3 彼女はまだ
そこからの記憶はとぎれとぎれだ。
真っ赤な赤とか、悲痛な叫びとか、ドロドロとした感触とか。
こんなものが私の、私の――真実。
「……なるほど。それが君の答えか」
目の前の人物はふふん、と鼻を鳴らして足を組み直した。誰が見ても綺麗だと思うその足は、雪のように白い。
――ここはハートの城。左右にはトランプと呼ばれる兵隊さんたちが、物騒なものを持って立っている。一ミリも動かない彼らは銅像のようだ。
……そして、その向こう側にはよく知った彼らの姿。みんないつものようなラフな格好ではなく、真っ赤なスーツをぴしりと着こなしている。あのディーダムですら真剣な顔をして、ウェーン様の椅子の前に膝まづいている私を見守っている。
「……で。君は記憶を取り戻した。それなのに何故、――隣に猫がいる」
怪訝な顔をして顎で示した先には、みんなと同じスーツを来ているエシル。ゆるけたような表情はなく、ただただ私を心配そうな目で見ている。
「こういうことだからです」
す、と顔を上げてウェーン様の紅い目を見る。一見睨んでいるようにも見えるその鋭い目つきは、「面白くない」と思っているのがお見通しだ。
「ダメだダメだダメだ! お前もまた例年通りにBad Endになるつもりか阿呆っ! 認めない、僕は認めないからなァァァ――――!」
「ああもうウェーン様、駄々をこねないでくださいっ!」
癇癪を起こしたウェーン様をなだめたアビはいつもどおりで、例の出来事なんてないように感じた。
そう、一昨日。アビに追いかけられながらもエシルの衝撃の一言で私の感情が溢れ、ついに自覚をしてしまった。悔しいことに。
それと同時に過去の記憶も思い出すことになった。姉さんへの憎しみや悔しさや……憧れをじわじわと思い出すことができる。
そういえばオア君は結局軽症で済んだらしい。撃たれた箇所に包帯をぐるぐるとまいてあるのが服の上から分かる。なんでアビがあんなことをしたのかは未だにわからないけど、兎に角解決に近づいてきているような感じだ。
――私はもうすぐ死ぬんだけど。
「じゃあウェーン様。早くエシルに殺させてください」
「だから嫌だって言ってんだよっ! 面白くない面白くない、しかもまたこいつが殺すのが面白くない! せめて違う人に、」
「ウェーン様! 駄々をこねるのもいいかげんにしてください。貴方が話しかけているアリスは人なんです。トランプじゃないんですよ」
そんなの分かってるし、と再びむくれ始めた彼に私は苦笑いだ。さっきまでの緊迫した空気が緩んだのか、近くの人達と話し始める彼らが目の端に映った。
相変わらず口論をしている二人に頭が痛くなる。自分の目のように真っ赤なスーツをシワ一つなく着こなしたアビは、半分ムキになっている。いつも来ているフードもない。
「ほらウェーン様。さっさとやらせてくださいよ。また次があるでしょう」
「むううー……」
「ほらエシル、拳銃です」
かつん。
アビが紅い拳銃をエシルに投げる。薔薇のように神秘的なそれに、一瞬見とれてしまった。
「っ、俺は、」
「早く殺してあげてください。それが彼女のためです」
私のため?
よくわからない、と言うふうに首をかしげた私に、右の肘置きにもたれ掛かって不機嫌そうな声を上げているウェーン様は、ふん、と息を吐いた。
「ばっかだなぁアビは。だってこいつは記憶が、」
「ウェーン様っ!」
何?
「ねえ、二人共なにか隠してない?」




