013 死の追跡劇
『――新しい情報が、たったいま、こちらに入りました。えー、つい先ほど爆発物の処理に無事成功したとのことです。今朝方発見されたホーランドパーク内に置かれた爆発物ですが、警察の専門チームによって解体作業が完了したとのことです。いま現在、パークを一望できる場所に私はいますが、ここからでも事態を見守っていた人々の歓声が聞こえます。近隣住民からは安堵の声が広がっており、――』
時刻は昼をとっくに過ぎていた。
テッドは〈クラブ・ラヴ・ポイズン〉を発つと、ミルトン宅方面の通りを車でしばし走らせたところにある、家族経営のスペイン料理店で昼食を食べた。カウンター席とテーブル席を合わせても、大の家族連れが五つもくればあっという間に満席になる広さ。大雨の影響か、店内には数えるほどの客しかいない。ぼーっとテレビ画面を眺めている、そばかすが目立つひっつめ頭のウェイトレスにも、上等な接客を行うやる気は見られない。
常連らしき男と店主の儀礼的な会話を聞きながら、ビールを一杯傾ける。生ハム入りのレンズ豆の煮込み、適度に冷えたガスパチョ・スープ、つまみにエビのにんにく炒め、鳥肉入りパエリア、マッシュルーム、トマト。
料理皿を乗せているのは年季の入ったミッション家具。きっと、何世代に渡って大切に譲り受けてきたのだろう。それを前に坐っていると、職業を修道士に鞍替えした気分になる。久方ぶりにスペイン語を口にしたせいだ、無性に地中海の味が食べたくなったのは。そうして見つけたレストランだったが、料理はうまい。
やたらと茹でて焼いて塩を振りかけただけのイギリス料理なんて、食うだけ時間の無駄だ――テーブルに並んだ調味料をいかにして加味するか、料理を口に運ぶ度に頭を悩ませるのなんて。だから、この店を発掘したのはラッキーだった。
フィンチへの報告は済ませてある。
気取らない店内の奥のテーブル席にテッドはいた。
「コーヒーをくれ」
間抜けな表情を晒すウェイトレスに声を掛ける。
「……は~い」
ウェイトレスはちらりと視線をテッドに向け、何ともやる気のない返事をして厨房へと戻っていった。どうやら、コーヒーメーカーに作り置きはないらしい。それを察したテッドは、前の客の忘れものであろう新聞に目を通して待つことにした。
『超人気のペドフィリア周旋人、喉にピザを詰まらせ死亡』
どこかで目にした記事の見出しに記憶を巡らせていると、カラン、と入口のドアベルが鳴った。
二人組の男だった。外は大雨だというのに傘も持たず、大して濡れた様子もないことから車でやってきたことが窺えた。
店前の駐車スペースを見ると、テッドが店に入る前にはなかった黒のSUVが駐まっている。
男達は店内を見渡すと、妙なことに他の空席には目もくれずに、テッドがいる奥へと一直線に歩きだした。この時点で、テッドは持ち前の勘の良さから、この二人は関係者なのだろうなと、当りを付けた。
そして、予想通りに一人は向かい側へ。もう一人はテッドの横へと坐った。逃げ道を閉ざされた形だ。
向かいの男が口を開く。
「やぁ、一人かい?」
「見りゃ分かんだろ。このボックスはオレ専用だ。他に移りなよ」
不遜な態度にも男たちは動じず、じぃっとテッドを見据えた。
「お前を捜してたんだ」
「オレを? なぜ?」
「互いに自己紹介をしようじゃないか」
「ハッ、ウゼぇな」
「俺たちが何故来たか、分かるな?」
確信がこもった声音。だが、それでもあえて、テッドはとぼけて返すことにした。
「おたくら、誰だい? 怖い顔してるとこ悪いんだけどさ、人違いだと思うぜ」
「とぼける必要はないさ。お前はただ、黙って聞かれたことにのみ、馬鹿みてえに答えればいい」
