4 お互いの息
ああ、馬鹿だなぁ。
隣で小さくオアの安否を心配しているつぶやきを続けるアリスの隣で、エシルはくすりと笑った。アビがエシルの事をよく分かっているように、エシルもアビの事はとてもよく知っている。小さいころからアリスを殺すことに抵抗がなかった彼は、どうせ今になって「ごめんなさい」と言っている事だろう。
昔からそうだ。アビは下らない噂を真に受ける。小さいころから人を殺すことができなかったのに、今のままじゃ女王様に殺されると噂が流れた途端、命令さえ受ければどんな仕事でもやるようになった。それでもその後、吐きはしないが謝るのだ。ごめんなさいと。
「……ねえアリス」
ふ、とアリスの顔にエシルの影が重なる。頬にかかった髪をうっとおしそうに払い、エシルはそのまま話を続けた。
「アビが裏切って悔しい? 嫌いになった? もう誰も信じられなくなった?」
「…………分かんないよ。だって、アビは白ウサギで、白ウサギはアリスを殺すんでしょ? だったら正当な理由が付いてる。……でも、正直言って怖かった。アビもあんな無機質な目をするんだって。だから分かんないよ。分かんない。……怖い」
私、と続けたアリスはぴたりと足を止めた。
「アビの事も、ウェーン様の事も、……この世界の人も、勿論エシルだって。……それと、皆の事信じられなくなった私も怖い」
ぷる、と肘をさすったアリスは、思わず足元を見ていた。
「……あと、さっきからずっと頭が痛いの。あ、気分が悪いとかじゃなくて、あの、思い出しそうなことを無理やり押さえつけられていると言うか……」
こめかみの部分を押さえながら唸る彼女に、エシルは背中をさする。顔色は微妙に青い。気分が悪いんじゃないと言われても強がりだったら心配だ。
「……逃げるの止めて隠れよっか。俺も一応猫だからね。隠れるのは得意だよ。……あ、あの木の影とかどう?」
エシルが指したのは二人で抱えても足りない位の大木の下。確かにあそこなら見つからないだろう。
ずきずきと痛む頭を押さえながら、アリスは慎重に頷いた。少し動くだけでも痛い。エシルに支えられながら何とかそこにたどり着くと、遂に抑えられなくなりしゃがみこんだ。
「……っ、アリス!」
「大丈夫……多分」
ニコリと力なく笑い、そのまま顔をあげない。
……ヤバい、本当に痛い。どういう事? 何か思い出せる気が――……。
頭のでっぱりに突っかかっている記憶を無理やり引っ張りだそうとする痛み。歯をくいしばって耐えてみるも、痛みが和らぐことはもちろんなく。
「…………ったい、」
「思い出さなくていいよ。ゆっくりでいい。……アリスのペースで」
優しく背中をさするエシルの吐息が耳にかかった。それさえも心地いいなんて、
――絶対頭おかしくなってる、私。
頭痛にやられたんだと思いながら、自分の可笑しい感情に首を傾げる。普段の自分なら絶対に思わないことなのに。
一人もんもんと葛藤していると、背中に高めの体温を感じた。同時に、やけに早くなる自分の鼓動。頭のひりひりとする痛みも忘れて、頬に集まる全身の熱。首に回された腕に自分の手を絡ませ、きゅっと目を閉じた。
ああ、どうやら私は頭が狂ったみたいだわ。
ここんとこ更新していなくてすみませんでしたっ!
いや、リアルでめっちゃ悩んでたんで、書けなかったです
今は微妙に吹っ切れてるんで大丈夫です!
えっと、短くて済みません……




