先に買い取ってもらう事は可能でしょうか」


「えっと、その場合ですと買い取り金額から手数料として3割引かれてしまいますが、はい、可能です」


 結構がっつり引かれるな。まぁしかし背に腹は変えられないか。


「じゃあこの魔石売りたいんですけど」


 魔石を取り出してカウンターの上に置く。魔石には相変わらず燃え盛るような赤い光が閉じ込められている。


「……」


 それをジィっと見下ろす受付嬢さん。黙って、ただ黙って。


 ひたすらにジィっと見下ろす。


 10秒程を贅沢に使ってから、受付嬢さんは意を決した風に、ようやく口を開いた。


「な……んですか、これ」


「何って……魔石じゃないんですか?」


 キキはそう言ってたけど。


「は、ははは。そ、そうですね。ま、魔石ですね。ちょ、ちょちょっと、お待ちしていて下さい!」


 かなり慌てて奥の方に行ってしまった。

 あの慌て様、そういえばこれってドラゴンの魔石か。それなりに大した物なのだろうか。


 しばらく待ってたら、奥の方から今にもずり落ちそうな銀縁の大きな眼鏡を掛けたオッさんが駆け足でやってきた。


「お、お待たせしましたぞ。おぉ……これが」


 来てすぐさま、やはりずり落ちてしまった眼鏡の位置を正しては、魔石に手をかざして圧巻といった顔をするオッさん。

 見るとその手も震えていた。


「さ、触って拝見してもよろしいですかな?」


「どうぞどうぞ」


 眼鏡のオッさんはゆっくりと魔石を手に持った。

 そしてあらゆる角度から魔石を丹念に観察し出す。


「ほ、ほう、ほぉ〜、ほぅふ〜」


 なんか気持ち悪いオッさんだな。


「ほひ〜……はい、確かに拝見させて貰いましたぞ」


 慎重な手付きで魔石をカウンターに戻した。


「そ、それでこの魔石をこちらで買い取らせて頂ける様で?」


「はい。いくらで買い取って貰えますか?」


「く、詳しいお話はここでは何ですので、奥の方で……」


 俺はオッさんに誘われるまま、脇からカウンターの中に入り、その奥の通路へと進んでいく。


 おいおい。これってなんだか大金が手に入りそうな予感じゃないか。わっくわくである。


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