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君と私とひと夏の線香花火  作者: 藤川そら
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真っ白な空間。ぐるり360度真ん丸な部屋。


ここが私の心の中?


「---でね、あっちがルナの部屋で、そっちが私の部屋。ここは共用スペース」


美憂は当たり前のように私の心の中を説明しだす。心に部屋・・・。私は驚きで口を開ける。心ってそういう風なつくりになってるの?


「あそこのモニターにルナが何やってるか、ルナの目線で映るわけ・・・。後、この共用スペースにいるとルナの考えていることが全部聞こえちゃうから・・・」


美憂はいやらしい顔つきで私の顔を覗きこむ。


「いや、ダメ。絶対聞かないで、恥ずかしいよ」


お腹すいたあ、とか、あの先輩かっこいい、とか美憂に全部筒抜けだなんて、そんなの絶対だめだ。恥ずかしすぎる。


「いいじゃん、親友なんだし・・・。私他言しないよ」


弱みの一つでも握ったようにゆるゆるの笑顔ですり寄る美憂。魂胆見え見えなんですけど・・・。


「駄目なものはダメ。あくまでも私の心の中なんだからね、ここは」


一応、美憂に念を押しておく。クラス一のおしゃべり魔だった。美憂何を言われるか、たまったものではない。


「ははは、恐れてるな・・・。でも、私は言いたくても他言できないのです」


「なんで」


と口走ってしまったと思った。それは言わずもがなであったからだ。

「美憂は死んじゃっているからです」


腰に手を当て、高らかに宣言しちゃった美憂。今結構、私的には気を揉んだところだぞ、と思ったがその言葉は飲み込んだ。


「なになに・・・?」


美憂は気まずそうに黙った私を不思議そうに覗き込む。


「だって、あなたの方が気にしてると思ったから・・・死んだこと」 


私の方が気を遣いおずおずとお伺いを立てる。


美憂は、目をはためかせ、私を無言で覗き込む。


「やっだー、ルナそんなこと気にしてくれてたの?あははははは」


美憂がおかしそうに笑いだす。

私は何だか、ちょっとムカついた。不謹慎だ。


「死」がそんなことなんて軽いノリで笑っていいはずがないからだ。


「おかしくない!ほんとに心配してるんだから」


私は()ねたように口を尖らせた。


「ごめんごめん。だってルナがそんなに私のこと思っててくれたなんて思わなかったから」


「思うよ、友達だもん」


上目遣いでもう少しだけ美憂を責めたてる。


「ごめん・・・」


さすがに効いたらしく、美憂がしおれる。


「わかればよろしい」


私はすかさず美憂を許してあげた。そして、二人で何となく照れくさそうに笑った。


美憂によると幽霊はお腹は空かないらしい。そして、ここでは着る物に不自由しないとのことだ。何でも私の見たものが記憶のどこかに挟まっていて、その中から好きなものを着ることができるというのだ。


