2 壊れる音が
一ページ目にあったのは、家族の写真。
今より若く、シワの数も白髪の数も少ないお父さんとお母さん。そのあいだに挟まれているのは、うっとりするような笑みを浮かべる姉さん。
それだけ?
「嘘……」
三人の歳から見て、私はもうとっくに生まれている。でも家族写真に一人写っていないというのはおかしい。しかも一ページ目の、大きな一枚の写真に。
「……気のせいだよね。うん気のせい。私が撮ったのかもしれないし。そうだよ撮った人は映らないんだよ。次、次……」
足に擦り寄ってくるキティをぎゅっと抱きしめ、震える手を動かしページをめくる。
楽しそうに笑うお母さん。ちょっとドジなお父さん。誰が見ても可愛いと思う笑顔を見せる姉さん。その中にはダイナやキティ、スノウドロップの姿もある。
でも。
「私がいない……」
口の中で転がした言葉は、おかしいという思考とともに涙となって出て行く。最後のページにあるのは最近行ったピクニックの写真に違いない。時計の時間を見たところ、ちょうど私が大道芸を見に行っていなかった時だ。
なんで、という疑問は胸の中で膨らみ、怒りに変わった。
この家に私は存在しない。私という存在は。
「……なんで。なんで」
こんなのは嘘だ。きっと嘘に決まっている。
カタカタと震える手を無理やり押さえつけて、うつむく。最後のページで開いたままのアルバムはずしりと重量を増し、私を地面の奥深くに沈みこませるようだ。
この事実を否定するために無理やり立ち上がり、忌々しいアルバムを乱暴にとじる。ばたんと大きな音がして、ダイナがドアに向かって走り去っていった。きっと驚かせてしまった。
「ごめんダイナ……でも、」
スノウドロップは何もわからない、という顔でこちらを見上げる。キティはどこか違う私の雰囲気に気がついたのだろう、不安げににー、と小さく鳴いた。
一歩踏み出しダイナが出て行ったドアを通ろうとしたとき、凛とした綺麗なソプラノが心地よく聞こえた。
「……何やってるの?」
姉さん。
ゆっくりとこちらに歩いてくる姉さんは、私の腕の中にあるものに気がついていないようだ。にこやかな笑みを浮かべて、一歩一歩近寄ってくる。
「…………」
何も反応しない私に、ようやく異変を察したようだ。それからすぐに、胸に抱えたアルバムに目が行く。
「あなたっ……! それっ……」
すぐに事の重大さに気がついたようだ。いつもの愛らしい笑顔は浮かべておらず、ただただ驚愕の表情だけがある。
「姉さん、これどういうこと?」
「違うの。これはっ、」
「違うってどういうこと? このアルバムに私はいない。みんな楽しそうにしてるだけじゃない。私はいないの? この家族に存在しないの? 答えてよ。答えてよっ!」
嘘でしょ、なんて言えない。姉さんの反応でこれが嘘なんかじゃないなんて察しがつく。それがわからないほど子供じゃない。
うつむいて何も言わなくなった姉さん。それを見て頭に血が登る。かあ、と真っ赤に染まった顔はなかなか引かない。
この感情をどうぶつけるか冷静に考えられるほど、私は大人じゃなかった。
つい目についたのはペーパーナイフ。きらりと光る刃の部分が、まるで存在を主張しているようだった。
重いアルバムを投げすて、それを取ろうとドレッサーに走る。ばさばさと音を立てて落下するアルバムから写真が数枚取れた。
「っ、何してるの、やめ――」




