よつば4
「えーっとそうだな。まず何か飲もうか」
そう言って二人分のグラスに麦茶を注ぐ。グラスに口をつけて、最初に聞くことを考える。
……うん、何から聞いていいのか全く思いつかない。今までの態度だとかから考えると、どこにどうした地雷があるものか全くわからないし、話せることから話してもらおうかな。難しければ促す形にしたらいいだろう。
「のばら。何か話すことはないかい?」
ああこれじゃ問い詰めてるみたいだな。のばらも困惑してるし違う違う。
「えーっと、お互いの理解を深めるために今までのことを簡単に教えて欲しい。自己紹介だとかっていうのを、改めてお互いにしてみようよ」
「……のばらは、香坂のばら。6。つぎ、しょうがっこうになる」
「…………それだけ?」
「…………??(こくり)」
小首を傾げて頷く。まあ自己紹介しろと言われてすらすらと趣味とか特技とか喋りはじめる6歳がいたらそれはそれでなんだかなぁ。
「じゃあ趣味とかはあるかな?」
「……しゅみ?」
「えーっと、好きなこととか。これやってると楽しいとか」
「ん……りょうり、とかは、きらいじゃ、ないかな」
「そっか」
うん、やっぱりそれなりに好きだったみたいだ。
「ひろみは」
「うん?」
「ひろみは、じこしょうかい」
ああ、僕もしないと。
「えーっと、僕は香坂ひろみ。キミのお母さんの弟。だから、叔父と姪っていう関係になるんだけど、よくわかんないよね」
「のばら、わかる」
「そう?」
少し驚いて聞き返す。
「おかあさん、ひろみのこと、よくいってたから」
「そ、そっか」
一体姉さんは自分の娘に何を話していたんだ……。
「つづき、は?」
「ああ、えーっと、年齢は24歳。印刷……本とか作ったりするような会社で働いてるよ。あとは趣味、趣味か。いろんな人と手紙をやりとりしたりするのが楽しいかな」
「てがみ」
のばらがビックリした目で見上げる。
「しょうがつのじゃ、なくて、てがみ?」
「うん、そうだね」
そう言ってのばらに書きかけの手紙の返事を見せる。受け取ったものはプライベートのものだが、僕が書いているものならいいだろう。
「…………??? よめない……」
よく考えれば漢字も多く使われているし次小学生になるコには難しかったか。
「なんで、かくの?」
「うん? てがみを?」
「(こくり)」
「うーん……仕事だからってのもあるけど、好きだからかな」
「すき?」
「うん。いろんな人の、身の回りで起きたいろんなことを教えてもらったりするのは楽しいからね。今年は雪が凄くて家が埋まってしまいましたーとか、梅の花が綺麗ですとか、今年もツバメが巣をつくってますとかね」
そこまで話したところで、錘が回る音がし始める。本当にお互いの名前と年齢、好きなことくらいしか話してないけどいい具合だろう。
僕はのばらと一緒に台所に移動すると、一緒に昼食を作った。とはいえチャーハンだけど、やはり料理は言っていただけあって好きなのだろう。怒ったような顔も、どこか楽しそうに見えたのだった。
食後。特にすることもなく、テレビを見てぼーっとしていると、のばらが近くにくる。
「のばら、なにか、やることある?」
やることっていうと家事とかかな。洗濯は朝してしまったし、掃除もするほど汚れてないし、家事があるなら自分でやっている。そのことを、直接言ったほうがいいように思えてきた。そうじゃないときっと、のばらはこれからもずっと自分が家事をしないといけないと思って働こうとするだろう。
「ねぇのばら」
「…………?」
「そんなに家事しようとしなくていいんだよ」
「…………(ふるふる)のばらの、しごと、だから」