カチリ、と耳に馴染みのある音が脇腹にあたる。撃鉄を起こした音だ。見れば、隣に坐る男の手に銃が握られていた。
ほんの数キログラム、指先に力を加えるだけで、テッドの命は散る。だというのに、テッドの態度は不敵なものだった。
「第一の質問だ。他の仲間はどこに?」
「仲間?」
「女のことなんだが」
どこで情報が漏れたのか、男たちは正確にこちらの事情を把握していた。表情に出ないように歯噛みする。男たちが現れた時間軸から逆算して、ケーキハウス襲撃の際にスナップでもされたか。
だが。だとしても、テッドの動向が掴まれるまでの時間が迅速すぎる。視線を男たちに傾け、情報を探る。目線、頬の緊張、口元の揺らぎ。こいつらには余裕がある。おそらく、街の隅々までお仲間が目を光らせていて、笛を吹けばすぐにでも駆けつけられるのだろう。
脇腹にあてられた銃が、答えろ、と軽く小突く。
「仲間ねぇ……どこだろうね? あんたと同じくらい分からない」
向かいの男は小さな溜息をついて、眼鏡を取ると、紙ナプキンでレンズについた水滴を拭いた。その首筋には薔薇の刺繍があった。
そうして、再び掛け直すと、机の上で両手を組み、力強い語気で言葉を紡ぎ始めた。
「よく状況を理解してないようだから言っておく。お前たちが誰の依頼であの場にいて、何を考えて我々の身内に手を出したのかは知らないが……それは、大きな過ちだったぞ。これから、お前は俺たちの組織がどういうものなのか、身をもって知ることになる」
男は首を傾げ、「だが」と言葉を続けた。
「あの場にいた他の仲間を差し出すというのなら、そいつらは楽に殺してやるさ。どうだ? お前の運命はどのみち覆せないが、お前の仲間は苦しまずに死ねるんだ」
男の目には冷徹な光が宿っていた。ヒトの命を数字で足し引きできる人間が持つ、ガラスのような独特な光が。
「……逆じゃねぇの? 普通、チクった奴に温情を与えるもんだと思ってたんだけどね」
テッドの軽口にも、向かいの男の表情は、能面のように変化が見られなかった。
「もう一度言うぞ。これは俺の慈悲なんだ。お前たちが何者だとしても、組織の追跡を逃れることはない。見つけるのが早いか遅いかさ。よく考えてくれ」
男は鋭利な視線をテッドに向けた。
「質問だ。他の仲間はどこにいる?」
「オレの頭に〝間抜け〟って書いてあるか? でもまぁ、せっかくだ。答えてやるよ」
抗う余地のない残酷な問いに、それでも、テッドは頬を歪ませた。まるで、獣のそれだった。銃を持つ男がその様子を訝しげに睨む。彼らは実際こう思っていた。口は達者だが愚かな奴だ、と。
「実は仲間はすぐそこまで来てるんだ。おっかない女でさ、容赦なく鉛玉をド頭にブチ込むんだ」テッドは横を向き、皮肉気に笑った。「逃げれば助かる。留まれば死ぬ。それでも、賭けてみるか?」
ゆっくりと、口が開き、一言ずつ、空気を発する感触を味わうように、言葉を紡いだ。
「――オレと」
そこに脅えはなく、
「――あんたら」
紡がれる言葉にはリズムがあり、
「――どっちの脳みそが」
事実、それはタイミングを合わせるものだった。
「吹っ飛ぶか」
極小の放電音。直後に女の小さな悲鳴。
悲鳴の主はウェイトレスだった。いつの間にかテッドたちのいる席へ近づいていた彼女は、突如、手元で発生した火花に驚き、体勢を大きく崩していた。
その手から落ちたトレーには、挽きたてたばかりのコーヒーサーバーが乗せてあり、
「ッ!」
熱せられた中身は放物線を描いて、銃を持つ男の首筋へと降り注いだ。
瞬時――テッドは左手を使い、突き付けられた銃身を前へとずらし、男達が席に着く前に右手で被い隠していたテーブルナイフを、熱さに悶える男の喉笛へと突き立てた。