おしゃれ雑誌、街ゆく人、ウインドショッピング・・・。私の目に映る限り、無限にレパートリーは増えていく。


ちょっとうらやましい・・・。


そんなこんなで美憂と雑談していたら下から母親のお声が掛かった。


私は慌てて着替えを済ませて下へ降りていった。


朝食を摂っているとき、いつもよりにやけていたようで別の方向(彼氏でもできた?)で母親に勘ぐられた。


「違うよ、もっといいこと」


私はそれだけ言うと後は言葉を濁した。


美憂と共同生活しているなんて口が裂けても言えない。


おかしくなったと思われるか、叱られるのが目に見えているからだ。


学校のみんなにも秘密。美憂と私はそう約束した。


そう、二人だけの秘密。


私は国家機密級の約束を抱え、学校へ向かった。


美憂は久し振りの外がとても嬉しかったのか、いちいち当たり前の日常に感動の声をあげていた。


アスファルトの歩道。おじいさんと犬の散歩。電線のすずめ。青い空に浮かぶ雲・・・。


ついこの間まで見ていたと思うんだけど美憂は初めてのようにはしゃいでいる。


「ちょっと静かにして。何か気が散るし、恥ずかしいよ」


「平気よ。私の声、ルナにしか届かないもん。大声で歌ったってぜーんぜん聞こえやしないんだから」

美憂は一節、大好きだった男性アイドルグループの最新曲を披露する。


なぜか私は辺りを見回し、顔が赤くなる。


「恥ずかしいって。みんな見ているじゃん。聞こえているんじゃないの?」


私は道行く人から浴びせられる珍獣発見光線にやられそうになる。


「違うよ。ルナが独り言ぶつぶつの路上パントマイム状態だからだよ」


「え?」


気が付くと私の手は泳いでいた。おかしいのは美憂ではなくて私。私は咳払いをするとついでに制服のスカートを払い、胸元のリボンを糺した。


口元をきゅっと結んで背筋を伸ばして歩き出す頃には私なりの日常が戻っていた。


「ほらね」


美憂の語尾には明らかに四分音符が踊っていた。


何だかもぐら叩きのもぐらに小バカにされたようでちょっと悔しい。


「あ、今私のことムカついてる。そんなに悔しいの?」


「悔しい」


「謝るからさあー。許して、ごめん」


美憂は身もだえて許しを乞う。


「だーめ、許してあげない」


やられっぱなしは癪なので、ちょっと意地悪をしてやる。


これから一緒に生活していくことになるのだから美憂にイニシアティブをとられてたまるもんですか。


「ルナの意地悪、鬼、悪魔・・・変態」


「変態で結構。何とでも言いなさい」


私は勝利の余韻に浸り、心の中で小さなガッツポーズをとった。

だが、現実は残酷だった。


目の前にはクラスの友人二人。私を瞬き一つしないで心配そうに立っていた。


「ル、ルナ…?」


「君は変態なんかじゃない。断じて変態なんかじゃない。お願いだから戻ってきてくれたまえ」


一人は私のおでこに手のひらをもう一人は強く私を抱き締めてくれた。


女の友情は有り難い。


現実という名のこの世界もまだ捨てたものではないことを教えてくれた。


ただ一人。美憂だけが私の頭の中で腹を抱えて笑っていた。


美憂の奴…。


殺意すら芽生えた。


ーーーでも、それは慌てて否定した。


美憂が死んでいるという現実が目の前に在るからだ。


人が死ぬということは痛い。それが愛する人なら尚更だ。誰にでも愛すべき人がいて、死を悼むのだ。


今まで冗談でも軽々しく口にしていた自分がなんだが恥ずかしくなった。

そんなことを考えていたら美憂の顔色がすっと曇った。美憂は指揮者の演奏終了の合図でも受け取ったかのようにピタッと笑いも止めた。


「ごめんね・・・」


頭の中の美憂が手を合わせて済まなそうに謝る。私の怒りが流れ着いた岸が思わぬところに行ったので悪戯のやり過ぎが半分、死を悼む私の気持ちに半分謝ったのだろう。


私は「別にいいよ」と返そうとしたが美憂は口に人差し指をあてて、首を横に振った。


「私にはルナの心の声聞こえているから、大丈夫。前にも言ったでしょ?二人の会話ならルナが心の中で呟けばそれだけで成り立つから・・・。声に出すとまたモモとニーナに変な目で見られる」


私は慌てて口を押えて、見回した。さっき肩を叩いたのが好奇心旺盛なモモ。背が高くショートカットで抱きしめたのがニーナ。


大丈夫。二人は先を歩いていて会話に夢中。こっちを見ていなかった。私はほっと胸を撫で下ろした。


いやいや、よくない!


やっぱり美憂には全て考えていることがバレてしまうのか。私だって秘密の一つや二つこの胸にしまっておきたいよ・・・。)


「ごめんごめん。全部盗み聞きするほど私意地悪じゃないし・・・。もし、『秘密』したかったら一言言って・・・。私ルームに駆け込んでルナが『いいよ』って言うまで出てこないから」


(そうしたら、どうなるの?)


「ルナの声は私には届かないのであります」


それを聞いて私は少しほっとした。










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