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日は沈む  作者: 夏冬春秋
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認識

 弥月が学校にいるという事は、弥月の家には誰もいないという事だ。それに、弥月は鍵をかけていない。だから、家には簡単に侵入することが出来る。


「また、罪を重ねたか」


 ボクは苦笑する。


「さてと」


 ボクは、前に弥月の家に来た時から気になっていたものを見る為にわざわざ学校を早退してまで弥月の家に来たのだ。


 以前、弥月は「家族写真」が入っている写真立てを伏せた。ボクはそこになにが映っているか、見に来たのだ。


 テレビ台に置かれていたそれは、伏せられておらずに普通に写真を見る事が出来た。ボクは三つあるその写真立てを手に取って眺める。


 一枚目の写真。幼い弥月と両親らしき人物が一緒に写っている。弥月は幼い。入学式に取られた写真のようで小学校一年の時であろう。写真の彼女と両親は屈託のない良い笑顔で写っていた。今の弥月とは全く異なった雰囲気だった。


 二枚目の写真。そこには二、三年ばかし成長した弥月と、祖父母……にしては若い気がするが、両親とはまた別の人物と肩を並べて写っている。後ろには観覧車やジェットコースターが見える事からこれは遊園地で撮られたものと推察できる。この写真の弥月も良い笑顔で笑っていた。


 三枚目の写真。そこには、中学校の制服をきた弥月と、見知らぬ女性が並んで写っている。そういえば弥月は姉がいたと言っていたな。でも、弥月とは全く似ていなかった。

 ボクは少し、混乱する。三枚目の写真の彼女も笑っていたのだ。だが、どの他の写真に比べれば、嬉しさを前面に出していない。それでもしっかりと笑えていた。


 これは去年の写真であるのはまず間違いないが、たった一年で、あんなに雰囲気が変わるものか? この写真から感じ取れる弥月は、どこにでもいるような可愛らしい少女と違いなかった。


 弥月が自殺を始めたのは、去年の夏ごろ。この三枚目の写真は春ごろ。だから、そのわずかな数か月の間に弥月を変える出来事が起こったのだ。その出来事とはいったいなんだろうか。


 分からない。


 弥月の過去がわからない。なら、調べればいいのだが、どうすれば……。と、ここで閃く。江藤さんに聞けばいいという事を思いつく。江藤さんと弥月は昔からの知り合いで、ある程度の事はしっていそうだ。


 ボクは江藤さんへ電話をすることにした。


『もしもし。なんだい? 春君』


「こんにちは。今お時間よろしいでしょうか? お聞きしたいことがあるんですが」


『学校は?』


「ちょっと隠れて電話をしています」


『それにしては、静かだね』


「まあ、いいじゃないですか。ところで。弥月の過去について聞きたいんですが……」


 冷たい雰囲気が電話越しでも伝わる。やはり、触れてはいけぬ問題か。


『何故知りたい?』


「ボクは、弥月を知りたいんです。決して興味本位なのではありません。ボクは、弥月を助けたいんです。ボクは弥月が苦しんでいるように感じる。だから、その苦しみの元を断ちたい。そのためには、弥月の過去を知らねばいけないのです」


『なるほど。……まあ、どのみち俺では、彼女を救う事は出来ないのかもしれないな。うん。いいよ。ただ、覚悟を持って聞いてほしい』


「大丈夫です」


『なら、いい。じゃあ……まずは七年前の事故について話さなければいけないな』


 江藤さんは語り始めた。ボクはその驚愕の事実を黙って聞いていた。弥月がなぜ今のようになってしまったのかという全貌が明らかになった。


 ボクは携帯を強く握りしめた。ボクが感じたことは、やはり、あの時に感じたものと同じだった。


 少し、心が痛んだ。弥月はやはり、苦しんでいた。生きる事にもがいていたのだ。


 ボクは弥月が下した苦渋の決断と覚悟を知り、自分がちっぽけなように感じた。そして、やはり自分はアレについて、深く考えていかなければいけない、と再認識した。


 ボクも、自分なりの結論を出すことが出来た。


 弥月が弥月の罪を認め、自分なりに贖おうとしたように、ボクも自分の罪を認め、贖わなければならないのだ。


 ボクはもう決めた。自分がどのようにして贖うのかを。ただ、それは弥月とは異なるものだった。だからこそ、弥月を今の奇行を防げるかもしれない。


 ボクは弥月を例の場所へ呼ぶ。ボクは、ボクたちが最初に出逢ったあの想い出の展望台で決着をつけようとする。


 それでようやくボクたちの日は沈むのだ。



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