ぱっ、と血飛沫が舞い、同時に銃声。向かいの男が懐に手を入れたまま、力なく机へと突っ伏した。異物が喉にめり込んだ痛みで、先に引鉄を引いたのはテッドの隣の男だ。テーブルナイフは肉の層をやや中央寄りに貫通し、気道を破って咽頭を破壊した。皮膚と刃の隙間から血のあぶくが溢れ出し、ヒューヒューと、男は苦悶の呻きを上げながら、ゆっくりと横ざまに倒れた。
束の間の静寂が店内に広がる。
ウェイトレスも客も、ただ、凝然と突発的な暴力シーンを眺めているのみだった。
最初に声を上げたのはウェイトレスだ。そばかすだらけの頬を引き攣らせて絶叫を上げた彼女は、タイル張りの床を四つん這いになりながら、厨房へと這って逃げた。それに合わせて他の客も一目散に、傘もささずに外へと飛び出していく。
「ま、まて……」
先程まで無表情だった男の顔には痛苦の色が浮かんでいた。
ビアマグから零れるビール、臙脂色の血、ダークブラウンのコーヒー。三色がまだらに溶け合ったテーブルの上にて、男は予定外のアクシデントに顔を翳らせた。そこに……
「冗談だろ? 『まて』だなんて」
どこまでも冷ややかなテッドの声があった。
右手には懐から抜いた銃。その銃口が男のこめかみに当てられ、店内に無慈悲な銃声が広がった。
銃煙が漂う中でテッドはただ一人、軽く息をつくのみだ。
――こちらの顔が割れている。
法の薔薇が、オッドフィッシュの全貌まで把握しているとは思えないが、プリティヘッドの情報通り、大したネットワークを持っているようだ。
そうして、テッドはいまさらながら、薬を持たずに行動していることを悔やんだ。この調子では、まだ襲撃は続くだろう。グウェンたちと合流するまで脳味噌が持てばいいのだが。
テッドはウェイトレスが寄ってくるのを、いちいち目で確認するわけにはいかなかった。不自然な視線の動きは向かいの男に察知される危険があったからだ。
そのため、テッドは銃を脇腹に押し当てられると同時に、特脳――強制識別圏を発動。視線は対面に向けたまま、チャンスを窺いながら、会話を繋げていく。透過率の低いサングラスの外側からは瞳の燐光を見ることはできない。伊達や酔狂でイカしたサングラスをかけているわけではないのだ。
こちらの言葉に耳を傾かせることで、二人の気を引くだけだ。タイミングを見計らい、ウェイトレスが持つ金属製のトレーに、大気中の磁波を集中させて放電現象を起こす。
放電自体は第一フェーズ[プライマリ]の特脳だ。問題は放電を発生させられる範囲は、自身の間近がせいぜいだということ。
あとはテッドにとって、手慣れた流れ作業なものだ。
「間抜けどもめ」
そう言って、愛護主義なフレーズが刻まれたサングラスをかけ直し、通路に倒れた男の手から銃を抜き取る。念の為の予備だ。
〝スチェッキン……特殊部隊上がりか?〟
独りごちたテッドは、拾い上げた銃をカンガルーポケットに仕舞った。ふと、先程みた新聞のタイトルを思い出す。デジャブかとも考えたが、出立前にフィンチが読んでいたものだった。
どうでもいいことだ――それは、この場で死んだ名も知らない男たち同様に、記憶に留めておく理由さえないほどに。そう、どうでもいいことだった。
ジャガーは市街地の目抜き通りを走っていた。煉瓦色の建物が雨景色に溶けて、窓の外を透明な線が流れていく。車内には微かにタールの香りが染みついていて、テッドは鼻をふんと鳴らした。サイドミラーを注視しつつ、ステアリングを回す。こんな雨の日だ。前後の車線を走る車はまだらだった。
やがて、雨粒で歪んだ像を映す鏡面に、青白いヘッドライトを点けた車が入り込んだ。ディナーキッチンで死んだ男たちが乗ってきたものと同じ車種のが。
