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エスペラントの奇跡  作者: 陽向楽
カイとアイナ
3/3

奇跡を眺めるもの

前2話の解説的なもの。


ここは奇跡の都、エスペラント。人に気付かれないような小さな奇跡や時に多くの人の運命を変えるような大きな奇跡まで起こる不思議な都。



おやおや、あの(アイナ)は無事に(カイ)のところにたどり着いて、認めさせたようだねぇ。

これから先が楽しみだよ。坊はどんどん振り回されていくことだろう。まあ、わたしの小さな奇跡はどこまで見れるか分からないけれどね。お迎えがくるまでは、この可愛らしい子達を見守ろうじゃないか。


可愛い小さな子犬(アイナ)を拾ったのは、まだ体が元気で毎日散歩に出ている時だったよ。驚くほど警戒心がなくて、澄んだ大きな瞳でわたしを見上げてくる子犬をうっかり抱き上げてしまったんだ。久しく感じていなかった温もりに、最後の家族として迎え入れようと思うまでそう時間はかからなかったねぇ。


時々、本当に人間の子供が化けているんじゃないかと思うほど、わたしの言葉を理解して大きな手間がかかることなく楽しく過ごしていたよ。

一心不乱にわたしに好意を見せる態度にさらに可愛がりが増したのも些細なことさ。


独りの暮らしが1人と1匹の暮らしになり、可愛い犬を見に来る近所の子供達で昼間はとても賑やかになった我が家。しばらくするとまた1人、暮らす人間が増えた。


我が息子は厳格な父親を見て育ったためか、可愛らしい坊と上手く親子関係を築けなかったそうだよ。元々仕事の上司との関係でそれほど好きでもないお嬢さんを嫁に貰ったけれど、なかなか家に帰ることが出来ずにそのお嬢さんは出ていってしまったんだ。小さな坊を置いて出ていってしまうなんてと思わないわけでもないけれど、こればかりはどうしようもないだろう。


久しぶりに会った坊はとても警戒心が強かった。探るような目でわたしを見る様子に少しばかり悲しくなったよ。

子犬から成犬になったアイナは一緒に暮らすようになった坊を気にしてはいたみたい。ただ、わたしが自分以外にかまうのが面白くなかったのかねぇ?ちょっとずつ警戒心を弱めていった坊が近づこうとするとするりと遠くに離れてしまうんだ。決して噛むようなことはしない賢い子だけれど、滅多に意地悪もしないから思わず笑ってしまったよ。


段々と体が思うように動かなくなってきて、アイナの散歩を坊に任せるようになった。それが良かったのかね。同じ速さで駆けることのできる坊をアイナが気に入ったようだ。庭でかくれんぼをすると匂いで分かるアイナが圧勝する。それでも坊がアイナを見つけられずに泣きそうになっていると必ず鼻先で背中を押してここにいるけれど?、なんてちょっと自慢げに姿を現すんだ。


幸せな暮らしに満足していたら、いつの間にか体が壊れていたようだ。あの子達におやつを用意しようとしたところでわたしは寿命を迎えたらしい。


不思議なことに直ぐに輪廻に乗ることなく、わたしはあの子達を眺めていられた。


ある程度仕事を抑えるようになった息子がアイナと坊を息子の家で育てることにしたようだ。ただ、抑えられるといったところで普通の人と変わらない程度の仕事量だったようで、半ば放置されたあの子達は息子を家族として見ていなかった。

1人と1匹は寄り添って、坊が独り立ちできる少し前まで共に生きていた。

もうすぐ少年から青年になる、そんな頃には(アイナ)の寿命が限界を迎えていたんだ。人間と犬は一時を共にすることができても、一生を共にすることは難しいのだろう。

わたしが寿命を迎えた時の坊の様子を見ていたから、悲しませたくなかったんだねぇ。

その腕の中で死ぬわけにはいかないとリードを引きずりながら、坊から逃げて隠れた(アイナ)は安堵したように魂を還した。


はずだったんだけれどねぇ。

エスペラントの奇跡が、2つの魂と1つの人間の体に手を加えたんだろう。

生きることに疲れはてた女の子は魂を輪廻に乗せた。共に生きることを願った(アイナ)の魂はその女の子のからっぽの肉体に受け入れられた。

名前が同じだったからか、あるいは近くで2つの魂が引き寄せ合ったからか。奇跡を分析しようなんて無理な話だから、わたしはお伽噺のような運命を見守るだけだけれどね。


こうしてアイナは人間の体を得て、坊のそばにいるためにとても努力をしたんだよ。


まあ、輪廻に乗る前に可愛い孫達の子供を見れたらもうわたしに未練はないかねぇ。




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