それに気付いてから、地元の車の流れに紛れ込んだり、信号の切り替え時を計って強引に交差点を直進したりした。ハザードランプを操作して急停車すると見せかけて、逆に速度を上げて前方を走るデリバリーの大型車の死角に隠れたりもした。それでも、ジャガーを追尾する二筋の光芒とその後ろに潜む暗色のディテールが、バックミラーから消失することはなかった。
あからさまな尾行車に、テッドは舌打ちをした。店を出てから数分だというのに、早くもこちらの位置が補足されているとは。靴の裏にこびり付いたガムのようにしつこい連中だ。
テッドは可能な限り、強制識別圏の感知範囲を広げた。雨に阻害されるせいで、その有効範囲はせいぜいが二〇数メートルといったところだ。
意識の一部を後ろへと向ける。
追跡は二輌のSUV。乗り合わせているのは、一輌につき二人ずつ。一輌目助手席の男がアサルトライフルを所持。ジャガーの十二メートル後ろに一輌、その五メートル右後ろにもう一輌、一定の距離を保ってついてきている。
知覚した情報体を、脳髄から伸びた光ファイバーケーブルが眼球表面の膜体に伝送し、薄膜上のナノレンズが受け取ったそれを立体図として、再構成していく。その作業が完了するやいなや、テッドはアクセルペダルを思い切り踏み込んだ。車軸の回転数が一気に上がり、エンジンが大きく唸った。
タコメーターは一挙にレッドゾーンへ――針が振れると同時に、ギアチェンジ。三速から四速へ。流れる景色がたわんでいく。
一端はテッドの知覚外へと出たが、すぐさま、尾行車もまた速度を上げて追ってきた。テッドは尾行車の一輌が、助手席側の窓を下ろすのを感じ取った。
とととん、と三点バーストの銃声が街中に響いた。
リアシートの後ろ側から金属音が鳴った。殺意のこめられた銃弾が秒速九〇〇メートルの速度で疾走。時速一〇〇キロを超す車体に楽々と追いつき、鋼鉄のボディを軽々と喰い破っていく。とととん。とととん。次々に飛来するリズミカルな銃声に、新たに別の銃声が加わった。
知覚済みの情報によれば、それは二輌目から撃たれたショットガンだ。低く鈍い銃声に合わせて、リアガラスが割れる。
まったくもって、遺憾な状況だった。
テッドは隠そうともせず、盛大な舌打ちをした。
ステアリングを右へ左へ、交互に切り、のんびりと走る一般車を抜いていく。必要最低限の舵取りで、次々に道路に点在する車を追い越していく。
浴びせられる銃弾は、ジャガーのメッキを少しずつ削っていった。
「ファック! おっさんからの借り物だぞ! 少しは遠慮しやがれ!」
後ろを走るカマ車を罵りながら、テッドは額の汗を乱暴に拭った。
ケツの穴がすぼまってしまうほどに甲高い銃声。
それから逃れるようにジャガーのボディを左右に振る。トロトロ走るファミリー車を後ろからせっつき、強引に押し退ける。「バカヤロー! 死んじまえ!」甲高いブレーキ音が後ろで交錯し、周りのドライバーの罵声が遠ざかっていく。
発射されたショットガンの弾が、サイドミラーを粉々に弾き飛ばした。
〝オレを追うのに必死なのはいいが、ここまで見境が無いとは!〟
特脳は発動しっ放しだ。
みちり、と聞こえるはずもない音が脳内に鳴ったのを、テッドは感じた。使用限界が近づいてきている合図だった。
その時、前方の交差点。雑居ビルで死角にある位置に、移動する大きな鉄塊を感知したテッドは、にやりと頬を歪めた。
何事もタイミングが命だ。
自分にとっても。相手にとっても。
前方の信号は赤。にもかかわらず、テッドは速度を緩めることなく、逆にアクセルを全開にして交差点に進入した。
同タイミングで左から、ゴミ収集車がぬっと姿を現した。
総重量五トンを超すゴミ収集車と、あわや接触する間一髪で、リアバンパーと引き換えに、濃緑色のジャガーは道を突っ切った。
時速一〇〇キロ近く出し、また、雨で道路が濡れている状態でブレーキが間に合うはずもなく、尾行車の一輌はゴミ収集車の中腹にめり込んだ。
重い衝突音が辺りに響いた。
残す尾行車はあと一輌だ。
金網のフェンスを横切って、モノレールが走る高架下に走り込む。雨風から遮られた地面は、限りなくドライ状態に近い。
条件は満たした。
後輪のホイールを基軸に蓄電。電流を放出。紫電がほとばしり、タイヤ表面がパープル色の網目に染め上がった。一瞬にして水分が蒸発し、ゴムの溝に砂利が吸いついていく。両目のナノレンズに浮かびあがった立体図が、ジャガーを追って右折する二輌目を描いた。
同時に銃声。鉛弾が車体にめり込む。
ステアリングを右手で固定し、車体を安定させる。
速度は十分だ。再び銃声。
鉛弾が車体を削ると同時に、テッドはブレーキペダルを強く踏み込んだ。リアの荷重が抜かれ、逆にフロントに荷重が強く掛かった。
フロントタイヤのグリップがアスファルトを捉える。ブレーキを緩めずにステアリングを一気に左に回す。車体が廻り始め、サイドブレーキによる摩擦で四つのタイヤから白煙が上がる。
鳴り響くスキール音。
百八十度の高速スピンターン。
白熱の軌跡を曳いて、強烈な横Gが体を覆う。
ギアを素早くバックに入れ、前方に二輌目のフェンダーランプを捉えると同時に、サイドブレーキを解除。一気にクラッチを繋ぎ、アクセルペダルを踏み込んだ。ジャガーはいまや、背後から迫っていたSUVと対面していた。
狙いは既に射線上。
連射に切り替えた銃を構え、
「腕比べだ!」
捨て台詞とともに、テッドはスチェッキンの引鉄を引いた。
閃光とともに火薬が連続して炸裂し、銃口が火花を噴いた。斉射された銃弾二〇発は、弾幕となってSUVのフロントガラスを砕き、唖然としたドライバーの顔面をぐずぐずに破壊した。ショットガンを持った男が慌てふためく。
制御を失ったドライバーの肉体に一拍遅れて、制動が利かなくなった車体が左にずれ、高架橋柱の外壁にけたたましい音を立てて衝突した。禍々しく輝いていたヘッドライトが潰えるのを確認し、テッドがアクセルペダルを踏む力を緩めると、ジャガーのボンネットに手首付きのショットガンが落ちてきた。
「……ロシアデザインもなかなか」
口笛混じりに硝煙をあげる銃にキスを一つ。
再度、車体をスピンさせてショットガンを振り払う。
スチェッキンはマシンピストルとして開発された軍用銃だ。ソビエト時代の終焉とともに軍から放出された制式装備拳銃で、現代では治安機関をはじめ、民間にも数多く出回っている。
男から奪ったスチェッキンは初期型。消音器とストックを削った跡がある。軍および内務省の特殊部隊が採用していたものだった。
銃身内部からキンキン、と軍用弾を放出した余波が熱として伝わってくる。テッドは軽くスナップをきかせ、もはや窓の役割をなさないガラス痕から、車外へと銃を放った。
アサルトライフルと違ってショットガンには、一発ごとに空白が生まれる。こちらは、その隙間に攻撃を仕掛ければいい。
要はタイミングが命ということだ。
車内に充満する硝煙が、砕けた窓ガラスから流れていく。
特脳を解除する。これ以上、脳を酷使すると、いよいよデッドラインを跨いでしまう。
兎にも角にもテッドは卓越した技量によって、死の追跡劇に終止符を打つことに成功した。ボンネットから白煙があがる。フィンチには申し訳ないが、廃車寸前のジャガーはどこかに乗り捨てなければならないだろう。
雨は未だ止むことを知らない。
黒々とした雲底は、まるで世界にかざされた巨人の手のようだった。




